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開戦
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遠目にマフが降りてくるのが見えた。
続いてゾマや父さんが降りてくるのも見える。
全員が降りてくれば、いよいよ始まる。
(勝ちたい!)
僕は祈るような気持ちだった。
最後にトビが降り、四人が武器を握り直す。
トビの目は、今までに見たことがないほど恐ろしいものになっていた。
もともとは部族の中でも穏やかな男だった。
それが、息子の仇を取りたい一心で、
冬の間は武器の腕を磨いてきた。
僕の父さんも子供、つまり僕の兄を失っている。
トビと気持ちは同じだろう。
怒りや悲しみは、人を何よりも真剣にさせるのかもしれない。
「行くゾ!」
マフが真っ先に小屋へ走り出した。
足音に気づき、中から出てくる一人の平地人。
マフに気づいた。
しかし、武器を構える間もなくマフの一撃が襲う!
ガツンッ!
大きな音が鳴り、平地人の男はよろめいた。
異変に気づいた平地人たちが武器を手に、
一人、二人と飛び出してくる。
そこへゾマが殴りかかった。
ガキーン!
平地人の三人はジェイの護衛係と思われる。
身体も大きく、武器の扱いもさすがのものがあった。
(父さんは大丈夫か!?)
しかし、こちらの四人も冬の間に武器の訓練は積んでいる。
それだけではなく、多人数でも連繋できるように集団練習も繰り返してきた。
相手は石斧だけでなく、腰にも槍のようなものを差していた。
器用さでは平地人が上回るが、マフは父と、ゾマはトビと連繋を取りながら、必ず平地人の両サイドから攻撃を仕掛けている。
単純な腕力では負けていない。
護衛の一人が持つ石斧を、
根元からへしるくらいのパワーを発揮していた。
(行ける!押してるぞ!)
混戦のさなか、小屋から一人の男が飛び出した。
(ジェイだ!)
遠目にも、はっきり彼の姿が映った。
マフがその姿を認めたらしい。
他の平地人の武器を避けながら、すっとジェイに近づく。
(マフ?)
襲うかと思った矢先、マフの一撃がジェイを…
ではなく、ジェイが手に持っていた武器を叩き落とした。
ジェイが戦いに加わらずに逃げるだろう。
だから、ジェイは僕に任せてもらうように打ち合わせておいた。
マフが一瞬の判断でジェイから武器を奪ったのは
(僕が有利になるように!)
マフの気持ちを無駄にはできない。
その傍らで、ゾマが突き出した石槍が平地人を貫くのが見えた。
石槍は先端を尖らせてあるが、
もちろん鋭さは十分なものではない、
理論を上回る、すごいパワーだった。
(よし!)
これで断然、僕らが有利だ。
乱戦の最中、ジェイは武器を拾い直す余裕はなかった。
そのため、戦闘を避けるようにジェイが走り出した姿が見えた。
僕はそれを見ると、身体をすっと沈め、戦場からは目を切った。
僕には彼らの声と、武器が鳴る音しか聞こえない。
(大丈夫だ、きっと大丈夫だ!)
そう願いながら、
ゆっくりと身体を降ろして行く。
武器は最初に投げ落としておいた。
そこに向けて、ゆっくりと、ゆっくりとだ。
落ち着け。
護衛は既に一人が倒れ、
残りの二人も四人に囲まれ傷が深い。
しかし、その合間を縫って走り出したジェイは、
スッと後ろを振り返った。
誰も追っ手はこない。
しかし護衛がまた一人、頭を砕かれるのが見えた。
ジェイは慌てて目を瞑ると、
もう一目散に崖へと走り出した。
たまたま、ここにいるのが見つかったのか。
いや、違う。
山猿ごときにハメられたのだ。
(しくじった)
という後悔がジェイの頭をよぎる。
しかし、森でなければ山猿どもには追い付かれまい。
平地を走るには、山猿は手が長すぎるのだ。
崖には縄をつないであった。
縄がなくても降りられはするが、
ある方が早く安全に決まっている。
まさに俺の命綱だ。
これで逃げられる。
俺さえ逃げられれば、山猿はいつでも退治できる。
ジェイの脳裏に、
山猿の中の、ある一匹の顔が浮かんだ。
あいつだ。
次こそは必ず殺す。
崖も半ばを過ぎ、もう少しで降りきれる。
ジェイは縄を握ってするすると崖を降り、
右足でたどり着くべき大地を探った。
ガゴッ!
鈍い音と、激しい痛みがその右足を襲う。
「うわッ!」
あまりの痛みに思わず手を離してしまい、
背中から大地に叩きつけられた。
首飾りが
ジャラン!
と大きな音をたてた。
「ジェイだな。」
えっ、と思う間もなく、仰向けのジェイの上に男がのしかかる。
「お、おまえは…。」
僕はジェイを見下ろしながら言った。
「久しぶりだな、ジェイ。」
とうとう、こいつを捕まえた。
捕まえたんだ。
ー続くー
続いてゾマや父さんが降りてくるのも見える。
全員が降りてくれば、いよいよ始まる。
(勝ちたい!)
僕は祈るような気持ちだった。
最後にトビが降り、四人が武器を握り直す。
トビの目は、今までに見たことがないほど恐ろしいものになっていた。
もともとは部族の中でも穏やかな男だった。
それが、息子の仇を取りたい一心で、
冬の間は武器の腕を磨いてきた。
僕の父さんも子供、つまり僕の兄を失っている。
トビと気持ちは同じだろう。
怒りや悲しみは、人を何よりも真剣にさせるのかもしれない。
「行くゾ!」
マフが真っ先に小屋へ走り出した。
足音に気づき、中から出てくる一人の平地人。
マフに気づいた。
しかし、武器を構える間もなくマフの一撃が襲う!
ガツンッ!
大きな音が鳴り、平地人の男はよろめいた。
異変に気づいた平地人たちが武器を手に、
一人、二人と飛び出してくる。
そこへゾマが殴りかかった。
ガキーン!
平地人の三人はジェイの護衛係と思われる。
身体も大きく、武器の扱いもさすがのものがあった。
(父さんは大丈夫か!?)
しかし、こちらの四人も冬の間に武器の訓練は積んでいる。
それだけではなく、多人数でも連繋できるように集団練習も繰り返してきた。
相手は石斧だけでなく、腰にも槍のようなものを差していた。
器用さでは平地人が上回るが、マフは父と、ゾマはトビと連繋を取りながら、必ず平地人の両サイドから攻撃を仕掛けている。
単純な腕力では負けていない。
護衛の一人が持つ石斧を、
根元からへしるくらいのパワーを発揮していた。
(行ける!押してるぞ!)
混戦のさなか、小屋から一人の男が飛び出した。
(ジェイだ!)
遠目にも、はっきり彼の姿が映った。
マフがその姿を認めたらしい。
他の平地人の武器を避けながら、すっとジェイに近づく。
(マフ?)
襲うかと思った矢先、マフの一撃がジェイを…
ではなく、ジェイが手に持っていた武器を叩き落とした。
ジェイが戦いに加わらずに逃げるだろう。
だから、ジェイは僕に任せてもらうように打ち合わせておいた。
マフが一瞬の判断でジェイから武器を奪ったのは
(僕が有利になるように!)
マフの気持ちを無駄にはできない。
その傍らで、ゾマが突き出した石槍が平地人を貫くのが見えた。
石槍は先端を尖らせてあるが、
もちろん鋭さは十分なものではない、
理論を上回る、すごいパワーだった。
(よし!)
これで断然、僕らが有利だ。
乱戦の最中、ジェイは武器を拾い直す余裕はなかった。
そのため、戦闘を避けるようにジェイが走り出した姿が見えた。
僕はそれを見ると、身体をすっと沈め、戦場からは目を切った。
僕には彼らの声と、武器が鳴る音しか聞こえない。
(大丈夫だ、きっと大丈夫だ!)
そう願いながら、
ゆっくりと身体を降ろして行く。
武器は最初に投げ落としておいた。
そこに向けて、ゆっくりと、ゆっくりとだ。
落ち着け。
護衛は既に一人が倒れ、
残りの二人も四人に囲まれ傷が深い。
しかし、その合間を縫って走り出したジェイは、
スッと後ろを振り返った。
誰も追っ手はこない。
しかし護衛がまた一人、頭を砕かれるのが見えた。
ジェイは慌てて目を瞑ると、
もう一目散に崖へと走り出した。
たまたま、ここにいるのが見つかったのか。
いや、違う。
山猿ごときにハメられたのだ。
(しくじった)
という後悔がジェイの頭をよぎる。
しかし、森でなければ山猿どもには追い付かれまい。
平地を走るには、山猿は手が長すぎるのだ。
崖には縄をつないであった。
縄がなくても降りられはするが、
ある方が早く安全に決まっている。
まさに俺の命綱だ。
これで逃げられる。
俺さえ逃げられれば、山猿はいつでも退治できる。
ジェイの脳裏に、
山猿の中の、ある一匹の顔が浮かんだ。
あいつだ。
次こそは必ず殺す。
崖も半ばを過ぎ、もう少しで降りきれる。
ジェイは縄を握ってするすると崖を降り、
右足でたどり着くべき大地を探った。
ガゴッ!
鈍い音と、激しい痛みがその右足を襲う。
「うわッ!」
あまりの痛みに思わず手を離してしまい、
背中から大地に叩きつけられた。
首飾りが
ジャラン!
と大きな音をたてた。
「ジェイだな。」
えっ、と思う間もなく、仰向けのジェイの上に男がのしかかる。
「お、おまえは…。」
僕はジェイを見下ろしながら言った。
「久しぶりだな、ジェイ。」
とうとう、こいつを捕まえた。
捕まえたんだ。
ー続くー
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