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11・衝撃的な告白
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「…オッドアイ」
「!? 貴方はこの目の事をご存知なのですか?」
「あ、いや。まぁ…。珍しい現象で、そんな人に会ったことは今までにはないけど知ってはいる」
前世含めてオッドアイの人間なんて見たことない。ネットで写真を見たくらいだな。実際に会うのは初めてだ。
「…嫌悪感を抱いたりはしませんか?」
「は? なんで? そりゃ確かに珍しいし不思議な目だなとは思うけど、それだけだろ??」
ん? なんだ? 何が言いたいんだ? さっきからこの人たちの言いたいことが全く分からないぞ…。
「ドミニクさん。彼らは大丈夫です。私が保証します」
「ヴィンセント様。…わかりました」
おい。もしもし? さっきから俺たちがわからないところで話が進んでいるんだが???
「突然失礼いたします。私は文官のヴィンセント・フィンバーと申します」
「あ、はい。俺はラッセル、こっちはディーダ」
「ラッセルさんとディーダさん。あなた方とお話させていただきたくこちらへ参りました。…先日、ガンドヴァで内乱が起こり王が変わりましたね」
「「!?」」
「今即位されたのはガンドヴァの第一王子殿下であったアドリアン陛下。何でも親兄弟を全て殺害しその地位に就いたとか」
そんなことまでもう既に知られているのか!? 情報が早すぎる!
「…なぜその事を?」
「私たちも、脅威に対して何もしていないわけではありません」
スパイ…か。ガンドヴァで情報を集めているリッヒハイムの諜報員がいるんだな。そりゃそうか。隣の危険因子が何をするのか調べる必要があるもんな。
ただその情報が届くまでが早すぎる。俺達だってかなり無理をしてこの国へやってきている。早馬を出したって俺達とそう変わらない早さのはずだ。
あ……。
「通話の魔道具…」
「……その魔道具の存在をご存知でしたか。ということは貴方はもしかして、今現在行方不明になっているヴォルテル第五王子殿下ですか?」
「「!?」」
…やっぱりバレていたのか。リッヒハイムの諜報員の凄さにただただ脱帽するしかない。
―――俺は、俺たちはここまでだったのか。ごめん、皆。
「………そうです」
「え? ちょっ!?」
「ディルク。正直に話そう。…もうこれ以上は無理だ。全部バレてる。ディルク、ごめんな。本当にごめん」
「殿下…」
今まで必死に俺のために頑張ってくれたのに、こんな結果になってごめんな。不甲斐ない主でごめん。
ここまでしてくれたディルクに申し訳なくて涙が出てくる。悔しくて悲しくてディルクに抱き着いた。
――お前だけは絶対に助けてやるから。
「…お願いがあります。こんなことを言える立場ではないことはわかっています。ですがどうかお願いです。ディルクを…彼の命だけは助けてください。俺はどうなっても構いません」
「殿下!? 何を!? 冗談じゃない! 1人にしないでくれって言ったじゃないですか!? 俺だって同じです! 俺を、俺を置いて1人にしないでください!」
「ディルク! もういい。ここまで本当にありがとう。後は俺が何とかするから。何もできないかもしれないけどお前の命だけは助けてもらうようにするから…」
「嫌です! 死ぬなら…貴方と一緒に死にたい! 貴方がいない世界なんて必要ない! だから最後まで側にいさせてください! 貴方を愛しているんです!」
「…は? な、なん、て?」
今、なんて言った? え? 聞き間違いか? え? え?
「…愛しています。貴方の事をずっと愛していました。俺の立場ではこんなことを言えないことはわかっています。言うつもりもありませんでした。ですが、もうどうでもいい! 愛しているんです! 貴方を! 貴方だけを! だから最後まで共にいます。いさせてください。…お願いです、殿下」
「ディルク…」
半泣きになったディルクにぎゅうぎゅうに抱きしめられた。
やっぱり聞き間違いじゃなかったー!! え? マジかよ。ここでこんな爆弾落としてくる!? え? 俺の事を愛してる? え? いつから? いつからだよ!? えー---!?
「おい。2人だけの世界に入ってるところ申し訳ないがこっちに戻ってこい」
「ちょっ!? ライリーさん! そんな言い方しなくても…」
「「!?」」
そうだったー---! 俺達は今、取り調べの最中だった! こんなことやってる場合じゃないだろ! うわぁ! 俺はどうしたらいいんだー!?
「あ、えっと、その…あー………なんかすみませんでした」
「いえ…気にしないでください。……素敵な告白でした」
やめてー-! 恥ずかしすぎて死ねる! 穴があったら入って誰かに埋めて欲しいくらいだ…。
「それとあなた方の命は今は保証されています。安心してください」
「え? 嘘…。俺ガンドヴァの王子だぞ!? 敵国の王族だぞ!? 今すぐ殺さなくていいの!?」
「あ、あの! 大丈夫です! 順番にお話ししますから一度落ち着きましょう? せっかくですからお茶でも飲みながら」
それからの話はただただ驚くばかりだった。
俺の宮、だけじゃなくガンドヴァの王宮にはリッヒハイムの諜報員が入り込んでいたらしい。マジかよ… 。
だから俺の事なんてとっくにリッヒハイムの中枢に筒抜けだった。国境門で話をした兵士は国境付近を担当している騎士の部隊長だったらしい。
部隊長は以前から俺の情報を聞いていた。そこへ昨日俺たちが現れ「もしかして?」と思い通話の魔道具で王宮へ確認。はっきりとした目的はわからないから調べるために俺たちの話に乗ったフリをして今日ここへ連れてきた。
俺の宮に入り込んでいた諜報員の情報で、俺が使用人たちを大切にしているガンドヴァの王族としてとても珍しい人物だと知っていた。だから実際に会ってみて問題がなければ保護し、その代わりガンドヴァの情報を流すようにするつもりだったらしい。
だから俺たちの命は保証されていると言っていたんだ。
「そうだったのか…。でももし実際に会ってみても俺がリッヒハイムに対して何かをしない保証はないだろう? 口ではどうとでも言える」
「大丈夫です。貴方が何を言っていても私にはわかりますから。それに実際に視てみないとわからなかったことなので」
「??」
ん? どういうことだ? 全く意味がわからん…。ヴィンセントさんはただただ微笑むばかりでそれ以上は教えてくれなかった。
「それで私たちにガンドヴァの情報を流すということですが、それに対してはどう思っていらっしゃいますか?」
「ああ、それなんだが俺は全く問題ない。むしろ積極的に協力したいと思っている。…と言っても俺もそこまで詳しいことを知っているわけじゃないからどこまで力になれるかはわからないけど」
「は? え? そんなあっさりそんなこと言っていいのかよ? 意味わかってるか? お前たちを利用するって言ってるんだぞ!?」
えっと…確かライリーさん、だっけか? そいつだけじゃなくてこの部屋にいるリッヒハイム側の人間皆すごい顔してんな。ドミニクさんなんて顎外れるんじゃないかってくらいパッカーンだ。
「ああ、問題ない。むしろあんな国ぶっ壊してほしいくらいだしな。な、ディルク?」
「ええ。その方が、あの国もこの世界も喜ぶと思いますよ」
だよな。あんな国無くなった方がいいと思ってるのは本当だ。俺が王になれれば何とかするつもりだったが、それは無理だろうしな。むしろリッヒハイムにガンドヴァの情報を流してリッヒハイムが優勢になってくれれば俺としては万々歳だ。
「えっと、あの…どういうことか教えていただけますか?」
ヴィンセントさんにそう言われて俺の胸の内を明かした。
ガンドヴァの考え方に納得がいっていないこと。国民をこれ以上苦しめたくないこと。ガンドヴァがあることで他国に迷惑をかけていることが苦しい事。今までリッヒハイムに行ってきたことが申し訳ない事。それを止めるために動いていたが何もできなかったこと。
どれだけの時間話をしていたのかわからないけど、思っていることを全部話した。
「『ガンドヴァの王族』として本来はあり得ないことを言っている自覚はある。だけど『ガンドヴァの王族』として国民の事を考えればこのままじゃいけないことだと考えている。…俺が何もできなかったせいで今も国民は苦しんでいるし、これから先もっともっと酷い目に遭うだろう」
本来なら自分達の事は自分達で何とかしないといけないんだろうが、俺にはそんな力がなかった。
「だからもし他国がガンドヴァを落とし占領されたとして、国民には不当な扱いだけはしてほしくない。国民に罪はないんだ。…だからその時はガンドヴァの王族、そして俺の命を持って交渉したいと思っている」
「殿下! それはっ…!」
「いいんだディルク。それが俺の役目だと思ってる。それで国民皆が救われるならいいんだよ。…きっと俺がここに生まれた意味はそこにあるんだと思うから」
なんでこんな国に、なんでこんな国の王族に転生したのかはわからないしその運命を呪ってもいた。だけど俺は間違いなくガンドヴァという国の王族だし、王族としての教育を受けてきた。腐ってはいたが。
俺が嫌なのは何もできずに死んでしまう事。だけど同じ死でも、国民が救われるためならば命を差し出せる。
死ぬのは怖い。だけど俺は俺の役目を果たさなければならない。俺の宮の使用人たちが俺のために命を投げ打ってくれたんだ。俺が俺の役目から逃げることは許されない。
「殿下…その時は俺も一緒です。俺だけ生かそうだなんて思わないでくださいね。そうなったとしても自害してでも追いかけますから」
「…はは。凄いなそれは。…うん、ありがとう」
本当はディルクだけは生きていて欲しいけど自害されるんじゃダメだな。その時は一緒にあの世へ行こう。
ディルクのその言葉が嬉しくてディルクに抱き着いた。ディルクも優しく俺を抱きしめてくれる。このぬくもりをずっと覚えていよう。そう思った。
「あー…こほん。また2人だけの世界に入ってるぞー」
「あっ! …すみません」
忘れてた…。俺達だけじゃないんだってば! 俺、何やってんだよ…。
「…ふふふ。やはり聞いていた通りの、いえ、それ以上の方でした。宰相様にそのことをお伝えいたします。また今後色々と状況が変わると思いますのでその都度お話いたしましょう」
* * * * * *
本作をお読みいただきありがとうございます。
※ヴィンセントについての補足です。
前作をお読みの方はご存知かと思うのですが、ヴィンセントの目は金と青のオッドアイです。金の目が『魔眼』で人の魔力が色付きで視えます。それぞれ被ることはなく、また濁っていたり澄んでいたりと様々。それによってその人の善悪やある程度の性格なんかがわかります。ヴィンセントはそれによってヴォルテルが善人だとわかっているのです。
「!? 貴方はこの目の事をご存知なのですか?」
「あ、いや。まぁ…。珍しい現象で、そんな人に会ったことは今までにはないけど知ってはいる」
前世含めてオッドアイの人間なんて見たことない。ネットで写真を見たくらいだな。実際に会うのは初めてだ。
「…嫌悪感を抱いたりはしませんか?」
「は? なんで? そりゃ確かに珍しいし不思議な目だなとは思うけど、それだけだろ??」
ん? なんだ? 何が言いたいんだ? さっきからこの人たちの言いたいことが全く分からないぞ…。
「ドミニクさん。彼らは大丈夫です。私が保証します」
「ヴィンセント様。…わかりました」
おい。もしもし? さっきから俺たちがわからないところで話が進んでいるんだが???
「突然失礼いたします。私は文官のヴィンセント・フィンバーと申します」
「あ、はい。俺はラッセル、こっちはディーダ」
「ラッセルさんとディーダさん。あなた方とお話させていただきたくこちらへ参りました。…先日、ガンドヴァで内乱が起こり王が変わりましたね」
「「!?」」
「今即位されたのはガンドヴァの第一王子殿下であったアドリアン陛下。何でも親兄弟を全て殺害しその地位に就いたとか」
そんなことまでもう既に知られているのか!? 情報が早すぎる!
「…なぜその事を?」
「私たちも、脅威に対して何もしていないわけではありません」
スパイ…か。ガンドヴァで情報を集めているリッヒハイムの諜報員がいるんだな。そりゃそうか。隣の危険因子が何をするのか調べる必要があるもんな。
ただその情報が届くまでが早すぎる。俺達だってかなり無理をしてこの国へやってきている。早馬を出したって俺達とそう変わらない早さのはずだ。
あ……。
「通話の魔道具…」
「……その魔道具の存在をご存知でしたか。ということは貴方はもしかして、今現在行方不明になっているヴォルテル第五王子殿下ですか?」
「「!?」」
…やっぱりバレていたのか。リッヒハイムの諜報員の凄さにただただ脱帽するしかない。
―――俺は、俺たちはここまでだったのか。ごめん、皆。
「………そうです」
「え? ちょっ!?」
「ディルク。正直に話そう。…もうこれ以上は無理だ。全部バレてる。ディルク、ごめんな。本当にごめん」
「殿下…」
今まで必死に俺のために頑張ってくれたのに、こんな結果になってごめんな。不甲斐ない主でごめん。
ここまでしてくれたディルクに申し訳なくて涙が出てくる。悔しくて悲しくてディルクに抱き着いた。
――お前だけは絶対に助けてやるから。
「…お願いがあります。こんなことを言える立場ではないことはわかっています。ですがどうかお願いです。ディルクを…彼の命だけは助けてください。俺はどうなっても構いません」
「殿下!? 何を!? 冗談じゃない! 1人にしないでくれって言ったじゃないですか!? 俺だって同じです! 俺を、俺を置いて1人にしないでください!」
「ディルク! もういい。ここまで本当にありがとう。後は俺が何とかするから。何もできないかもしれないけどお前の命だけは助けてもらうようにするから…」
「嫌です! 死ぬなら…貴方と一緒に死にたい! 貴方がいない世界なんて必要ない! だから最後まで側にいさせてください! 貴方を愛しているんです!」
「…は? な、なん、て?」
今、なんて言った? え? 聞き間違いか? え? え?
「…愛しています。貴方の事をずっと愛していました。俺の立場ではこんなことを言えないことはわかっています。言うつもりもありませんでした。ですが、もうどうでもいい! 愛しているんです! 貴方を! 貴方だけを! だから最後まで共にいます。いさせてください。…お願いです、殿下」
「ディルク…」
半泣きになったディルクにぎゅうぎゅうに抱きしめられた。
やっぱり聞き間違いじゃなかったー!! え? マジかよ。ここでこんな爆弾落としてくる!? え? 俺の事を愛してる? え? いつから? いつからだよ!? えー---!?
「おい。2人だけの世界に入ってるところ申し訳ないがこっちに戻ってこい」
「ちょっ!? ライリーさん! そんな言い方しなくても…」
「「!?」」
そうだったー---! 俺達は今、取り調べの最中だった! こんなことやってる場合じゃないだろ! うわぁ! 俺はどうしたらいいんだー!?
「あ、えっと、その…あー………なんかすみませんでした」
「いえ…気にしないでください。……素敵な告白でした」
やめてー-! 恥ずかしすぎて死ねる! 穴があったら入って誰かに埋めて欲しいくらいだ…。
「それとあなた方の命は今は保証されています。安心してください」
「え? 嘘…。俺ガンドヴァの王子だぞ!? 敵国の王族だぞ!? 今すぐ殺さなくていいの!?」
「あ、あの! 大丈夫です! 順番にお話ししますから一度落ち着きましょう? せっかくですからお茶でも飲みながら」
それからの話はただただ驚くばかりだった。
俺の宮、だけじゃなくガンドヴァの王宮にはリッヒハイムの諜報員が入り込んでいたらしい。マジかよ… 。
だから俺の事なんてとっくにリッヒハイムの中枢に筒抜けだった。国境門で話をした兵士は国境付近を担当している騎士の部隊長だったらしい。
部隊長は以前から俺の情報を聞いていた。そこへ昨日俺たちが現れ「もしかして?」と思い通話の魔道具で王宮へ確認。はっきりとした目的はわからないから調べるために俺たちの話に乗ったフリをして今日ここへ連れてきた。
俺の宮に入り込んでいた諜報員の情報で、俺が使用人たちを大切にしているガンドヴァの王族としてとても珍しい人物だと知っていた。だから実際に会ってみて問題がなければ保護し、その代わりガンドヴァの情報を流すようにするつもりだったらしい。
だから俺たちの命は保証されていると言っていたんだ。
「そうだったのか…。でももし実際に会ってみても俺がリッヒハイムに対して何かをしない保証はないだろう? 口ではどうとでも言える」
「大丈夫です。貴方が何を言っていても私にはわかりますから。それに実際に視てみないとわからなかったことなので」
「??」
ん? どういうことだ? 全く意味がわからん…。ヴィンセントさんはただただ微笑むばかりでそれ以上は教えてくれなかった。
「それで私たちにガンドヴァの情報を流すということですが、それに対してはどう思っていらっしゃいますか?」
「ああ、それなんだが俺は全く問題ない。むしろ積極的に協力したいと思っている。…と言っても俺もそこまで詳しいことを知っているわけじゃないからどこまで力になれるかはわからないけど」
「は? え? そんなあっさりそんなこと言っていいのかよ? 意味わかってるか? お前たちを利用するって言ってるんだぞ!?」
えっと…確かライリーさん、だっけか? そいつだけじゃなくてこの部屋にいるリッヒハイム側の人間皆すごい顔してんな。ドミニクさんなんて顎外れるんじゃないかってくらいパッカーンだ。
「ああ、問題ない。むしろあんな国ぶっ壊してほしいくらいだしな。な、ディルク?」
「ええ。その方が、あの国もこの世界も喜ぶと思いますよ」
だよな。あんな国無くなった方がいいと思ってるのは本当だ。俺が王になれれば何とかするつもりだったが、それは無理だろうしな。むしろリッヒハイムにガンドヴァの情報を流してリッヒハイムが優勢になってくれれば俺としては万々歳だ。
「えっと、あの…どういうことか教えていただけますか?」
ヴィンセントさんにそう言われて俺の胸の内を明かした。
ガンドヴァの考え方に納得がいっていないこと。国民をこれ以上苦しめたくないこと。ガンドヴァがあることで他国に迷惑をかけていることが苦しい事。今までリッヒハイムに行ってきたことが申し訳ない事。それを止めるために動いていたが何もできなかったこと。
どれだけの時間話をしていたのかわからないけど、思っていることを全部話した。
「『ガンドヴァの王族』として本来はあり得ないことを言っている自覚はある。だけど『ガンドヴァの王族』として国民の事を考えればこのままじゃいけないことだと考えている。…俺が何もできなかったせいで今も国民は苦しんでいるし、これから先もっともっと酷い目に遭うだろう」
本来なら自分達の事は自分達で何とかしないといけないんだろうが、俺にはそんな力がなかった。
「だからもし他国がガンドヴァを落とし占領されたとして、国民には不当な扱いだけはしてほしくない。国民に罪はないんだ。…だからその時はガンドヴァの王族、そして俺の命を持って交渉したいと思っている」
「殿下! それはっ…!」
「いいんだディルク。それが俺の役目だと思ってる。それで国民皆が救われるならいいんだよ。…きっと俺がここに生まれた意味はそこにあるんだと思うから」
なんでこんな国に、なんでこんな国の王族に転生したのかはわからないしその運命を呪ってもいた。だけど俺は間違いなくガンドヴァという国の王族だし、王族としての教育を受けてきた。腐ってはいたが。
俺が嫌なのは何もできずに死んでしまう事。だけど同じ死でも、国民が救われるためならば命を差し出せる。
死ぬのは怖い。だけど俺は俺の役目を果たさなければならない。俺の宮の使用人たちが俺のために命を投げ打ってくれたんだ。俺が俺の役目から逃げることは許されない。
「殿下…その時は俺も一緒です。俺だけ生かそうだなんて思わないでくださいね。そうなったとしても自害してでも追いかけますから」
「…はは。凄いなそれは。…うん、ありがとう」
本当はディルクだけは生きていて欲しいけど自害されるんじゃダメだな。その時は一緒にあの世へ行こう。
ディルクのその言葉が嬉しくてディルクに抱き着いた。ディルクも優しく俺を抱きしめてくれる。このぬくもりをずっと覚えていよう。そう思った。
「あー…こほん。また2人だけの世界に入ってるぞー」
「あっ! …すみません」
忘れてた…。俺達だけじゃないんだってば! 俺、何やってんだよ…。
「…ふふふ。やはり聞いていた通りの、いえ、それ以上の方でした。宰相様にそのことをお伝えいたします。また今後色々と状況が変わると思いますのでその都度お話いたしましょう」
* * * * * *
本作をお読みいただきありがとうございます。
※ヴィンセントについての補足です。
前作をお読みの方はご存知かと思うのですが、ヴィンセントの目は金と青のオッドアイです。金の目が『魔眼』で人の魔力が色付きで視えます。それぞれ被ることはなく、また濁っていたり澄んでいたりと様々。それによってその人の善悪やある程度の性格なんかがわかります。ヴィンセントはそれによってヴォルテルが善人だとわかっているのです。
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