【完結】異世界で、家政夫(と聖人)始めました!

華抹茶

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3.異世界転移③

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「えっとぉ……あなた、誰ですか? っていうか日本語がお上手ですねぇ~、あはははは……」
「……本当に覚えていないんだな」

 恥を忍んで名前を聞いてみるも、呆れたようにため息を吐かれてしまった。イケメンさんは頭をガシガシ掻くと「あれだけ酒臭かったら仕方ないか」と呟いた。
 酒臭かった、の一言で昨日ヤケ酒で大量のビールやらチューハイやらを飲んだことを思い出した。多分だけど、かなり酔っ払った俺はこのイケメンさんに絡んでしまったのだと思われる。その記憶が一切ないのが申し訳ない。

「俺はユリウス。魔法騎士だ」
「……ん? んん?」

 ユリウス、というのは名前だろう。それはなんとなくわかった。だけどその次の言葉が理解出来ない。『魔法騎士』……? 何そのファンタジー用語。イケメンだから何を言っても許されると思っているのだろうが、まさかのオタクということか? 『封印されし俺の右手が疼くっ……!』的なことを素でやっているということか?

「それと昨日も言ったが俺は『ニホンゴ』なぞ喋っていない。お前がシュルドー語を話しているんだ」
「……ん? んんん?」

 シュ、シュルドー語……って何? それもあなたのファンタジー設定のお話ですか? やばい……言葉はわかるのに何を言っているのか全然わからない……俺、このイケメンなオタクとどうやってコミュニケーションとったらいんだろう……設定に合わせてノッてあげなければならないのだろうか。

「ハルト、お前は理由がわかるか? お前は異世界からの来訪者だ。俺も信じられないがどうやら『聖女』の再来だと思われる。ヴォルテルに話をしてからになるが、一度調べなければならないだろう。その時は王宮へと来てもらうが了承し――」
「ちょっと待って!? いろいろ待って!? 漫画やアニメも観てた時期があったからファンタジーなことはわかるけどいきなりそれにノッてあげられるほど上級者じゃないからね!?」

 は? なになになになに? 俺が異世界からの来訪者? 聖女? さっきからあり得ない量のファンタジー設定盛り込んできてるんだけどどうしたらいいわけ!? 俺は人並みに漫画もアニメも観ていたからその言葉の意味はなんとなくわかるけど、そこまで詳しいわけじゃないから世のオタクのように設定に乗るのは難易度高すぎる!
 昨今の外国人は日本の漫画やアニメの影響を受けててもの凄いオタクの人もいるって知ってるけど、日本人だからって同じ熱量をぶつけられても困るんだって! 日本人が全員アニメオタクだと思うなよ!

「俺はあんたほど漫画もアニメも詳しくないんだ。そういう設定で話したいっていう気持ちはわかるけど、俺には難易度が高すぎる。だから申し訳ないけどその設定、今は置いといてどうしてこうなったのかの状況を教えて欲しい。覚えてない俺が一番悪いのはわかるけど、お願いします」

 俺が頭を下げてそう言えば、イケメンさん改め、ユリウスさんは少し呆然とした表情をした。日本人なら誰でもノッてくれると期待していたんだろうし、その期待を裏切ってしまって申し訳ない気持ちでいっぱいだが、俺にはどうすることも出来ない。

「設定、とはなんだ? 俺は事実しか話していないぞ」
「え、まだやるのそれ」
「だから俺は本当のことしか話していない。ここはアングレット王国の王都シャトロワ。お前がいた場所じゃない。嘘だと思うなら窓から外を見てみろ。お前の知らない場所のはずだ」

 そんなまさか。そう思うもユリウスさんの表情は真剣で、嘘や冗談を言っているようには見えない。俺は飛び跳ねるようにベッドから下りると窓へとしがみ付いた。そこから見える景色に俺は絶句する。

「……なにこれ。どこだよここ!?」

 窓からの景色はどう見ても日本の景色ではなかった。行ったことはないが強いて言うならヨーロッパの街並みに近い。どこかのアミューズメントパークかと思ったが、その景色はずっとずっと遠くまで続いていた。
 そして出歩いている人の服装はどれもこれも現代日本では見ない服装。そして赤や青などの派手な髪色の人までちらほら見える。中には剣や杖(だろう)物を持っている人もいる。
 それを眺めていると、ふっといきなり影が差し暗くなった。綺麗な晴れ間だったのにこれから曇って雨が降るのだろうかと空を見上げると、なんとそこには空飛ぶトカゲらしき物が見えた。飛行機や戦闘機、ヘリコプターなんかじゃない。蝙蝠のような羽を広げ、しかもそれがバサバサっと動くのを見てしまった。

「はぁぁぁぁぁ!? なにあれ!? 何が飛んでるの!?」
「ああ、あれはドラゴンだな。珍しい。王都に姿を見せるのは久しぶりだ」
「ド、ド、ド、ドラゴンンンンンン!? マジで言ってんの!? ねぇそれ本気で言ってんの!? あれって本物なの!?」

 俺の隣で同じように外を覗いていたユリウスさんの肩を掴み勢いよく捲し立てた。至近距離で大声出したからか、ユリウスさんの眉間にくっきりと皺が表れる。

「本物のドラゴンに決まってるだろ。どうやらその反応だとお前の世界にはいなかったようだな。だがこれが現実で、ドラゴンは実際に空を飛んでいる」
「……嘘だろ」

 ドラゴン(らしきもの)はすいーっと上空を一周すると、そのまま優雅に遠くへと飛び去って行った。
 俺は自分の頬を思いっきりつねってみた。そしてかなり痛い思いをする。痛いと感じるということは夢じゃない。ということは本当に正真正銘、ここは俺がいた日本でも地球でもなく、全然全く知らない別の世界だということだ。

「嘘だろ……」

 なぜ。どうして。一体何がきっかけで異世界なんかに来てしまったんだ。こんな非現実的なことが自分に起こるなんて。そんな馬鹿な……

「俺……元の世界に帰れるの?」
「……一度ヴォルテルに確認しなければならないが、恐らくその可能性は低いだろう。こちらに来る方法もわからなければ、別の世界に行く方法もわからないからな」
「そんなっ……」

 元の世界に帰れないだと……? じゃあ俺は全く知らないこの世界で一人で生きていかなきゃいけないのか……
 なぜ。どうして。流星には浮気され、どん底だと思っていたのにまだこんな仕打ちを受けなければいけないほど、俺は何か悪いことをやったとでもいうのか……
 俺が絶望に打ちひしがれているとユリウスさんは俺の側から離れた。同じ空間に彼はいるはずなのに、隣から感じるほんのりとした温かさがなくなった途端、なぜか急に寂しさがこみ上げた。
 そんな俺の頭にばさりと何かがかぶさってくる。

「なっ……シャツ?」
「とりあえず服を着ろ」
「あっ……!」

 そうだった。俺何も身に着けていないんだった! ユリウスさんが投げてよこしたのは大きめのシャツ。どうやらユリウスさんのものを貸してくれるようだ。
 ベッドの下に俺の脱ぎ散らかしたスーツが転がっていて、もう見るからにしわくちゃになっていた。投げてよこされたシャツに有難く袖を通すと、丈が長く股間部分まで隠れてしまった。まるで短めのワンピースのようになっている。ユリウスさんは俺の頭一個分は背が高いから仕方ないのだが。俺も百七十五はあるからそこまで低くないのに。
 ユリウスさんもさっと服を着るとベッドの上へと座った。この部屋には椅子なんかは置かれていなかったため、そこしか座るところがないのだ。俺もそれに習い、股間部分が見えないよう気を付けてベッドに上がる。布団を腰まで掛ければ大丈夫だ。

「すみません、しばらくこの服をお借りします」
「ああ、そうしてくれ。とりあえず、俺の言ったことが本当だとこれでわかったか?」
「はい。まだ信じられない気持ちでいっぱいですが、異世界に来たということだけはわかりました。それで、あの……」
「とりあえず昨日のことを話そう」

 ユリウスさんは、昨日何があったのかを話してくれた。
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