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対決
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人質であるラルはついに解放された。
レコに続き他の平地人も姿を現したことで、
カイが取引の場を離れたからだ。
「ありがとう、レコ。」
「兄貴、大丈夫だったみたいだな。」
レコらはラルを取り戻すと、
この後はどうするかを話し合った。
「山猿は狩れなかったが、ラルは取り戻せた。一度戻ってジェイ様の指示を仰ぐか?」
「いや…。」
一同を制したのはラルだった。
「やつらはまとまりを失っている。この奥にやつらの根城があるらしい。一気に襲おう。」
ラルの意見は強気に思えたが、
今まで人質として山猿のことをよく見ていたラルの言うことにも分があった。
このためらいが、
僕らネアンにジェイを倒す猶予を与えてくれるだろう。
僕はそれを狙って、
ラルに現実とは違う情報を話し続けた。
その僕の下に、とうとうジェイがいる。
小さな石斧で彼の右足を破壊した今、
ジェイは僕の拘束から逃げるすべはない。
「ジェイ、とうとうおまえを捕まえた。」
僕は感慨を押さえ、冷静に語りかけた。
ジェイも仰向けになりながら僕を睨み付ける。
「だからおまえを先に殺しておきたかった…。」
僕の身代わりに死んだ三人のことを思い出した。
自然とジェイを押さえつける力が強くなり、
「グフッ!」
ジェイが苦しそうに呻く。
「ジェイ、おまえに聞きたいことがあった。」
ジェイのことを調べる度に、僕の胸に色濃く広がっていた疑問。
「おまえ、転生してきたんだろう?」
こうとしか考えられなかった。
知性、狡猾さ、武器や農工具の造り、そしてこの世紀の人類が嫌う女性を妻として選んだこと…。
ジェイはにやりと笑う。
「そうだ。やはり…。」
「やはり…?」
「貴様もそうなんだろう?」
やっぱりか…。
転生が終わり、元の身体に魂が戻るのは
死んだ時
それが唯一だ。
ジェイは僕のネアンデルタール人らしからぬ点に気づき、
先に僕をこの世紀から追い出そうとしたに違いない。
「ジェイ、おまえはこの世紀に何しに来たんだ!」
僕の声に怒りがこもる。
「俺は…つまらない人生を諦めて、ここで王になるのさ。」
思わず僕はジェイの喉元を掴み、
そして慌てて離した。
ネアンの本気で掴めば、瞬く間にジェイの喉は砕けてしまう。
ジェイは横を向き、苦しそうにゴホゴホと咳をした後、
僕を斜め下から見て言った。
「おまえも俺と同じだろう?山猿の中で王になるつもりだ。」
「違う!」
僕は大きな声で否定した。
「僕はこの世紀に、学問を深めるために来た!ネアンデルタール人の本当の生態を知るためだ。おまえと…。」
僕もジェイを睨み付ける。
「おまえと一緒にするな!」
ジェイは僕を憐れむように見た。
「自分で進んでだと…?バカだ、おまえ。実験道具だぞ、俺たちは。あの転生研究の博士どもの。」
「何を言う。ジェイ、おまえだって転生してるじゃないか。」
ジェイは僕の両手をつかみ、少しずつ左右へずらしながら語りだした。
「俺は違う。奨学金や借金が払えなくなって、売られたのさ。」
売られる…?
そんなことがあるのか…。
確かに、この実験で生還できる保証は何もない。
進んで実験を受ける人間がいないからこそ、
僕はすんなり認められてこの世紀に来ることができた。
「元の世紀に戻っても、俺はたいした人生など歩めない。この世紀はいいぞ。王になれる。好きな女を抱ける。」
そのうちの一人がルネか…。
王になるために、この男は本来の指導者を毒殺した。
「ルネの兄も…ジェイ、おまえが殺したな?」
「ルネ…?ああ、あの人質にした女のことか?」
ジェイはようやく思い出したらしい。
そしてこう続けた。
「俺に逆らう者は殺してきた。おまえだってわかっているだろう?この世紀のやつらを、まともに説得するなど労力の無駄だと。」
ジェイから「兄は村を出た。」と言われたというルネ。
兄は実は殺されていた挙げ句、
その身体をこの男に弄ばれていた。
ワナワナと怒りで手が震える。
「おまえに殺されてきた人間の仇を取ってやる!」
僕は叫び、ジェイの首に手をかけようとした。
すると、ジェイは慌てて
「ま、待て!忘れたのか!?転生先で人は殺すなと!」
寸前でピタリと僕の手が止まる。
転生先の過去の世界で人の命を奪えば、
実際の現世にどのような影響が現れるかわからない。
『転生先で人は殺すな。』
は何度も言われてきたことだ。
しかし。
この男はどうだ?
たくさんの人間を手にかけてきた。
そしてこの後も、きっと変わらない。
生かして返せば、
さらにたくさんの人の命を奪う。
やはり…
その時、ジェイが空いている右手を口に運んだ。
(何を口に?)
僕もその右手を慌てて押さえようとしたが遅かった。
「フゥッ!」
ジェイが口をすぼめ、短く息を吐き出す。
その口には細い筒が見え、
その筒を僕の目が確認した瞬間に
「イツッ!」
僕の首あたりに激痛が走った…。
ー続くー
レコに続き他の平地人も姿を現したことで、
カイが取引の場を離れたからだ。
「ありがとう、レコ。」
「兄貴、大丈夫だったみたいだな。」
レコらはラルを取り戻すと、
この後はどうするかを話し合った。
「山猿は狩れなかったが、ラルは取り戻せた。一度戻ってジェイ様の指示を仰ぐか?」
「いや…。」
一同を制したのはラルだった。
「やつらはまとまりを失っている。この奥にやつらの根城があるらしい。一気に襲おう。」
ラルの意見は強気に思えたが、
今まで人質として山猿のことをよく見ていたラルの言うことにも分があった。
このためらいが、
僕らネアンにジェイを倒す猶予を与えてくれるだろう。
僕はそれを狙って、
ラルに現実とは違う情報を話し続けた。
その僕の下に、とうとうジェイがいる。
小さな石斧で彼の右足を破壊した今、
ジェイは僕の拘束から逃げるすべはない。
「ジェイ、とうとうおまえを捕まえた。」
僕は感慨を押さえ、冷静に語りかけた。
ジェイも仰向けになりながら僕を睨み付ける。
「だからおまえを先に殺しておきたかった…。」
僕の身代わりに死んだ三人のことを思い出した。
自然とジェイを押さえつける力が強くなり、
「グフッ!」
ジェイが苦しそうに呻く。
「ジェイ、おまえに聞きたいことがあった。」
ジェイのことを調べる度に、僕の胸に色濃く広がっていた疑問。
「おまえ、転生してきたんだろう?」
こうとしか考えられなかった。
知性、狡猾さ、武器や農工具の造り、そしてこの世紀の人類が嫌う女性を妻として選んだこと…。
ジェイはにやりと笑う。
「そうだ。やはり…。」
「やはり…?」
「貴様もそうなんだろう?」
やっぱりか…。
転生が終わり、元の身体に魂が戻るのは
死んだ時
それが唯一だ。
ジェイは僕のネアンデルタール人らしからぬ点に気づき、
先に僕をこの世紀から追い出そうとしたに違いない。
「ジェイ、おまえはこの世紀に何しに来たんだ!」
僕の声に怒りがこもる。
「俺は…つまらない人生を諦めて、ここで王になるのさ。」
思わず僕はジェイの喉元を掴み、
そして慌てて離した。
ネアンの本気で掴めば、瞬く間にジェイの喉は砕けてしまう。
ジェイは横を向き、苦しそうにゴホゴホと咳をした後、
僕を斜め下から見て言った。
「おまえも俺と同じだろう?山猿の中で王になるつもりだ。」
「違う!」
僕は大きな声で否定した。
「僕はこの世紀に、学問を深めるために来た!ネアンデルタール人の本当の生態を知るためだ。おまえと…。」
僕もジェイを睨み付ける。
「おまえと一緒にするな!」
ジェイは僕を憐れむように見た。
「自分で進んでだと…?バカだ、おまえ。実験道具だぞ、俺たちは。あの転生研究の博士どもの。」
「何を言う。ジェイ、おまえだって転生してるじゃないか。」
ジェイは僕の両手をつかみ、少しずつ左右へずらしながら語りだした。
「俺は違う。奨学金や借金が払えなくなって、売られたのさ。」
売られる…?
そんなことがあるのか…。
確かに、この実験で生還できる保証は何もない。
進んで実験を受ける人間がいないからこそ、
僕はすんなり認められてこの世紀に来ることができた。
「元の世紀に戻っても、俺はたいした人生など歩めない。この世紀はいいぞ。王になれる。好きな女を抱ける。」
そのうちの一人がルネか…。
王になるために、この男は本来の指導者を毒殺した。
「ルネの兄も…ジェイ、おまえが殺したな?」
「ルネ…?ああ、あの人質にした女のことか?」
ジェイはようやく思い出したらしい。
そしてこう続けた。
「俺に逆らう者は殺してきた。おまえだってわかっているだろう?この世紀のやつらを、まともに説得するなど労力の無駄だと。」
ジェイから「兄は村を出た。」と言われたというルネ。
兄は実は殺されていた挙げ句、
その身体をこの男に弄ばれていた。
ワナワナと怒りで手が震える。
「おまえに殺されてきた人間の仇を取ってやる!」
僕は叫び、ジェイの首に手をかけようとした。
すると、ジェイは慌てて
「ま、待て!忘れたのか!?転生先で人は殺すなと!」
寸前でピタリと僕の手が止まる。
転生先の過去の世界で人の命を奪えば、
実際の現世にどのような影響が現れるかわからない。
『転生先で人は殺すな。』
は何度も言われてきたことだ。
しかし。
この男はどうだ?
たくさんの人間を手にかけてきた。
そしてこの後も、きっと変わらない。
生かして返せば、
さらにたくさんの人の命を奪う。
やはり…
その時、ジェイが空いている右手を口に運んだ。
(何を口に?)
僕もその右手を慌てて押さえようとしたが遅かった。
「フゥッ!」
ジェイが口をすぼめ、短く息を吐き出す。
その口には細い筒が見え、
その筒を僕の目が確認した瞬間に
「イツッ!」
僕の首あたりに激痛が走った…。
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