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2章:千丈真奈(部員を5人集めよ)
依頼完了、次なる依頼開始
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休日が明け、再び学校が始まった。
昼休み。僕は保健室を訪れるために渡り廊下を歩いていた。
眠気はない。今日はただ、依頼が完了したことを報告するために赴くのだ。
今週は水曜からゴールデンウィークが始まる。週一で言遊部には顔を出さなければいけないので、今日出席することにした。授業後は予定ができてしまったので、昼休みという長い時間を使って報告することに決めた。
今日の報告を経て、また自由の身だ。
これで、安藤家の別荘で心置きなく遊べるな。
「失礼します」
ノックをし、四宮先生の返事があってからドアを開ける。
すでに先客がいた。カウンセリングのために使っている椅子に向かい合って座っているので、絶賛カウンセリング中ってところか。
相談者は日和のような大和撫子風の女性だ。
黒色のロングヘア。丸っこい目、穏やかな翡翠色の瞳。凹凸のしっかりした体。大人な風貌を見せる彼女は、僕の見立てではおそらく三年生だろう。
「お邪魔みたいでしたね」
「そんなことはないさ。いつもと同じで一番奥のベッドが空いているよ」
四宮先生は右の親指でベッドを指しながら言う。
「いえ。眠気に襲われたから来た訳じゃないんです」
依頼完了の報告をするために来た。
そう言いたいところだが、相談者に聞かせるのは流石にまずい。
「もしかして、言遊部存続に成功したことを報告しに来たのか?」
なんて言えばいいか悩んでいると、四宮先生が取り繕うこともなく直球で語りかけてきた。
「いいんですか? 相談者がいるのに言ってしまって」
相談者に視線を合わせる。
彼女もまた僕を見ていた。好奇の視線を浴びせるように翡翠色の瞳を輝かせている。
「心配いらないよ。私の目の前にいる彼女は言遊元部長の『朱雀 香苗(すざく かなえ)』だからね」
「えっと……言遊部……元部長っ!」
四宮先生の言葉をオウム返しするや否や、相談者は不意に立ち上がり、僕を思いっきり抱きしめた。
シャンプーの甘い香りが鼻腔をくすぐる。
制服越しでもわかる柔らかい感触。日和よりも大きい。
その名前が脳裏によぎった瞬間、僕は思わず彼女の両肩に手を添えた。
「ご、ごめんなさい! つい興奮してしまって!」
朱雀先輩は光のような速さで元の位置に戻る。
我に帰って照れ臭くなったのか人差し指同士をくっつけながら謝罪する。
「こちらこそすみません。急に抱きつかれたので戸惑ってしまって」
「い、いえ。し、知らない人にいきなり抱きつかれたんですもん! 当然の反応ですよ!」
顔全体を真っ赤に染めながら叫ぶように口にする。
あんまり大きな声で『興奮』とか『抱きつく』とか言わないで欲しいな。あるはずはないものの廊下に視線をやって日和が来ていないことを確認する。
「青春だね~」
四宮先生は僕たちのやりとりをニヤニヤしながら見ていた。
「長話になりそうだから君も席につきなさい」
彼女のお言葉に甘え、カウンセリング場所の横にあるソファーに腰掛ける。
「ご紹介が遅れました。先ほど四宮先生が申し上げましたとおり、私は言遊部元部長の朱雀香苗です。よろしくお願いします」
朱雀先輩は椅子を僕の方に向けて深くお辞儀をした。
「最上文也です。よろしくお願いします」
上級生が律儀に挨拶してくれたのに、僕が応えないわけにはいかない。姿勢を正し、僕もまた深く腰を曲げる。
「言遊部に関してはなんとお礼を申し上げたらいいのやら。本当は私が真奈ちゃんの手伝いをするべきだったのですが、お恥ずかしながら受験勉強に手間取っておりまして」
「3年生の本分は受験勉強ですからね。しょうがないですよ」
いつもは穏やかな綾花姉さんも高校3年生の時は殺伐としていたからね。
高校受験と比べて大学受験はレベルが桁違いに上がると言う。毎月のように模試を受けては自分の実力のなさを痛感させられるのは辛いだろうな。
「どうかしましたか?」
僕の発言が意外だったのか、朱雀先輩は目を丸くして固まっていた。
「そんな呆気なく受け入れられるとは思ってもいませんでしたので」
「別に普通だと思いますけど?」
「最上さんは優しいですね。もっとこう『2年生1人に部活を任せるなんて何事じゃ~!』とか怒るかなと思ったのですが」
「通年帰宅部の僕が言うのはなんですが、部活は代々受け継がれていくものですからね。いつまでも3年生が気に掛けるものではないと思っているので」
「通年帰宅部を謳っているのに、今年は言遊部に入ってくれたんですね」
朱雀先輩は僕が言遊部に入ったことを知っているのか。千丈先輩あたりが教えたのだろうか。
「成り行きですよ。それに週に一回顔を出すだけですから」
「部活内に可愛い子がいたんだろ。彼は下心全開だからね」
四宮先生が茶々を入れる。
彼女の言葉を受け、朱雀先輩は恥ずかしそうに両手で口を押さえた。
四宮先生がいなければ良い雰囲気だったのに。
とんだ疫病神だな。まあ、彼女がいなければ今こうして朱雀先輩と話すこともなかっただろうからプラマイゼロか。
「とはいえ、朱雀さんが何もしてないわけではないさ。彼女が千丈さんに私の行っているカウンセリングについて案内をしたんだからね」
「そうだったんですか。なら、朱雀先輩の行いがあって言遊部が存続できた感じですね」
「流石は召使い。分かってるじゃないか」
この前は助手だったのに、また召使いに戻っている。
それよりも、朱雀先輩が「召使い?」と疑問を浮かべた目で僕たちを見ているのが気になる。変な関係性だと思われるのは嫌だな。まあ、変な関係性なのだが。
「私はただ真奈ちゃんを案内しただけですから。言遊部が存続できたのは真奈ちゃんや最上さんのおかげです。本当にありがとうございました。私が大切にしていた部活を守ってくれて」
両手を胸に当て、まじまじと僕を見つめる。
どう反応していいか分からず目線を逸らしてしまう。
「今なら、何でも言うこと一つ聞いてくれるんじゃないか?」
僕たちの様子を見ながら、四宮先生が良からぬことを提案する。不敵な笑みを浮かべているのが良からぬ証拠だ。おそらく自分が見ていたアダルトビデオやエロゲからヒントを得たに違いない。
「そうですね。もし、私ができることなら言ってくれて構いません」
四宮先生からのパスを朱雀先輩は鵜呑みにする。
脳裏によぎるのは卑猥な考えだった。落ち着け。僕には日和がいる。こんなところで変な騒動を起こしてはならない。
「えっと……そういえば、朱雀先輩は今日は言遊部存続決定のお礼に保健室を訪れたんですか?」
ひとまず無理やり話題を変えてみる。
「うんうん。今日は個人的な用事で訪れたんだよ」
「そうだったんですね」
朱雀先輩が千丈先輩に四宮先生のカウンセリングを案内したんだ。彼女もまたよく四宮先生にカウンセリングをしてもらっているのだろう。今日もその一環か。
「なるほど」
四宮先生の瞳がきらりと光る。僕は何だか嫌な予感を覚えた。
「最上くんは君の悩みを解消してあげたいみたいだ」
やっぱり。話題転換した意図が『朱雀さんの悩みの力になりたいから』だと思われたみたいだ。いや、四宮先生の場合はわざとそう思ったに違いない。彼女が僕を見る瞳には召使いをこき使おうという魂胆が垣間見える。
「悩みの解消ですか? それって本来なら私が頼むんじゃ……」
思ってもいなかった願い事を聞かされ、朱雀先輩は困惑した表情を浮かべる。
「彼は言遊部存続に成功して調子づいてるんだ。だから好調である今のうちに色々な人の悩みの力になってあげたいんだろう。なあ、最上くん?」
僕の名前を呼ぶ声には「拒否は許さない」という言葉が隠されているような気がした。ここで否定しようものなら『ガムテープすね毛取り』は免れないだろう。最悪の場合、カッターナイフで切り刻まれるかもしれない。
「そう……ですね……」
最後の悪足掻きを見せるようにスローペースで肯定した。
「なら、お願いしようかな」
朱雀先輩は瞳を輝かせ、敬語をやめてフレンドリーな口調で承諾した。
しばらくは自由な身でいられるかと思ったが、またすぐに別の依頼が始まってしまったのだった。
昼休み。僕は保健室を訪れるために渡り廊下を歩いていた。
眠気はない。今日はただ、依頼が完了したことを報告するために赴くのだ。
今週は水曜からゴールデンウィークが始まる。週一で言遊部には顔を出さなければいけないので、今日出席することにした。授業後は予定ができてしまったので、昼休みという長い時間を使って報告することに決めた。
今日の報告を経て、また自由の身だ。
これで、安藤家の別荘で心置きなく遊べるな。
「失礼します」
ノックをし、四宮先生の返事があってからドアを開ける。
すでに先客がいた。カウンセリングのために使っている椅子に向かい合って座っているので、絶賛カウンセリング中ってところか。
相談者は日和のような大和撫子風の女性だ。
黒色のロングヘア。丸っこい目、穏やかな翡翠色の瞳。凹凸のしっかりした体。大人な風貌を見せる彼女は、僕の見立てではおそらく三年生だろう。
「お邪魔みたいでしたね」
「そんなことはないさ。いつもと同じで一番奥のベッドが空いているよ」
四宮先生は右の親指でベッドを指しながら言う。
「いえ。眠気に襲われたから来た訳じゃないんです」
依頼完了の報告をするために来た。
そう言いたいところだが、相談者に聞かせるのは流石にまずい。
「もしかして、言遊部存続に成功したことを報告しに来たのか?」
なんて言えばいいか悩んでいると、四宮先生が取り繕うこともなく直球で語りかけてきた。
「いいんですか? 相談者がいるのに言ってしまって」
相談者に視線を合わせる。
彼女もまた僕を見ていた。好奇の視線を浴びせるように翡翠色の瞳を輝かせている。
「心配いらないよ。私の目の前にいる彼女は言遊元部長の『朱雀 香苗(すざく かなえ)』だからね」
「えっと……言遊部……元部長っ!」
四宮先生の言葉をオウム返しするや否や、相談者は不意に立ち上がり、僕を思いっきり抱きしめた。
シャンプーの甘い香りが鼻腔をくすぐる。
制服越しでもわかる柔らかい感触。日和よりも大きい。
その名前が脳裏によぎった瞬間、僕は思わず彼女の両肩に手を添えた。
「ご、ごめんなさい! つい興奮してしまって!」
朱雀先輩は光のような速さで元の位置に戻る。
我に帰って照れ臭くなったのか人差し指同士をくっつけながら謝罪する。
「こちらこそすみません。急に抱きつかれたので戸惑ってしまって」
「い、いえ。し、知らない人にいきなり抱きつかれたんですもん! 当然の反応ですよ!」
顔全体を真っ赤に染めながら叫ぶように口にする。
あんまり大きな声で『興奮』とか『抱きつく』とか言わないで欲しいな。あるはずはないものの廊下に視線をやって日和が来ていないことを確認する。
「青春だね~」
四宮先生は僕たちのやりとりをニヤニヤしながら見ていた。
「長話になりそうだから君も席につきなさい」
彼女のお言葉に甘え、カウンセリング場所の横にあるソファーに腰掛ける。
「ご紹介が遅れました。先ほど四宮先生が申し上げましたとおり、私は言遊部元部長の朱雀香苗です。よろしくお願いします」
朱雀先輩は椅子を僕の方に向けて深くお辞儀をした。
「最上文也です。よろしくお願いします」
上級生が律儀に挨拶してくれたのに、僕が応えないわけにはいかない。姿勢を正し、僕もまた深く腰を曲げる。
「言遊部に関してはなんとお礼を申し上げたらいいのやら。本当は私が真奈ちゃんの手伝いをするべきだったのですが、お恥ずかしながら受験勉強に手間取っておりまして」
「3年生の本分は受験勉強ですからね。しょうがないですよ」
いつもは穏やかな綾花姉さんも高校3年生の時は殺伐としていたからね。
高校受験と比べて大学受験はレベルが桁違いに上がると言う。毎月のように模試を受けては自分の実力のなさを痛感させられるのは辛いだろうな。
「どうかしましたか?」
僕の発言が意外だったのか、朱雀先輩は目を丸くして固まっていた。
「そんな呆気なく受け入れられるとは思ってもいませんでしたので」
「別に普通だと思いますけど?」
「最上さんは優しいですね。もっとこう『2年生1人に部活を任せるなんて何事じゃ~!』とか怒るかなと思ったのですが」
「通年帰宅部の僕が言うのはなんですが、部活は代々受け継がれていくものですからね。いつまでも3年生が気に掛けるものではないと思っているので」
「通年帰宅部を謳っているのに、今年は言遊部に入ってくれたんですね」
朱雀先輩は僕が言遊部に入ったことを知っているのか。千丈先輩あたりが教えたのだろうか。
「成り行きですよ。それに週に一回顔を出すだけですから」
「部活内に可愛い子がいたんだろ。彼は下心全開だからね」
四宮先生が茶々を入れる。
彼女の言葉を受け、朱雀先輩は恥ずかしそうに両手で口を押さえた。
四宮先生がいなければ良い雰囲気だったのに。
とんだ疫病神だな。まあ、彼女がいなければ今こうして朱雀先輩と話すこともなかっただろうからプラマイゼロか。
「とはいえ、朱雀さんが何もしてないわけではないさ。彼女が千丈さんに私の行っているカウンセリングについて案内をしたんだからね」
「そうだったんですか。なら、朱雀先輩の行いがあって言遊部が存続できた感じですね」
「流石は召使い。分かってるじゃないか」
この前は助手だったのに、また召使いに戻っている。
それよりも、朱雀先輩が「召使い?」と疑問を浮かべた目で僕たちを見ているのが気になる。変な関係性だと思われるのは嫌だな。まあ、変な関係性なのだが。
「私はただ真奈ちゃんを案内しただけですから。言遊部が存続できたのは真奈ちゃんや最上さんのおかげです。本当にありがとうございました。私が大切にしていた部活を守ってくれて」
両手を胸に当て、まじまじと僕を見つめる。
どう反応していいか分からず目線を逸らしてしまう。
「今なら、何でも言うこと一つ聞いてくれるんじゃないか?」
僕たちの様子を見ながら、四宮先生が良からぬことを提案する。不敵な笑みを浮かべているのが良からぬ証拠だ。おそらく自分が見ていたアダルトビデオやエロゲからヒントを得たに違いない。
「そうですね。もし、私ができることなら言ってくれて構いません」
四宮先生からのパスを朱雀先輩は鵜呑みにする。
脳裏によぎるのは卑猥な考えだった。落ち着け。僕には日和がいる。こんなところで変な騒動を起こしてはならない。
「えっと……そういえば、朱雀先輩は今日は言遊部存続決定のお礼に保健室を訪れたんですか?」
ひとまず無理やり話題を変えてみる。
「うんうん。今日は個人的な用事で訪れたんだよ」
「そうだったんですね」
朱雀先輩が千丈先輩に四宮先生のカウンセリングを案内したんだ。彼女もまたよく四宮先生にカウンセリングをしてもらっているのだろう。今日もその一環か。
「なるほど」
四宮先生の瞳がきらりと光る。僕は何だか嫌な予感を覚えた。
「最上くんは君の悩みを解消してあげたいみたいだ」
やっぱり。話題転換した意図が『朱雀さんの悩みの力になりたいから』だと思われたみたいだ。いや、四宮先生の場合はわざとそう思ったに違いない。彼女が僕を見る瞳には召使いをこき使おうという魂胆が垣間見える。
「悩みの解消ですか? それって本来なら私が頼むんじゃ……」
思ってもいなかった願い事を聞かされ、朱雀先輩は困惑した表情を浮かべる。
「彼は言遊部存続に成功して調子づいてるんだ。だから好調である今のうちに色々な人の悩みの力になってあげたいんだろう。なあ、最上くん?」
僕の名前を呼ぶ声には「拒否は許さない」という言葉が隠されているような気がした。ここで否定しようものなら『ガムテープすね毛取り』は免れないだろう。最悪の場合、カッターナイフで切り刻まれるかもしれない。
「そう……ですね……」
最後の悪足掻きを見せるようにスローペースで肯定した。
「なら、お願いしようかな」
朱雀先輩は瞳を輝かせ、敬語をやめてフレンドリーな口調で承諾した。
しばらくは自由な身でいられるかと思ったが、またすぐに別の依頼が始まってしまったのだった。
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