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1章:安藤日和(クラスの友達を一人作れ)
喪失感と爽快感
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「消すのに結構力がいるね」
僕と飯塚さんは二人で前後の椅子に腰掛けながら日和の机を綺麗に吹いていた。
机に書かれた文字は油性のペンで書かれていた。水拭きで落とすことは叶和なわず、ネット情報から消しゴムで消せるとあったので、それを試すことにした。
僕は日和の席に座り、飯塚さんは僕の前の席に座って各々端から順に消していく。他の女子と至近距離でやり取りしているところを日和に見られたらまずいと思いつつも、自分から言い出したことなので今更引き下がるわけにもいかない。
「明日からどうしよっかね~?」
「どうすると言うのは、さっきの女子たちとの関係ですか?」
「そのとおり。今日のことをなかったことにはできないだろうからさ。多分、無視されるだろうなって」
彼女が顔をあげたのに釣られて僕もまた顔を上げる。
困ったように照れ笑いを浮かべながら窓の外を眺めた。
いじめを止めた人間がいじめられるなんて話をよく聞く。もしかすると、今後は飯塚先輩にも危害を及ぼしてしまうかもしれない。
「なんというか……すみません……」
居た堪れない気持ちになる。
とはいえ、何ができるわけでもないのが辛いところだ。今はただ謝ることしかできない。
「謝る必要ないのに。でも、もし私がピンチになったら助けてね。あのビンタをもう一度見せてよ」
飯塚さんは再現するように何もないところを手で払った。
「何かあれば力になります。ビンタは必要な時以外やりませんけど。あんまり軽い気持ちで暴力は振いたくないですから」
「へぇ~、今日のは特別だったってことか」
机に肘をかけ、いやらしい笑みを浮かべながら聞いてくる。
「そりゃそうでしょ。自分の大切な人が傷つけられたんですから」
間髪入れずに反論すると、彼女は呆気に取られて頬を染めた。
「よくそんなカッコつけたセリフを真顔で言えるね~」
「悪いですか?」
「うんうん。すごくカッコいいと思うよ。安藤さんが羨ましいくらいにね」
「飯塚先輩って彼氏とかいるんですか?」
「いないよ。急にどうした? もしかして浮気とか?」
「違います」
どうしてみんな揃ってすぐに浮気を疑うのだろうか。僕はそんなに尻軽に見えるのだろうか。
「日和が羨ましいって。まるで僕と誰かを比べているような言い草だったので」
「ああ。言葉の裏を読んだわけね。強いていえば私の理想像と比べていたかも。私もそういう彼氏が欲しいなって」
「どうも。でも、浮気はしませんよ?」
「別にそういう意味じゃないのに。言葉の裏を読み過ぎ」
たわいのない会話をしながらも、机に書かれた落書きは着々と消えていく。
「ノートにも落書きされていましたが、他に落書きしたところは見ましたか?」
「どうだろ。私が見たのは机だけだったから。ノートにも落書きされているのは知らなかった」
つまり、飯塚先輩がいない時もイタズラをしていたのか。
当たり前か。彼女が止めている中で落書きできる量ではないもんな。
最初は単独や二人程度の小さな反抗だったのだろう。それで日和が気分を害したから壊してやろうと思って大きく出たわけだ。
「よしっ! これで終わり!」
全て消し終えると、変な達成感を覚えた。
日和が背負った悪口を払拭できたことを嬉しく思う。
「じゃあ、私は水拭きを片付けてくるね」
「ありがとうございます。結局、使わなかったですね」
「ホントだよ~。重かったのにな」
ため息をつきながらバケツを持って教室を出ていく。力仕事のため代わりにやるべきだったなと後悔した。
飯塚先輩が水洗い場で作業している間、僕は日和の鞄を探って落書きがないか確認した。幸い、『行きたいスポットリスト』以外の書物は綺麗だった。
落書きのあったノートだけは僕が持つことにした。スマホのカメラでノートを撮り、画像検索にかける。他のノートに比べて金額は高かったものの、迷わず購入することを選択した。
「お待たせ~」
購入完了のタイミングで飯塚先輩が戻ってくる。
僕たちは自分と日和の鞄を両肩に掛けた。
「にしても、明日からどうしようかね~?」
まるで時が戻ったかのように、飯塚先輩は同じ言葉を繰り返した。
「すみません。いつも通り接するとかはできませんもんね」
だから僕もなるべく初めてを装って答える。
すると、飯塚さんは持っていた鞄を持ち手の部分を握ったまま僕に向けて飛ばしてきた。不意の出来事に避けられるはずもなく腰の側面に当たる。危うく急所に当たるところだった。
「いきなりどうしたんですか?」
「今こそ言葉の裏を読み取ってよ。私は明日から一人なんだよ? それで、君は私と初めて会った時にどんな会話をした?」
答えを出すまで帰らせませんというように、僕と終始目を合わせながら近づいてくる。飯塚先輩の目を見ながら彼女との初対面の時を思い出す。
あの時、僕は彼女になんて言っただろうか。
熟考するまでもなく、その答えが出てきた。
僕が眉を上げてパッと表情を開くのに同調して、飯塚先輩はすぼんだ口を緩ませる。
「安藤さんを紹介してよ」
僕と飯塚さんは二人で前後の椅子に腰掛けながら日和の机を綺麗に吹いていた。
机に書かれた文字は油性のペンで書かれていた。水拭きで落とすことは叶和なわず、ネット情報から消しゴムで消せるとあったので、それを試すことにした。
僕は日和の席に座り、飯塚さんは僕の前の席に座って各々端から順に消していく。他の女子と至近距離でやり取りしているところを日和に見られたらまずいと思いつつも、自分から言い出したことなので今更引き下がるわけにもいかない。
「明日からどうしよっかね~?」
「どうすると言うのは、さっきの女子たちとの関係ですか?」
「そのとおり。今日のことをなかったことにはできないだろうからさ。多分、無視されるだろうなって」
彼女が顔をあげたのに釣られて僕もまた顔を上げる。
困ったように照れ笑いを浮かべながら窓の外を眺めた。
いじめを止めた人間がいじめられるなんて話をよく聞く。もしかすると、今後は飯塚先輩にも危害を及ぼしてしまうかもしれない。
「なんというか……すみません……」
居た堪れない気持ちになる。
とはいえ、何ができるわけでもないのが辛いところだ。今はただ謝ることしかできない。
「謝る必要ないのに。でも、もし私がピンチになったら助けてね。あのビンタをもう一度見せてよ」
飯塚さんは再現するように何もないところを手で払った。
「何かあれば力になります。ビンタは必要な時以外やりませんけど。あんまり軽い気持ちで暴力は振いたくないですから」
「へぇ~、今日のは特別だったってことか」
机に肘をかけ、いやらしい笑みを浮かべながら聞いてくる。
「そりゃそうでしょ。自分の大切な人が傷つけられたんですから」
間髪入れずに反論すると、彼女は呆気に取られて頬を染めた。
「よくそんなカッコつけたセリフを真顔で言えるね~」
「悪いですか?」
「うんうん。すごくカッコいいと思うよ。安藤さんが羨ましいくらいにね」
「飯塚先輩って彼氏とかいるんですか?」
「いないよ。急にどうした? もしかして浮気とか?」
「違います」
どうしてみんな揃ってすぐに浮気を疑うのだろうか。僕はそんなに尻軽に見えるのだろうか。
「日和が羨ましいって。まるで僕と誰かを比べているような言い草だったので」
「ああ。言葉の裏を読んだわけね。強いていえば私の理想像と比べていたかも。私もそういう彼氏が欲しいなって」
「どうも。でも、浮気はしませんよ?」
「別にそういう意味じゃないのに。言葉の裏を読み過ぎ」
たわいのない会話をしながらも、机に書かれた落書きは着々と消えていく。
「ノートにも落書きされていましたが、他に落書きしたところは見ましたか?」
「どうだろ。私が見たのは机だけだったから。ノートにも落書きされているのは知らなかった」
つまり、飯塚先輩がいない時もイタズラをしていたのか。
当たり前か。彼女が止めている中で落書きできる量ではないもんな。
最初は単独や二人程度の小さな反抗だったのだろう。それで日和が気分を害したから壊してやろうと思って大きく出たわけだ。
「よしっ! これで終わり!」
全て消し終えると、変な達成感を覚えた。
日和が背負った悪口を払拭できたことを嬉しく思う。
「じゃあ、私は水拭きを片付けてくるね」
「ありがとうございます。結局、使わなかったですね」
「ホントだよ~。重かったのにな」
ため息をつきながらバケツを持って教室を出ていく。力仕事のため代わりにやるべきだったなと後悔した。
飯塚先輩が水洗い場で作業している間、僕は日和の鞄を探って落書きがないか確認した。幸い、『行きたいスポットリスト』以外の書物は綺麗だった。
落書きのあったノートだけは僕が持つことにした。スマホのカメラでノートを撮り、画像検索にかける。他のノートに比べて金額は高かったものの、迷わず購入することを選択した。
「お待たせ~」
購入完了のタイミングで飯塚先輩が戻ってくる。
僕たちは自分と日和の鞄を両肩に掛けた。
「にしても、明日からどうしようかね~?」
まるで時が戻ったかのように、飯塚先輩は同じ言葉を繰り返した。
「すみません。いつも通り接するとかはできませんもんね」
だから僕もなるべく初めてを装って答える。
すると、飯塚さんは持っていた鞄を持ち手の部分を握ったまま僕に向けて飛ばしてきた。不意の出来事に避けられるはずもなく腰の側面に当たる。危うく急所に当たるところだった。
「いきなりどうしたんですか?」
「今こそ言葉の裏を読み取ってよ。私は明日から一人なんだよ? それで、君は私と初めて会った時にどんな会話をした?」
答えを出すまで帰らせませんというように、僕と終始目を合わせながら近づいてくる。飯塚先輩の目を見ながら彼女との初対面の時を思い出す。
あの時、僕は彼女になんて言っただろうか。
熟考するまでもなく、その答えが出てきた。
僕が眉を上げてパッと表情を開くのに同調して、飯塚先輩はすぼんだ口を緩ませる。
「安藤さんを紹介してよ」
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