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17 アーネストside
しおりを挟む数年前、昔から交流のある人からパーキンス伯爵家の事で連絡があった。
パーキンス伯爵はきな臭い。お前も気をつけろ。
どうやら資産家として有名なパーキンス家は、裏では何かをやっているという噂がたっていた。
その話を聞いてから調査を始めたが、俺も父もまだ何も掴めてはいない。
元々は、魔法薬の製造・販売で名を上げた家だ。そこから他の事業も始め、今は孤児院の運営なども行なっている。
だが、噂では「孤児院の子供の数が合わない」と言われている。
今では魔法薬はなくてはならない物の一つだ。怪我を治療したり、魔力を回復するのに使われるポーション類を始め、病気の治療薬や、美容薬など様々な種類の魔法薬がある。その最たる大手がパーキンス家だ。
大きな権力を持つようになったパーキンス家を調べるのは容易では無い。
だから噂があってもやっかみだろうという者も多い。
ただ気になるのは、最近になって隣国であるガンドヴァ王国との取引があるという話。一部では、奴隷売買や違法魔法薬が取引されているのでは、と言われている。
ガンドヴァ王国は好戦的で、よく国境付近で小競り合いをしている国だ。
もしその話が本当だったならば、その家と婚約をしている俺の家も無事では済まない。俺の家はその隣国と接している。パーキンス家と手を組んでいるなどあらぬ疑いをかけられる可能性もある。
ノルベルは俺の前では従順だ。だが、周りの話を聞くに平民への扱いだったり、醜い者に対しての扱いが酷いと聞いたことがある。
ノルベルは確かに可愛い顔をしていると思う。子供の時から人気者で、婚約の打診も多かったと。だがその心根は美しいとは言えないと、特にここ数年はよく聞くようになった。
……それもパーキンス家の例の噂が流れ始めた頃からだ。
俺はそれが無関係だとは思えない。きっと何かあるはずだ。
そんなノルベルの話もあり、アシェルの人気はとどまる事を知らない。
アシェルは平民だが、その類稀な容姿に素晴らしい魔法の技術。勉強熱心で誰にでも優しく、努力家。そして謙虚。
今では親衛隊なるものまで出来てしまったほどだ。
アシェルを我が物にしようと貴族の権力をちらつかせ、愛人として迎え入れようとしている輩も多いという。だがアシェルは全くその気はなく、全て断っている。貴族になりたいわけでも、愛人になりたいとも思わないと言っていたそうだ。
俺は断っていると聞いて心底ほっとした。だが、悠長にもしていられないだろう。アシェルにも想い人がいるかも知れない。
だが、アシェルとの事の前にノルベルとの事だ。父にもノルベルを調べろと言われている。
そして魔法科との合同校外実習が始まった。アシェルと組みたいがどうしようかと考えていたが、ハミッシュの方から声を掛けてくれた。
お前は本当にいい奴だな。今度何か礼をしなければ。
アシェルと組んでいるという話で、断る理由はない。むしろこちらからお願いしたい程だ。
同じクラスで友人となったフィリップと共に参加する。
「アーネストよろしく!いやー、アーネストが居てくれると心強いよ!」
「いや、こちらこそよろしく頼む。」
「初めまして!俺はフィリップ・スティード。家は子爵家です。騎士科と魔法科の首席組なんて光栄です。」
フィリップは優男という言葉が似合う男だ。柔和な笑みを浮かべてアシェルと挨拶を交わす。
「あ…アシェルと申します。平民ですので、敬語はやめて下さい。スティード様、よろしくお願いします。」
「さすがは『魔法科の銀の天使』!それだけの実力があるのに謙虚で鼻にかけることもない。騎士科でもすごく噂になってるよ。」
「あはは…。」
フィリップの言う通り、騎士科でのアシェルの噂はよく聞こえてくる。
その話を聞くたびに俺は嬉しいのと嫉妬と不安と色んな感情が混ざり合って、苦しくなる事がある。
「騎士科と魔法科の首席組なんて贅沢だよな!俺たちもう勝ったも同然だな!」
「あまり調子に乗るなよハミッシュ。何が起こるかわからないんだから気を引き締めておけ。」
「はーい。なんだよもう。ちょっとくらい良いじゃんか。」
確かに俺とアシェルがいるこの組は、周りからズルだと言われても仕方がないほどだと思う。調子にのるハミッシュの気持ちも分からないではないが、魔物は予想が付かない動きをすることもあるという。少しでも危険を減らすためには必要な事だ。
「ではこれより、騎士科と魔法科の合同実習を始めます。順番に森へ入ってください。」
「よし。じゃあ俺たちも行こうぜ。」
森へと入り、奥へ奥へと進んでいく。少し空気が変わってきたような感じもする。そんな時、アシェルが何かに気づいた。
「待って。……右から魔物の反応があった。1、2…5体だね。割と近いから慎重に進もう。」
「え…アシェル、なんでそんな事わかるの?」
「風の魔法の応用だよ。物凄く弱い風を周りにかけてる。その風の動きで把握してるんだ。」
なんだと?アシェルはそんな事ができるのか。我が領地の魔法使いはそんな事できる奴はいないぞ。
なんという規格外。
「……それインチキじゃん。」
「そんな事ないよ!僕、冒険者やってる時はいつもこうやって調べながらやってたし。」
「え?アシェルは冒険者なのか?」
親が冒険者であることは知っていたが、アシェルまでそうだとは知らなかった。
「なんとアシェルはSランク冒険者なんだぜ!それに学園が休みの日は王都のギルドへ行って冒険者も続けてる!」
それにSランクだと!? 冒険者の事は詳しくはないがSランクなんて一握りの人間しかなれないと言われている階級だ。もう既にSランクにまでなっているだなんて…。
俺は何をやっている。騎士科首席だと思って胡座をかいていなかったか?
自分ではそう思っているつもりはなかったが、アシェルを見ると自分が恥ずかしく思えてくる。
アシェルはそれだけの実力がありながらも、全く鼻にかけることもない。俺はまだまだだな。アシェルに想いを伝える前に、己をもっと鍛えねば。
アシェルに言われた様に右へ進路を変えて進んでいくと、確かに5体の魔物に遭遇した。
あの魔物は戦った事がある。弱い魔物だ。俺たちならば問題ないだろう。
「じゃあどうする?できれば俺はアシェルの戦いを見たいんだけど。」
「そうだね、俺も『魔法科の銀の天使』の実力をみたいな。」
そうハミッシュが言えば、フィリップも見たいと言う。ならば。
「…じゃあアシェル、俺と組もう。前衛は俺が出るから後衛を頼む。」
「お。アーネストとアシェルの首席コンビ!これは楽しみ!」
俺もアシェルの力量をこの目で見たい。共に戦えるチャンスだ。逃すものか。
「はい。じゃあ行きましょうか。アーネスト様、自由にやっていただいて大丈夫です。フォローしますね。」
アシェルに一つ頷きで答え、悟られない様ゆっくりと魔物に近づいていく。
射程圏内へ入った瞬間、一気に飛び出し一体狩る。すると残りの4体がこちらに気づく。さて、どいつからやるか。と思ったその一瞬。残された4体の魔物は草の蔓で雁字搦めにされ動きを止める。
その間に2体立て続けに狩ると、アシェルも魔法であっさりと2体狩っていた。
…なんだこれは。物凄く戦いやすかった。今まで草の蔓で拘束する魔法使いも居たが、拘束するだけで他には何もできなかった。
だが、アシェルは拘束した後すぐさま攻撃に出てあっさりと2体狩ってしまった。
「…すげぇ。なんだこれ。」
「一瞬で終わってしまったね……。」
見ていた2人も呆然としている。こんなスピードであっさりと討伐できるなんて俺も思ってもいなかった。
やはりアシェルは凄い!噂以上だ!
剣に付いた血を振り払い、皆の元へ戻る。
「アシェル、素晴らしいな。低級とはいえ5体の魔物を一瞬で片付けてしまった。素晴らしい魔法のコントロールと早さだな。こんなに楽に倒せたのは初めてだ。」
「いえ、ありがとうございます。そう言っていただけて光栄です。」
その後はハミッシュとフィリップも討伐し、日が暮れる少し前まで繰り返していった。
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