ポンコツ女子は異世界で甘やかされる

三ツ矢美咲

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第13章

ルカラ、語る2

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 ルカラの年齢は十二歳となり、当ての無い生活を始めてから、もうすぐ五年が経とうとしている時期であった。

 この頃になると、誰にも仕えず、誰かに仕えたフリだけして更衣室荒らしを繰り返し、金を貯めこむ事を覚えていた。
 金が貯まると、それだけで気持ちに余裕が出来た。
 向こう数日の食べ物を心配しないで済むようになると、もっと余裕が欲しくなる。

 ルカラにとって金とは、食べ物と交換出来るものである以上に、未来の食べ物を保証してくれるという「安心の象徴」であった。

 暴力を受けず、腹も満たされ、自分を痛めつける連中から小金を盗んでは、隠れ家で安心して眠る日々。
 ルカラにとってこの時が、彩芽と出会うまででは、最も幸せで満たされた時間であった。



 だが、大きな町とは言え、そんな事を繰り返せば、いずれ限界が来る。

 自分の事を理不尽に傷つけない、少しでもマシな主人を探して渡り歩いて、傷だらけになって諦めた時。
 その時には、全てが遅かった。

 一人の主人の所から逃げ出すたびに、逃亡奴隷の手配書はルカラの偽名と共に壁に増えていた。
 壁一面に張られた大量の逃亡奴隷の手配書の、半分近くがルカラを手配した物となっていたのだ。

 ルカラは、並べて貼られたそれらを見て、誰も同じ奴隷を追っている事に気付かない事に気付いた。

 どの手配書にも、奴隷の特徴や人相書きがあるのだが、特徴には身体に傷がある事が書かかれていた。
 その中で強調されている傷が、ルカラがあまりにも傷だらけだった為だろう。
 手配書を出した主人によってつけられた、主人にとって印象に残っている思い出の傷が、それぞれに強調して記されており、手配書を並べても一見すると、似ているが別の奴隷に思えて来るのだ。

 まるで、どの主人もルカラの事を自分の持ち物だと、マーキングする為に傷つけていたかのようであった。



 しかし、ここまで仕えた主人の数が増えると、フィデーリスと言う町自体に居づらくなってくる。

 追い打ちの様に、連続窃盗犯として手配書が、面が割れていないとは言え、壁に貼り出されると、被害に遭った公衆浴場では見張りが増え、泥棒がどんどんし辛くなっていく。
 墓泥棒の時の二の舞では、ルカラには、もう後がなかった。

 こうして入った事の無い公衆浴場の数も少なくなってくると、ルカラは一つの決意をした。



 それはフィデーリスの、脱出計画であった。



 偽の身分証を手に入れて門を超え、外の世界で人生をやり直そうと思ったのだ。

 しかし、偽造文書は金がかかる。
 ようやく見つけた裏市場のブローカーは、小汚い逃亡奴隷とみて相場など知らないだろうと、微妙に高い額をふっかけて来る。
 その額、逃亡の幇助とセットで一万フォルト(百万円)。

 当然、おいそれとルカラに払える額ではない。



 どうやって門を超えればよいのかルカラは門を見ながら考えた。

 どの門が一番警備が手薄か、見張りの交代タイミングはいつか、買収出来そうな見張りはいないか。
 そうやって門を調べていた時、彩芽とストラディゴスが馬車で門を入ってくるのを偶然目撃した。

 少し年上だが、若い女の旅人がフィデーリスに来る事は、かなり珍しい。

 ルカラは、彩芽達が門を通る時に彩芽の身分証を、連れのストラディゴスが持っているのを見逃さなかった。
 身分証を盗んで、成りすませば旅人として出られるかもしれないと考えたのだ。
 町の人間の身分証では、万一にも顔見知りである可能性があるが、その点旅人なら問題ない。



 二人は、まっすぐブルローネという高級娼館に入って行く。
 その後をつけ、二人の入った部屋を確認すると、身分証を盗む機会をうかがった。

 二人が外出すると、部屋への侵入を試みる。
 高級娼館の中は人が大勢いるが、客層が良い為に奴隷連れが多く、楽に潜入できた。
 部屋の鍵は、墓場の棺に泥棒防止の鍵が付けられた時に覚えたピッキングスキルが通用して、更衣室の棚の鍵より少し難しいぐらいの感覚で問題無く開ける事が出来た。

 しかし、二人の部屋を物色しても、肝心の身分証は見当たらなかった。
 代わりに、六千五百フォルト(六十五万円)の入った財布を見つけてしまう。

 ルカラは、もちろん財布を盗みたかった。
 だが、財布の中身は、全てがフォルト銀貨である。

 フォルト銀貨一枚で五十フォルト(五千円)なので、その数は百三十枚もある。
 ここまで多いと重さは銀貨一枚が三十グラム強程度でも、四キロぐらいになっている。

 四キロの銀の塊だ。
 しかも、それが、袋に入ってかさばる上に、ジャラジャラと煩い金属音を無遠慮に立てるのだ。

 ルカラの猟場は、墓場や更衣室と言った人目のない所が専門である。
 慣れない空き巣に入って、それを持ちだすのはリスクが大きすぎた。

 ルカラがいつも公衆浴場の更衣室から持ち去る物には、ルールがある。
 ルカラなりのリスクを減らす為の、盗みのセオリーである。

 最優先は、裏市場で換金が容易な宝石の無い指輪や耳・首飾りか、フォルト金貨と言った小さくて高額の物。
 いざとなれば口等の身体の内側に容易に隠せ、粘膜を傷つけない形状とサイズの物は盗品としては完璧であった。

 次に狙うのが、持っていても怪しまれないフォルト銀貨。
 フォルト銀貨の数は、どんなに多くても合計で二十枚以下。
 財布に入れるのは出来れば十枚(五万円)以下と決めていた。

 それ以上は、音とボリュームで怪しまれる可能性が高くなり、万が一身体を調べられた時に高額であればある程、切り抜ける言い訳が苦しくなる。

 逆に、墓場では世話になった銅貨は価値が低い上にかさばるので、場合によっては更衣室に置いて来る事もあった。



 その時は結局、彩芽とストラディゴスの財布から、銀貨を四枚だけ抜いた。
 左右両頬に銀貨を隠し含み、両手は可能な限り開けておく。

 ルカラは部屋を元通りに戻すと、部屋を出ようとする。
 すると部屋の窓から、外出から戻ってきた二人が公衆浴場に入って行くのが見えた。

 チャンスだと思いルカラは、部屋の鍵をピッキングで静かにかけなおすと、公衆浴場へと急いだ。



 二人に追いつくとすぐに、二人には気付かれない様に、後をつけた。
 すれ違いで出て来た姫達には、二人の奴隷であるかのようにふるまって更衣室に入って行く。
 フィデーリスでは奴隷は物なので、どの公衆浴場でも金は取られない。

 二人に隠れる様に、大浴場からは見えない位置の棚のカギを開け、奴隷のフリをして物色し、コインや指輪を手早く手に入れる。
 指輪に宝石がついていても、この町で最後の泥棒だと考え、持ち主の財布も拝借して指輪を財布に入れて懐へ。

 二人が大浴場に行くと、周囲を気にしながら二人の使っている棚の鍵を開けた。

 巨人の体臭が染み付いた、中々に男臭い香ばしい臭いに襲われるが、ルカラは臭いに我慢しながら、身分証を探すと、巨人の服の間に財布と一緒に隠す様に挟まれていた手紙の束をついに発見し、服の下、腰帯に挟んで持ち出す事に成功した。

 それから、めぼしい棚をいくつか荒らし、誰にも怪しまれる事なく公衆浴場を後にしたのだった。



 大事そうにまとめられた手紙の束。
 ルカラは、隠れ家に戻ると戦利品を検める。

 彩芽の身分証を手に入れ、ルカラは彩芽として門をくぐれば、ついに大嫌いなこの町を出られると有頂天となった。

 しかし、一緒にまとめられている書簡にはルカラでも知っているほどに有名な、オルデン公爵の名前が書かれていた。
 読んでみると、この彩芽と言う人物は、オルデン公爵の友人とあった。
 さらに、高級娼館ブルローネ総支配人の手紙まで一緒にある。



 このなりすましは危険にしか思えなくなっていた。
 有名な偉い人の友人に成りすますのは、どう考えても危ない。

 ルカラが知らないだけで、彩芽がオルデン公爵の友人として有名であった場合、すぐに嘘がばれてしまう。

 どうにかフィデーリスから出たいルカラは、そこで別の手を考えた。
 彩芽を主人に仕立てて町を出れば、彩芽が門をくぐってフィデーリスに入ってきたように、ノーチェックで町を出られるかもしれない。
 フィデーリスさえ出てしまえば、あとは自由である。

 これは利用できるかもしれないと思い、別の町に連れて行ってくれるまでの仮宿ならぬ仮主人として使おうと、得意の嘘をでっちがげ、何食わぬ顔で彩芽の部屋を訪ねた。

 こうして彩芽とルカラは出会ったのであった。



 * * *



 道理で、奴隷から解放すると言っても拒否する訳だと、彩芽は納得した。
 こんな町で彩芽一人に解放すると言われても、そんな状況のルカラは、どうする事も出来ない。

 ルカラは、とんだ食わせ物どころでは無かった。

 二人の盗賊は、ルカラの苦難の人生を自分達に重ねて聞いていたのか、なぜか少し泣いている。



「それからどうする気だったんだ?」

 呆れも通り越して恐れ入ったと言う風なストラディゴスに聞かれ、ルカラは初めて誰かに本当の事を全て話せたからか、スッキリした顔で素直に答えた。

「タイミングを見て、手紙が見つかったと嘘を言って返すつもりでした。それから、そのまま町の外まで一緒に出ようと思ってました」

「それで、お前は、それからどうする気だったんだ?」
「最初は、大きな町についたら、何でも良いから、やり直そうと……」
「俺達の金も盗んで、姿を消す気だったのか?」
「いえ、あの………………はい……そうです」

「はぁ…………今は、どうなんだ?」

「もう……わからなくなっちゃいました」
 ルカラは、最後だと思ったのか、砕けた口調になり、強がる様に笑って見せた。
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