【完結】世界で一番嫌いな男と無理やり結婚させられました

華抹茶

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5 パキンてなってじわってなって、それがほわん

「は……? 違う魔法を一つの魔法に重ねがけするってことか? いや、それが出来たら魔術理論が覆る大発見になるけど、そんな事聞いたことがない……」

 本来、魔法は一つに付き一つのものしか付与することが出来ない。結界魔法に治癒魔法を重ねがけするなんて出来ないのだ。攻撃魔法にしても同じだ。例えば火魔法に雷魔法を重ねがけして放つなんて事が出来ない。魔法はそれ単体でしか扱えないというのが常識だ。

「そうなんだけど、でもなんとなく出来る気がするんだよな」

「…………」

 ジョシュアはそう言うと、また結界を自分の周りに張った。そして治癒魔法をその結界に付与してみる。だがやはり上手くいかない。だけど何かに気が付いたのかジョシュアは手を顎に当ててじっと動かない。

 ほんの数分後、ジョシュアはすっとヴァージルの方へ向き直る。

「なぁ、滅茶苦茶弱くていいから攻撃魔法を結界に当ててくれるか? 出来る限りゆっくりで」

「は……? いや、いいけど……」

 戸惑いながらもヴァージルは言われた通り攻撃魔法を顕現させた。怪我を最小限に抑えるために氷の矢を一本だけ作り出す。そしてそれを得意の魔力操作によってゆっくり動かし、ジョシュアの足元の結界へ当てた。そのまま押し込むようにしてやれば、やがて結界はパキンと割れる。

「…………」

 それを見ていたジョシュアはまた顎に手を当てて考え込んだ。そして結界をもう一度張るとそこに治癒魔法を重ね掛けする。だがそれはやはり上手くいかず治癒魔法は霧散した。

「……ジョシュア?」

「うん、やっぱり出来ると思う」

「は?」

 出来ると思う? 今さっき、失敗したばかりでは?
 ジョシュアが何を言っているか理解出来ないヴァージルはその場でぽかんと立ち竦んでしまった。

「なんか結界がパキンってなった瞬間にじわってなるんだよ。そのじわっが白魔術のほわんってしたのと一緒なんだよな」

「は??」

 パキンってなってじわってなって、それがほわんとなる。何を言っているのか全く分からない。ヴァージルの頭の中は処理しきれない単語でぐるぐると回っていた。

「攻撃魔法も一緒だろ? ギュってしてバンってドーン! だしさ。火魔法も水魔法も属性は違っても同じだろ?」

「…………お前がとんでもなく馬鹿だという事がわかった」

「はぁ!? 俺は馬鹿じゃねぇ! 撤回しろ!」

 もしかしたらジョシュアは本当に凄い奴なのでは。なんて一瞬考えた自分に呆れてしまう。ヴァージルは額に手を当てると深い溜息を吐いた。

「おい! 聞いてんのか!? ふざけんなよ!? ……って、あ」

 本当にいけ好かない奴だとヴァージルにキレていたジョシュアだったが、ぐぅ~っと盛大になる腹の音に動きをピタッと止める。早朝訓練で体を動かしたお陰でかなりの空腹を訴えている。

「ちっ……腹減ったから飯にするぞ」

 ジョシュアは腹が減っては戦は出来ぬとばかりに身を翻し、さっさとキッチンへと向かった。食材庫には色々な物が入っており、適当に選ぶと朝食を作り始める。コカトリスの肉を見つけたジョシュアはさっと塩コショウで味付けをするとフライパンへ。パンもオーブンに入れ卵を焼いた。手際よく朝食を作り終えると綺麗に盛り付けテーブルへと置く。

 それを見ていたヴァージルは、ジョシュアが以外にも器用な事に驚いた。あの謎発言をしていた人物とは思えない。そして自分の分も作ってくれていたことにも驚いていた。

「出来たぞ。食え」

「……ああ」

 言い方はぶっきらぼうではあるが、目の前には食欲を刺激するいい匂いを放つ朝食。ヴァージルはカトラリーを持ちオムレツから口に入れた。ふわふわとした口当たりで優しい味。素直に美味しいと思った。

 ぱくぱくと朝食を食べるヴァージルを見ていたジョシュアも、自分の腹を満たすためにカトラリーを持った。

「……おい。さっきの話だが」

 しばらくお互い無言で食べていたが、言いにくそうにしながらもヴァージルが口を開いた。

「どうして結界に治癒魔法を重ねがけ出来ると思ったんだ?」

 また謎発言が飛び出す可能性もあったが、どうしてもそのことが気になって問いかけた。ヴァージルも優秀な魔術師だ。何か可能性があるのなら知りたいと思うし、それが自分にとっても大きな成長に繋がるかもしれない。そう思うと嫌いな相手でも聞いてみたくなった。

「白魔術と黒魔術って系統で別れてるだろ? 結界や治癒魔法って同じ白魔術の中に組み込まれてるから似てるところがあるんだよ」

 ヴァージルもそれは分かっている。攻撃魔法の黒魔術も、火や雷、水といった属性はバラバラでも似たところがある。起点は同じだが派生する先が違うといった感じだ。だから元を辿れば全ては一つに繋がる。

「だから絶対合わないわけがないんだ。水と油みたいに反発するわけじゃないからな。今日結界が壊される瞬間を見てたら、壊れるその時に白魔術の、あー……なんて言えばいいんだ? 元? それが一瞬じわって広がったんだよ」

 だからジョシュアは『じわってなってほわん』と言ったわけか。ヴァージルは、ジョシュアが何を言いたかったのかをやっと理解した。

「じゃあ結界が壊れる瞬間にその『元』が出てくるのなら、最初からその『元』の部分に治癒魔法を重ねがけ出来ないのか?」

 ヴァージルのその言葉を聞いたジョシュアは目が落ちそうな程に見開いた。

「そうか……後から付けようとしてもダメなら最初から重ねがけすればいいのか! お前すげぇな!」

 今度はその言葉を聞いたヴァージルが目を見開く番だった。
 ちょっと思いついたことを軽く言っただけなのに、それをあっさりと凄いなんて褒められるとは思わなかった。
 昨日から予想外の事が起こりすぎている。嫌いな人間の事をこうも簡単に褒めることが出来るのだろうか。

「……っておい! まだ食事の途中だろう!」

 ジョシュアがいきなり結界を張りだし、早速治癒魔法を重ねがけ出来ないかどうかを試しだした。流石に食事中にするのは行儀が悪い。ヴァージルが注意するとジョシュアはハッとなり「悪い」と素直に謝った。

「なんかお前の助言で居ても立ってもいられなくて。よし! さっさと食べてやるぞ!」

 そう気合を入れたジョシュアは先ほどよりも早く、でも綺麗に食事を平らげていく。食事が終わると食器を下げそのまま洗い、それが終わり次第庭へと向かった。

 どうせ一週間は蜜月とかというわけのわからない期間があるお陰で時間はたくさんある。治癒魔法を重ねがけする研究も捗りそうだ。

 ジョシュアは結界を張る瞬間をじっと見つめながらゆっくりと魔法を発動する。いつもは何も考えずぱぱっと結界を張ってしまうため、こうしてゆっくりと結界を張る瞬間を観察したことなどない。おそらく誰もこんなことをしたことはないだろう。

 ゆっくり観察しながら結界を張っていくと、白魔術の魔力が結界へと切り替わる瞬間を見つけた。ほんの一瞬だが、間違いなくその時に結界魔法へと変化している。

 それを見つけたジョシュアは結界を張りながら、その切り替わる瞬間に治癒魔法を重ねがけしてみようとした。だが結果は失敗。
 一つの魔法を発動させながら、もう一つ別の魔法を発動させること自体が出来なかった。

 だがジョシュアは諦めずゆっくり何度も繰り返し同じことを行っていく。だが何度やっても出来ない。

「あ゛~~~!! 出来ねぇッ!!」

 ジョシュアは髪をぐしゃぐしゃとかき回しながら大声で叫んだ。今まで魔法を発動することに苦労したことがなかったジョシュアは、ある意味初めての挫折を味わっている。

 シルヴィックの血筋のお陰か魔術の才能は高く、今まで割と何でもあっさりと出来た。ここまでやりたいことが出来ないことに苦労したことがほとんどない。
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