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2 無理やり結婚させた理由
ジョシュアとヴァージルが国王の執務室から出ていった頃。残されたシルヴィック家とイスエンド家の当主は未だ納得がいかないと国王に詰め寄っていた。
「なんで急に何の相談もなくあんな王命を出したんですか?」
「だって、事前に教えたらあの手この手で妨害してくるでしょ?」
「当たり前です!!」
だからだよ、と一つため息を吐いた国王は二家の当主に座るよう促した。そしてこの王命を出した経緯を説明する。
「あのね。君たち二家の仲が悪いせいでこの国は大変なことになりそうなんだよね」
「……どういう事でしょうか」
「最近、魔獣討伐でミスが多いらしいじゃない」
この世界には魔獣がいる。魔力を持つ獣で、害のないものから危険なものまで多種多様だ。人々に被害が出る前に討伐しているのがこの国の魔術師団だ。
危険な魔獣討伐の際、攻撃主体の黒魔術師団が狙われない様、結界で防御したり補助をかける白魔術師団と合同討伐となる。だが魔術師として最も強いシルヴィック家とイスエンド家が険悪なせいで、魔術師団全体もお互いがお互いを嫌う風潮になってしまった。
そのせいで本来ならば協力しなければならない場面であっても、お互いの感情が先に立ってしまい連携が上手く取れずミスが目立つようになってしまっている。
「それが隣国を中心に知られているんだけどさ。この国がずっと他国からの侵略から守れていたのは、君たち二家の力があったからこそなんだよね。なのに今はそこに歪が出来てしまっている。最強と謳われている二家が崩れた今、他国からすれば絶好の機会ってわけ。隣国が同盟を組み、まさにこの国を落とそうと虎視眈々と狙っているんだよね。そして近々大きな戦争が起ころうとしている」
「それはこちらでも掴んでいることです。ですが他国がいくら徒党を組んだところでこちらが負けるはずがありません!」
普段は険悪な二人も、シミオンの『この国が負けるはずがない』という言葉には意見の相違はないようで、マディソンもうんうんと頷いている。
「本来はそうなんだけどねぇ。でもね。実際魔獣討伐で隠すことが出来ないほどにミスが目立ってるんだよ。この前の討伐で怪我人が何人出た? キマイラ程度に怪我人が出るなんて相当だよ」
キマイラは魔獣の中でも危険度が非常に高く、討伐するのは困難な魔獣だ。他国の場合かなり慎重に討伐する必要がある。死人も出る様な危険な討伐だ。
だがこの国では魔術がかなり発展しており個々の力量も高い。白魔術師団と黒魔術師団がしっかりと協力出来ていれば怪我人を出さずに討伐することなど朝飯前。どんな危険な魔獣であっても簡単にあっさりと討伐完了してしまう。それがこの国の常識であり、この世界の常識だった。
そしてこの国にはその危険な魔獣が多く出る。理由はこの国周辺にあった。
どうやらこの辺りは魔素が濃いらしく、その影響で色々な恩恵を受けているのだがそれと同時に危険な魔獣が生まれるのだ。
そんな危険な魔獣が多く出現する国だが、討伐にあまり苦労することはない。だがここ最近白魔術師団と黒魔術師団の不仲が続き、それもかなり深刻な状況となってしまった。そのせいで連携が上手く取れなくなり怪我人が出ることも多くなっている。そしてその原因をお互いのせいにし合い、より不仲になってしまうという悪循環。
そしてそれをこの国を狙う他の国々が知ることになり、この国を落とすなら今しかないと周りは連携を強めてしまった。
「君たち二家が不仲になった原因がさ。君たちの爺さんの代からだって言うじゃん。それも好きな女を取った取られたの話でさ。僕にしてみたらまだそんなことを引きずってるのかとバカバカしいんだよね」
元々この二家はかなり友好的な関係で、信頼も厚くお互いがお互いを思い合い助け合ってきた。
だが現当主であるマディソンとシミオンの先々代の当主、ウォリス・シルヴィックとザドック・イスエンドが一人の女性を巡って争ったことがあった。
当時学生時代の二人は、当時の王女であるセレス・ルドレーン・ミスティエに恋をした。王女もどっちつかずの態度であったが、最終的にはウォリス・シルヴィックと結ばれることになった。それにより、シルヴィック家とイスエンド家が仲違いを起こしてしまう。
『あんな家の者と今後懇意にすることは許さん!』
それが先代、そして今代と伝わり今の不仲へと繋がってしまった。
「まぁ王家も関わる話だからさ。曾祖母さんももっと上手くやれよという気持ちもなくはないわけ。だから今回僕が手を出してこういう形を取ったわけなんだけどさ」
嫡男同士ではあるが嫡男同士だからこそ婚姻関係となり、そこから二人の関係性が良い方向へと変わってくれれば魔術師団全体も変わる。そうなれば今抱えている問題に対しても頭を悩ませることなく、大群で襲われたとしても悠々と打ち返せる。
「ですがいきなりこんな急にこんなことをされても困ります!」
「あのねぇ、シミオン。僕はずっとずっとずーっと前から君たちに仲直りしなよって言い続けて来たよね? それで結果はどう? 君たちの子供たちですらお互いいがみ合ってるじゃないか。もうこれ以上時間を取ることは出来ないんだよ。国家の危機なの。僕だってこんな強引にやりたくなんてなかったよ。だけどもう本当に時間がないんだ。今の魔術師団を見ていると他国から攻め入られた時に守れる保証がない。国全体を守るためには君たち二家が頑張ってもらうしかないんだよ」
この国が他国からの侵略から守れていたのは、この二家の存在があったからに他ならない。血筋のお陰なのか圧倒的な魔力量と魔術とカリスマ性があったからこそ、代々魔術師団は最強でいられたのだ。だがその大元である二家が仲違いを起こせばそれは団全体に伝播してしまう。その結果、今の状態になっているのだ。
この二家以外で二家に代わるほどの力量を持つ者がいれば良かったのだが、それは叶わぬこと。なら今出来る最善の方法を取るしかなかった。それでいきなり嫡男同士の婚姻を王命で出したという訳だ。
「だから当主である君たちも、ちゃんとお互いの事をもっと理解して思いやりを持って接してね。こうなったのは自分たちの責任でもあるんだから」
国王にそう言われ、マディソンとシミオンは困った顔でお互いを見つめた。そして同時にため息を吐く。その様子を見ていた国王は『この二人って行動がよく同調するんだよね。これで仲が悪いっていうんだから信じられないよ』と呆れ顔になっていた。
◇◇
「本日より、こちらでお世話になりますリリアンヌと申します。よろしくお願いいたします」
ジョシュアとシルヴィックが新居の中をある程度見て回った後すぐ、一人のメイドが挨拶に現れた。リリアンヌは王妃の侍女であるが今回の事でこちらに配属となった。
長年王妃の侍女を務めており御年五十一歳。間違いが起こらないよう年配の、そして王妃の信頼も厚く本人の実績もあり、かつどこの家の肩をも持たない中立の立場だった。
「わたくしは基本的にはこちらにはおりません。お二方がお勤めに出られ家を空けられた時、掃除や洗濯などをいたします。食材の購入もいたしますので紙に書いてお知らせくださればご準備いたします。本日は適当にはなりますが、食材庫にある程度の食材をご用意しておりますのでご自由にお使いくださいませ。そして本日から一週間は蜜月とのこと。何かございましたらこちらでお呼びください」
そう言ってリリアンヌが差し出したのは連絡先が書かれた用紙。長文は無理だが、簡単な文章と音声通話も腕に付けた魔道具でやり取りが可能だ。これはこの国の国民であれば誰しもが持っている魔道具だ。
リリアンヌはある程度の説明を終わらせると仕事は終わったとばかりに家を出ていった。残された二人はとりあえず無言で簡素な部屋へとそれぞれ入っていく。テーブルと椅子とクローゼットしかないシンプルな部屋は、それぞれの個室となった。
時間を確認すれば今は夕方頃。ジョシュアは椅子に腰かけ「はぁ~……」と深いため息を零すと、腕に付けた魔道具が震えた。誰かから連絡が来た合図だ。ちらりと見れば送り主は父親だった。
『とりあえず、不服だがヴァージルと仲良くしなさい。不服だがな。必要な物があれば言いなさい。こちらから送る』と書かれている。それを見て「父上からもそう言われるとは……」と、先ほどより深いため息を吐くと頭を抱えた。
とりあえず着の身着のままでここへ連れてこられてしまったため私物は何もない。とりあえず衣服など普段使う物を送ってもらうよう返信した。
クローゼットはどんな感じなのだろうかと開けてみると、簡素な部屋着や下着が数着置いてあった。こんなところは気を利かせてくれたようだ。中をごそごそと確認していると、薄っぺらい布が出て来た。それを引っ張り出して広げてみると――。
「なっ……!? 女物のネグリジェじゃねぇかッ!! ふざけんなッ!!」
それはスケスケピンクの何ともイヤらしいネグリジェだった。どうやら夜も楽しめるようこんなところにまで気を利かせていたようだ。だがジョシュアはそれをぐしゃりと握り締めて床に打ち捨てた。
するとまた腕の魔道具が震えた。確認すると白魔術師団の団長からだった。仕事を放り出して来てしまっていたことを思い出し、団長と仕事について連絡をしなければと通話に切り替えた。
『ジョシュア、驚いたぞ。とりあえず結婚おめでとう』
「……団長、俺とあいつの事はよくわかっているでしょう。からかうのはやめてください。とりあえず一週間は仕事が休みになってしまったので――」
これ以上はからかわれるのは勘弁だと、口早に色々と相談や報告を済ませて通話を切る。するとすぐに魔道具が震え、次々に結婚したことについて同僚たちから連絡が相次いできた。返信するのも億劫になり、また深いため息を吐いて項垂れた。
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