保健室の先生に召使にされた僕はお悩み解決を通して学校中の女子たちと仲良くなっていた

結城 刹那

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3章:夕凪雅(体育祭で活躍せよ)

二人きりのテスト勉強

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 夕凪さんとの特訓は、テスト後にある種目決めが終わってから行うことにした。何かのトラブルで別の種目になる可能性もあるからだ。ひとまずはテストに集中するということで落ち着いた。

 休日。約束どおり僕は勉強会を行うために日和の家に足を運んだ。日和の家に最後にやってきたのはゴールデンウィークの時だったので約1週間ぶりだ。

 インターホンを鳴らす。しばらくすると、玄関の扉が開いた。

「いらっしゃい」

 出てきたのは日和だった。髪をポニーテールに結び、白のTシャツに黒の短パンとラフな格好をしている。おそらく部屋着なのだろう。良いものが見れて良かったと思う一方で、他の人には見られたくないという気持ちが湧き上がる。

「お邪魔します」

 日和に招かれ家に入る。

「今日は誰もいないの?」

 玄関で靴を脱ぎ、リビングまでやってくる間、誰の姿を見ることもなければ物音すら聞こえてこなかった。

「うん。両親は今日もお仕事の方に行っちゃったから」

「橘さんは?」

 日和が家にいるのなら、家政婦の橘さんがお世話をしそうなものだが。

「今日は来なくて良いよって私が伝えたの。おかげで普段は珠代さんがやってくれていたことを私が全部やらないといけなくなっちゃったけど」

 家事をするための邪魔にならないように、普段は見ないポニーテールをしているのか。

「どうして来なくていいなんて言ったの?」

 疑問に思ったので聞いてみると、日和は目を丸くした。徐々に赤く染まっていく頰。目を僕から逸らしていく様は何か羞恥心を覚えているみたいだった。

「文也と二人きりで勉強したかったから」

 ポッとでた日和からの回答に心臓を打たれる

「ほら、もし家に誰かいたら、何かあった時に困るじゃん……」

 体をもじもじさせながら言う日和。何があるのかと聞きたい気持ちはあるが、大体の予想はつくので聞かないことにする。すでに変な気が漂っているのに、そんなことを聞けば一層際立ってしまう。

「ひ、ひとまず私の部屋に行こうか! ジュースとかお菓子とか持っていくから文也は先に部屋に行ってて」

 気を打ち払うように両手を叩くと、日和は僕に指示する。言われるがままに僕は日和の部屋に足を運んだ。

 扉を開けると、見慣れた景色が広がる。僕は部屋の真ん中にあるテーブルに腰掛けた。

 ふと、ベッドの下の引き出しに目がいく。そういえば、あそこにはマッサージ器具が仕舞われているんだっけ。先ほどの発言があったからか、変なシチュエーションが頭の中で描かれる。頭を振ることで僕は卑猥な妄想を消し去った。

 今日は勉強会をしに来たのだ。目的を忘れてはいけない。

 やるのなら、休憩時や勉強が終わった後にしよう。って何を考えているのだ。まるで綾花姉さんのような思考をしてしまった自分を恥じる。どうやら血は争えないみたいだ。

「お待たせ~」

 自分の中の妄想と戦っていると日和がやってきた。そこで、頭にあった妄想は強制的に排除される。本人を前に妄想するのは流石に良くないと本能的に思ってくれたらしい。

 日和は持っていたお盆をテーブルの上に置く。スナック菓子とクッキーが綺麗に皿に並べられている。ジュースは見た目からしてオレンジジュースだろう。

「じゃあ、早速始めていこうか。明日が文也にとって高校生活最初のテストになるわけだけど、何か困ったところはない? 分からないところがあれば、2年生である私に何でも聞いてくれていいからね」

 日和は胸に手を当て、自信満々な笑みで僕に問いかける。実力テストはあったものの、高校生で習ってきたことに対するテストは今回が最初だ。

「胸を貸してくれるのは有難いんだけど、特にこれと言って困ったことはないんだよね」

 保健室で寝ることが前提となっているため、学校から帰ってきたら授業で行ったことを復習することにしている。その中で特に躓いた点はなかった。テスト週間の勉強で躓いた部分もないため、今日は最終チェックで終わりにする予定だった。

 僕からの答えを聞いて日和は眉を下げる。

「はぁ~、和光さんの入部の経緯について聞いてたから知ってたけど、やっぱり文也は優秀だったか。高校になって勉強で躓く子が増えるから、もしかしたらと思ったけど杞憂だったみたいだね」

「ご、ごめんね」

「別に謝ることはないよ。私が勝手に、文也に年上らしいところを見せられると思って期待していただけだから」

 ゴールデンウィークの時に、あらぬ形で僕が『年上好き』であることを知ったんだっけ。

「今更そんなことしなくてもいいのに。僕の好みのタイプであろうとなかろうと日和が好きなことに変わりないんだから」

 日和を励ますために言う。床に下げた視線を瞬間的に僕の方に向ける。頰はおろか顔全体が真っ赤に染まる。言葉が出そうで出ないのか唇が閉じながらも小刻みに揺れていた。

「そう言うのはずるい。でも、ありがとう」

 恥ずかしさを紛らわせるためか、感謝を述べるや否やその場から立ち上がる。自分の机に行き、鞄から勉強用具を取り出す。日和の心をうまく揺さぶったと思ったが、最後の礼に僕もまた心を踊らされていた。

 恥ずかしがりながら感謝する日和というのも見応えがあった。

「あ、そういえば、一つだけ聞きたいことがあったんだけど良いかな?」

 ふと、数日前に抱いた疑問を思い出す。それはきっと日和の今の表情を頭の中でコレクションしようとした時に、近辺にあった表情に目が行ったからだろうか。

「何?」

 ようやく頼ってもらえると思ったのか、先ほどとは打って変わって瞳を輝かせ、キラキラした表情をしている。

 正直、そんなに期待するような質問ではない。

「夕凪さんと一緒にいた時の話になるんだけどさ。日和、何か僕に隠していることでもある?」

 僕が尋ねると、日和は意表を突かれたように口を小さく開けた。

「夕凪さんと一緒にいた時、いつもの日和とちょっと違ったというか。特に、お姉さんの話を聞いている時は笑ってたけど、寂しそうな表情だったから、何かあったのかと思って」

 具体的に話すと、日和は僕から視線を外す。棚からも教材を出し、束ねたところで僕の座る位置へと歩いて来た。

「多分、変な想像をしていたからそう見えちゃったんだろうね」

 テーブルに教材を置き、僕の隣に正座する。

「変な想像って?」

「雅ちゃんの話を聞いて、兄妹ってどんなのかなって思ったんだ。ほら、私は一人っ子だからさ。上の子や下の子がいた場合、どんな生活になるのかなって妄想したんだ」

 なるほど。憧れを含んだ表情だったからいつもと違って見えたのか。

「日和はもし兄弟ができるとしたら、上か下か、女か男か、どれがいい?」

「うーん。私はやっぱりお兄ちゃんかな」

「お兄ちゃんか。なんていうか、日和は頼られたいのか、頼りたいのか、よく分からないね」

「確かに。でも、そうだな……」

 日和は言いながら、僕との距離を近づける。反対の腕同士がくっつき、日和の頭が僕の肩に乗った。

「多分、構ってほしい気持ちがあるんだと思う」

 僕の耳に近づいたからか先ほどよりも息が多く、色っぽい声になる。僕は思わず日和の逆サイドの腕に手を添え、ギュッと抱きしめた。

「なら、僕は日和を頼りつつ、日和に頼ってもらえるように頑張るよ」

 僕がそう言うと、日和は「期待している」と言いながら僕の脇腹に手を添えた。それからしばらく僕らは喋ることなく、互いの存在を確かめ合うように抱き合ったのだった。
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