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美しい花には毒がある

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 田舎から王都へと連れてこられて貴族としての教養を勉強したルテニター。だけど何をどうしてもこの話し方だけ変えることが出来なかった。
 それで出た結論は、家の外では話さないこと。とりあえずにこりと笑っておけば、後は従者のダレンが何とかしてくれる、とそう決まった。

 ルテニターは話し方を変えられない自分を不甲斐ないと思い、伯父である伯爵の提案を素直に飲んだ。こんな田舎丸出しの話し方がバレてしまったら、引き取ってくれた伯父たちに迷惑がかかる。それだけは嫌だったのだ。


 そんな事を頭でぐるぐると考えているルテニターを他所に、バーナンドは熱っぽい視線を必死にルテニターに送っている。公爵家であるバーナンドが前に出ると、他の者は強くは出られない。その成り行きをただ黙って見ているだけだ。ただ全員、「その男の手を取らないでくれ!」と思っていることは同じだった。

「ルテニター様、当主様がお呼びです」

 困って動かなくなったルテニターにそう声を掛ける者が現れた。彼に付き添う従者だ。その声を聞いたバーナンドは片眉を吊り上げると「無礼だろう?」と言い放つ。

「ご無礼であることは重々承知しております。ですが、ルテニター様は当主様と共に王家の方へご挨拶に参らなければなりません。申し訳ありませんがこれで失礼いたします」

 今回のパーティーの主催は王家。その王家に挨拶をすると言われれば公爵家と言えども何も言えない。
 黙ったバーナンドに従者は頭を下げると、ルテニターにこの場を離れるように促す。ルテニターも軽く頭を下げると従者と共に当主の元へと歩き出した。

「ルテニター。これから陛下と王妃殿下、それから王太子殿下と第二王子殿下に挨拶をする。お前も挨拶をしなさい」

「……はい」

 小さく答えると伯爵家総出で王族の元へと向かった。

「おお、オーチェン伯爵。今日は来てくれて感謝する」

「皆様におかれましてはご健勝のこととお喜び申し上げます。本日は我々をご招待くださいまして光栄でございます」

 伯爵家当主が挨拶を述べ頭を下げると、伯爵家一同揃って頭を下げた。本来であれば当主へ視線が向くものだが、この時だけは違った。王族の視線もただ一人、ルテニターへと向けられている。2人の王子も他の男同様、熱の籠った視線だった。

「その方が噂の三男か」

 伯爵家に引き取られ、オーチェン伯爵の三男となったルテニター。自分の事だと分かるとほんの少しピクリと体を揺らす。

「はい。ルテニターと申します。……挨拶を」

「……オーチェン伯爵が、3男と……なりました、ルテニターと……申します……」

 ゆっくり一言一言、そう挨拶をしてまた頭を下げた。一つ一つ考えながら、そしてゆっくりとであれば何とか普通に話せるのだ。だがそれも相当な労力を使う事になる。必死になりすぎてそれ以外考えることが出来なくなってしまう。

「ルテニター殿、その声もまたなんと美しい……折角だ、私と一曲踊っては貰えぬか?」

 そう声を掛けたのは王太子。隣に立つ第2王子もうっとりとした表情だ。

「…………その」

 それ以上言葉を発することなく困った表情になるルテニター。そろりと伯爵へ視線を向けると伯爵は一つ頷いた。

「申し訳ございませんが、ルテニターは王族の方を目の前に緊張しておりまして。足を踏む恐れもあります為、本日は免じていただければ」

 申し訳なさそうにそう話すと頭を下げる。ルテニターも合わせて頭を下げた。

「ふむ……ルテニター殿であれば足を踏まれるくらいなんてことない、むしろご褒美と言えなくもないが……」

(へ!? こん王子なん言うた? 『ご褒美』とかいっちょらなんだか? いてぇ思うだけなんに、なんでそりゃあなこと嬉しいがや? かわっちょるやっちゃな…)
 ※訳:へ!? この王子何て言った? 『ご褒美』とか言っていなかったか? 痛い思いするだけなのに、なんでそんなことが嬉しいんだろう? 変わった人だな…

「ルテニター殿、僕とも一曲踊って欲しい。兄上の次でいいから、どうかお願い出来ないだろうか?」

(……なして皆おらとそげに踊りたがっちょ? そこりゃあいさどいべべ着たおひとさんやべっぴんさんもたーんとおるっちゅうがに)
 ※訳 どうして皆僕とそんなに踊りたがるんだろう? ココには綺麗な服を着た人や綺麗な人が沢山いるのに

 ルテニターはただただ困ったように微笑むだけ。口を開くことは出来ない。王族の前でこんな話し方がバレてしまっては養父となった伯父がどう思われるか。伯爵家の恥だとして怒られるのではないか。ルテニターはそれが物凄く怖かった。

 断りたいのに断れない雰囲気に困り果てたルテニターは俯いてしまう。
 今日は別にここへ来たいとは思っていなかった。王族からの招待でルテニターを連れてくるよう言われていたから仕方なく来たのだ。
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