ライフ・サンクチュアリ ~追放された回復術師の第二の人生~

都一

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第12話:王都への旅路

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出発の日は、すぐにやってきた。

朝もやが町を覆う中、ライフ・サンクチュアリのメンバーたちは馬車に荷物を積み込んでいた。王都までは馬車で三日の道のり。その間、ギルドは一時休業となる。

「ミラ、薬草は持ったか?」

「はい! それと、包帯と応急キットも!」

「リア、矢は?」

「十分あります。予備の弦も持ってきました」

準備は万端だった。町の人々も、見送りに集まってきている。

「アシュさん、頑張ってくださいね!」

「王都で名前を轟かせてきてください!」

「ありがとうございます。必ず良い結果を持ち帰ります」

アシュは町の人々に頭を下げた。この数ヶ月で、エルムヘイヴンは自分たちにとって第二の故郷になっていた。

「さあ、出発するぞ」

トーマが御者台に座り、手綱を握った。馬車がゆっくりと動き出す。

町の人々が手を振る中、ライフ・サンクチュアリの馬車は王都ヴァルディアへと向かった。



馬車の中は、思ったよりも快適だった。

ギルドの収入で、それなりに良い馬車を借りることができたのだ。クッションの効いた座席に、小さな窓からは外の景色が見える。

「アシュさん、王都ってどんなところなんですか?」

ミラが目を輝かせながら尋ねた。彼女は生まれてから一度も王都に行ったことがないのだという。

「大きな町だよ。人口は十万人以上。石造りの建物が立ち並んで、城壁に囲まれている」

「すごい......!」

「魔法学術院もあるし、大きな市場もある。冒険者ギルドの本部もそこだ」

リアが補足する。彼女は一度だけ、幼い頃に王都を訪れたことがあるらしい。

「楽しみですね!」

ミラの無邪気な笑顔に、アシュも少し気が楽になった。

(そうだ、これは楽しい旅なんだ)

(不安ばかり抱えていても仕方ない)



だが、その考えは甘かった。

旅の二日目、森の中を通過している時だった。

「......待て」

オズワルドが突然、馬車を止めさせた。

「どうした?」

「......何かいる」

老戦士の勘は、決して外れない。アシュも警戒して、外の気配を探った。

すると——。

ザザザザ......

茂みが揺れ、複数の影が飛び出してきた。

「山賊か!」

トーマが剣を抜く。

「おいおい、こんな立派な馬車に乗ってるってことは、金持ちだろ?」

「大人しく金を出しな!」

山賊たちは、粗末な武器を構えている。数は七人。だが、動きを見る限り、それほど強くはなさそうだ。

「......悪いが、金は渡せない」

トーマが前に出た。

「あ? やるってのか?」

「やらせてもらう」

瞬間、トーマの剣が閃いた。

「うわっ!?」

山賊の一人が武器を弾き飛ばされる。オズワルドも動いた。老体とは思えない速さで、二人の山賊を瞬時に制圧する。

「くそっ! こいつら、強い!」

「逃げろ!」

残りの山賊たちは、慌てて森の奥へと逃げていった。

「......ふう、なんとかなったな」

トーマが剣を鞘に収める。

だが、アシュは何かに気づいた。

「......待て」

「どうした?」

「あいつら、わざと負けたように見えなかったか?」

「え?」

トーマとオズワルドは顔を見合わせた。

「確かに......妙に動きが雑だった」

「囮か?」

「かもしれない。警戒を強めよう」

アシュの予感は、当たっていた。



その夜、野営地。

焚き火を囲んで、メンバーたちは夕食を取っていた。ミラが作った野菜のスープは、意外と美味しい。

「ミラ、料理上手いな」

「えへへ、ありがとうございます!」

和やかな雰囲気だったが、アシュは警戒を解いていなかった。昼間の山賊たちの動きが、どうしても引っかかる。

(何か、裏があるはずだ......)

そして、その予感は的中した。

深夜、見張りをしていたオズワルドが小さく口笛を吹いた。それは、敵の接近を知らせる合図だ。

アシュは即座に目を覚まし、剣を手に取った。トーマとリアも、すぐに戦闘態勢に入る。

「......来たか」

闇の中から、複数の人影が現れた。

だが、それは山賊ではなかった。

「......ヴォイド」

黒いローブを纏った男たちが、静かに焚き火の周りを囲んでいた。その数、十人以上。

「初めまして、アシュ=ルーンフォード」

中央の男が、フードを外した。三十代ほどの男で、鋭い目つきをしている。

「私の名はヴィクター。ヴォイドの幹部だ」

「......何の用だ」

「用? 決まっているだろう」

ヴィクターは、冷たく笑った。

「お前のライフ・サンクチュアリ———その力を、我々に譲ってもらおう」

「断る」

「即答か。だが、選択肢はないぞ」

ヴィクターが指を鳴らすと、周囲のローブの男たちが武器を構えた。

「大人しく来れば、仲間は傷つけない」

「......嘘だろうな」

「賢いな」

ヴィクターは嘲笑した。

「では、力ずくで連れて行かせてもらう」

瞬間、戦闘が始まった。



トーマとオズワルドが前線で敵を食い止め、リアが後方から矢で援護する。アシュは【ライフ・サンクチュアリ】を展開し、味方の傷を即座に治療していく。

「くそっ! 数が多い!」

トーマが叫ぶ。ヴォイドの構成員たちは、思ったよりも強い。統率も取れている。

「リア、右から来るぞ!」

「分かってます!」

リアの矢が、敵の肩を射抜く。だが、すぐに別の敵が迫ってくる。

(このままじゃ、押し切られる......)

アシュは決断した。

「みんな、俺の周りに集まれ!」

「アシュ!?」

「いいから!」

トーマたちは、アシュの元に集まった。

「ライフ・サンクチュアリ——全力展開!」

アシュの魔力が爆発的に膨れ上がる。温かい光が、周囲一帯を包み込んだ。

その光は、単なる回復魔法ではなかった。

光に触れたヴォイドの構成員たちが、次々と動きを止めていく。

「ぐっ......なんだ、この魔法......!」

「体が......動かない......!」

「これが、真のライフ・サンクチュアリか......!」

ヴィクターだけは、何とか立っていた。だが、その顔には明らかな驚愕の色が浮かんでいる。

「......まさか、ここまでとは」

「二度と近づくな」

アシュは、冷たくそう告げた。

ヴィクターは、忌々しそうにアシュを睨んだ。

「......覚えていろ。次は、もっと強力な手で来る」

そう言い残し、ヴィクターたちは闇の中に消えていった。



戦闘が終わり、静寂が戻った。

「......大丈夫か、みんな」

「ああ、なんとか」

トーマが肩で息をしている。オズワルドも、珍しく疲労の色が見える。

「アシュさん......今の魔法......」

ミラが、不安そうにアシュを見つめた。

「......すまん。少し、力を使いすぎた」

アシュ自身も、魔力の消耗が激しい。だが、それよりも——。

(俺のライフ・サンクチュアリ、あんな使い方もできるのか......)

敵の動きを止める。それは、回復魔法の範疇を完全に超えている。

(まるで、生命そのものを支配したみたいだ......)

その力の大きさに、アシュは改めて恐怖を覚えた。
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