【完結】化け物神子は白蛇に愛を請われる

華抹茶

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9 可愛い…??

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 俺の涙がやっと止まってから。安心したのか双子もそっと離れていった。でも俺の側にいるのは変わらない。

「すみません、突然泣き出して」

 ぐずぐずと鼻をかみながらそう謝れば「気にすることはない」と優しい声を掛けてくれた。

「神子様。貴方がここへ呼ばれてから何を教わったのか、それを聞かせて欲しい」

 オースティンさんにそう問われ、本を渡され読んだ内容を答えた。
 神子の能力には瘴気の浄化、治癒、結界強化、豊穣の祈りがあること。
 それ以外に過去の神子の話や、神子の力を使って起こした奇跡みたいなことや、ざっくりとしたこの国の歴史。
 そして女神テラの眷属である神獣人の一人、フェニックスの子孫がこの国の王族らしいということ。

「そうか。ならば詳しい事はまだわからないのだな。であれば貴方はどうしたい? 神子としての力を扱えるようになりたいと思うか? この世界の事を知りたいと思うか?」

「……うん。もう元の世界に戻れないのならこの世界で生きて行かなきゃいけないし、この世界の事を知りたいと思う。神子の力を正直この世界の為に使いたいとは思わないけど、どういう事なのかはちゃんと知っておきたいと思う」

 神子としてこの世界に呼ばれた以上、神子とは何なのか、何をする者なのか、それを知っておく必要はあるだろう。そういったことをちゃんと理解してから、今後の事を判断しても遅くないと思う。

「わかった。であれば明日から早速学べるよう手配をしよう」

「ありがとうございます。あの、それと皆にお願いがあるんですけど……」

 俺がおずおずと3人に視線を向けると、双子はにっこりと、オースティンさんは変わらず無表情で少し首を傾げた。

「俺の事を神子様って呼ぶのをやめてもらえませんか? 俺の名前はヒカル。そう呼んで欲しい」

「……わかった。貴方がそう望むなら」

「ヒカル様、ですね。綺麗なお名前です」

「ヒカル様! 改めてよろしくね!」

 それからオースティンさんはやることがあるらしく、何かあれば双子に何でも言えばいいと言って部屋を出ていった。

 それからここに残った双子に、俺がここに来るまでにいた場所が何処かを聞けば王宮だと言う。そしてその王宮の人達がここへ来ることはあるのかと問えば、よっぽどのことがない限りは来ないだろうとのこと。

「ここにはオースティン様がいらっしゃいますから、来ることはほとんどありません。何か伝令などで使者が来ることはありますがそれ以外の方はお見えになることはありませんね」

 オースティンさんがいるから来ない? その意味がわからなかったのでレイフに聞けば「そのことも時期にお聞きになるでしょう」と教えて貰えなかった。
 王宮でオースティンさんも化け物と呼ばれていた。それと関係があるのかもしれない。

 あそこにいる人たちがここへ来ることがないのなら安心だ。出来ればもう2度と会いたくはない。

「さ、ヒカル様! これから昼食だよ!」

 俺が王宮の事について聞いたからなのか。ローリーがことさら明るく食事だと言う。そのローリーの明るさに自然と口角が上がる。

 その後は部屋でのんびり過ごし、風呂も甲斐甲斐しく世話をされ1日が終わった。
 

 そして翌朝。今日からは普通の食事になると言う。
 レイフとローリーに身支度を手伝ってもらい(1人で出来ると言ってもさせてくれない)食堂へ移動になる。

 俺の顔を見た人がびっくりするんじゃないかと言ったら、この屋敷内でそんな人はいないから大丈夫だと双子に力説された。本当か? と疑いながらも食堂へと向かう。

 時々使用人とおぼしき人とすれ違うと、俺を見て深く一礼し俺が通り過ぎるのを待っている。知らない人と会うたびに俺はドキドキと落ち着かないのだが、とりあえずはぎょっとされたり不快な表情をされることはなく少し安心した。
 
 食堂内へと入れば男装の麗人とオースティンさんが既にいた。俺の姿を見るなり立ち上がり「おはようございます」と笑顔で挨拶をしてくれた。

「ヒカル様。私はオースティンの姉、ヘインズ公爵家当主ブレアナ・ヘインズと申します。本来であればこちらから挨拶へ伺わなくてはいけない所を愚弟に止められておりまして、遅くなりましたことお詫び申し上げます。お会いできて光栄でございます」
 
「あ、えっと……ヒカルです。よろしくお願いします」

 ブレアナさんは綺麗なお辞儀と共に丁寧な挨拶をしてくれた。男装姿だからだろうか、振る舞いも男性がするような感じで、しかもそれが凄く様になっていてカッコよかった。
 
 それにしてもオースティンさんに止められてたというのは何かあったんだろうか。そう思っていたのが顔に出ていたのか、オースティンさんが答えてくれた。

「ヒカル様の体調を慮った結果だ。静かに療養して欲しかったからな。それまでは最低限の人数に留めておくべきと思っただけだ」

「そういうことです、ヒカル様。今日お会いした限りではかなり良くなられたようで安心いたしました。それにしてもオースティン、お前はヒカル様に対してもそういう口の利き方なのか?」

 呆れたような視線のブレアナさんだが、俺は別に気にしていない。俺より年上だろうしかしこまられるよりもずっといい。

「あのブレアナさん、俺は気にしていないので大丈夫ですよ。むしろブレアナさんも気軽に話してもらえると助かります」

「ヒカル様……。それはなりません。貴方はこの世界にとって奇跡の方。ヒカル様こそ我々を呼び捨てて構わないのですよ」

 ちょっと困ったように微笑むブレアナさん。そうは言われても、ほぼ初対面の大人の人に呼び捨てたり気軽に接するのはどうしても気が引ける。

「ヒカル様もこの環境に慣れようとしているところだ。あまり無理を言わない方がよいのでは?」
 
「…………はぁ、わかった。ヒカル様、いつでも気軽に接してくださいませ」

 たっぷりと間が開いたが、結局は諦めたような感じで納得してもらえたようだ。

 やがて朝食が運ばれてきた。俺も普通の食事が取れるようになったから、パンやオムレツ、サラダなどオースティンさん達と同じ美味しそうなメニューが並んでいる。それを慣れないカトラリーで食べていると、ふと視線を感じて顔を上げた。するとブレアナさんと目が合った。

「ふふ。すみません、美味しそうに召し上がるお姿が可愛くてつい……」

「え……」

 可愛いって初めて言われたんだけど……。
 
 そんな微笑ましい顔で見られるとものすごく恥ずかしい。というかここの人達は俺の顔が気持ち悪く思わないんだろうか。
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