【完結】世界で一番嫌いな男と無理やり結婚させられました

華抹茶

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9 狙われるミスティエ王国

 庭へ出ていつも通りの訓練をする。ヴァージルも来て同じように体を動かしていたが、先ほどの事は微塵も感じさせることなく淡々とこなしていく。ジョシュアはその様子を見て一人気にしていたのがバカバカしく感じた。

 朝食を取りリリアンヌが手配してくれた魔術車に乗って王宮へと向かう。魔術師団棟の前で車は停車する。車を降りれば黒と白の魔術師団の人間が大勢集まっていた。きっと不仲のジョシュアとヴァージルを守るために集まったと思われる。

「じゃ仕事終わったらここで待ち合わせな」

 特に問題が無ければ退勤時間は同じだ。どうせ同じ家に帰るのだから一緒に帰ろうとジョシュアが声をかける。それを聞いてヴァージルは満面の笑みを見せ「わかった」と一言。そのヴァージルが見せた笑顔で周りがざわざわと騒がしくなった。それを見ていたヴァージルはもう一押し、とばかりにジョシュアに近づく。

「仕事頑張れよ」

「……は?」

 ジョシュアより少しだけ背の高いヴァージルは、不意打ちとばかりにジョシュアの額にちゅっとキスをした。何をされたかわからないジョシュアはぽかんとする。その顔を見てまたくすりと笑ったヴァージルはさっと身を翻し黒魔術師団棟へと歩いて行った。

 その瞬間「ぎゃぁぁぁぁ!」「うちの副団長に何しやがるッ!」「しょ、消毒をしないと!」など白魔術師団員が騒ぎ出し、その場は一瞬にして混沌とした。

 黒魔術師団の団員たちもヴァージルの行動に理解出来ず固まっている。あんなに嫌っていた白魔術師団副団長にあんな顔して、しかもおでこにキスするなんて、と。

「ばっ……馬鹿野郎ッ! いきなりこんなことするんじゃねぇッ!」

 ジョシュアがハッとすると、真っ赤な顔でヴァージルの背に向けて怒鳴った。それを聞いていたヴァージルはこちらを振り向くことなく手を振るだけ。ジョシュアは「くそ!」と悪態を一つつくと、真っ赤な顔を見られないよう駆け足で白魔術師団の棟へと向かった。

 昨日からずっとヴァージルに振り回されっぱなしだ。それが悔しくて堪らない。急に態度が変わってしまったヴァージルにどうしていいかわからず悶々とする。

 だが仕事が始まればそんな事ばかり考えていても仕方がない。自分の席に着くと溜まっている書類に早速手を伸ばした。だが団長が部屋へと入ってくるなりジョシュアをからかい出す。

「おいジョシュア、朝のことかなりの騒ぎになってるぞ。夫夫仲が良くて何よりじゃないか」

「……おはようございます、団長。いきなりからかうのは止めてもらえますか?」

 せっかく仕事しようと気合を入れたところに不愉快なことを言われ、じとりと団長を睨んでしまう。そのジョシュアの顔を見てますますにやりと笑う団長。

「夜の方はどうだったんだ? 甘い蜜月は過ごせたか?」

 朝からセクハラをしてくる団長にジョシュアは無言で両手を突き出す。そして右手には結界魔法を、左手には治癒魔法を発動させた。

 それを見た団長の目はこれ以上にないくらい見開かれ、ニタニタとした笑いはあっという間に消え去った。

「お、お前っ……それっ……!」

「それ以上からかうのであれば、コレの事は団長には教えられませんがどうします?」

「す、すまん! もう二度と口にしない! しないからどういう事か説明してくれ!!」

 勝った。とジョシュアはほくそ笑んだ。それからしばらく「どーしよっかなー」と焦らしに焦らしたわけだが、団長がとうとう土下座までしてしまったため、ジョシュアはこの一週間何をしていたのか説明することにした。

 
「はぁ~……お前ら二人、とんでもないな……」

 話を聞き終えた団長は、深い溜息を吐くと半ば呆れたような顔でジョシュアを見ていた。団長の地位にあるだけあってもちろん魔術師としての腕は確かだ。ジョシュアというとんでもない逸材を除けば、現白魔術師団で最強を誇る。だからジョシュアたちが成功させた新しい魔術はとんでもないものだということは理解出来る。だがそれをたった一週間で作り上げてしまったのだからもう意味が分からない。

 誰もやろうとしていなかった、いや、出来ると思っていなかったことをさらりとやってのけたのだ。もう凄すぎて呆れてしまう。

「これが団員全員が出来ることになったらとんでもないことになるぞ。攻撃魔法の威力は桁違いになるだろうし、白魔術全般もとんでもないことになる。傷が付いてもすぐに癒せるのなら特攻部隊を量産しまくれるし、敵陣はあっという間に消えてしまうだろう」

 傷が治る結界魔法だけじゃなく、体を動かす際、大きく補助をしてくれる補助魔法にしたって重ねがけが出来るようになる。そうなればさらに人間離れした動きが取れるようになるし、もしかしたら空を飛べるようになるかもしれない。そんなことになったら飛行隊が出来て空から一斉攻撃魔法の乱射だって出来てしまう。その攻撃魔法でさえ威力マシマシの恐ろしい物だ。

 たった一人そんな人間がいるだけで、多くの敵は簡単に殲滅させられてしまうだろう。

「だがある意味よかったのかもしれないな。……ジョシュア、もうすぐ戦争が始まるぞ」

「え……? どういう事ですか!?」

 ジョシュアとヴァージルが蜜月という名の休暇の間、白魔術師団と黒魔術師団の団長は前団長である国防大臣より戦争の可能性を説明された。

 周りの国々が手を結び、一斉にこの国に戦争を仕掛けようとしている。それもあまり時間が残されておらず、近々始まるだろうと。

「恐らくだが後二か月ほどで開戦になりそうだと言っていた。その間にお前たちが開発したこの新しい魔術、扱える人間を増やした方がよさそうだ」

 ジョシュアとヴァージルだったから一週間で出来るようになったが、他の団員ではどれだけ時間がかかるかわからない。でも一人でも多く、それが出来るようになればかなり状況は変わるだろう。

「そうですね。でしたら早急に動きましょう。それと、俺は今までヴァージルという人間を見誤っていました。シルヴィック家とイスエンド家が不仲なことで団員同士も不仲なのは理解しています。そこも何とかしたいと思っています」

「ああ、お前の言う通りだ。じゃあ時間もあまりないから早速動くぞ」

「はい」

 それからジョシュアと団長は団員全員を集めて会議を行った。ジョシュアたちが生み出した新魔術に、黒魔術師団との関係性。その事を聞かされた団員はすぐに内容を飲み込むことは出来なかった。

 新魔術に関してはとんでもない魔術発明だと騒がしくなり落ち着くまでにかなりの時間を要した。
 黒魔術師団との関係の修復も、馬鹿にしてきたあいつらを許せないなど不満が噴出した。

 だがジョシュアは相手をちゃんと見ずに誤解している可能性が高いと、自分がヴァージルと共に協力したから新魔術が完成したのだと、関係の改善はするべきだと強く主張した。

「じゃあとりあえず全員で飲みに行くか」

「は?」

 ジョシュアがどれだけ言ってもなかなか納得してくれない団員に、団長はあっけらかんと飲みに行こうと誘いをかける。そして「じゃ、早速黒魔術師団の団長に相談してくるわ」とそそくさと出掛けてしまった。

 残されたジョシュアは取り合えず新魔術が出来るように早速訓練を行う事にする。全員で訓練場へと向かい、魔力操作をとことんやるように言った。
 そこへヴァージル達黒魔術師団も訓練場へとやって来る。そしてヴァージルの号令で魔力操作をやりだした。

「ヴァージル、お前のところも早速訓練か?」

「ああ。開戦するだろうと聞いて、団長と相談して一人でも多く新魔術を扱える人間を増やそうとなったんだ」

 黒魔術師団も白魔術師団と同じ結論になったらしい。時間はあまり残されていないため、早急に取り掛かったようだ。ジョシュアもヴァージルも、団員にアドバイスをしながら回る。つまらない魔力操作と思いがちだが、それが何より新魔術の習得に不可欠だ。何事も基本が大事だと説明しとことんやらせていく。

「おい、ジョシュアにヴァージル」

 そこへ両魔術師団の団長が揃って訓練場へとやって来た。この二人は他の団員達と違い不仲だったというわけではない。むしろこの問題を何とかしたいと思って動いていたが、ジョシュアもヴァージルも聞く耳を持たなかったのだ。だから強引だったとはいえ、国王の婚姻命令はある意味変わるいいきっかけになればと思っていた。

 そして休み明けで久しぶりに出勤してきた二人を見た時、心から安堵したのは両団長二人の秘密である。

「待たせたな。飲み会だが明日やるぞ。しかも陛下が場所も酒も用意してくれることになったんだ。その打ち合わせで遅くなったんだが……」

「え? 陛下が??」

「開戦まであまり時間も残されていないからな。早いとこ両魔術師団の関係を良くしておきたいってことだ」

 そういうことかとジョシュアもヴァージルも納得した。飲みの場で腹を割って話をして誤解を解ければ最高だ。そうなれば連携力は高まり、同盟軍が襲ってきたとしても難なく対抗できるだろう。元々魔術で発展してきた国だ。優秀な魔術師の多いこの国はそれだけの可能性を秘めているのだから。
 
「さて俺達も新魔術を習得してみせるぞ」

 両団長は子供の様にワクワクとした表情で黙々と魔力操作の訓練を始めていった。
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