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1 世界で一番嫌いな男と結婚させられました
「おいジョシュア。陛下がお呼びだ。今すぐ陛下の執務室へと向かってくれ」
「陛下がですか……? 一体何の用なんですかね?」
「そこは俺もわからん。とにかく急遽来てくれと言われてな」
「……そうなんですね。じゃあとりあえず行ってきますね、団長」
何で呼ばれたのかよくわからないが、とりあえず呼ばれてしまったのだから急いで向かう事にする。手に持っていたペンを置き、書きかけの書類をそのままに腰を上げて団長と入れ違いに部屋から出ていった。
ジョシュア・シルヴィックは国の白魔術師団副団長。自慢の赤髪はすっきりと短く男らしいが、くっきりと大きなこげ茶の瞳が少し可愛らしい印象を与えている。だが本人はそれが嫌で、普段は少々乱暴な口調だ。白い軍服を着ていることもあって普段は舐められるようなことはない。
歳は二十一歳と若いが早くも幹部の地位に就いている。その理由は、『現白魔術師団の中で最強』だからだ。
団長より実力はあるが、魔術師団に入団したのも学園を卒業した三年前。圧倒的に団員としての経験不足のため、現在は副団長という立場であるが将来は団長になることが約束されている。
シルヴィック家は公爵家であり、このミスティエ王国屈指の魔術師の家だ。
この国は小国でありながら豊かな資源を持ち作物の実りも多く、そして豊富な魔力を持つ人間が多い。そのお陰でこの国の魔術はこの世界で最も強く、それで繁栄してきた国だ。お陰で別名『神に愛された国』と呼ばれている。
そんな豊かなこの国の資源と魔術を我が物にしようと他国からは狙われ続けている。が、その侵略をことごとく魔術で防いで生き延びてきた。
その立役者となっているのが、シルヴィック家とイスエンド家である。『守護のシルヴィック』と『攻略のイスエンド』。この呼び名は他国にも広まっているミスティエ王国の双璧だ。
補助や回復、結界などの白魔術を得意とする家系シルヴィック。攻撃魔法全般の黒魔術を得意とする家系イスエンド。
この二家の力が圧倒的で、この国の要となっていた。
イスエンド家もシルヴィック家と同じく公爵家。魔術に長けた家系であり、貴族としてもこの国を牽引している。
ジョシュアは急ぎ足で陛下の執務室へと向かう。長い廊下を抜けもう少しで目的地、というところでジョシュアは「げっ……」と顔を顰めた。
前方にはジョシュアの世界で一番嫌いな相手、ヴァージル・イスエンドの姿がある。黒い長髪は一つに括られており、水色の瞳は切れ長で知的さを醸し出している一方、冷たい印象を与えている。だが着ている黒い軍服と相まって男女問わず人気が高い。
シルヴィック家とイスエンド家は犬猿の仲で、そのお陰でジョシュアもヴァージルも大変に仲が悪い。そんな嫌いな男が視界に入ったことでジョシュアは気分が悪くなる。ジョシュアの姿を目に留めたヴァージルも同じだ。
「……はぁ。誰かと思えばお前か」
「ちっ……任務以外でお前と会うとはな。今日は最悪な日だぜ。じゃ俺は行くところがあるから」
目を合わせることなく目的地へと向かって行く。だがそのジョシュアの後をヴァージルは付いて来ていた。
「……おい。なんで付いて来るんだよ」
「勘違いするな。僕もこっちの方に用事があるんだ。お前に付いて行ってるわけじゃない」
こっちの方。それはジョシュアが向かっている方向だ。そしてこの先には陛下の執務室しかない。
まさかこいつも呼ばれた……? 最悪だ。そんなことを思いながら二人一緒に目的地へと向かう。
執務室に着くと二人の足は同時に止まる。どうやら二人の目的地は同じで間違いなさそうだ。
ジョシュアは眉間に皺を寄せながら扉をノックする。
「白魔術師団副団長、ジョシュア・シルヴィックです。陛下がお呼びとの事で参りました」
「黒魔術師団副団長、ヴァージル・イスエンドです。同じくお呼びとのことで参りました」
「入りなさい」
「失礼します」
ジョシュアが扉を開け一歩中へ入る。すると部屋の中には主である国王と、何故か公爵家当主であるジョシュアとヴァージルの父親がそこにいた。
ジョシュアの父、マディソンは前白魔術師団団長。ヴァージルの父、シミオンは前黒魔術師団団長。二人共、現在はその職を辞しているが国防大臣としてその名を置いている。
「二人とも急に呼び出して悪かったね」
ジョシュアとヴァージルの姿を目に留めた国王、ジークムント・ルドレーン・ミスティエはご機嫌と言わんばかりの顔でにこにこと笑っていた。自分の近くに来るようにと二人を手招きする。
「さて、全員揃ったところで早速本題に入ろうかな。ミスティエ王国国王ジークムントが、ジョシュア・シルヴィックとヴァージル・イスエンドの婚姻を命ずる」
「「は……?」」
とんでもない発言をした張本人である国王以外、この場にいる四人が全員、鳩が豆鉄砲を食らったような間抜け面をさらけ出していた。
「は……? はぁぁぁぁ!? な、なんでこんな奴と結婚しなきゃいけないんだ!」
「なっ……! 僕だって嫌に決まってるだろう! お前みたいないけ好かない奴と結婚なんて死んだ方がマシだ!」
「はぁ!? その言葉そっくりそのまま返してやらぁ!」
「僕の真似しか出来ない無能かよ!」
「無能だぁ!? もっぺん言ってみろ!」
「ああ、何度だって言ってやる! ちびでのろまな無能のジョシュア!」
「なんだとコラァ!? ぶっ殺すぞ!?」
国王陛下の御前でありながら、二人は堰を切ったように激しい口論を始めた。今にもお互い飛び掛かりそうな勢いである。というか実際、ジョシュアはヴァージルの胸元を掴み上げギリギリと睨んでいた。ヴァージルはそれを見てふん、と鼻で笑っていたが。
「はいはい、喧嘩は止めてね」
それを見ていた陛下は、相変らずのにこにこ顔で手をパンパンと叩き二人の仲裁に入った。
「とにかく君たち二人の婚姻は王命だから。これからお互い伴侶として仲良くするんだよ」
「お、お待ちください陛下!」
「いきなりうちの嫡男を捕まえて、男と婚姻なんて納得できません! それも王命だなんてどういう事ですか!?」
そこで二人の父親が国王へと迫る。それはそうだろう。この国は同性同士の婚姻は認められているが、二家の仲が例え良好だったとしても嫡男同士の婚姻なんて聞いたことがない。男同士では後継を作ることは不可能なのだ。それを分かっていてこの国王はとんでもない王命を出したのである。
「後継はなんとかなるでしょ。ジョシュアもヴァージルも、他にちゃんと兄弟がいるんだから」
ジョシュアは下に弟が一人と妹が二人、ヴァージルには弟が二人と妹が二人いる。なので後継について問題がないと言えば問題ない。だがこの二人、というよりこの二家は犬猿の仲なのだ。いくら王命と言えどもすんなりと「はいわかりました」とはならない。
「ですが! 嫡男同士の婚姻を認めたとしても、どうして相手がイスエンド家なんですか!」
「それはこちらの台詞だ! なぜうちのヴァージルがシルヴィック家の倅と婚姻などせねばならんのですか!」
息子たち同様、父親同士も「こいつの家なんかとっ……!」と睨み合いながら国王へと物申している。
「あーもう煩いなぁ。これは王命なの。反論は一切聞きませーん。はい、これ書類ね。ジョシュアとヴァージルはこれに署名して。はいはいはい、さっさと書く!」
ぐぬぬぬぬ、とお互い不満顔ながらも王命と言われてしまっては誰にもどうにもできない。こんなくだらないことに王命を使うなんて、と国王以外の四人は思っていたがこうなってしまってはどうにもならない。
嫌々ながらもジョシュアとヴァージルはその書類に名前を書いた。
「はい、これで二人の婚姻は認められました! おめでとう! じゃ今から新居へと向かってもらうから。じゃ、いってらっしゃーい♪」
国王が指をパチンと鳴らすと使用人が数名入って来た。そしてそのままジョシュアとヴァージルの腕を掴むと、有無を言わさずずるずると引きずる様にして部屋を出ていく。王宮の外に出ると車が止められており、ジョシュアとヴァージルはその中へ問答無用で押し込まれた。
「行先はお二方の新居です。ではお気をつけて」
パタンと扉が閉まると車はばびゅんと一気に走り出した。魔術が込められた車で早さは馬車と比べ物にならない。事故が起きない様安全装置もばっちり付いている。
この国が他国から狙われても凌げている理由の一つにこの車の利用がある。目的地まであっという間に到着することが出来、この国で使われている車のほとんどがこういった魔術車だった。
この国以外は未だに馬で引く馬車だ。この国は馬を使わず魔術で走らせる。そういった最先端の魔術技術が国のあちこちに巡らされている。だからこそ、その魔術技術の欲しい他国はこの国を狙うのだ。
あっという間に新居とやらに到着したようで車は止まった。運転手が降り扉を開ける。
「新居に到着いたしました。こちらは陛下からの親書でございます。ではわたくしはこれで失礼いたします」
運転手は陛下からの手紙をジョシュアに押し付けるようにして手渡すと、さっと車に乗り込みあっという間に走り去っていった。
ジョシュアはとりあえず手紙を広げ中を確認することにした。
『ジョシュア君、ヴァージル君、結婚おめでとう! せっかく伴侶になったから僕から新居をプレゼントさせてもらうね。家はこじんまりとしていて実家と比べれば不便かもしれないけど、すぐにお互いの姿が見えて存分にいちゃつける親切設計にしたんだよ♪ ベッドも一台だし二人で熱い夜を過ごしてね! 使用人は一応僕から一人付けておくね。家の管理と掃除や洗濯を任せるといいよ。料理はぜひ二人で作って食べさせあってね。今日から一週間はお仕事お休みだから、二人で甘い甘~い蜜月を過ごすといいよ! じゃあ二人共仲良くお幸せに♡ イケオジ国王のジークムントより♡』
「ふ……ふっざけんなぁぁぁぁぁ!! なんなんだよ一体!! なんで俺がこいつと仲良く過ごさなきゃならねーんだ!!」
相手が国王じゃなければどでかい魔術を一発ぶち込んでやりたいくらいだ! と二人の心境はほぼ同じだった。
「はぁ……とりあえず中へ入るか。僕だってお前なんかと一緒だなんて吐き気がするけど、ここにいても仕方がないからな」
大きなため息を吐きながらヴァージルは目の前にある新居へと足を踏み入れた。その後に続いてジョシュアも中へと入る。
新居は貴族の屋敷と考えればかなり小さく、平民の家と比べれば大きい家だ。中を確認すると広めのキッチンにリビング、浴室にトイレ、簡素な部屋が二つとそして広めの寝室が一つ。手紙の内容通りベッドは一台しか置いていなかった。仲良く二人で寝させるためかソファーもなく、寝る時はどうしても一台のベッドを仲良く二人で使わなければならないらしい。
「最悪だろ……」
ジョシュアの呟きは部屋の中に消えていった。
「陛下がですか……? 一体何の用なんですかね?」
「そこは俺もわからん。とにかく急遽来てくれと言われてな」
「……そうなんですね。じゃあとりあえず行ってきますね、団長」
何で呼ばれたのかよくわからないが、とりあえず呼ばれてしまったのだから急いで向かう事にする。手に持っていたペンを置き、書きかけの書類をそのままに腰を上げて団長と入れ違いに部屋から出ていった。
ジョシュア・シルヴィックは国の白魔術師団副団長。自慢の赤髪はすっきりと短く男らしいが、くっきりと大きなこげ茶の瞳が少し可愛らしい印象を与えている。だが本人はそれが嫌で、普段は少々乱暴な口調だ。白い軍服を着ていることもあって普段は舐められるようなことはない。
歳は二十一歳と若いが早くも幹部の地位に就いている。その理由は、『現白魔術師団の中で最強』だからだ。
団長より実力はあるが、魔術師団に入団したのも学園を卒業した三年前。圧倒的に団員としての経験不足のため、現在は副団長という立場であるが将来は団長になることが約束されている。
シルヴィック家は公爵家であり、このミスティエ王国屈指の魔術師の家だ。
この国は小国でありながら豊かな資源を持ち作物の実りも多く、そして豊富な魔力を持つ人間が多い。そのお陰でこの国の魔術はこの世界で最も強く、それで繁栄してきた国だ。お陰で別名『神に愛された国』と呼ばれている。
そんな豊かなこの国の資源と魔術を我が物にしようと他国からは狙われ続けている。が、その侵略をことごとく魔術で防いで生き延びてきた。
その立役者となっているのが、シルヴィック家とイスエンド家である。『守護のシルヴィック』と『攻略のイスエンド』。この呼び名は他国にも広まっているミスティエ王国の双璧だ。
補助や回復、結界などの白魔術を得意とする家系シルヴィック。攻撃魔法全般の黒魔術を得意とする家系イスエンド。
この二家の力が圧倒的で、この国の要となっていた。
イスエンド家もシルヴィック家と同じく公爵家。魔術に長けた家系であり、貴族としてもこの国を牽引している。
ジョシュアは急ぎ足で陛下の執務室へと向かう。長い廊下を抜けもう少しで目的地、というところでジョシュアは「げっ……」と顔を顰めた。
前方にはジョシュアの世界で一番嫌いな相手、ヴァージル・イスエンドの姿がある。黒い長髪は一つに括られており、水色の瞳は切れ長で知的さを醸し出している一方、冷たい印象を与えている。だが着ている黒い軍服と相まって男女問わず人気が高い。
シルヴィック家とイスエンド家は犬猿の仲で、そのお陰でジョシュアもヴァージルも大変に仲が悪い。そんな嫌いな男が視界に入ったことでジョシュアは気分が悪くなる。ジョシュアの姿を目に留めたヴァージルも同じだ。
「……はぁ。誰かと思えばお前か」
「ちっ……任務以外でお前と会うとはな。今日は最悪な日だぜ。じゃ俺は行くところがあるから」
目を合わせることなく目的地へと向かって行く。だがそのジョシュアの後をヴァージルは付いて来ていた。
「……おい。なんで付いて来るんだよ」
「勘違いするな。僕もこっちの方に用事があるんだ。お前に付いて行ってるわけじゃない」
こっちの方。それはジョシュアが向かっている方向だ。そしてこの先には陛下の執務室しかない。
まさかこいつも呼ばれた……? 最悪だ。そんなことを思いながら二人一緒に目的地へと向かう。
執務室に着くと二人の足は同時に止まる。どうやら二人の目的地は同じで間違いなさそうだ。
ジョシュアは眉間に皺を寄せながら扉をノックする。
「白魔術師団副団長、ジョシュア・シルヴィックです。陛下がお呼びとの事で参りました」
「黒魔術師団副団長、ヴァージル・イスエンドです。同じくお呼びとのことで参りました」
「入りなさい」
「失礼します」
ジョシュアが扉を開け一歩中へ入る。すると部屋の中には主である国王と、何故か公爵家当主であるジョシュアとヴァージルの父親がそこにいた。
ジョシュアの父、マディソンは前白魔術師団団長。ヴァージルの父、シミオンは前黒魔術師団団長。二人共、現在はその職を辞しているが国防大臣としてその名を置いている。
「二人とも急に呼び出して悪かったね」
ジョシュアとヴァージルの姿を目に留めた国王、ジークムント・ルドレーン・ミスティエはご機嫌と言わんばかりの顔でにこにこと笑っていた。自分の近くに来るようにと二人を手招きする。
「さて、全員揃ったところで早速本題に入ろうかな。ミスティエ王国国王ジークムントが、ジョシュア・シルヴィックとヴァージル・イスエンドの婚姻を命ずる」
「「は……?」」
とんでもない発言をした張本人である国王以外、この場にいる四人が全員、鳩が豆鉄砲を食らったような間抜け面をさらけ出していた。
「は……? はぁぁぁぁ!? な、なんでこんな奴と結婚しなきゃいけないんだ!」
「なっ……! 僕だって嫌に決まってるだろう! お前みたいないけ好かない奴と結婚なんて死んだ方がマシだ!」
「はぁ!? その言葉そっくりそのまま返してやらぁ!」
「僕の真似しか出来ない無能かよ!」
「無能だぁ!? もっぺん言ってみろ!」
「ああ、何度だって言ってやる! ちびでのろまな無能のジョシュア!」
「なんだとコラァ!? ぶっ殺すぞ!?」
国王陛下の御前でありながら、二人は堰を切ったように激しい口論を始めた。今にもお互い飛び掛かりそうな勢いである。というか実際、ジョシュアはヴァージルの胸元を掴み上げギリギリと睨んでいた。ヴァージルはそれを見てふん、と鼻で笑っていたが。
「はいはい、喧嘩は止めてね」
それを見ていた陛下は、相変らずのにこにこ顔で手をパンパンと叩き二人の仲裁に入った。
「とにかく君たち二人の婚姻は王命だから。これからお互い伴侶として仲良くするんだよ」
「お、お待ちください陛下!」
「いきなりうちの嫡男を捕まえて、男と婚姻なんて納得できません! それも王命だなんてどういう事ですか!?」
そこで二人の父親が国王へと迫る。それはそうだろう。この国は同性同士の婚姻は認められているが、二家の仲が例え良好だったとしても嫡男同士の婚姻なんて聞いたことがない。男同士では後継を作ることは不可能なのだ。それを分かっていてこの国王はとんでもない王命を出したのである。
「後継はなんとかなるでしょ。ジョシュアもヴァージルも、他にちゃんと兄弟がいるんだから」
ジョシュアは下に弟が一人と妹が二人、ヴァージルには弟が二人と妹が二人いる。なので後継について問題がないと言えば問題ない。だがこの二人、というよりこの二家は犬猿の仲なのだ。いくら王命と言えどもすんなりと「はいわかりました」とはならない。
「ですが! 嫡男同士の婚姻を認めたとしても、どうして相手がイスエンド家なんですか!」
「それはこちらの台詞だ! なぜうちのヴァージルがシルヴィック家の倅と婚姻などせねばならんのですか!」
息子たち同様、父親同士も「こいつの家なんかとっ……!」と睨み合いながら国王へと物申している。
「あーもう煩いなぁ。これは王命なの。反論は一切聞きませーん。はい、これ書類ね。ジョシュアとヴァージルはこれに署名して。はいはいはい、さっさと書く!」
ぐぬぬぬぬ、とお互い不満顔ながらも王命と言われてしまっては誰にもどうにもできない。こんなくだらないことに王命を使うなんて、と国王以外の四人は思っていたがこうなってしまってはどうにもならない。
嫌々ながらもジョシュアとヴァージルはその書類に名前を書いた。
「はい、これで二人の婚姻は認められました! おめでとう! じゃ今から新居へと向かってもらうから。じゃ、いってらっしゃーい♪」
国王が指をパチンと鳴らすと使用人が数名入って来た。そしてそのままジョシュアとヴァージルの腕を掴むと、有無を言わさずずるずると引きずる様にして部屋を出ていく。王宮の外に出ると車が止められており、ジョシュアとヴァージルはその中へ問答無用で押し込まれた。
「行先はお二方の新居です。ではお気をつけて」
パタンと扉が閉まると車はばびゅんと一気に走り出した。魔術が込められた車で早さは馬車と比べ物にならない。事故が起きない様安全装置もばっちり付いている。
この国が他国から狙われても凌げている理由の一つにこの車の利用がある。目的地まであっという間に到着することが出来、この国で使われている車のほとんどがこういった魔術車だった。
この国以外は未だに馬で引く馬車だ。この国は馬を使わず魔術で走らせる。そういった最先端の魔術技術が国のあちこちに巡らされている。だからこそ、その魔術技術の欲しい他国はこの国を狙うのだ。
あっという間に新居とやらに到着したようで車は止まった。運転手が降り扉を開ける。
「新居に到着いたしました。こちらは陛下からの親書でございます。ではわたくしはこれで失礼いたします」
運転手は陛下からの手紙をジョシュアに押し付けるようにして手渡すと、さっと車に乗り込みあっという間に走り去っていった。
ジョシュアはとりあえず手紙を広げ中を確認することにした。
『ジョシュア君、ヴァージル君、結婚おめでとう! せっかく伴侶になったから僕から新居をプレゼントさせてもらうね。家はこじんまりとしていて実家と比べれば不便かもしれないけど、すぐにお互いの姿が見えて存分にいちゃつける親切設計にしたんだよ♪ ベッドも一台だし二人で熱い夜を過ごしてね! 使用人は一応僕から一人付けておくね。家の管理と掃除や洗濯を任せるといいよ。料理はぜひ二人で作って食べさせあってね。今日から一週間はお仕事お休みだから、二人で甘い甘~い蜜月を過ごすといいよ! じゃあ二人共仲良くお幸せに♡ イケオジ国王のジークムントより♡』
「ふ……ふっざけんなぁぁぁぁぁ!! なんなんだよ一体!! なんで俺がこいつと仲良く過ごさなきゃならねーんだ!!」
相手が国王じゃなければどでかい魔術を一発ぶち込んでやりたいくらいだ! と二人の心境はほぼ同じだった。
「はぁ……とりあえず中へ入るか。僕だってお前なんかと一緒だなんて吐き気がするけど、ここにいても仕方がないからな」
大きなため息を吐きながらヴァージルは目の前にある新居へと足を踏み入れた。その後に続いてジョシュアも中へと入る。
新居は貴族の屋敷と考えればかなり小さく、平民の家と比べれば大きい家だ。中を確認すると広めのキッチンにリビング、浴室にトイレ、簡素な部屋が二つとそして広めの寝室が一つ。手紙の内容通りベッドは一台しか置いていなかった。仲良く二人で寝させるためかソファーもなく、寝る時はどうしても一台のベッドを仲良く二人で使わなければならないらしい。
「最悪だろ……」
ジョシュアの呟きは部屋の中に消えていった。
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