ライフ・サンクチュアリ ~追放された回復術師の第二の人生~

都一

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第36話:救出

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地下牢は狭く、天井も低い。アシュは白い光の障壁を展開し、黒ローブたちの魔法攻撃を防いでいた。炎球、氷槍、雷撃。様々な属性の魔法が次々と飛んでくるが、ライフ・サンクチュアリはそれらを全て弾いている。

「しつこい連中だ...!」

アシュは汗を拭い、反撃に転じた。右手を前に突き出し、光の波動を放つ。黒ローブの一人がそれを受け、壁に叩きつけられた。

だが、敵はまだ五人いる。彼らは連携して攻撃を仕掛けてきた。

「トーマ、オズワルド! 早く!」

「分かってる!」

トーマは牢の鍵を探していたが、見つからない。彼は苛立ちながら、鉄格子を力づくで引きちぎろうとした。

「くそ...開かない...!」

「落ち着け」

オズワルドが冷静に言った。

「鍵がないなら、錠を壊す」

彼は剣を抜き、牢の錠に狙いを定めた。一閃。剣が錠を切断し、扉が開いた。

「エリーゼ!」

トーマは牢の中に駆け込み、エリーゼを抱きしめた。少女は震えながら、トーマにしがみついた。

「トーマおじちゃん...怖かった...ずっと、一人で...」

「もう大丈夫だ。俺が守る」

トーマは涙を堪えながら、エリーゼを抱き上げた。

「他の子供たちも!」

オズワルドは次々と牢の錠を切断し、子供たちを解放していった。十人ほどの子供たちが、怯えた表情で牢から出てきた。

「君たち、大丈夫か?」

オズワルドが優しく声をかけると、子供たちは小さく頷いた。

「みんな、俺の後ろに隠れろ」

アシュは子供たちを庇うように立ちはだかった。黒ローブたちは更に魔法を放ってきたが、アシュのライフ・サンクチュアリは揺るがなかった。

「お前たちは...子供を攫い、何をしようとしていた!」

アシュは怒りを込めて叫んだ。

「答えろ!」

黒ローブの一人が冷たく笑った。

「実験だ。神官王の遺産を再現するため、生贄が必要だった」

「生贄...!?」

アシュの顔が青ざめた。

「貴様ら...許さない!」

彼は右手を高く掲げた。白い光が膨れ上がり、地下牢全体を照らす。

「ライフ・サンクチュアリ、全開放!」

光の波動が爆発的に広がり、黒ローブたちを吹き飛ばした。彼らは壁に叩きつけられ、動かなくなった。

だが、その瞬間、アシュの右腕に激痛が走った。

「ぐっ...!」

彼は膝をつき、右腕を押さえた。黒い痣が、肩を超えて首筋にまで広がっている。

「アシュ!」

オズワルドが駆け寄った。

「大丈夫か!?」

「ああ...何とか...」

アシュは立ち上がろうとしたが、身体が言うことを聞かなかった。視界が揺れ、呼吸が乱れる。

「代償が...進んでいる...」

「無理をするな。ここは俺たちに任せろ」

オズワルドはアシュを支え、トーマに目配せした。

「トーマ、子供たちを連れて先に行け。俺がアシュを運ぶ」

「分かった」

トーマはエリーゼを抱きかかえ、他の子供たちに呼びかけた。

「みんな、俺についてこい! もう少しで外に出られる!」

子供たちは頷き、トーマの後を追った。オズワルドはアシュを肩に担ぎ、階段を上り始めた。

地上に戻ると、見張りたちが騒いでいた。だが、トーマが剣を抜いて威嚇すると、彼らは逃げ出した。

「逃げろ! 化け物だ!」

見張りたちは蜘蛛の子を散らすように姿を消した。

「助かった...」

トーマは安堵の息を吐き、子供たちを外へ導いた。森の中で待っていた少年が、駆け寄ってきた。

「みんな、無事だったんだ!」

「ああ。君のおかげだ」

アシュはオズワルドに支えられながら、少年に微笑んだ。

「ありがとう」

「どういたしまして」

少年も嬉しそうに笑った。

一行は森を抜け、エルムヘイヴンへ向かった。途中、アシュは何度も意識が遠のきそうになったが、オズワルドが支え続けた。

———

エルムヘイヴンに到着したのは、夕暮れ時だった。町の人々は子供たちの姿を見て驚き、次々と駆け寄ってきた。

「この子たちは...!」

「行方不明になっていた子供たちだ!」

親たちが泣きながら子供たちを抱きしめた。再会の喜びが、町中に広がっていく。

エリーゼはトーマに抱きかかえられたまま、安心しきった表情で眠っていた。トーマはその寝顔を見つめ、涙を流した。

「守れた...やっと、守れた...」

ミラとリアがギルドから駆け出してきた。

「アシュさん! 大丈夫ですか!?」

「ああ...何とかな」

アシュは笑おうとしたが、顔が青ざめている。ミラは彼の右腕を見て、息を呑んだ。

「この痣...前より、ずっと広がっています!」

「分かってる。でも、今は子供たちが無事で良かった」

「そんなこと言ってる場合じゃありません!」

ミラは涙を浮かべながら、アシュを叱った。

「あなたは、自分を犠牲にしすぎです!」

「ミラ...」

「あなたが倒れたら、私たちはどうすればいいんですか!」

ミラの言葉に、アシュは黙り込んだ。彼女の言う通りだった。自分が倒れれば、ライフ・サンクチュアリは崩壊する。仲間たちを守ることもできなくなる。

「すまない...」

アシュは小さく謝った。

「でも、俺は...誰も見捨てられない」

リアが前に出た。

「アシュさん、私たちがもっと強くなります。だから、あなた一人で全てを背負わないでください」

「リア...」

「私たちは仲間です。一緒に戦います」

アシュは二人の言葉に、胸が熱くなった。

「ありがとう...」

オズワルドが肩を叩いた。

「さあ、中へ入ろう。お前は休め」

一行はギルドの中へ入り、アシュは自室で休むことにした。ミラが薬草茶を淹れて持ってきてくれた。

「これを飲んでください。少しは楽になります」

「ありがとう、ミラ」

アシュは茶を飲み、ベッドに横になった。身体は重く、右腕の痣は熱を持っている。

「代償が...加速している」

彼は天井を見つめた。このまま力を使い続ければ、いずれ自分は死ぬ。それは分かっていた。だが、それでも戦い続けなければならない。

部屋の隅に置かれた二つの遺産が、微かに光を放っていた。生命の聖域と死の境界。二つは共鳴するように、脈動している。

「お前たちは...何を望んでいる?」

アシュは呟いたが、答えは返ってこなかった。

———

その夜、ギルドのホールではささやかな祝宴が開かれた。子供たちを救出したことを祝い、町の人々も集まっていた。料理と酒が振る舞われ、笑い声が響いている。

トーマはエリーゼと共に、隅のテーブルに座っていた。エリーゼは温かいスープを飲みながら、トーマに話しかけた。

「トーマおじちゃん、ありがとう」

「礼を言うのは俺の方だ」

トーマは優しく微笑んだ。

「お前を守れなくて、すまなかった」

「でも、助けに来てくれた。それだけで十分だよ」

エリーゼの言葉に、トーマは目頭が熱くなった。

「エリーゼ...お前は強いな」

「お父さんが言ってた。『強く生きろ』って」

「ああ...お前の父さんは、立派な男だった」

トーマは親友の顔を思い出した。あの日、自分の判断ミスで彼を失った。だが、娘は立派に育っている。

「俺も、お前を守り続ける。約束する」

「うん」

エリーゼは嬉しそうに笑った。

ミラとリアが近づいてきた。

「エリーゼちゃん、お腹空いてない? もっと食べる?」

「うん、ありがとう」

エリーゼは二人に懐き、楽しそうに話し始めた。トーマはその光景を見て、安堵の息を吐いた。

オズワルドが隣に座った。

「良かったな、トーマ」

「ああ...本当に」

「だが、これで終わりじゃない」

オズワルドは真剣な表情で言った。

「ヴォイドは必ず報復してくる。今回の件で、我々は彼らの隠れ家を一つ潰した。敵は本気で襲ってくるだろう」

「分かってる」

トーマは拳を握りしめた。

「次こそ、俺は逃げない。全力で戦う」

「それでいい」

オズワルドは頷いた。

その時、ギルドの扉が開き、一人の男が入ってきた。彼は旅人の格好をしており、疲れた表情を浮かべていた。

「すみません、ライフ・サンクチュアリのギルドマスター、アシュ・ルーンフォード殿はいらっしゃいますか?」

ミラが対応した。

「アシュさんは今、休んでいます。何か御用ですか?」

「急ぎの伝言があります。王都のレオナルド・ゴールドマン様からです」

「レオナルド様から!?」

ミラは驚いた。

「少々お待ちください」

彼女は急いでアシュの部屋へ向かった。

———

数分後、アシュは身体を引きずるようにしてホールに現れた。顔色は悪いが、目には強い意志が宿っている。

「レオナルドから、何の用だ?」

使者は一礼し、封筒を差し出した。

「これを、お渡しするよう命じられました」

アシュは封筒を受け取り、封を切った。中には一枚の手紙が入っていた。

「アシュ殿へ。緊急の報告です。ヴォイドが大規模な作戦を計画しています。目標は、三つ目の遺産『時の揺り籠』です。彼らは東部の古代遺跡に向かっています。至急、対応をお願いします。レオナルド・ゴールドマン」

アシュの顔が険しくなった。

「時の揺り籠...最後の遺産だ」

オズワルドが立ち上がった。

「どうする?」

「行くしかない」

アシュは決意を込めて言った。

「ヴォイドに三つ目の遺産を渡すわけにはいかない」

「だが、お前の身体は...」

「大丈夫だ」

アシュは無理に笑った。

「まだ、戦える」

トーマも立ち上がった。

「俺も行く」

「エリーゼは?」

「ミラとリアに預ける。彼女たちなら、安心だ」

ミラとリアは頷いた。

「任せてください」

「ありがとう」

アシュは仲間たちを見渡した。全員の目には、強い決意が宿っている。

「明日の朝、出発する。東部の古代遺跡へ。最後の遺産を守り、ヴォイドを止める」

全員が頷いた。

そして、ライフ・サンクチュアリの新たな戦いが、幕を開けようとしていた。
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