【R18】即尺令嬢は婚約破棄されてもやめられない

蛙壺

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はじめてのとき

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「おはようございます、お嬢さま」
「ええ、おはよう」

 セルナ家に仕える使用人タチアナは、にこやかにサブリナの身支度を整えながらも、「またか」と思った。
 少女のような端正な顔を丁寧に拭き、きれいに並んだ白い歯を磨きつつ、

(この、におい……自分で気づかないのかしら)

 視界に入らないところで顔をしかめる。

 このにおい。
 男の出す、あれのにおい。
 20代半ばのタチアナは生娘でもないので、知っている。

 知ってはいるがーー

(この半年くらい、もう毎日じゃないの⁉︎)

 こんな頻度でするようなことなのだろうか。
 金持ちの若い娘の世話をするのは初めてだったが、さすがに異常なのではないかと感じていた。

 サブリナの婚約者は見たことがある。
 ふたりともまだ二十歳ハタチ前なので、元気なのは仕方がないのかもしれない。

(でも、あのお方が、毎晩のように通うほどお暇かしら……?)

 相手の生活を想像すると、とても信じられない頻度だった。
 タチアナは、自分の身支度にすっかり身を任せているフランス人形のようにきれいな女性の横顔に、とてつもない裏の顔があるのではないかとあれこれ想像し始めていた。

 一方、サブリナは、そんな使用人の疑心にはまるで気づくことなくーー

 最初の『1本』のことを思い出していた。

***

「サブリナ、お願いだよ……!」

 幼なじみのマルクは、涙でぐしゃぐしゃになりながら、地面に伏せていた。
 日本人なら土下座としてお馴染みのスタイルである。

「いえ、でも……ダメよ、マルク」

 サブリナは困惑していた。
 幼なじみに自分が婚約したことを伝えたかっただけなのに。
 幼いころから兄妹のように親しかった彼なら、心から喜んでくれると思ったのに。

「ぼくのは、サブリナって決めてたんだ……」

 そう言われても……とサブリナは思う。
 彼女にとって、マルクは恋愛の対象ではないし、ましてやそういう対象では絶対になかった。

 婚約報告への返事が「ぼくのほうが好きだ」だっただけでも驚きだというのに、今こうやって迫られているのは、せめて一晩を過ごしたいという驚愕の『お願い』だった。

「いくらマルクでも、絶対にそれはダメ!」

 はっきりと断る。
 婚約は家どうしが決めたことだったが、サブリナに不満はない。
 お相手として紹介された精悍な青年を見たときから、彼女の初めては絶対に初夜まで守ると決めていた。

 マルクは、そんなサブリナのきっぱりとした返答を聞くと、

「じゃあ、口で我慢するから……頼むよ……」

 泣きじゃくりながら懇願し始めた。

「え……? お口……って……?」

 サブリナは知らなかった。
 戸惑いのまま庭の茂みに連れ込まれ、顔のまえでマルクにそれを出されたときも、彼に何を求められているのかわからなかったほどだ。

 でもーー

「んぐ……んっ……」
 マルクのそれを口に頬張ったときに、思った。

 これなら、初めてを守りながら『お願い』に応えられる。

 使用人たちのみならず、学生時代の友だちからもお嬢さま扱いされていた彼女は、人に何かをさせることがあっても、何かをお願いされることは決してなかった。
 そんな自分が、必要とされ、応える方法がある。

「んっ……んくっ……」

 慣れない動きでマルクを慰めながら、サブリナは満たされゆく自分を感じていた。

***

「お嬢さま、終わりましたよ?」

 タチアナが声をかける。
 身支度が終わったので、これから家族で一緒に朝食をとる時間だ。

「んふ、ごめんなさい。ちょっと考え事していたわ」

 そう言って立ち上がるサブリナの唇は、いつになく艶っぽく、光り輝いていた。
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