江ノ島の小さな人形師

sohko3

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いつか静寂だった島

いつまでも、静かな日々

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 すっきりした目で、改めて、人形をじっくりと眺めまわす。

 小さな人形が抱く小さな赤ん坊の表情は、目を凝らさなければよく見えない。

 ようやくその寝顔を目がとらえたのか、悲しみに染まっていた女性の面は見る間に変わっていく。

 大雨の直後、晴れ上がった青空のように深い慈しみに塗り替えられていった。

 せっかくお休みの日だったのにお邪魔してごめんなさい、ありがとうございました。

 そう頭を下げて、女性は店を出た。


 思わず深い溜息をついて、葉織はふらふらと歩き、羽香奈がひとりで座っていたソファーへ向かう。

 彼女はそこから、口を挟まずに一部始終を見守っていた。

 たったひとり相手にしただけでも、内容があまりに重たくて疲れ果てて、ソファーに座る際も加減をし損ねた。

 ただでさえ古いソファーのクッションが苦しげに跳ねる。

「お疲れ様……」

「ん……」

 羽香奈は、自分に寄りかかってくる葉織の左腕に自分の両腕を絡める。

 普段の営業時間中ならこんなことはとても出来ないが、今日は特別営業で本来は休みなのだから構わない。

 疲れている時には、愛する人の温もりを感じることが、何よりの疲労回復の効果をもたらすものだ。

「私もね、波雪さんにはありがとうって、いつも思ってる。
葉織くんを生んでくれて、私を迎えに来てくれて、ありがとうございます、って」



 ……俺も……一度も会ったことないんだけど……。

 そして、その人は羽香奈の心を散々に傷付けてきたんだってことも、わかってるけど……。

「羽香奈を生んでくれて……
羽香奈が今、俺の側にいてくれてること、本当にありがとうって、思ってるよ」





 江ノ島の中の細い道は、今や、春夏秋冬どの季節もそれぞれ異なる賑わいの雑踏になっている。

 それでもふたり、葉織と羽香奈の暮らしはいつまでも、静寂の中で続いていくのだった。
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感想 1

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みんなの感想(1件)

橘花やよい
2023.12.11 橘花やよい

6ページ読了です。
江ノ島っていいですよね。舞台が素敵です。
主人公の境遇は暗いものですが、ふたりのやり取りや人形の描写など、展開が暗くなりすぎずに進んでいくので、「これから主人公にいいことありそう!」と思えてよかったです。幸せになってくれますように!

解除

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