ポンコツ女子は異世界で甘やかされる

三ツ矢美咲

文字の大きさ
37 / 121
第8章

ストラディゴス、語る1

しおりを挟む
 ストラディゴスは、重々しく口を開き、語り始めた。

 出来れば触れたくないであろう、オブラートに包まれていなければ、面白おかしく盛ってもいない。
 四股事件の事を。



 それは数年前にさかのぼる。

 マルギアス王国が前の戦争の真っ最中だった頃。
 フォルサ傭兵団全盛期、ストラディゴスは、戦場で瀕死の怪我をしたフィリシスを拾った。

 マルギアスでもカトラスでもない、当時争っていた今は無い国で奴隷兵士として運用されていたのを解放する形での出会いであった。

 元来、竜人族は指輪で竜に変身などせずとも、優秀な戦闘能力を備えた種族で、その国では魔法の首輪で服従させて様々な奴隷を兵士としていた。

 出会った時にフィリシスが瀕死だったのは、ストラディゴス達と戦ったからではなかった。
 敵国の敗戦色濃厚な時期だと言うのに、相手国に渡すまいと敵の手によって殺されそうになった為である。

 長年奴隷として戦争の道具として扱われてきたフィリシスは、出会った当初は極度の人間不信となっており、この世の全てを憎んでいた。



 しかし、ルイシーによって心の氷を解かされ、徐々にフィリシスはルイシーを慕う様になっていったと言う。

 だが、フィリシスは、どうしても一つルイシーの事で理解できない事があった。
 どうしてルイシーは、長年連れ添っているストラディゴスが他の女に言い寄られて、それに全て応えても、許す事が出来るのかである。

 フィリシスは誰とも今まで正式に付き合った事などない人生だった。

 奴隷として弄ばれてきただけで、誰かに愛された事など一度も無い。
 ストラディゴスとルイシーが初めて自分に愛を注いでくれた相手であり、初めての理解者でもあった。

 だが、もし誰かを好きになったのなら、独占したくなるに決まっているとは、思っていた。
 自分だけの好きな人を手に入れたい。

 フィリシスは、その憧れの発端を覚えてはいない。

 それは、竜人族の本能なのかもしれない。
 竜は元来、嫉妬深く、縄張り意識も強く、昔から宝を守る存在として描かれる。



 なので当然、ストラディゴスの浮気性な部分は、生理的に好きになれなかった。
 フィリシスは、自分が愛するルイシーだけを、ルイシーの愛するストラディゴスには愛してもらいたい。
 そう考えていたのだ。

 すると、ルイシーは、ある日こんな事を言った。



「それなら、フィリシスがストラディゴスに一途さを教えてあげて」



 一途さならルイシーに勝る者はいない。
 そうフィリシスは考えていた。
 ストラディゴスがどんなに浮気をしても、ルイシーが浮気をしているのを見た事が無いのだ。

 そのルイシーに教えられない事を、フィリシスがストラディゴスに教える事が出来るのか。

 聞くと、ルイシーは「自分は一途なのではない」と言う。

「一途とは、自分を持って相手を思い続ける事」

 だが、既に今の様な関係になって長いストラディゴスとルイシーの間には、自分と相手の境界線が溶けてなくなっている部分がある。
 お互いが自分を癒そうと相手を癒している依存関係から始まっている。
 その為、相手が満たされると自分も満たされる様な気持ちに自然となってしまい、ストラディゴスがルイシー以外の恋人を作っても、ルイシーはまるで自分が愛し愛されている様に感じると言うのだ。



 * * *



「ちょっとストップ! ルイシーさんって、メイドさんでしょ? ストラディゴスさんの何なの?」

 彩芽からの質問にストラディゴスは真摯に応えるしかない。

「ルイシーは、俺がまだ若い頃、初めて戦場で拾ったんだ。それから、今でも家族みたいなものだ」
「奥さん、って訳じゃないの?」
「妻、ではないが、そんな関係だ」
「内縁の妻かな」
「ないえん?」
「ううん、良いの。事実婚みたいな」
「うん? それは良く分からないが、ルイシーは俺の半身だ」
「あの、話を中断して非常に申し訳ないんですけど」
「ああ、なんだよ」
「告白された私って、その、二股とか不倫になったりしないの?」
「愛人って事か? 馬鹿を言うな、俺はお前一筋だ」
「ルイシーさんは?」
「だから、家族みたいなものだ」

「……?」
「……?」

 彩芽は、混乱した。
 異世界の慣習なのか、慣習さえ存在しない自然発生的な名も無き関係なのか、ルイシーの事に関してまったく悪びれる事も無いストラディゴスを前に、恥じる事が無い関係なのは察する事が出来るが、それが自分の世界に置き換えてどんな関係なのかが分からない。

「とりあえず、話を続けて下さい」
「あ、ああ……」

 あとでルイシーに聞こうと思い、話を戻した。



 * * *



 当時のルイシーは、ストラディゴスが皆に愛されるのは嬉しくても、皆に愛されるままに全てを受け入れている状況が、必ずしも良いとも思っていなかったと言う。

 この頃のストラディゴスは、ルイシーが無意識に作った自分の為のハーレムにどっぷりと浸かり、目的と手段が入れ替わりつつある時期で、ルイシーはそれを感じとっていたのだ。

 仲間を心から愛して、愛に応える為に相手を愛する。
 そんな自分と出会った頃の巨人を守りたかったルイシーは、フィリシスなら教えられると期待をしたのだった。



 愛するルイシーに頼まれ、フィリシスはストラディゴスに愛を思い出させる事を決意したと言う。



 当のストラディゴスは、フィリシスを仲間として気に入っていたが、その性格と、竜人族と言う事で、自分から夜這いをかける様な事はしていなかった。
 下手をすると、拒否された挙句、本当に殺されかねない。

 そんな存在が、ルイシーの頼みでストラディゴスの私生活に介入してくるのは、迷惑でしかなかった。
 だが、ルイシーの頼みとあっては、一度は受け入れる他に無い。



 フィリシスは、ストラディゴスに言い寄ってくる大勢の女達に対して、不器用にも説得して回ったと言う。
 人間不信でコミュニケーションが苦手だったフィリシスの必死の努力。

 ストラディゴスにルイシーの大切さを思い出させようという運動は、傭兵団内に広まっていった。

 そもそもが、ルイシーの無意識に作ったハーレムである。
 女達はルイシーを皆慕っていた為、フィリシスの行動にも理解を示してくれたのだ。



 こうして、ストラディゴスは(ルイシー以外の)女断ちを余儀なくされる。
 ルイシーの事は愛しているし、ずっと関係は続いているが、強い刺激に慣れ切った巨人は、物足りないと思うようになっていた。



 先に断っておこう。
 当時のストラディゴスは、ハッキリ言えば“クズ”だった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

聖女なんかじゃありません!~異世界で介護始めたらなぜか伯爵様に愛でられてます~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
川で溺れていた猫を助けようとして飛び込屋敷に連れていかれる。それから私は、魔物と戦い手足を失った寝たきりの伯爵様の世話人になることに。気難しい伯爵様に手を焼きつつもQOLを上げるために努力する私。 そんな私に伯爵様の主治医がプロポーズしてきたりと、突然のモテ期が到来? エブリスタ、小説家になろうにも掲載しています。

異世界で大往生した私、現代日本に帰還して中学生からやり直す。~最強の補助魔法で、冴えないおっさんと最強美女を操って大金持ちになります~

タカノ
ファンタジー
異世界へ転移し、聖女として崇められ、愛する家族に囲まれて88歳で大往生した……はずだった。 目が覚めると、そこは現代日本。 孤児の中学2年生、小金沢ヒナ(14)に戻っていた。 時間は1秒も進んでおらず、待っていたのは明日のご飯にも困る極貧生活。 けれど、ヒナの中身は酸いも甘いも噛み分けたおばあちゃん(88歳)のまま! 「もう一度、あの豊かで安らかな老後(スローライフ)を手に入れてみせる!」 ヒナは決意する。異世界で極めた国宝級の【補助魔法】と【回復魔法】をフル活用して、現代社会で大金を稼ぐことを。 ただし、魔法は自分自身には使えないし、中学生が目立つと色々面倒くさい。 そこでヒナがビジネスパートナー(手駒)に選んだのは―― 公園で絶望していた「リストラされた冴えないおっさん」と、 借金取りに追われる「ワケあり最強美女」!? おっさんを裏から魔法で強化して『カリスマ社長』に仕立て上げ、 美女をフルバフで『人間兵器』に変えてトラブルを物理的に粉砕。 表向きはニコニコ笑う美少女中学生、裏では彼らを操るフィクサー。 「さあ善さん、リオちゃん。稼ぎますよ。すべては私の平穏な老後のために!」 精神年齢おばあちゃんの少女が、金と魔法と年の功で無双する、痛快マネー・コメディ開幕!

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~

カタナヅキ
ファンタジー
高校の受験を間近に迫った少年「霧崎レア」彼は学校の帰宅の最中、車の衝突事故に巻き込まれそうになる。そんな彼を救い出そうと通りがかった4人の高校生が駆けつけるが、唐突に彼等の足元に「魔法陣」が誕生し、謎の光に飲み込まれてしまう。 気付いたときには5人は見知らぬ中世風の城の中に存在し、彼等の目の前には老人の集団が居た。老人達の話によると現在の彼等が存在する場所は「異世界」であり、元の世界に戻るためには自分達に協力し、世界征服を狙う「魔人族」と呼ばれる存在を倒すように協力を願われる。 だが、世界を救う勇者として召喚されたはずの人間には特別な能力が授かっているはずなのだが、伝承では勇者の人数は「4人」のはずであり、1人だけ他の人間と比べると能力が低かったレアは召喚に巻き込まれた一般人だと判断されて城から追放されてしまう―― ――しかし、追い出されたレアの持っていた能力こそが彼等を上回る性能を誇り、彼は自分の力を利用してステータスを改竄し、名前を変化させる事で物体を変化させ、空想上の武器や物語のキャラクターを作り出せる事に気付く。

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ
ファンタジー
 主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?  管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…  不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。   曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!  ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。  初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)  ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。

魔界建築家 井原 ”はじまお外伝”

どたぬき
ファンタジー
 ある日乗っていた飛行機が事故にあり、死んだはずの井原は名もない世界に神によって召喚された。現代を生きていた井原は、そこで神に”ダンジョンマスター”になって欲しいと懇願された。自身も建物を建てたい思いもあり、二つ返事で頷いた…。そんなダンジョンマスターの”はじまお”本編とは全くテイストの違う”普通のダンジョンマスター物”です。タグは書いていくうちに足していきます。  なろうさんに、これの本編である”はじまりのまおう”があります。そちらも一緒にご覧ください。こちらもあちらも、一日一話を目標に書いています。

処理中です...