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1章:安藤日和(クラスの友達を一人作れ)
私はモリカがやりたい!
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家に帰る頃には、すっかり日が暮れていた。
「モリカー!」
部屋の鍵を開けていると、隣の部屋の扉が勢いよく開いた。
見ると、天音さんが満面の笑みでこちらを覗いていた。いつもと同じくTシャツに短パンとラフな格好だ。
「まだ部屋の鍵を開けただけなのに、僕の存在を感じるなんてすごい嗅覚ですね」
「階段を上る音で察して、部屋の鍵を開ける音で確信に変わったからね!」
天音さんはそう言って親指を上に立てる。
すごいのは聴覚だったみたいだ。どうやら天音さんは地獄耳の持ち主らしい。もしかすると、今までの生活音も全部聞かれていたのではないかと思ってしまう。
四宮先生の二の舞にならないように、スマホをいじる時はイヤホンをつけておいた方が良さそうだな。
部屋に入ると、当然のように天音さんも後に続く。
「天音さんは夜ご飯食べましたか?」
「食べたよ。ふみやんは?」
「まだです。では、僕は夕飯を食べるので、先にモリカやっていてください」
「はいさー!」
天音さんは素直に僕の言うことを聞き、ゲームハードのある方へと歩んでいった。
「えー、一緒にやろうよ!」みたいな可愛い一言なんてものは一切ない。
僕はただ自分のやりたいゲームを持っている友達にすぎない。悲しくはあるが、そっちの方が都合が良いのも確かだ。
こんな人に「今日モリカのVRをやってきましたけど、すごく楽しかったです」なんて言おうものなら、心の底から怒られるに違いない。
天音さんがゲームを始める傍らで僕は自炊を始める。
自炊と言っても簡易なものだ。レンチンご飯をレンジで温め、鍋に水を入れて沸騰させる。
それから『きゅうり』と『キャベツ』と『揚げ』を包丁で切り、前二つを皿に盛り付け、後ろ一つとわかめを鍋に入れる。煮えたところで味噌を溶かして完成だ。
ご飯が温まったら、今度は市販の唐揚げを温める。そのうちに味噌汁を盛り付け、サラダにドレッシングをかける。それらを全てお盆に乗せて完成だ。
「おぉー、美味しそうだね!」
ソファー前にあるテーブルにお盆を置くと、天音さんが鼻を大きくして言う。視線は画面に向けたままだった。
「味噌汁ならまだ余ってますから欲しかったらついできますよ。唐揚げはあげません」
「えぇー、この前あげたのに! まあいいや、あとで味噌汁もらうね」
天音さんは会話しながらも1位でゴールする。4レース連続で戦っているのか、またすぐにレースが始まった。僕は天音さんのプレイする画面を見ながらも食に徹する。
初めてやった時とは見違えるほどうまくなっている。
まだやり始めて二週間ほどだと言うのに。センスと熱量さえあれば上達は早いことを体現しているみたいだった。
ほんと、モリカにどっぷりハマっているな。
「そんなに好きなら天音さんも買ったらどうですか?」
「何度も言ってるけど、ふみやんの家に行けばプレイできるんだから、わざわざ買う必要ないんだよ。ゲームハードも買わなきゃならないから金額がバカにならないしね」
「まあ、確かに」
買うとなれば4、5万は覚悟しておかなければいけない。天音さんの一ヶ月のバイト代がいくらかはわからないが。半分以上は持っていかれそうなものだ。そうそう手をつけられるものではない。
「天音さんって、今彼氏とかいるんですか?」
「へっ?」
気の抜けた声が聞こえるとともに、見ていた画面のキャラの動きが鈍る。1位だった順位がみるみるうちに下がっていった。
どうしたのかと、彼女に顔を向ける。さっきまで一切僕を見ていなかったのに、今はガン見していた。
「どうしたんですか?」
「それはこっちのセリフだよ! いきなり私の恋愛事情を聞いてくるなんて! もしかして……」
天音さんはコントローラーから片手を外して口に添える。心なしか彼女の瞳が潤んでいるような気がした。
「もしかして、私のこと好きになった?」
「そんなことないですよ。それに、もしあったとしたら、僕は一体どのタイミングで天音さんに恋心を抱くんですか?」
天音さんとの思い出なんて家で飯食ってゲームした以外ない。恋に落ちるタイミングなんて皆無だし、落ちたとしたら僕は相当軽い人間だ。
「じゃあ、なんでそんなこと聞いてきたの? もしかして、自分には彼女がいるから私にマウントとってきたの! うわぁ……ふみやんってそんな人だったんだ。幻滅しちゃった」
「勝手に解釈しないでください。それで答えはどう何ですか?」
「いないよ。てか、今までいたことはないよ。これで良いですか? どうぞ、マウントをとってください」
両手を広げ、降参のポーズを取る。
ゲームは知らないうちに、天音さんが最下位で強制終了していた。
「そうですか。なら、大丈夫そうですね」
僕は床から立ち上がると玄関の方へと足を運んだ。そこから鍵を一本取って再び部屋に戻る。
「では、これ渡しときます」
「鍵?」
「スペアキーです。多分、これからは今日みたいに帰りが遅くなることが多いと思うので。もしモリカがやりたくなったら、これを使って勝手に入ってやってください」
「それ、大丈夫なの?」
「彼氏がいないなら問題ないですよね?」
「私は良いけどふみやんは?」
「天音さんなら大丈夫だと信じてます。物とか取らないでしょうし。取っても犯人はすぐ見つけ出せますしね」
「……まあ、ふみやんが良いなら借りとく」
天音さんは素直にスペアキーを受け取った。
これで、家に帰ってくるや否や「モリカー!」と叫ばれることはない。今日みたいなことが何度も起きるのはごめん被りたいからな。
食事を終え、それから僕もモリカをすることになった。
「モリカー!」
部屋の鍵を開けていると、隣の部屋の扉が勢いよく開いた。
見ると、天音さんが満面の笑みでこちらを覗いていた。いつもと同じくTシャツに短パンとラフな格好だ。
「まだ部屋の鍵を開けただけなのに、僕の存在を感じるなんてすごい嗅覚ですね」
「階段を上る音で察して、部屋の鍵を開ける音で確信に変わったからね!」
天音さんはそう言って親指を上に立てる。
すごいのは聴覚だったみたいだ。どうやら天音さんは地獄耳の持ち主らしい。もしかすると、今までの生活音も全部聞かれていたのではないかと思ってしまう。
四宮先生の二の舞にならないように、スマホをいじる時はイヤホンをつけておいた方が良さそうだな。
部屋に入ると、当然のように天音さんも後に続く。
「天音さんは夜ご飯食べましたか?」
「食べたよ。ふみやんは?」
「まだです。では、僕は夕飯を食べるので、先にモリカやっていてください」
「はいさー!」
天音さんは素直に僕の言うことを聞き、ゲームハードのある方へと歩んでいった。
「えー、一緒にやろうよ!」みたいな可愛い一言なんてものは一切ない。
僕はただ自分のやりたいゲームを持っている友達にすぎない。悲しくはあるが、そっちの方が都合が良いのも確かだ。
こんな人に「今日モリカのVRをやってきましたけど、すごく楽しかったです」なんて言おうものなら、心の底から怒られるに違いない。
天音さんがゲームを始める傍らで僕は自炊を始める。
自炊と言っても簡易なものだ。レンチンご飯をレンジで温め、鍋に水を入れて沸騰させる。
それから『きゅうり』と『キャベツ』と『揚げ』を包丁で切り、前二つを皿に盛り付け、後ろ一つとわかめを鍋に入れる。煮えたところで味噌を溶かして完成だ。
ご飯が温まったら、今度は市販の唐揚げを温める。そのうちに味噌汁を盛り付け、サラダにドレッシングをかける。それらを全てお盆に乗せて完成だ。
「おぉー、美味しそうだね!」
ソファー前にあるテーブルにお盆を置くと、天音さんが鼻を大きくして言う。視線は画面に向けたままだった。
「味噌汁ならまだ余ってますから欲しかったらついできますよ。唐揚げはあげません」
「えぇー、この前あげたのに! まあいいや、あとで味噌汁もらうね」
天音さんは会話しながらも1位でゴールする。4レース連続で戦っているのか、またすぐにレースが始まった。僕は天音さんのプレイする画面を見ながらも食に徹する。
初めてやった時とは見違えるほどうまくなっている。
まだやり始めて二週間ほどだと言うのに。センスと熱量さえあれば上達は早いことを体現しているみたいだった。
ほんと、モリカにどっぷりハマっているな。
「そんなに好きなら天音さんも買ったらどうですか?」
「何度も言ってるけど、ふみやんの家に行けばプレイできるんだから、わざわざ買う必要ないんだよ。ゲームハードも買わなきゃならないから金額がバカにならないしね」
「まあ、確かに」
買うとなれば4、5万は覚悟しておかなければいけない。天音さんの一ヶ月のバイト代がいくらかはわからないが。半分以上は持っていかれそうなものだ。そうそう手をつけられるものではない。
「天音さんって、今彼氏とかいるんですか?」
「へっ?」
気の抜けた声が聞こえるとともに、見ていた画面のキャラの動きが鈍る。1位だった順位がみるみるうちに下がっていった。
どうしたのかと、彼女に顔を向ける。さっきまで一切僕を見ていなかったのに、今はガン見していた。
「どうしたんですか?」
「それはこっちのセリフだよ! いきなり私の恋愛事情を聞いてくるなんて! もしかして……」
天音さんはコントローラーから片手を外して口に添える。心なしか彼女の瞳が潤んでいるような気がした。
「もしかして、私のこと好きになった?」
「そんなことないですよ。それに、もしあったとしたら、僕は一体どのタイミングで天音さんに恋心を抱くんですか?」
天音さんとの思い出なんて家で飯食ってゲームした以外ない。恋に落ちるタイミングなんて皆無だし、落ちたとしたら僕は相当軽い人間だ。
「じゃあ、なんでそんなこと聞いてきたの? もしかして、自分には彼女がいるから私にマウントとってきたの! うわぁ……ふみやんってそんな人だったんだ。幻滅しちゃった」
「勝手に解釈しないでください。それで答えはどう何ですか?」
「いないよ。てか、今までいたことはないよ。これで良いですか? どうぞ、マウントをとってください」
両手を広げ、降参のポーズを取る。
ゲームは知らないうちに、天音さんが最下位で強制終了していた。
「そうですか。なら、大丈夫そうですね」
僕は床から立ち上がると玄関の方へと足を運んだ。そこから鍵を一本取って再び部屋に戻る。
「では、これ渡しときます」
「鍵?」
「スペアキーです。多分、これからは今日みたいに帰りが遅くなることが多いと思うので。もしモリカがやりたくなったら、これを使って勝手に入ってやってください」
「それ、大丈夫なの?」
「彼氏がいないなら問題ないですよね?」
「私は良いけどふみやんは?」
「天音さんなら大丈夫だと信じてます。物とか取らないでしょうし。取っても犯人はすぐ見つけ出せますしね」
「……まあ、ふみやんが良いなら借りとく」
天音さんは素直にスペアキーを受け取った。
これで、家に帰ってくるや否や「モリカー!」と叫ばれることはない。今日みたいなことが何度も起きるのはごめん被りたいからな。
食事を終え、それから僕もモリカをすることになった。
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