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最終話
しおりを挟むその後は綺麗に変身した私をお披露目するかのように、侯爵家の皆様と夕食をご一緒した。
「ふふふ。地味だの華やかさの欠片もないなどと言ったご令嬢方の反応が見てみたいわ。ベティちゃんのこれからが楽しみね」
ん? なんで侯爵夫人がそれを知っているの??
「あら、旦那様は宰相よ? いろんな伝手があっていろいろなお話が聞けるのよ。学園には第二王子もいらっしゃるし、その婚約者の公爵家のご令嬢だっていらっしゃるわ。
ベティちゃんはうちが認めているの。それなのに外野がぴーちくぱーちくうるさいのよね。悔しかったらベティちゃんを超える何かを示してほしいわ。何もせず人を貶めることだけ立派なご令嬢なんてうちには必要ないもの」
「確かにそうですね。見た目が美しいだけならそこら中にいます。それしかないご令嬢はいりません。邪魔なだけです。
それと母上、勝手にベティなど愛称で呼ばないでください」
おおう…。夫人もコンラート様もなかなかに毒舌…。
「あらいやだ! 母親の私にまで嫉妬するの? 貴方、そんなんじゃ愛想つかされるわよ。気持ち悪い。
そうだ、ベティちゃん! 今度私にも貴女の手料理を食べさせてほしいの。いいかしら?」
「何言ってるんですか!? ダメです、絶対ダメです。私が許しませんよそんなこと」
「散々自慢しておいて何なのよ。私だってベティちゃんのお料理が食べたいの! ね、いいわよね? 今度作って食べさせて」
「却下です」
私が口を挟む暇もなく、コンラート様と夫人は言い争っている。それを侯爵家当主の宰相様はにこにこと嬉しそうに眺めている。ちらりと正面をみれば苦笑したコンラート様のお兄様。
「あの…これは一体どうしたらいいんでしょうか」
「放っといて良いと思うよ。いつもあんな感じだから。
それより今度一緒に出掛けないかい? 私の婚約者を紹介するから――」
「兄上! 一体何を言っているんですか!? ベティーナを連れていくなんて許しませんからね!」
「そうよ! 最初にお出かけするのは母親である私よ!?」
「なんでそうなるんですか!? 私との時間が無くなるじゃないですか!? 却下します!」
「ははは! 君が来て我が家はなんとも賑やかだ。今度、王宮を案内してあげよう。先に職場を見学するのもいいだろう。そうだな、来週の…」
「父上まで!? 却下します! 王宮の案内も私がします!」
……この状況は一体なんなんだろうか。今日ここへ来るときは婚約の解消を受け入れなきゃとかマイナスのことばっかり考えていたのに、いざ蓋を開けてみれば私の事を大歓迎の侯爵家。
「ぶはっ! あっはははは! すみません、なんだか可笑しくてっ。お誘いいただきありがとうございます。嬉しいです」
「ベティちゃん、今度私とお出かけしましょ! ドレスを見繕ってあげるわ! うーんとおしゃれして出かけましょうね!」
「なっ!? ダメです! それだけはダメです!」
「ベティーナ嬢、笑った顔も凄くかわいいね。これだけ可愛いと周りの男が黙っていないね」
「兄上! ベティーナを見ないでください! 減ったらどうしてくれるんですか!?」
こうして楽しい侯爵家の訪問を終えた。この日から私は少し変わった。
私が綺麗に磨かれたあの日、帰り際侯爵夫人、いやお義母様から化粧品など一式をいただいた。それを使って毎日ちゃんと手入れをするようになった。
せっかく綺麗になった肌や髪を元のぼろぼろな状態に戻したくなかったのだ。髪型も自分でするのに限界はあるけど、綺麗に見えるよう気を付けるようになったし、歩く姿勢やちょっとした仕草も気を付けるようになった。
コンラート様に恥をかかせないために。
「ベティーナ様、最近とても綺麗になりましたわね。コンラート様が不機嫌な理由がわかりましたわ」
今日はコンラート様、王子殿下、そして殿下の婚約者のジェシカ様と4人で昼食を食べている。
「いえ、ジェシカ様を見ていると私なんてまだまだです」
メイクは白粉を軽くつけているだけしかしていないのだけど、最近綺麗になったと言われることが増えた。
「髪や肌はもちろんですけど、立ち居振る舞いも綺麗になりましたからそれだけで見違えるような感じですわ。以前の貴女より自信が溢れているようで好感が持てましてよ。それにね、貴女のことを気にしだした男性がちらほらいらっしゃるの。ご存知?」
「は? んな馬鹿な……。あ、失礼しましたっ!」
公爵令嬢のジェシカ様に向かってなんて口を聞いたの私!? 不注意でぽろっと口から言葉が出てしまうこの癖なんとかしないと…。
「くくく。いや、本当に綺麗になったよ。おかげでコンラートが日に日に不機嫌になっていくからフォローよろしく頼むね」
「殿下まで…」
そっと隣を見てみればぶすっとした顔のコンラート様。なにこれ可愛いんだけど。
「……結局こうなるんですね。はぁ…ベティ、お願いですからどこにも行かないでくださいね」
不安げな顔で私の手を握るコンラート様。カタンっと音がした方を向けば、カトラリーを落としポカンと口を開けた殿下とジェシカ様。
あら、さすがの王族や公爵家の方でも驚いたらこうなるのね。
「……お前、そんな顔するようになったんだな」
「……何かしら、見てはいけないものを見てしまったような気持ちですわ」
昔のコンラート様のことは知らないから何とも言えないけど、お義母様や殿下の仰っていたことを思い返せば、自信なさげな行動や表情は今まで絶対あり得なかったのだろう。
「大丈夫ですコンラート様。コンラート様こそどこにも行かないでくださいね?」
少しでも安心してもらえるようにそう言って握られた手を握り返した。
「はい、貴女に誓います」
そうにこやかに返されそのまま手の甲にちゅっとキスを一つ落とされた。するとまたガタっとお二人の方から音がする。
「……ジェシカ、僕は一体何を見てしまったんだろうか」
「……殿下、わたくしも驚きすぎて…。こんな甘い事をされる方ではありませんもの。信じられませんわ」
その感想、ものすごく恥ずかしいので黙っててもらえませんかね?
それからの日々は、大きく変わることなく相も変わらず勉強に勤しんだ。
婚約が成立してから侯爵家から援助を受けて節約生活はしなくてもよくなったけど、家庭菜園はそのまま継続して続けていくことになった。コンラート様がここの野菜を気に入ってしまわれたから。
そしてこの野菜を持って侯爵家へ行き、お義母様のご希望でつたない私の手料理をふるまうことになった。
もうその時のコンラート様のイライラ具合は凄かった。最後まで「ベティの料理は私だけの物なのに…なんであの人たちに食べさせなきゃいけないんだ」なんてぶつぶつ言っていた。
私は家の援助のこともあったから感謝の気持ちを込めて、恩返しになんてならないけどそういう気持ちを込めて食べていただきたかったから困った。
どうしようかな、と困った私は悩んだ末コンラート様に屈んでもらって、その麗しい唇にキスを一つ贈った。
いきなりで驚いたコンラート様は「……仕方ないですね」と困った顔をしながらもご機嫌になってくれた。
……今後、もし喧嘩したらこの手を使おうと密かに思った。
こんな私のキス一つでご機嫌になってくれるのなら安い物だ。ちょっとした羞恥を飲み込んでしまえばいい方向へ変わるのだから。
…はぁ。この人が可愛くて困る。あのコンラート様がこんな顔を見せてくれるのも私だけなんだから。
一番の問題であった、ヨアヒムの学費の件も解決し、本当ならここまで勉強を頑張らなくてもいいのだけど、婚約者として、ライバルとして途中放棄は出来ない。卒業するまでとことん2人で勝負して学院を卒業した。
今は王宮で無事就職が出来、毎日忙しさに追われている。覚えることもやることも多くて大変だけどとても充実した毎日だ。
「ベティ、お待たせしました」
「コンラート様。お疲れさまでした」
コンラート様は第二王子殿下の側近として働いている。同じ王宮で働いているから時間が合えば一緒に帰っている。
「今日は久しぶりに貴女のシチューが食べたいのですがいいですか?」
「はい、もちろんです。腕によりをかけて作りますね」
結婚式は来月に控えている。もうすぐ私は正式にコンラート様の妻となる。その日が待ち遠しくもあっという間だったな、と時間が過ぎる早さに驚かずにはいられない。
今私はとても幸せだ。この幸せがずっと続くよう馬車の窓から見える星に祈った。
~Fin~
* * * * * * * *
最後までお読みいただきありがとうございました!
どうぞ皆様、良いお年をお迎えくださいませ!
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