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天女と龍
安心
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「と、いうわけなのよ。
父親のいない人生になるってわかってて生んで、葉織には寂しい思いをさせてしまったよね。
それでもお母さんは、どうしても、あの人が良かったの。
一生一緒にいてくれて、子供を一緒に育ててくれる普通の人と家庭を築く。
彼を諦めてそういう、普通の幸せを求める道だってあったかもしれないけれど……」
「ううん。オレ、お母さんがいれば寂しくないし。
そもそもその不思議なお父さんを選んでくれなかったら、オレは生まれてなかったんでしょ」
「そうだね。
他の人を選んで子供が生まれても、その子は『葉織』じゃない」
波雪は葉織をぎゅっと抱きしめて、微笑んだ。
「お母さん、葉織がいてくれて幸せよ。
あの人と一緒にいた時だって、今ほどには幸せじゃなかったかもしれない。
今がい~っちばん幸せだわ」
一生一緒にいてくれる普通の人を選んで、ありふれた人生を選ばなくたって、幸せにはなれる。
あの人を選んで本当に良かったって、今は心からそう思うよ……。
「そうだよ……お母さんだって、教えてくれてたじゃないか」
普通の男女としての恋愛をして、普通の家庭を持つことを選ばなくたって、幸せにはなれる。
自分と羽香奈がそれで幸せなら、「普通じゃない」かなんて、気にすることはないのだと。
すっかり晴れやかな気持ちになって、羽香奈の帰宅を待っていた葉織だったが。
「たっ、だいまぁ~」
部屋に入ってきた羽香奈がぐすぐすと鼻を啜っているのを見て、椅子から立ち上がる。
そも、彼女が泣いている姿さえほとんど見たことがない。
以前、本人も言っていた。
「悲しいという感情はとっくに壊れている」と。
「どっ、どうしたの? 何かあった?」
「あ、のね。
ハナちゃん、今日の試合はどうしても勝ちたかったって、言ってて。
最後の最後まで接戦だったんだけど、負けちゃって。
あのハナちゃんが悔しくて大泣きしてて、わたしも悲しくなっちゃって……」
「……なんだぁ」
あの羽香奈が泣いているって、よっぽどのことがあったのかと思って焦った。
この辺は案外治安も良くはないから、事件に巻き込まれたとかも考えてしまった。
芭苗にとって残念な結果ではあるけど、健全な涙で安心した。
羽香奈は涙に濡れた、きょとんとした顔で葉織を見る。
誰だったかが羽香奈のことを「かわいい」って言ってたけど、あいつはこういう顔を知らない。
普段、同年代に比べて精神が超然としたところのある羽香奈は、こういう無防備な顔がいちばんかわいいと葉織は思う。
「いや。羽香奈、前に言ってたじゃん。
悲しいって気持ちではもう泣かないだろうって」
「あ……」
「泣けるようになったんだなって、安心した」
「ひどいよ~。泣いてる時にそんな」
「ごめん、ごめんって」
珍しく、葉織に対する不満で頬に空気を溜めているし、過去の自分の痛ましい言動が恥ずかしくて頬も赤みを増している。
目も充血しているし、羽香奈の表情は今、大混雑だった。
父親のいない人生になるってわかってて生んで、葉織には寂しい思いをさせてしまったよね。
それでもお母さんは、どうしても、あの人が良かったの。
一生一緒にいてくれて、子供を一緒に育ててくれる普通の人と家庭を築く。
彼を諦めてそういう、普通の幸せを求める道だってあったかもしれないけれど……」
「ううん。オレ、お母さんがいれば寂しくないし。
そもそもその不思議なお父さんを選んでくれなかったら、オレは生まれてなかったんでしょ」
「そうだね。
他の人を選んで子供が生まれても、その子は『葉織』じゃない」
波雪は葉織をぎゅっと抱きしめて、微笑んだ。
「お母さん、葉織がいてくれて幸せよ。
あの人と一緒にいた時だって、今ほどには幸せじゃなかったかもしれない。
今がい~っちばん幸せだわ」
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あの人を選んで本当に良かったって、今は心からそう思うよ……。
「そうだよ……お母さんだって、教えてくれてたじゃないか」
普通の男女としての恋愛をして、普通の家庭を持つことを選ばなくたって、幸せにはなれる。
自分と羽香奈がそれで幸せなら、「普通じゃない」かなんて、気にすることはないのだと。
すっかり晴れやかな気持ちになって、羽香奈の帰宅を待っていた葉織だったが。
「たっ、だいまぁ~」
部屋に入ってきた羽香奈がぐすぐすと鼻を啜っているのを見て、椅子から立ち上がる。
そも、彼女が泣いている姿さえほとんど見たことがない。
以前、本人も言っていた。
「悲しいという感情はとっくに壊れている」と。
「どっ、どうしたの? 何かあった?」
「あ、のね。
ハナちゃん、今日の試合はどうしても勝ちたかったって、言ってて。
最後の最後まで接戦だったんだけど、負けちゃって。
あのハナちゃんが悔しくて大泣きしてて、わたしも悲しくなっちゃって……」
「……なんだぁ」
あの羽香奈が泣いているって、よっぽどのことがあったのかと思って焦った。
この辺は案外治安も良くはないから、事件に巻き込まれたとかも考えてしまった。
芭苗にとって残念な結果ではあるけど、健全な涙で安心した。
羽香奈は涙に濡れた、きょとんとした顔で葉織を見る。
誰だったかが羽香奈のことを「かわいい」って言ってたけど、あいつはこういう顔を知らない。
普段、同年代に比べて精神が超然としたところのある羽香奈は、こういう無防備な顔がいちばんかわいいと葉織は思う。
「いや。羽香奈、前に言ってたじゃん。
悲しいって気持ちではもう泣かないだろうって」
「あ……」
「泣けるようになったんだなって、安心した」
「ひどいよ~。泣いてる時にそんな」
「ごめん、ごめんって」
珍しく、葉織に対する不満で頬に空気を溜めているし、過去の自分の痛ましい言動が恥ずかしくて頬も赤みを増している。
目も充血しているし、羽香奈の表情は今、大混雑だった。
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