好きになった人は、死人でした ~幽霊物件対策班の怪奇事件ファイル~

飛野猶

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第4章 訴えかける霊

第39話 許サナイ  ※ホラーあり

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 握り込んだ土を、元気は阿賀沢たちに向けて払った。
 突然飛んできた土が顔に当たり、阿賀沢夫妻は驚いてしゃべるのをやめる。
 さーっと、湿気を含んだ冷たい風が森の中を吹き抜けた。

「お、おい。なんか、急に寒くなってきた気がしねぇか?」

 良二は寒そうに両腕をさすった。ざわざわと森の木々がざわめく。

「そ、そうね……」

 咲江も、おどおどと辺りを見回す。
 まだ日は陰り始めたばかりの時刻のはずなのに、いつのまにか薄暗さが増していた。

「か、帰るぞ」

 良二は斜面を大股で登り始める。

「ちょっと待ってよ。おいていかないで!」

 咲江もあわててそれに続いた。二人の背中が斜面を登っていく。それを元気も大股で追い出した。足音に気づいたのか、彼らが足を止めてぎょっとした顔で振り返った。
 そうだろう。彼らからしたら、足音だけが近づいてくるように聞こえたことだろう。

『阿賀沢さん』

 元気は彼らに声をかけた。二人の両目が恐怖にひきつっていくのが手に取るようにわかった。
 もう一度名前を呼ぶ。

『良二さんと、咲江さん。覚えてますか。高村です。オレ……あなたタチニ何か失礼なコトシましたか?』

 一歩一歩、彼らに歩み寄りながら低い声で尋ねる。もう彼らの顔しか見えていなかった。
 良二と咲江は蒼白な顔面で、ただ口をパクパクさせるしかできないようだった。

『俺、何モシテナイデスよね。ナノニ、なんで俺ヲ殺しタンデスカ』

 周りの木々がざわめき揺れる。風もないのに、まるで人の手で激しく揺らされたかのようにざわめいた。

『オレはナニモ見テナカッタノニ。なのにアンタタチは、カッテニ俺のことを邪魔だと思って殺シタんだ』

 咲江は尻から倒れこみ、あわあわとポケットから数珠を出して手を合わせ拝みだした。般若心境のようなものを唱えているが、そんなものまったく効かない。晴高のものと比べると、蚊に刺された程度の威力しかなかった。

 咲江の横を通りすぎたとき、彼女がもつ数珠が勝手に引きちぎれる。
 良二に追いつくと、元気は両腕で彼の喉を掴んだ。

『ジャアオレガ、アンタタチノコトヲ殺シテモイイッテコトデスヨネ?』

 そのときはじめて良二の目が元気の姿を捉えたようだった。身体に触れたことで、視えるようになったのかもしれない。その目に怯えが色濃く影を落とす。

「わ、わるかった……すまんっ、このとおりだっ」

 良二は元気の腕を引き離そうと掴んだが、どれだけ爪を立てられようが痛みなんて感じない。だって、自分は死んでいるんだから。
 元気の腕や身体から黒いモヤのようなものが立ち上りはじめていた。

『お前らもオレトイッショニイクンダ。輪廻からハズレ、成仏することもできず、エイエンニコノ世ヲサマヨイツヅケル地獄ニサ』

 元気は良二の首を掴む腕に力を込めた。

「……かはっ……」

 良二の顔が赤く染まる。それでも元気は力を弱めなかった。そのとき。
 何かに足を掴まれた。下を見てみると、元気の足を血の気の引いた腕が掴んでいた。その腕は地面から生えている。すぐに、阿賀沢浩司の腕だとわかった。

 その腕に注意がいったことで、良二を掴む腕の力が弱まっていたのだろう。良二は元気の腕を振り払い、地面に倒れこむ。数回咳をすると、一目散に斜面を登り始めた。
 それを見て、咲江も半狂乱になったように叫びながら良二を追って斜面を登っていった。
 足元を見ると、もう元気の足を掴む浩司の腕はなくなっていた。

 目の前がくらくなる。ただ、良二と咲江の背中だけが見えていた。
 アレらを追わなければ。
 再び元気は彼らを追い始める。

 良二たちは転がるようにして車の方に駆けて行った。そしてカバンを逆さまにして中身を地面にぶちまけると、キーだけを掴んで車に乗り込むやいなやエンジンをかけた。

「おいていかないで!」

 泣き叫ぶような悲鳴をあげながら、咲江はなんとか後部座席にのりこむ。咲江がドアを閉める間もなく、車は急発進した。

 元気は立ち止まって、走り去っていく良二の車を眺めていた。
 どこへ行ったって、逃がさない。この世にいる限りはどこまでも追い続けてやる。

 再び歩き出そうとしたとき、足元に散らばった良二のカバンの中身が目についた。その中にあったスマホが目に留まる。

 元気の目が揺らいだ。憎しみや怒り以外の感情がよぎる。
 そうだ。約束してたんだ。遺体の場所を見つけたら、連絡するって。
 連絡する? 誰に?  誰に。

(そうだ。千夏だ)

 そう思ったときには、身をかがめてスマホを手に取っていた。千夏の番号なら、暗記してある。一瞬ためらったものの、指でその番号を押した。

 数回のコールのあと、彼女の声が聞こえてきた。なんだか、もう長い間、聞いていなかったような懐かしい声。目が潤んで、元気の顔が歪んだ。
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