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12・会いたい人

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 それから俺たちはこの建物で一泊することになった。そして用意が出来次第王宮へと移ることになった。
 さすがに王宮にいるのは不味いんじゃ? と思ったが、警備などの都合上そっちの方がいいらしい。ただ、住む場所は離宮の客室だと言われて少し安心した。

 それと離宮にいる間はガンドヴァの王族であることは関係者以外機密になることらしく、あまり自由に外へ出かけたり出来ない。ま、軟禁状態だな。でも俺はそれに対して全く不満はない。

 アドリアンの手から逃れる、という目的は果たされるから。それに衣食住も面倒を見てもらえるのだから逆に申し訳ないくらいだ。そう言ったら「王族とは思えない発言です」と言われてしまった。


「あ、そうだ。一つ聞きたいことがあるんだが…」

 せっかくリッヒハイムに来たんだ。どうしても確かめたいことがある。

「なんでしょう?」

「通話の魔道具を作った人物に会いたいんだが…。あ、勘違いしないで欲しいんだけど、俺はその人を攫いたいとか魔道具が欲しいとかそれを解析したいとか作り方を知りたいとかそういうことじゃないんだ!」

 俺が必死で言い訳していたらヴィンセントさんにふふふと笑われてしまった。

「大丈夫です。わかっていますよ。…それでなぜ会いたいのかお伺いしても?」

「…その…。確認したいことがあって。あ…そうだ。紙とペンを借りれるか?」

 転生者かもしれない。なんて口にすることは出来ない。そんなこと言ってもこいつ何言ってんだ? 頭おかしいのか? と思われるに決まっているからな。それで思いついたのが前世の言葉を書いたメモを渡すことだ。

 紙とペンを受け取っていざ書くぞ! と思ったが何語で書けばいいんだ??

 日本語で書く気満々だったけど、もし日本人じゃなかったら? アメリカ人やフランス人、なんてことも考えられる。今になってそのことに気が付いてペンが止まってしまった。

 ……どうしよう。しまった…。俺、日本語以外の言語全然わからんぞ。相手が日本人じゃなかったとして共通してわかる言語っていえば英語か? 英語…英語なんて何書けばいいんだ? くっそ! こんなことなら英語をもっとちゃんと勉強しとくんだった! …いや今になってそんなことを言ったって意味ないから。うーん…。

 ――あ! そうか! 何も難しく考える必要なんてなかった。向こうの言語が分かれば何を書いてあってもいいんだもんな。それをみて「あ、こいつ転生者じゃん」てわかってもらえればいいんだから! 俺って天才じゃん!

 それに思い至った俺は英語と日本語と2つ書くことにした。『Hello』と『こんにちは』だ。

「これをその魔道具を作った人に渡してほしい。そしてその言葉がわかったらでいいから俺と会ってほしいと伝えて欲しい」

「わかりましたが…なんて書いてあるんです? 初めてみる文字? ですけど…」

「う~ん…ごめん、それは秘密。まぁ合言葉、だと思ってくれたらいいよ」

 俺以外の全員が頭に『?』マークを浮かべていた。


 そしてヴィンセントさん達は王宮へと戻っていった。メモを渡すことを約束して。

 もし通話の魔道具を作った人が転生者だったらいろんな話をしたいな。この世界で何をしていたのか、どういう生活をしていたのか。転生者であることを誰かに話したのか。

 転生者であることも、会える可能性も低いだろうけど、もしそれが叶ったなら。そう考えるだけでとてもわくわくする。

 それから俺とディルクは客室へと案内された。部屋は2人で一部屋だと言われたがむしろその方がありがたい。なんてったって、俺は1人では寝られないから。

 そして案内された部屋はかなり広くて驚いた。お風呂も完備されていて久しぶりにゆっくり湯に浸かれそうだ。食事は部屋まで持ってきてくれるらしい。至れり尽くせりだな。有難い。

 部屋の前には監視の兵がいるがそんなことは全く問題ない。むしろいらん仕事を増やしてしまったかのようで申し訳ないくらいだ。

 ようやく人心地つけるようになってソファへ深く腰掛けた。背も預けてだらだらモードだ。こんなに気を抜けたのは逃げてきてから初めてだな。

「殿下、とりあえず良かったですね。今のところは、ですが」

「ああ、一時はどうなるかと思ったけどなんとかなったな。本当に良かったよ。…ただこんなに早く身バレするとは思わなかったけどな。…そんなところで突っ立ってないでお前も座れ。ゆっくりしよう」

 俺の隣をポンポンとたたく。お前も疲れてるだろうし今くらいゆっくりしたって誰も文句は言わないぞ。
 素直に俺の隣に腰を下ろしたディルク…ってなんでそんなにぴったりくっついてるんですかね? ディルクさんや。

「…殿下」

 ん? そっと俺の手を繋いで…ってコレって所謂恋人繋ぎってやつでは!?

「俺はこの命潰える時まで貴方の側にずっといます。貴方が死ぬ時が俺の死ぬときです。…愛しています」

 熱っぽい目で見つめられてそのまま手の甲にちゅっとキスを落とされた。


 忘れてたー--!! そうだった! 俺こいつに熱烈な告白されたんだったー-!! やべぇ…どうしよう。おい! そんな色っぽい顔で俺を見るな! どきどきするだろうがっ! ってかなんで俺はこいつにどきどきしてんだよ!?

「あの時、本当は嬉しかったんです。俺の命を救うために貴方はどうなってもいいと言ってくれた時。だけど貴方がいない人生なんて考えられなくて、1人になるなんて考えただけで怖くなって、勢いであんなことを言ってしまって…」

 いや、本当にあの時のあの言葉は忘れようにも無理だろうな。強烈すぎた…。

『嫌です! 死ぬなら…貴方と一緒に死にたい! 貴方がいない世界なんて必要ない! だから最後まで側にいさせてください! 貴方を愛しているんです!』

 こんな熱烈な愛の言葉なんて、前世含めて初めてだ。……正直、かなり嬉しかった。

「えっと…その、いつから、なんだ? 俺の事を…あー、好きになったのは…」

 ぐうっ…! 自分からこんなこと聞くのがこんなにも恥ずかしいなんてっ!

「いつからだったでしょうか…。気が付いたら好きになっていたので。…何か出来るようになる度に嬉しそうに俺に報告してくれたじゃないですか。あの姿が可愛くて可愛くて。使用人たちにも親切に気を配っている心の優しさや、努力して成し遂げようとする姿、それらを見ていたらいつの間にか、です」

「そ、そっか。そうなんだ」

 うはぁ~恥ずかしい!! 顔が熱い! 顔から火が出そうな程に熱い!

「可愛い…真っ赤になって可愛いです殿下。そんな顔、他の男に見せたくない。それほど貴方は魅力的です」

 うっとりとした顔で、また俺の手にちゅっとキスを一つ落としてきた。いや、お前の方がやばいからな。そんな顔他でしてみろ。あっさりと陥落するぞ。

「…殿下に同じ気持ちを返して欲しいわけではありません。ただたまにこうして触れることと貴方を想うことは許してください」

「…心は誰にも縛られないものだ。だから俺がそれを許す許さないとか言えるわけないだろ。お前の心はお前だけのものだから。ふ、触れるのは…その、まぁ…たまになら、うん。別に、いい」

「殿下……ありがとうございます」

 また俺の手にキスを一つ落としてから名残惜しそうに手を離した。一方的な想いでも構わないとか切なすぎるだろ。
 
 …だけど俺はこいつに同じ気持ちを返せるのだろうか。
 
 正直なところ、よくわからない。愛してると言われて嬉しかったのは事実だ。それは認める。それに俺だってディルクのことは好きだ。大好きだ。だけどそれはディルクと同じ『好き』じゃないんだと思う。多分…。

 だって俺は前世では異性愛者だったんだ。その記憶が戻ってからはどうしても男同士というのが引っかかっている。だけど不思議なのはディルクに対してどきどきすることがあるってことと、この前ディルクといやらしいことをした時に嫌悪感を抱かなかったことだ。これは自分でも驚いている。

 俺は生まれた時から前世の記憶があるわけじゃない。10歳の時に落馬して思い出した。だから10歳までの記憶と常識がちゃんとあって、この世界が男しかいない世界で男同士であんなことやこんなことをするのに抵抗が低いんじゃないか、と最近は思っている。

 だってこの世界ではそれが当たり前のことだから。そこに前世の記憶が邪魔しているような感覚だ。

 だからこの前ディルクにあんなことをされたのに嫌悪感を抱かなかったのでは、と考えている。でもディルク以外の奴にそうされたら気持ち悪すぎてぶん殴る自信はあるけどな。

 だからと言ってディルクとエッチなことをしたいと思うような『好き』かというとよくわからない。気持ち良かったし嫌悪感もなかった、かといって積極的にしたいかというと…。

 やっぱりディルクの言う『好き』と俺の『好き』は違うと思う。…それに俺が前世の記憶を持ってる、なんて言ってこいつはどう思うんだろうか。

 気持ち悪いと思うのだろうか。頭がおかしい奴だと思うのだろうか。
 
 今まで黙っていたけど、ディルクの俺に対する気持ちを聞いた今は言った方がいいのかもしれない。それで嫌いになっても仕方がないしな。何でもっと早く言ってくれなかった、なんて言われる可能性だってあるわけだし。

「…なぁディルク。お前にずっと秘密にしてたことがあるんだけど」


 ――俺は意を決して秘密を明かすことにした。


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