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21.フェリクスがいなくなって認めた気持ち
フェリクスが日本に来るようになって約三か月。平日は日本、週末は異世界に滞在するというのは以前と変わらないものの、俺の側にはフェリクスがずっといるようになった。
この前やっと宮廷魔導士の人と会うことができたのだが、「私たちにも直接の魔法講義をぉぉぉぉぉ!!」と泣きつかれてしまいたまに魔法講義を行うことになった。
するとさすがは宮廷魔導士の名は伊達じゃなく、新しい魔法を次々と習得し、研究に没頭。あっという間にこの国の魔法水準は上がり、早くも革命が起きだしていた。
どういうことかというとフェリクスが日本に滞在して知ったいろいろな家電製品。それらもこの世界で魔道具という形で開発が進められている。これには宮廷魔導士の人々が活躍中。
この魔道具がちゃんと形になって世に出るのも時間の問題だろう。
そして経済や法律などに関しても、フェリクスが纏めた資料を国王様やスウェイン、宰相様など各大臣たちに渡した。中には画期的なものもあったそうで、この世界で利用できないかといろいろ試行錯誤を重ねているそうだ。
こちらに関してはすぐに動けるものではないし時間はかかるだろうが、近い将来いろんなことが変わっていく予感。
この世界全体がもっと発展して、いい方向へ向かえたら嬉しい。
「はい、ソウタ。お弁当」
「いつもありがとう、フェリクス」
平日はフェリクスが毎日弁当を用意してくれるようになった。そのおかげでコンビニに寄る必要もないし、飽きたコンビニ弁当を食べなくてもよくなった。
会社で弁当を広げていたら「彼女!? そんな美味そうな弁当作る彼女、いつの間にできたんだ!?」と同僚から驚かれた。
彼女じゃなくて異世界の王子様が作った、なんて言っても信じないだろうから適当に笑って誤魔化している。
今日の弁当も美味い。美味しいだけじゃなくて見た目も可愛い。俺が作ったら全部茶色の弁当になるのに、フェリクスが作ってくれると色鮮やかで見た目だけで美味しそうに感じる。
家に帰れば晩ご飯の準備もされているし、洗濯も掃除も完璧で家の居心地が最高にいい。
だから早く家に帰りたいのに、今日はちょっと忙しくて残業だ。フェリクスには遅くなると連絡してあるから問題ないけど、早く家に帰ってくつろぎたい。
何とか仕事を終わらせ急いで帰宅する。時計を見ればもう夜の八時。フェリクスは俺と一緒にご飯を食べるからきっと腹が減っているだろう。
「ただいまー」
「――それから? 各地の現在の状況は?」
ガチャリと玄関を開けると、いつもはぱたぱたとこっちまで駆け寄ってくるフェリクスがリビングで険しい顔をしていた。俺が帰って来たことを知ると「すぐに召喚魔法を」と通信の魔道具に語りかけて通信を切った。
「何? なんかあったのか?」
「おかえりソウタ。……どうやら王太子である私じゃなければできない仕事が急遽舞い込んでしまったようなんだ。それでどうしてもあちらに帰らなければならなくなって……」
「マジ? そっか、大変だな」
フェリクスは急いで必要なものを持つと、すぐにフェリクスの足元に魔法陣が出現した。
「ごめん、ソウタ。ご飯の用意はできているから食べてね。いつ戻って来られるかわからないけど、すぐに戻るから」
「うん。わかったよ。晩飯ありがとな。じゃ、頑張ってこいよ」
「うん、ありがとう」
フェリクスの足元に広がる魔法陣の光は、その強さをどんどん増している。もうすぐ転移だな、と思っているとフェリクスが「ソウタ」と呼びかけた。
「私はソウタのことを愛しているよ。たとえあなたが私じゃない誰かを好きになっても、私はずっとあなたを愛している。それだけは覚えておいて」
「え……?」
急に何を、と声に出す前に、フェリクスの姿は強い光に呑まれた。思わず目を瞑り、一拍置いたあとそっと目を開けるともうフェリクスの姿はそこになかった。
最後に言われた熱烈な言葉を思い出し、カッと顔が熱くなる。ひとりだけ向こうに帰るからってあんな告白しなくても……すぐに帰ってくるって言ってたのに。
熱くなった顔をパタパタと煽ぎながら、キッチンを見ると料理ができていてあとは皿に盛りつけるだけのようだった。
自分の分だけを盛りつけ、残りは明日の分にする。炊き立てのご飯をよそい、美味しいフェリクスの料理に舌鼓を打った。
「美味い。……美味いんだけどなぁ」
相変らずフェリクスのご飯は文句なしに美味いのだが、なぜか今日は何かが物足りない。なぜだろう。
よくわからないが、考えても意味がないと食事に集中することにした。
「俺の部屋ってこんなに広かったっけ」
フェリクスがいないだけで随分と広く感じてしまう。「ねぇねぇソウタ」と呼びかける声もないから静かだ。なんだか少し寂しいような……
「ま、しばらくひとりの時間ができたと思えばいっか。それにしても王太子じゃないとできない仕事って何があったんだろう」
思いつくのは以前もあった、フェリクスの婚約者候補のこと。この前はとんでもお姫様が来て問題が起こったけど、もしかしたら今回もそういった内容だろうか。
スウェインが王太子代理として仕事をしているというが、婚約者候補とかになると確かにスウェインじゃどうにもできないよな。
フェリクスは王太子で二十三歳。この歳で婚約者もいないって本来はあり得ないんだそうだ。
婚約者がいなかったのは、魔王が現れてそれどころじゃなかったかららしい。でも今はもう魔王はいないし、いつ婚約者ができてもおかしくはないんだよな。
それにあいつはものすごい美形だし、女性人気もかなり高い。あっちの世界でもモテたのは俺も知っている。
フェリクスに婚約者か……
「また変な人が相手じゃなければいいんだけどな」
ちくりと痛む胸を無視して、早々にベッドに横になった。
◇
フェリクスが向こうに帰ってからもうすぐ一か月。フェリクスは未だ一度もこっちに戻ってきていない。
「竹内、早く彼女と仲直りしろよ。あ、もしかして別れた!?」
「……うるせぇ。嬉しそうに言ってんじゃねぇ」
会社では俺がここ最近ずっとコンビニ弁当だったからか、どうやら彼女と別れたと思われたようだ。同僚は『愛妻弁当』がなくなった俺を嬉しそうにからかってやがる。
「でもお前、早く気持ちの切り替えしとけよ。最近ミスが多いぞ」
「……それはごめん。気を付けるよ」
俺の部屋には通信の魔道具が残されていた。いつかあっちから連絡があるかなと思っていたのだが、通信につけられた宝石が光ることは一度もなかった。
どうしたんだろうか、もしかしてあっちでいい縁談相手に巡り合ったのだろうか。そんな風にばかり考えて注意力が散漫になり、仕事で普段はあり得ないミスを多くやってしまっている。
今日もなんとか仕事を終わらせ帰宅。
玄関の扉を開けると真っ暗な俺の家。
この前まで部屋は明るくて、フェリクスが「おかえりソウタ!」と嬉しそうに声をかけてくれたのに。
しーんと静まり返った部屋は居心地が悪い。
とりあえず飯でも食うかと冷蔵庫を開けるも、中には何も食材がなかった。そういえばここ最近まともにスーパー行ってなかったな。
今あるのはインスタントラーメンだけ。仕方ない、と適当に作ることに。
俺はあまり食にこだわりがある方じゃなかった。だからファストフードもインスタントもよく利用していたし、美味しいと思っていた。
なのにここ最近何を食べても美味しいと思えない。フェリクスと最初に行った牛丼屋ですら美味しいと思えなかったんだ。
インスタントラーメンはあっさりと食べ終わり食器を洗う。洗っている最中、無遠慮に背中から抱きつく熱がなくてすーすーした。
風呂に入ろうと着替えを取り出す。タンスを開けるとぐちゃぐちゃになった俺の服。フェリクスがいた時は、綺麗にたたまれた服が並んでいたのにな。
風呂も終わり、テレビを観ているのに全然面白くない。隣にフェリクスがいた時はどのチャンネルにしても面白かったのに。
フェリクスが日本に来た当初は一か月の共同生活が不安だったけど、そんな不安はすぐになくなり毎日が楽しかった。
家族以外の誰かと一緒に生活なんて初めてだったから、息が詰まる時もあるのかなと思った。数か月一緒に生活していたが、苦しいとか嫌だと思ったことは一度もない。
フェリクスが側にいると心地よくて楽しいんだ。気を張る必要もないし、世間話をするだけで笑顔になれる。
だからフェリクスがいなくなった今、寂しくて仕方がない。ずっとフェリクスがいた時のことを考えてしまうのがいい証拠だ。
「あいつ、今ごろ何してるんだろ……」
フェリクスが向こうに帰ってから、俺は召喚されることもなくなった。よほどいい縁談相手に会えて、もう俺に会いたくないのだろうか。
――会いたいな。
ぽつりとそう思った。
フェリクスに会いたい。声を聞きたい。そう熱望してしまう。
どうしてそう思うんだろう。会いたいと強く思うのはなぜなのか。
「好き、だったんだな、俺」
俺はフェリクスを好きになっていたんだ。認めたくなくて誤魔化していただけで、俺はとっくにフェリクスに堕ちていたんだ。
ずっとフェリクスがいなくて、フェリクスのことばっかり考えて、寂しくて会いたくて。こんな風に思うんだったらもう認めるしかないだろ。
家事を全部してくれて助かったからじゃない。フェリクスの見た目も中身もいい男だと魔王討伐の旅の時から思っていた。
最初に召喚された時、俺は「お前たちの世界のことはお前たちでなんとかしろ」と突っぱねた。その時あいつは王太子なのに、俺に平伏してまで協力を請うた。
魔王を倒したあとも、俺に頼るんじゃなくて自分でできるようになりたいと教えを請うた。
それから自分でたくさん研究して、召喚魔法をもっと簡単に使えるように調整して、この世界とあっちの世界を気軽に行き来できるようにした。
それ以外にも魔道具の開発だって、こっちの世界で学んだことをあっちの世界に持ち込んでもっといい国にしようと尽力してる。
そんなやつが、俺を好きだと言って、愛してると言って、優しい微笑みで見つめてくれた。こんなの、好きになる以外ないだろ。
どうしてこっちの世界には魔法がないんだ。魔法が使えたら、あっちの世界に転移してやるのに。
あいつに一言言ってやらないと気が済まない。俺をその気にさせて、連絡の一つもなくほったらかしにしやがって。
そんな時、通信の魔道具に嵌められた宝石が点滅した。向こうからの通信だ。
この前やっと宮廷魔導士の人と会うことができたのだが、「私たちにも直接の魔法講義をぉぉぉぉぉ!!」と泣きつかれてしまいたまに魔法講義を行うことになった。
するとさすがは宮廷魔導士の名は伊達じゃなく、新しい魔法を次々と習得し、研究に没頭。あっという間にこの国の魔法水準は上がり、早くも革命が起きだしていた。
どういうことかというとフェリクスが日本に滞在して知ったいろいろな家電製品。それらもこの世界で魔道具という形で開発が進められている。これには宮廷魔導士の人々が活躍中。
この魔道具がちゃんと形になって世に出るのも時間の問題だろう。
そして経済や法律などに関しても、フェリクスが纏めた資料を国王様やスウェイン、宰相様など各大臣たちに渡した。中には画期的なものもあったそうで、この世界で利用できないかといろいろ試行錯誤を重ねているそうだ。
こちらに関してはすぐに動けるものではないし時間はかかるだろうが、近い将来いろんなことが変わっていく予感。
この世界全体がもっと発展して、いい方向へ向かえたら嬉しい。
「はい、ソウタ。お弁当」
「いつもありがとう、フェリクス」
平日はフェリクスが毎日弁当を用意してくれるようになった。そのおかげでコンビニに寄る必要もないし、飽きたコンビニ弁当を食べなくてもよくなった。
会社で弁当を広げていたら「彼女!? そんな美味そうな弁当作る彼女、いつの間にできたんだ!?」と同僚から驚かれた。
彼女じゃなくて異世界の王子様が作った、なんて言っても信じないだろうから適当に笑って誤魔化している。
今日の弁当も美味い。美味しいだけじゃなくて見た目も可愛い。俺が作ったら全部茶色の弁当になるのに、フェリクスが作ってくれると色鮮やかで見た目だけで美味しそうに感じる。
家に帰れば晩ご飯の準備もされているし、洗濯も掃除も完璧で家の居心地が最高にいい。
だから早く家に帰りたいのに、今日はちょっと忙しくて残業だ。フェリクスには遅くなると連絡してあるから問題ないけど、早く家に帰ってくつろぎたい。
何とか仕事を終わらせ急いで帰宅する。時計を見ればもう夜の八時。フェリクスは俺と一緒にご飯を食べるからきっと腹が減っているだろう。
「ただいまー」
「――それから? 各地の現在の状況は?」
ガチャリと玄関を開けると、いつもはぱたぱたとこっちまで駆け寄ってくるフェリクスがリビングで険しい顔をしていた。俺が帰って来たことを知ると「すぐに召喚魔法を」と通信の魔道具に語りかけて通信を切った。
「何? なんかあったのか?」
「おかえりソウタ。……どうやら王太子である私じゃなければできない仕事が急遽舞い込んでしまったようなんだ。それでどうしてもあちらに帰らなければならなくなって……」
「マジ? そっか、大変だな」
フェリクスは急いで必要なものを持つと、すぐにフェリクスの足元に魔法陣が出現した。
「ごめん、ソウタ。ご飯の用意はできているから食べてね。いつ戻って来られるかわからないけど、すぐに戻るから」
「うん。わかったよ。晩飯ありがとな。じゃ、頑張ってこいよ」
「うん、ありがとう」
フェリクスの足元に広がる魔法陣の光は、その強さをどんどん増している。もうすぐ転移だな、と思っているとフェリクスが「ソウタ」と呼びかけた。
「私はソウタのことを愛しているよ。たとえあなたが私じゃない誰かを好きになっても、私はずっとあなたを愛している。それだけは覚えておいて」
「え……?」
急に何を、と声に出す前に、フェリクスの姿は強い光に呑まれた。思わず目を瞑り、一拍置いたあとそっと目を開けるともうフェリクスの姿はそこになかった。
最後に言われた熱烈な言葉を思い出し、カッと顔が熱くなる。ひとりだけ向こうに帰るからってあんな告白しなくても……すぐに帰ってくるって言ってたのに。
熱くなった顔をパタパタと煽ぎながら、キッチンを見ると料理ができていてあとは皿に盛りつけるだけのようだった。
自分の分だけを盛りつけ、残りは明日の分にする。炊き立てのご飯をよそい、美味しいフェリクスの料理に舌鼓を打った。
「美味い。……美味いんだけどなぁ」
相変らずフェリクスのご飯は文句なしに美味いのだが、なぜか今日は何かが物足りない。なぜだろう。
よくわからないが、考えても意味がないと食事に集中することにした。
「俺の部屋ってこんなに広かったっけ」
フェリクスがいないだけで随分と広く感じてしまう。「ねぇねぇソウタ」と呼びかける声もないから静かだ。なんだか少し寂しいような……
「ま、しばらくひとりの時間ができたと思えばいっか。それにしても王太子じゃないとできない仕事って何があったんだろう」
思いつくのは以前もあった、フェリクスの婚約者候補のこと。この前はとんでもお姫様が来て問題が起こったけど、もしかしたら今回もそういった内容だろうか。
スウェインが王太子代理として仕事をしているというが、婚約者候補とかになると確かにスウェインじゃどうにもできないよな。
フェリクスは王太子で二十三歳。この歳で婚約者もいないって本来はあり得ないんだそうだ。
婚約者がいなかったのは、魔王が現れてそれどころじゃなかったかららしい。でも今はもう魔王はいないし、いつ婚約者ができてもおかしくはないんだよな。
それにあいつはものすごい美形だし、女性人気もかなり高い。あっちの世界でもモテたのは俺も知っている。
フェリクスに婚約者か……
「また変な人が相手じゃなければいいんだけどな」
ちくりと痛む胸を無視して、早々にベッドに横になった。
◇
フェリクスが向こうに帰ってからもうすぐ一か月。フェリクスは未だ一度もこっちに戻ってきていない。
「竹内、早く彼女と仲直りしろよ。あ、もしかして別れた!?」
「……うるせぇ。嬉しそうに言ってんじゃねぇ」
会社では俺がここ最近ずっとコンビニ弁当だったからか、どうやら彼女と別れたと思われたようだ。同僚は『愛妻弁当』がなくなった俺を嬉しそうにからかってやがる。
「でもお前、早く気持ちの切り替えしとけよ。最近ミスが多いぞ」
「……それはごめん。気を付けるよ」
俺の部屋には通信の魔道具が残されていた。いつかあっちから連絡があるかなと思っていたのだが、通信につけられた宝石が光ることは一度もなかった。
どうしたんだろうか、もしかしてあっちでいい縁談相手に巡り合ったのだろうか。そんな風にばかり考えて注意力が散漫になり、仕事で普段はあり得ないミスを多くやってしまっている。
今日もなんとか仕事を終わらせ帰宅。
玄関の扉を開けると真っ暗な俺の家。
この前まで部屋は明るくて、フェリクスが「おかえりソウタ!」と嬉しそうに声をかけてくれたのに。
しーんと静まり返った部屋は居心地が悪い。
とりあえず飯でも食うかと冷蔵庫を開けるも、中には何も食材がなかった。そういえばここ最近まともにスーパー行ってなかったな。
今あるのはインスタントラーメンだけ。仕方ない、と適当に作ることに。
俺はあまり食にこだわりがある方じゃなかった。だからファストフードもインスタントもよく利用していたし、美味しいと思っていた。
なのにここ最近何を食べても美味しいと思えない。フェリクスと最初に行った牛丼屋ですら美味しいと思えなかったんだ。
インスタントラーメンはあっさりと食べ終わり食器を洗う。洗っている最中、無遠慮に背中から抱きつく熱がなくてすーすーした。
風呂に入ろうと着替えを取り出す。タンスを開けるとぐちゃぐちゃになった俺の服。フェリクスがいた時は、綺麗にたたまれた服が並んでいたのにな。
風呂も終わり、テレビを観ているのに全然面白くない。隣にフェリクスがいた時はどのチャンネルにしても面白かったのに。
フェリクスが日本に来た当初は一か月の共同生活が不安だったけど、そんな不安はすぐになくなり毎日が楽しかった。
家族以外の誰かと一緒に生活なんて初めてだったから、息が詰まる時もあるのかなと思った。数か月一緒に生活していたが、苦しいとか嫌だと思ったことは一度もない。
フェリクスが側にいると心地よくて楽しいんだ。気を張る必要もないし、世間話をするだけで笑顔になれる。
だからフェリクスがいなくなった今、寂しくて仕方がない。ずっとフェリクスがいた時のことを考えてしまうのがいい証拠だ。
「あいつ、今ごろ何してるんだろ……」
フェリクスが向こうに帰ってから、俺は召喚されることもなくなった。よほどいい縁談相手に会えて、もう俺に会いたくないのだろうか。
――会いたいな。
ぽつりとそう思った。
フェリクスに会いたい。声を聞きたい。そう熱望してしまう。
どうしてそう思うんだろう。会いたいと強く思うのはなぜなのか。
「好き、だったんだな、俺」
俺はフェリクスを好きになっていたんだ。認めたくなくて誤魔化していただけで、俺はとっくにフェリクスに堕ちていたんだ。
ずっとフェリクスがいなくて、フェリクスのことばっかり考えて、寂しくて会いたくて。こんな風に思うんだったらもう認めるしかないだろ。
家事を全部してくれて助かったからじゃない。フェリクスの見た目も中身もいい男だと魔王討伐の旅の時から思っていた。
最初に召喚された時、俺は「お前たちの世界のことはお前たちでなんとかしろ」と突っぱねた。その時あいつは王太子なのに、俺に平伏してまで協力を請うた。
魔王を倒したあとも、俺に頼るんじゃなくて自分でできるようになりたいと教えを請うた。
それから自分でたくさん研究して、召喚魔法をもっと簡単に使えるように調整して、この世界とあっちの世界を気軽に行き来できるようにした。
それ以外にも魔道具の開発だって、こっちの世界で学んだことをあっちの世界に持ち込んでもっといい国にしようと尽力してる。
そんなやつが、俺を好きだと言って、愛してると言って、優しい微笑みで見つめてくれた。こんなの、好きになる以外ないだろ。
どうしてこっちの世界には魔法がないんだ。魔法が使えたら、あっちの世界に転移してやるのに。
あいつに一言言ってやらないと気が済まない。俺をその気にさせて、連絡の一つもなくほったらかしにしやがって。
そんな時、通信の魔道具に嵌められた宝石が点滅した。向こうからの通信だ。
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