無茶苦茶な女

たるまる

文字の大きさ
1 / 1

幼い頃

しおりを挟む

母子家庭だった。
家族は母と1つ上の兄と祖父と私の4人家族。
兄は祖父が大好きで祖父と将棋をうったり風呂に入ったり一緒に寝ていた。
私は母がとても大好きだった。優しかった。私が産まれる前には崇教に入っていて信仰と仕事で忙しく毎日23時に帰ってきた。まだ5歳だった私は母と一緒に寝たくて毎日母の帰りを寝ないで待っていた。
「遅くなってごめんね、一緒に寝よう」
優しい声、優しい顔、優しい匂い。
毎日遅く帰ってきても一緒にいれる時間は短くても何も不満はなかった。いつも私達の為に働いてくれてありがとう!とむしろ感謝しかなかった。

貧乏だった為おもちゃなどはなかった。
欲しくないわけがない。
言えなかった、ワガママはいけないって思ってたし。毎日テレビをボーッとひたすら見てたのを覚えてる。

少し経った頃、咳がでだした。ただの風邪だろうと軽視してた母だったが私がグッタリし呼吸困難になっていた為慌てて救急車を呼び病院に連れて行った。
「どうしてこんなんになるまでほっといてたんだ!!」医者から酷く怒られた。もう少し遅れていたら死んでいたと。ゾッとしたらしい。そのまま入院する事になり仕事と信仰で忙しかった母だったが私の為に休んでくれて病院にずっといてくれた。とても嬉しかった。独り占めだー!と。2週間程入院してすっかり回復し退院した。その後も喘息の発作はたまにあったが前回の様に酷くなる事はなかった。

ある日の夜。いつもの様に母の帰りを待っていると母が何冊かの本とウサギのぬいぐるみを誕生日にと買って帰ってくれた。初めての誕生日プレゼントだった。すごくすごく嬉しくてそのウサギのぬいぐるみに【ミミちゃん】と名前をつけた。
本は全て伝記物だった。過去に凄い事を成し遂げた偉人達の物語。ライト兄弟やヘレン・ケラー、坂本龍馬など。
その中に幼いながらに感動を覚えた人物がいた。『ナイチンゲール』だ。入院中にとても優しくしてもらった大好きな看護婦さん達の存在もあり「こんな人になりたい!人の為に尽くしたい!」と強く思った。

ナイチンゲールの本に夢中になり保育園から家に帰ると毎日読んでいた。物語の中に壊れてしまったぬいぐるみをナイチンゲールが塗って治してあげたとゆう内容がある。どうしても早くナイチンゲールに近づきたかった私はいつも抱っこしてたミミちゃんを見た。考える事なく躊躇なくミミちゃんの左腕と左足をハサミでバックリ切った。綿がいっぱい出てきたのでそれを押し込んだ。器用だった事もあり裁縫道具を取り出し塗ってあげた。
「ミミちゃん!治ったね!よかったね!」って。綺麗に縫えたのでとても満足していた。そして母の帰りをいつも以上にワクワクしながらその日も待っていた。
「ただいまー」と母が帰ってきた。
「おかえり!あのね、ミミちゃんの腕と足がとれちゃったんだけど治してあげたよ!」と弾むような声で伝えた、ニコニコと。
母はじっとミミちゃんを見つめてハッとしたような顔をした。
「なんて事するの!!!こんな事したらダメでしょ!!!」と大きな声で怒られた。
母に褒められるとしか考えていなかった私はビックリした。こんな大きな声で怒られたのは初めてだった。すごく慌てて私は
「私は本当に塗ってあげただけだよ!ミミちゃんの腕と足が本当に取れてたんだよ!痛そうだから塗ったんだよ!」と言ったが母は信じてない。母に嫌われる!!と焦りたくさん自分を擁護したが無駄だった。

これが私が母についた初めての嘘だ。
その日の事は今でもすごく覚えてる。
ただナイチンゲールに近づきたかっただけなのに。すごく泣いた。悲しい。確かに嘘ではあったが信じてくれなかった母に少しイラついた。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

アルファポリス投稿ガイドラインについて

ゆっち
エッセイ・ノンフィクション
アルファポリスでの利用規約、投稿ガイドラインについて考察。 ・2024年3月からスコア切り始まる。 ・ptが高いのに0スコアになるのは何故? ・一定の文字数が必要 曖昧で解らない部分は運営様に問い合わせ、規約に則った投稿を心掛けています。

アルファポリスであなたの良作を1000人に読んでもらうための25の技

MJ
エッセイ・ノンフィクション
アルファポリスは書いた小説を簡単に投稿でき、世間に公開できる素晴らしいサイトです。しかしながら、アルファポリスに小説を公開すれば必ずしも沢山の人に読んでいただけるとは限りません。 私はアルファポリスで公開されている小説を読んでいて気づいたのが、面白いのに埋もれている小説が沢山あるということです。 すごく丁寧に真面目にいい文章で、面白い作品を書かれているのに評価が低くて心折れてしまっている方が沢山いらっしゃいます。 そんな方に言いたいです。 アルファポリスで評価低いからと言って心折れちゃいけません。 あなたが良い作品をちゃんと書き続けていればきっとこの世界を潤す良いものが出来上がるでしょう。 アルファポリスは本とは違う媒体ですから、みんなに読んでもらうためには普通の本とは違った戦略があります。 書いたまま放ったらかしではいけません。 自分が良いものを書いている自信のある方はぜひここに書いてあることを試してみてください。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

投稿インセンティブで月額23万円を稼いだ方法。

克全
エッセイ・ノンフィクション
「カクヨム」にも投稿しています。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

処理中です...