【完結】消えた一族の末裔

華抹茶

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20 ルドヴィクside

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 あれからトントン拍子にリュークの側にいられる算段を付けることが出来た。我ながらよくやったと思う。

 リュークが熱を出して寝込んでいる間に、まずは父上に話をしに行った。

「父上、お話があります」

「よく来たな。話を聞こう」

 俺が久しぶりに父上を訪ねたからか、ほっとしたような表情をし、ソファーに座るよう促した。そこに腰をかけると正面に座る父上にはっきりと自身の要望を告げる。

「父上、リュークとの婚約を認めてください」

「…………は?」

 俺の言葉を聞いた父上は、かなりの間を空け、それでも理解出来ないといった惚けた表情でただ一言答えるだけだった。まぁその気持ちもわからないでもないが。
 同性同士の結婚は認められてはいるが、数は圧倒的に少ない。どちらかというと同性同士の場合は『愛人関係』にとどまっていることが多い。
 だが同性同士のカップルというのは、結婚しているかどうかを度外視すれば別に珍しくとも何ともない。だから俺がリュークとの婚約を望むというのも別におかしな話ではないのだ。

 ただ父上がすぐに理解出来ず呆けているのは、今までの俺のリュークに対する態度があまりいいとは言えなかったからだろう。
 だがそれを無視して俺は言葉を続ける。

「俺は次男です。侯爵家は兄上がいれば問題ないでしょう。俺はリュークと生涯を共にすることに決めました。ですので婚約者の選定は兄上と姉上だけにしてください。もしも俺に他家からの打診があったとしてもすべて断って欲しいのです。それから――」

「ま、待ちなさい! 一体何がどうしてリュークとの婚約に!?」

「……俺の本当の気持ちを理解出来るのはリュークだけです。きっと父上も兄上も姉上も、誰も俺の気持ちを理解出来ないでしょう」

「……」

 俺がそう畳みかけると、父上は「はぁ……」とため息を吐き額に手を当て項垂れた。そして「お前の本当の気持ちを聞かせて欲しい」と言われる。

「俺は、母上を殺したも同然です。そして母上を救うためにいろいろと模索しましたが、治療法を見つけることは出来ませんでした。俺は『役立たず』なんです。リュークも家族からそう言われ見放され、孤独の時間を過ごしました。俺達は同じなんです」

「ルドヴィク、何度も言うがマリアを救うことは無理だったんだ。お前のせいじゃない。ニコラスとアメリアも、お前に言ってしまったたあの言葉を後悔している。お前が気にすることじゃないんだぞ」

「わかっています。父上の仰ることは理解しています。それでも。それでも俺は俺を許すことは出来ません」

 治療法が確立されておらず、治療薬もない特殊な病であったことも重々承知しているし、それを俺が見つけられなくて当然だったことも理解している。兄上と姉上が俺に対しよそよそしいながらも、俺に謝ろうとしていたんだろう気配は感じていた。
 父上たちが言っていることの意味は理解出来ている。だが、理解出来ても心が納得しないんだ。もし俺が生まれていなければ。そう思わずにいることがどうしても出来ない。

「だから俺はこの家に居続けることがいいとも思えません。それにリュークの側にずっといると約束したんです。俺はこの家を出て、シモン先生のところで生活したいと思っています。その許可をいただけませんか」

「……家まで出るつもりなのか」

 父上は深い溜息を吐くと、しばらく無言になった。恐らくそれでいいのかどうなのか、頭の中で忙しなく考えているんだろう。

「……ルドヴィク、婚約を今すぐ認めるわけにはいかん。それはお前の勝手な押し付けだ。だが婚約者の選定についてはお前の要望を叶えよう。それとシモンの家でのことは、シモンから許しが出たら許可する。お前が自分で納得させなさい」

「わかりました。十分です。お時間をいただきありがとうございました」

 俺は父上に頭を下げるとさっさと部屋を出た。その足でシモン先生のところへと向かう。運よく執事のカールを見つけ、シモン先生の居場所を聞けば今はリュークの看病をしているという。そのままリュークの寝ている部屋へ行くと、ちょうどシモン先生がリュークを着替えさせているところだった。

「シモン先生。リュークの看病が一段落したら、お話したいことがあります」

「わかったよ。あと少しだけ待ってくれるかい?」

 一つ頷き部屋に備え付けてあるソファーに腰掛け、シモン先生を待つことにした。着替えを終わらせ、額の濡れふきんを取り換えると「お待たせ」と俺の向かいのソファーに座った。

「話って何かな? あ、リュークは一応ぐっすり眠っているけど、声は小さめでね」

「俺はこの家を出て、シモン先生のところで生活したいと思っています。その許可をいただきに参りました」

「え? 私の家で生活したい? またどうして急に……」

「リュークを守るためです」

 本当は婚約したいと言いたいところだが、父上に認めてもらえなかった以上、シモン先生に言うことは止めておく。むしろ余計にややこしくなりそうな気しかしない。

「リュークを守るためって……その理由を聞いても?」

「恐らくですが、リュークは魔法が効かないのではありませんか?」

「っ!?」

「その表情を見ると、あながち間違ってはいないようですね」

 俺がそう言うと「しまった」と小さく呟き頭を抱えたシモン先生。腹の探り合いが苦手だというのはわかっていたが、こうも簡単に当たりを引くとは思わぬ有難い誤算だ。いくら違うと言われても、脅すなどして突破する方法はあったのだが。
 
「……もしかして、以前リュークに氷魔法を放ったあの時に?」

「そうです。リュークの服は破けましたが、体には傷一つ付きませんでした」

「……やっぱり、しっかり見ていたんだね。それを今になって言うのはどうしてだい?」

「最初は放っておくつもりでした。でも今回の母上の件で、唯一俺の側に寄り添ってくれたのがリュークだったんです」

 父上やシモン先生が俺のことを気遣っていないとは言わない。言葉でたくさん尽くしてくれたと思う。でも俺の心には響かなかったし、二人はそれ以上無理やりどうこうしようとはしなかった。というか出来なかったのだろう。
 だけどリュークだけは無理やり押し入って、俺がいくら拒否しようと冷たい態度をとっていようと構わず側に居続けてくれた。兄上や姉上は血の繋がった家族であっても離れていったのに、なんの関係もないリュークは俺の側にいてくれた。それに報いたい。
 俺はそう答えた。

 それは本心だし間違ってはいない。だが仄暗い俺の想いは誰にも打ち明けるつもりもないし悟られてはいけない。
 それを押し殺し、シモン先生に訴えた。

「リュークのその特異体質はバレてはいけないと思って黙っていたんですよね? 王太子から贈られた腕輪も、その一環だと思いました。リュークを守る味方が増えるのはいい事だと思いますが?」

「……君は聡い子だと思っていたけどここまでだったとは」

 とうとう観念したのか、シモン先生はリュークの特異体質について話をしてくれた。今このことを知っているのは陛下と王太子、そしてシモン先生だけらしい。
 リュークの魔力そのものが、魔法を無効化する力を持っているらしく、それが理由で魔法を発動することが出来ない。だから攻撃魔法も効かなければ魔道具の起動も出来ないそうだ。
 
「このことが公になってしまえば、リュークはきっと狙われる。人体実験だけじゃなく、生きる盾として使われるだろう。あの子をそんな目に遭わせたくない。だからこのことは絶対に誰にも言わないで欲しい」

「もちろんです。俺もリュークを危険な目に遭わせたくはありません。どんなことからも、一生をかけて守ります」

「……ん? 一生??」

「ではシモン先生の家に住まわせていただくことをお許しいただけますか?」

「リュークの味方になってくれるのなら嬉しいけど……それにしても一生ってどういうこと?」

「ありがとうございます。ではリュークが家に戻る時に、一緒に俺もシモン先生の家に移りますね。荷物の準備を始めるので、今は一旦ここで失礼します。後でリュークの看病も代わりますので」

「え、うん。それはありがとう……なんだけど。ねぇ、一生って何!?」

 シモン先生がしつこく何かを聞いてくるが、俺はそれを無視して自室へと戻った。使用人に荷物を纏めてもらうのを手伝ってもらわないと。

 さて。今は誰の手が空いてるだろうか。
 
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