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2章:千丈真奈(部員を5人集めよ)
部活勧誘
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翌日の昼食時間。
昨日、ポスターのデザイン決め以外に企てた計画を実行することになった。
「千丈先輩、頑張ってください」
僕はいざ戦地に向かわんとする彼女を鼓舞するように両拳を握った。
本日、僕と千丈先輩は一年生の教室が集まる廊下で集合することとなった。
目的は一つ。部活勧誘のためだ。
先週の終わりに自クラスにやってきたサッカー部同様、昼食時間に教室に入って行うことで半ば強制的に『言遊部』を認知させるのだ。
「が、が、が、頑張るね!」
千丈先輩は声を震わせながら、僕の真似をするように拳を握った。
彼女の様子を見るに戦死は免れないなと俯瞰した自分が結論づける。
「見知らぬ生徒ばかりなので緊張するのは仕方ありません。もし、まずいと思ったら息を吸ってから吐いてください。人は息を吐く時にリラックスします」
「息を吐くだね。吐く。吐く。吐く。ウプッ」
口を手で押さえる。落ち着くと、目には涙が浮かんでいた。
僕は思わず額に汗をかく。先行きが思いやられるが、ここが正念場だ。
「本当にまずいと思ったら素早く廊下に出てください」
「もう、結構まずいんだけどどうしたらいいかな?」
「教室に行ってください」
分かりきっていた回答だったので素早く答える。
千丈先輩は大きく項垂れた。勧誘前なのにテンションは下がりっぱなしだ。
「で、で、では、行ってきます……」
まったくやる気のない兵隊がする敬礼を僕に見せ、教室へと歩いていった。
もうすでに結果は見えている気がしなくもない。だが、言遊部の部員でないため教室に入るのは憚られる。
僕ができることは、千丈先輩が無事に勧誘台詞を言い終えることを願うだけだ。
千丈先輩はロボットのように機械的な動きで教室に入っていく。
動く手と足が同じだ。本人は気づかずに、教壇に上がるまで同じ動作を繰り返した。
季節はゆっくり夏に近づいており、ブレザーを着ているため暑いと思うこともしばしばある。そのため、教室はすべてのドア・窓が開いており、一番前の扉付近にいる僕からは教室の様子は見えやすかった。
見知らぬ生徒が教室に入ってきたからか、あるいは部活勧誘であることを察したのか、教室にいる生徒のほとんどが千丈先輩に顔を向けていた。
多数の生徒の視線が千丈先輩に集まる。
彼女は目を大きくし、顔を真っ赤に染めていた。今にも湯気が出そうだ。助けを求めるように僕に顔を向ける。
「落ち着いてください。ゆっくり息を吐いて」
両手で口を包み、千丈先輩にだけ見える形で口を大きく動かした。
読唇術はうまく成功したようだ。彼女は僕から顔を逸らす。
そして、大きく息を吸った。
息が詰まってゴホゴホと咳き込む。教室にいる生徒は完全に困惑していた。
息を吐くとリラックスする。裏を返せば、息を吸うと緊張感が高まるのだ。まったく、何をやっているんだか。
僕は思わずため息をついた。
「絶賛勧誘中みたいだね」
ふと、横から聞き覚えのある声が聞こえた。
顔を振り向けると飯塚先輩の姿があった。後ろには日和もいる。
「待機って言ったのに何で来ちゃったんですか?」
僕は冷ややかな視線で飯塚先輩を見る。彼女は照れ笑いを浮かべながら、手で頭をボリボリ掻いた。
お昼の部活勧誘は、僕と千丈先輩だけで行うはずだった。
理由は簡単。日和がいると、彼女に一目惚れした男子生徒が集まってくる可能性があるからだ。そうなれば、言遊部は破滅の道を辿るだろう。
「ごめんね。どうしても真奈ちゃんのことが気になっちゃって。一年生の時に、授業の発表で泡吹いて倒れたからさ。緊張のせいでね」
日和は飯塚先輩の横につき、両手を合わせながら謝罪の言葉を述べる。
泡を吹いて倒れた。昨日言われていたら信じなかっただろうが、先ほどの彼女の言動を見てからだと否定はできなかった。
千丈先輩は相変わらず狼狽している。
教室にいる生徒は完全に部活勧誘に興味を失っていた。
「なあ。あの人、めっちゃ可愛くない?」
聞こえてきた声に反射的に耳が動く。
声のした方を見ると、廊下側にいた男子たちがこちらを向いていた。
「本当だ。誰だよ!?」
「もしかして、今いる人が所属する部活の部員かな」
「まじかよ! 一体何部なんだろ?」
男子たちが次々と廊下側にある窓から顔を見せる。
日和に注目が集まっている。予想していたことが現実になってしまった。
「どうするの?」
僕は小さな声で日和に尋ねる。
日和は特に慌てる様子はなく、僕に微笑みかけた。
何か考えがあるのだろう。
そう思った瞬間、日和は僕の右腕に両腕を絡めた。
体を預けるように体重をかけてくる。
シャンプーの甘い香りが鼻腔をくすぐる。
「あいつ……彼氏か……」
「彼氏持ちだったのか……期待させるなよ……」
「羨ましいったらありゃしないな」
男子からの嫉妬による視線が僕に集中する。
殺意のある視線。死線と言ってもいいだろう。
「ほら、大丈夫だったでしょ」
日和は不敵に微笑む。
言遊部は大丈夫だろうが、僕は大丈夫ではない。
弁解したいところだが、日和の彼氏であるのは事実のため弁解の余地はない。この発言すらも彼らの嫉妬を増幅させる元になるだろう。
何も言わないが吉。
声の代わりに息を吐いて、リラックスすることにした。
昨日、ポスターのデザイン決め以外に企てた計画を実行することになった。
「千丈先輩、頑張ってください」
僕はいざ戦地に向かわんとする彼女を鼓舞するように両拳を握った。
本日、僕と千丈先輩は一年生の教室が集まる廊下で集合することとなった。
目的は一つ。部活勧誘のためだ。
先週の終わりに自クラスにやってきたサッカー部同様、昼食時間に教室に入って行うことで半ば強制的に『言遊部』を認知させるのだ。
「が、が、が、頑張るね!」
千丈先輩は声を震わせながら、僕の真似をするように拳を握った。
彼女の様子を見るに戦死は免れないなと俯瞰した自分が結論づける。
「見知らぬ生徒ばかりなので緊張するのは仕方ありません。もし、まずいと思ったら息を吸ってから吐いてください。人は息を吐く時にリラックスします」
「息を吐くだね。吐く。吐く。吐く。ウプッ」
口を手で押さえる。落ち着くと、目には涙が浮かんでいた。
僕は思わず額に汗をかく。先行きが思いやられるが、ここが正念場だ。
「本当にまずいと思ったら素早く廊下に出てください」
「もう、結構まずいんだけどどうしたらいいかな?」
「教室に行ってください」
分かりきっていた回答だったので素早く答える。
千丈先輩は大きく項垂れた。勧誘前なのにテンションは下がりっぱなしだ。
「で、で、では、行ってきます……」
まったくやる気のない兵隊がする敬礼を僕に見せ、教室へと歩いていった。
もうすでに結果は見えている気がしなくもない。だが、言遊部の部員でないため教室に入るのは憚られる。
僕ができることは、千丈先輩が無事に勧誘台詞を言い終えることを願うだけだ。
千丈先輩はロボットのように機械的な動きで教室に入っていく。
動く手と足が同じだ。本人は気づかずに、教壇に上がるまで同じ動作を繰り返した。
季節はゆっくり夏に近づいており、ブレザーを着ているため暑いと思うこともしばしばある。そのため、教室はすべてのドア・窓が開いており、一番前の扉付近にいる僕からは教室の様子は見えやすかった。
見知らぬ生徒が教室に入ってきたからか、あるいは部活勧誘であることを察したのか、教室にいる生徒のほとんどが千丈先輩に顔を向けていた。
多数の生徒の視線が千丈先輩に集まる。
彼女は目を大きくし、顔を真っ赤に染めていた。今にも湯気が出そうだ。助けを求めるように僕に顔を向ける。
「落ち着いてください。ゆっくり息を吐いて」
両手で口を包み、千丈先輩にだけ見える形で口を大きく動かした。
読唇術はうまく成功したようだ。彼女は僕から顔を逸らす。
そして、大きく息を吸った。
息が詰まってゴホゴホと咳き込む。教室にいる生徒は完全に困惑していた。
息を吐くとリラックスする。裏を返せば、息を吸うと緊張感が高まるのだ。まったく、何をやっているんだか。
僕は思わずため息をついた。
「絶賛勧誘中みたいだね」
ふと、横から聞き覚えのある声が聞こえた。
顔を振り向けると飯塚先輩の姿があった。後ろには日和もいる。
「待機って言ったのに何で来ちゃったんですか?」
僕は冷ややかな視線で飯塚先輩を見る。彼女は照れ笑いを浮かべながら、手で頭をボリボリ掻いた。
お昼の部活勧誘は、僕と千丈先輩だけで行うはずだった。
理由は簡単。日和がいると、彼女に一目惚れした男子生徒が集まってくる可能性があるからだ。そうなれば、言遊部は破滅の道を辿るだろう。
「ごめんね。どうしても真奈ちゃんのことが気になっちゃって。一年生の時に、授業の発表で泡吹いて倒れたからさ。緊張のせいでね」
日和は飯塚先輩の横につき、両手を合わせながら謝罪の言葉を述べる。
泡を吹いて倒れた。昨日言われていたら信じなかっただろうが、先ほどの彼女の言動を見てからだと否定はできなかった。
千丈先輩は相変わらず狼狽している。
教室にいる生徒は完全に部活勧誘に興味を失っていた。
「なあ。あの人、めっちゃ可愛くない?」
聞こえてきた声に反射的に耳が動く。
声のした方を見ると、廊下側にいた男子たちがこちらを向いていた。
「本当だ。誰だよ!?」
「もしかして、今いる人が所属する部活の部員かな」
「まじかよ! 一体何部なんだろ?」
男子たちが次々と廊下側にある窓から顔を見せる。
日和に注目が集まっている。予想していたことが現実になってしまった。
「どうするの?」
僕は小さな声で日和に尋ねる。
日和は特に慌てる様子はなく、僕に微笑みかけた。
何か考えがあるのだろう。
そう思った瞬間、日和は僕の右腕に両腕を絡めた。
体を預けるように体重をかけてくる。
シャンプーの甘い香りが鼻腔をくすぐる。
「あいつ……彼氏か……」
「彼氏持ちだったのか……期待させるなよ……」
「羨ましいったらありゃしないな」
男子からの嫉妬による視線が僕に集中する。
殺意のある視線。死線と言ってもいいだろう。
「ほら、大丈夫だったでしょ」
日和は不敵に微笑む。
言遊部は大丈夫だろうが、僕は大丈夫ではない。
弁解したいところだが、日和の彼氏であるのは事実のため弁解の余地はない。この発言すらも彼らの嫉妬を増幅させる元になるだろう。
何も言わないが吉。
声の代わりに息を吐いて、リラックスすることにした。
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