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美しい花には毒がある
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しおりを挟む「ルテニター様! どうか俺の手を取ってください!」
「いいえ、私です! 私の手をっ!」
「どけっ! お前じゃルテニター様を支えられん! その手は俺が取るっ!」
ここは華やかなパーティー会場。大きなホールに大小さまざまなシャンデリアが煌めき、色とりどりの豪奢な衣装を身にまとった老若男女が大勢集まり会話やダンスを楽しんでいる。はずだった。
いや、パーティーが開始した時はそうだったのだ。だがしばらくしてその様子は一変した。
1人の青年が入場した途端、人々の視線はそこに集中し、騒がしかった音は一切なくなり静けさだけが残された。
ルテニター・オーチェン伯爵令息。今年成人したばかりの青年だ。
だがただの青年ではない。庶子として辺境の村で育った彼は、父と母が毒キノコを食べて亡くなった2年後に、今から5年前にオーチェン伯爵家へと迎えられた。
彼の母は伯爵家当主の妹で、平民と駆け落ちし貴族社会から逃げ出した。行方が分からなかったものの、ルテニターの髪色が母譲りの濃紺だったため噂が噂を呼びルテニターの居場所が分かったのだ。この髪色はオーチェン伯爵家の血筋にだけ現れる特別な色だった。
そして伯爵家へと迎えられ5年が経ち、先日デビュタントを済ませたことでルテニターは一躍有名人となってしまった。
それは彼の容姿にあった。
伯爵家の証である艶やかな濃紺の髪は背中の中ほどにまで流され、そしてくっきりとした黒い瞳は爛々と輝いている。すらりとした華奢な体躯に色白の肌。
目や鼻や口など他の人と同じものが付いているにも関わらず、その形や配置は完璧で人間離れした美しい青年だった。まるで『傾国の』と謳われるほどの。
デビュタントで初めて人前に姿を現したルテニターは一瞬にして人々の熱い視線を集めた。噂で伯爵家が妹の子供を引き取ったと聞いている。だが今まで一度として姿を現したことはなかったのだ。
人々は『平民との間に出来た子供だからさぞかし人前に出ることが難しいほどの容姿なのだろう』と口々に噂した。それは遠からず間違いではなかった。人を惑わせるほどの美貌を持っていたという意味で。
美女と散々褒めそやされた女性も、ルテニターの前ではその美しさは石ころも同然。既婚独身関係なく、ルテニターと踊る権利を得ようと様々な男たちがルテニターに群がった。
だがルテニターは誰の手を取ることもせず、ただ困ったように微笑んだ。またその微笑みが女神同然のように美しく、誰もかれもが「ほう……」と感嘆のため息を吐いた。
側にいた従者に「当主様がお呼びです」と声を掛けられると、こくんと首を縦に振り人々に軽く頭を下げるとそのまま従者の後を付いて行く。
誰もルテニターの声を聞くことは出来ず、きっと鈴の音を転がしたような美しい声なのだろうと人々の憶測が飛んだ。
結局その日は伯父である伯爵家当主と踊るだけで、それ以外の誰の手を取ることもなく会場を後にした。その日からは誰がルテニターと踊ることが出来るかと人々の関心はそこに集中することになる。
だがデビュタントの日以降、ルテニターがパーティー会場へ現れることはなかった。
だから今日、ルテニターが現れた事でまた男たちが群がりルテニターと踊ろうと躍起になっていた。だがこの日もルテニターは黙って困ったように微笑むだけだった。
「初めましてルテニター様。私はスウェイト公爵家が次男、バーナンドと申します。どうか私と一曲踊ってはいただけませんか?」
「…………」
差し出された手を困ったように見つめるルテニター。公爵家、とは貴族の中でも一番上。ルテニターの頭の中はその手を取るべきか悩んでいた。
(こりゃあどうすっべ? こんあんかの手ぇば取らにゃぁいけんのけ? だけんどおらのしゃべりさバレたらどげんことなるか…)
※訳 これはどうしたら? この男の人の手を取らなきゃいけないのかな? だけど僕のこの話し方がバレたら大変なことになるよね…
そう。見た目は傾国の美男子であり、微笑みは美の女神、いや、それ以上の容姿でありながら話し方が何とも残念だったのだ。
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