ライフ・サンクチュアリ ~追放された回復術師の第二の人生~

都一

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第49話:裏切りの真実

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トーマは、王都の地下牢に連れて行かれた。

アシュは、その光景をただ呆然と見ていることしかできなかった。騎士たちがトーマの手に鎖をかけ、剣を取り上げる。トーマは、抵抗しなかった。ただ、俯いたまま――連れて行かれた。

「アシュ……」

ミラが、アシュの肩に手を置いた。その目には、涙が浮かんでいる。

「信じられない……トーマが……」

リアも、震える声で呟いた。

「なぜ……なぜ、トーマが……」

オズワルドは、何も言わなかった。ただ、拳を強く握り締めていた。その顔には、怒りと悲しみが入り混じっている。

アシュは、何も言えなかった。

トーマ……。

その名前が、心の中で繰り返される。

お前は、本当に……裏切っていたのか……。

「アシュ」

レオナルドが近づいてきた。その顔には、深い悲しみが宿っている。

「すまない。お前の仲間を、こんな形で逮捕することになって」

「……いえ」

アシュは、小さく答えた。

「でも、まだ話を聞いていません。トーマには、何か理由があるはずです」

「ああ。だから、これから尋問を行う。お前も、立ち会うか?」

アシュは頷いた。

「はい。必ず」

———

王都の地下牢は、冷たく、湿っている。

石造りの壁に、松明の光が揺れている。牢屋の一つに、トーマが座っていた。手には鎖がかけられ、その顔は俯いている。

「トーマ・グレイソン」

レオナルドが、牢屋の前に立った。

「お前を、ヴォイドへの協力の罪で逮捕した。だが、まず話を聞こう。なぜ、お前はヴォイドに協力していたのだ?」

トーマは、しばらく黙っていた。そして――ゆっくりと顔を上げた。その目には、涙が浮かんでいる。

「……エリーゼを、助けるためだ」

「エリーゼ?」

「ああ。俺の……幼馴染の娘だ」

トーマは、震える声で話し始めた。

「エリーゼの父親は、俺の親友だった。昔、俺たちは同じパーティで冒険者をしていた。だが、ある依頼で――魔物の群れに襲われた」

トーマの声は、苦しそうだった。

「俺は、判断を誤った。撤退すべきタイミングで、無理に戦い続けた。その結果――親友は、命を落とした」

「……そうか」

「親友は、死ぬ間際に言った。『エリーゼを、頼む』と。だから、俺は――エリーゼを守ると誓った」

トーマは、涙を流していた。

「だが、数ヶ月前――ヴォイドが、エリーゼを誘拐した」

アシュの心臓が跳ねた。

「誘拐……!?」

「ああ。そして、俺に指令を出した。『アシュ・ルーンフォードを監視しろ。そして、適切なタイミングで、生命の聖域と死の境界を我々に渡せ。そうすれば、エリーゼを解放する』と」

トーマは、拳を握り締めた。

「俺は……エリーゼを守りたかった。だから、ヴォイドの指令に従った。アシュの動きを監視し、報告し続けた」

「トーマ……」

アシュは、トーマの苦しみを感じた。

「だが、俺は……お前を裏切ることはできなかった」

トーマは、アシュを見つめた。

「お前は、俺にとって――かけがえのない仲間だ。お前がいなければ、俺は今も、過去の罪に苦しんでいただろう」

「……」

「だから、俺は――ヴォイドに、嘘の情報を流し続けた。お前の本当の力を隠し、遺産の場所も教えなかった」

トーマの声は、力強かった。

「だが、ヴォイドは気づいた。俺が、嘘をついていることに。そして――エリーゼを殺すと脅してきた」

「……そんな」

ミラが手で口を覆った。

「だから、俺は――今日、地下室で見つけた指令書を隠した。それには、『三日後の儀式の日、アシュ・ルーンフォードを我々の元へ連れてこい。そうすれば、エリーゼを解放する』と書かれていた」

トーマは、俯いた。

「俺は……どうすればいいのか、分からなかった。エリーゼを救うべきか、それとも――お前を守るべきか」

静寂が、地下牢を包んだ。

アシュは、トーマの言葉を噛み締めていた。

トーマは……エリーゼを救うために、苦しんでいたのか……。

「トーマ」

アシュが口を開いた。

「お前は、裏切っていない」

「……え?」

トーマが顔を上げた。

「お前は、エリーゼを守ろうとしただけだ。それは、間違っていない。そして、お前は――俺を守るために、ヴォイドに嘘をつき続けた」

アシュは、トーマに近づいた。

「それは、裏切りじゃない。お前は、ずっと仲間だった」

「だが……俺は、ヴォイドに協力した……」

「結果的に、お前は何も渡さなかった。お前は、エリーゼと俺、両方を守ろうとした」

アシュは、トーマの肩に手を置いた。

「だから、お前を責めることはできない」

トーマの目から、涙が溢れた。

「アシュ……すまない……本当に、すまない……」

「謝るな」

アシュは、優しく言った。

「今は、エリーゼを救うことを考えよう」

レオナルドが、腕を組んだ。

「だが、エリーゼがどこにいるのか、分かるのか?」

「指令書には、書かれていなかった。だが――おそらく、ヴォイドの本拠地にいるはずだ」

トーマが答えた。

「本拠地……それは、どこだ?」

「分からない。だが、指令書には――『儀式の日、王都中央広場へ来い』と書かれていた。おそらく、その時にエリーゼを連れてくるつもりだろう」

「ならば、儀式の日に――エリーゼを救い出すしかない」

エリックが言った。

「だが、それは危険すぎる。ヴォイドは、罠を仕掛けているかもしれない」

「それでも、行くしかない」

アシュが言った。

「エリーゼを救い、ヴォイドの儀式を阻止する。それが、俺たちにできることだ」

レオナルドは、しばらく考えた。そして――

「分かった。トーマを釈放する」

「本当ですか!?」

ミラが叫んだ。

「ああ。トーマは、結果的に何も情報を漏らさなかった。そして、これからエリーゼを救うために戦う。ならば、罪に問うことはできない」

レオナルドは、騎士に指示を出した。

「トーマの鎖を外せ」

騎士が、トーマの鎖を外した。トーマは、自由になった手を見つめた。

「……ありがとうございます」

「礼を言うのは、まだ早い」

レオナルドが厳しく言った。

「エリーゼを救い、ヴォイドを止める。それができて初めて、お前は許される」

「……はい」

トーマは、深く頭を下げた。

———

その夜、ライフ・サンクチュアリの本部に戻った一行は、作戦室に集まった。

大きなテーブルの上には、王都の地図が広げられている。

「三日後、新月の夜――ヴォイドは、王都中央広場で儀式を行う」

レオナルドが説明した。

「我々は、それを阻止しなければならない。そして、エリーゼを救い出す」

「どうやって?」

リアが尋ねた。

「まず、王都中央広場の周辺住民を避難させる。そして、騎士団を配置し、ヴォイドを迎え撃つ」

エリックが地図に印をつけた。

「だが、問題がある。ヴォイドは、三つの遺産のうち一つを持っている。我々は二つを持っている。もし、戦闘中に奪われたら――儀式が完成してしまう」

「ならば、遺産を囮にする」

オズワルドが提案した。

「囮……?」

「ああ。偽物の遺産を用意し、ヴォイドを誘き寄せる。そして、本物は別の場所に隠しておく」

「だが、ヴォイドは気づくのでは?」

「いや、短時間なら騙せる。遺産の力は、近づかなければ感じ取れない」

レオナルドが頷いた。

「それがいい。では、偽物を作る」

「俺が、囮を持つ」

トーマが言った。

「俺が、ヴォイドの前に現れる。そして、エリーゼを解放させる」

「だが、それは危険すぎる」

ミラが反対した。

「ヴォイドは、お前を殺すかもしれない」

「それでもいい」

トーマの声は、決意に満ちていた。

「俺は、エリーゼを守ると誓った。たとえ命を失っても、その誓いを果たす」

アシュは、トーマを見つめた。その目には、揺るぎない決意が宿っている。

「……分かった」

アシュが言った。

「だが、お前一人では行かせない。俺も一緒に行く」

「アシュ、お前の身体は……」

「関係ない」

アシュは、きっぱりと言った。

「トーマは、俺の仲間だ。一緒に戦う」

トーマの目に、涙が浮かんだ。

「……ありがとう、アシュ」

「礼を言うな」

アシュは笑った。

「仲間だからな」

———

会議が終わり、皆が部屋を出ていく。だが、アシュとトーマは残っていた。

「なあ、アシュ」

「何だ?」

トーマは、窓の外を見つめた。夜空には、星が輝いている。

「もし、俺が死んだら――エリーゼのことを、頼む」

「死ぬな」

アシュが遮った。

「お前は、生きてエリーゼを守るんだ」

「だが……」

「いいから、死ぬな」

アシュの声は、強かった。

「お前が死んだら、エリーゼは悲しむ。そして、俺も――悲しい」

トーマは、アシュを見つめた。その目には、驚きと、そして――感謝の色が浮かんでいる。

「……ああ。死なない。絶対に、生きて帰る」

「それでいい」

二人は、しばらく黙って星空を見上げていた。

「なあ、アシュ」

「何だ?」

「お前と出会えて、良かった」

トーマの声は、穏やかだった。

「お前がいなければ、俺は今も――過去の罪に苦しみ、一人で生きていただろう。だが、お前が――俺を救ってくれた」

「俺は、何もしていない」

「いや、してくれた」

トーマは笑った。

「お前は、俺を信じてくれた。それだけで、十分だ」

アシュは、何も言わなかった。ただ、トーマの隣に立ち、星空を見上げていた。

三日後――全てが決まる。

ヴォイドを止め、エリーゼを救う。

そして――。

アシュは、右手を握り締めた。痣は、もう顔全体を覆い、首を越えて胸にまで達している。

俺の時間も、もう終わりに近づいている。

だが――アシュは決意していた。

最後まで、戦い抜く。

仲間のために。

そして、この世界のために。

星空が、二人を静かに見守っていた。

そして――運命の日が、近づいてくる。
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