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天女と龍
お父さん
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最初の一回以外は殴り合いにはならなかったが、その度に龍人を連れて仲間の元を離れるのは面倒に思えた。
いつしか波雪も仲間とつるむのをやめて、龍人と過ごす時間が増えていった。
彼の側は居心地が良いと感じるようになっていった。
どちらからも愛の告白などなかったというのに、まるで恋人同士のような気分で、ふたりは日々を重ねていった。
ある時、波雪はほんの気まぐれで彼に自分の気持ちを伝えてみた。
あなたが好きよ、結婚しない?
と、ごくごく軽い調子で。
こんなにも仲睦まじい日々を過ごしたのだから、断られるなんて塵ほども考えていなかった。
ところが龍人はなんとも残念そうな顔だった。
彼女自身には見えないが、葉織に父親について訊ねられた時。
「ああ、ついにこの時が来てしまったか」というあの顔と、そっくり同じ。
「実はですね、波雪さん。僕は……」
そこで龍人の語った彼の秘密は、それこそおとぎ話めいていた。
自分は条件付きでこの世界にいられる身で、愛する人を更生させたら元の世界に帰らなければならない。
「僕は波雪さんを愛しています。
だからこそ、もうあなたの側にはいられません。
元の世界へ帰されてしまうのです」
「そんな……なんとかならないの?」
「なりません。
この約束は僕という存在そのものの在る意味で、絶対的なものですから」
「あんたと離れなければならないっていうなら、更生なんかするんじゃなかった。
ずっと悪い女のままでいれば良かったよ」
「そんなこと言わないでくださいよ。
僕は最初に出会ったあなたより、今のあなたの方がず~っと好きですよ?」
「ぐぬぬぅ」
卵が先か鶏が先か。
更生していなければそもそも彼との愛はなかったのなら、どうしようもないじゃないか。
「その人がオレのお父さんなの?
いなくなっちゃったの?」
「そう。
どうしてもいなくなっちゃうっていうならせめて、子供だけでも残してくれないかって頼んだの。
お母さんからね」
龍人は、生まれた子供が片親になってしまうとわかっていて無責任は出来ないと、最初は断っていたのだが。
「わかりました、波雪さん。
たった一度だけ、試しましょう。
その一度だけで授かることが出来たのなら、きっと神様がお許しくださったのでしょう。
でも、もし授かっても、その子を僕の代わりにはしないでください」
その子を「僕の残した子供」ではなく、波雪さん自身のたったひとりの宝として愛し、育てると約束してください……。
波雪のお腹に無事に宝が宿ったのを報告したくても、彼はすでにこの世のどこにも見つけられなかった。
母校の元クラスメイト達に訊ねて回っても、誰ひとりとして「葉月龍人」という生徒が在籍したことを知らなかった。
波雪以外の誰にも、彼の存在は記憶に残っていなかった。
卒業アルバムという記録の中にすら……。
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ところが龍人はなんとも残念そうな顔だった。
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「僕は波雪さんを愛しています。
だからこそ、もうあなたの側にはいられません。
元の世界へ帰されてしまうのです」
「そんな……なんとかならないの?」
「なりません。
この約束は僕という存在そのものの在る意味で、絶対的なものですから」
「あんたと離れなければならないっていうなら、更生なんかするんじゃなかった。
ずっと悪い女のままでいれば良かったよ」
「そんなこと言わないでくださいよ。
僕は最初に出会ったあなたより、今のあなたの方がず~っと好きですよ?」
「ぐぬぬぅ」
卵が先か鶏が先か。
更生していなければそもそも彼との愛はなかったのなら、どうしようもないじゃないか。
「その人がオレのお父さんなの?
いなくなっちゃったの?」
「そう。
どうしてもいなくなっちゃうっていうならせめて、子供だけでも残してくれないかって頼んだの。
お母さんからね」
龍人は、生まれた子供が片親になってしまうとわかっていて無責任は出来ないと、最初は断っていたのだが。
「わかりました、波雪さん。
たった一度だけ、試しましょう。
その一度だけで授かることが出来たのなら、きっと神様がお許しくださったのでしょう。
でも、もし授かっても、その子を僕の代わりにはしないでください」
その子を「僕の残した子供」ではなく、波雪さん自身のたったひとりの宝として愛し、育てると約束してください……。
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母校の元クラスメイト達に訊ねて回っても、誰ひとりとして「葉月龍人」という生徒が在籍したことを知らなかった。
波雪以外の誰にも、彼の存在は記憶に残っていなかった。
卒業アルバムという記録の中にすら……。
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