保健室の先生に召使にされた僕はお悩み解決を通して学校中の女子たちと仲良くなっていた

結城 刹那

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3章:夕凪雅(体育祭で活躍せよ)

出場者のタイムを調べよう2

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 今日は言遊部に行くことが決まったため、和光さんと一緒に後ろの扉から教室を出た。

「師匠~」

 廊下に出てすぐ夕凪さんの声が聞こえた。顔を向けると、前扉付近からこちらに手を振る夕凪さんと日和の姿が見える。夕凪さんは元気よく、日和は控えめに手を振っていた。

「この前から気になっていたけど、どうして『師匠』って呼ばれているのかしら?」

 隣にいた和光さんがそんなことを聞いてくる。気になるのも無理はないか。

「今三人で体育祭に向けて練習しているんです。僕は彼女の指導をしているので、彼女から『師匠』と呼ばれるようになったという感じですね」

「へぇ……亡霊くんは指導できるほど陸上競技に関しては才能があるのね」

 本心で言っているのか、皮肉で言っているのかは判断できなかった。まあ、和光さんのことだから後者だろうな。最初の反応が馬鹿にしている感じだったし。

「才能はありませんよ。僕の指導は動画で習ったことの受け売りですから」

「素直に認めるのね。『師匠』と呼ばれて驕り高ぶっているわけではなくて良かったわ」

 そう言って二人のいる方に向かって歩き始める。僕も急ぎ足で彼女に付いていく。

「和光さん、こんにちは」

 近くまで行くと、日和が和光さんに丁寧に挨拶する。和光さんもまた「こんにちは」と軽い会釈をした。顔見知りではあるものの、親しくない間柄ならではの光景だ。

「師匠、この方は?」

 夕凪さんが僕に尋ねる。昨日会ってはいるものの、記憶にないらしい。あの時の夕凪さんは練習熱で僕しか見えていなかったのだろう。

「まさか……浮気相手ですか……!?」

 僕と和光さんを交互に見た後、夕凪さんは目を大きく開いてそんなことを口にした。

 何を言っているのだか。仮に浮気相手であるとしたら、こんな堂々と一緒に教室から出ていくわけないではないか。変な冗談を言う夕凪さんを微笑ましく思いながら、「そんなわけないですよね」と言う意味を込めて和光さんを見る。

 すると、和光さんは薄汚いものを見るような侮蔑の籠った目で夕凪さんを見ていた。

 和光さんのゴミを見るような視線を受け、夕凪さんは口を噤む。体を震わせながら恐怖に平伏していた。

 震える肩に日和が両手を乗せる。恐怖を抱く夕凪さんを癒すためか。

「雅ちゃん、冗談であっても言っていいことと言っちゃいけないことがあることくらいは分かるよね?」

 違う。癒すためではなく、懲らしめるために両肩を乗せたみたいだ。その証拠に、夕凪さんに乗せた手は彼女の肌に食い込むくらい力が入っている。

「ごごごごめんなさい……」

 前後から来る威圧に耐えきれず、夕凪さんはタジタジになりながら謝罪する。可哀想に思う気持ちもあるが、『冗談であっても言っていいことと言っちゃいけないことがある』と言う日和の正論の前に庇うことはできなかった。

「そういえば、先ほどこちらの男が女子をナンパしていましたよ」

 三人の様子を微笑ましく見ていた僕に火種が放たれる。和光さんが僕を頭で指しながらそんなことを言ってきたのだ。丁寧語であることから誰に向けて言ったかは一目瞭然だった。

 夕凪さんに向けていた優しい表情が僕の方に向く。優しい表情と言っても、それはあくまで表面的に見えるものであって、裏側では業火の炎が渦巻いているに違いない。

「ち、違うから。ナンパじゃなくて、昨日のことについて話していたんだ」

「昨日のこと?」

 僕の言葉によって日和から笑みが消える。これは裏側にある業火の炎が消えたわけだから悪いことではない。むしろ良いことだ。

「うん。夕凪さんのお姉さんが言っていた『敵を知る』ための行動。うちのクラスで1000メートル走に出場する生徒のタイムについて聞いたんだ」

「なるほど。そう言うことだったのね」

 日和は納得したところで和光さんに対して訝しげな表情を見せる。彼女に揶揄われたと感じたのだろう。

「そうだったのね。でも、その女子に『可愛い』とか言われてなかったかしら? それで照れていたわよね。タイムを聞くだけの作業にそんなことが起こるかしら?」

 日和の顔が再び僕を向く。表情は満面の笑み。再び発した熱は先ほどよりも大きく炎を燃え上がらせていた。

 実際にあった出来事であるため、否定すると墓穴を掘る可能性がある。というか、何で和光さんは僕が笠井さんに「可愛い」と言われたことを知っているのだろうか。とてつもないほどの地獄耳を持った人だったようだ。これからは発言に気をつけたほうが良いかもしれない。

「タイムを聞くだけの作業ですが、『何でそんなことを聞くの?』と思われないために色々と細工が必要だったんです。その細工のせいでドジをしてしまって言われたんですよ」

「その細工のおかげじゃないかしら。『可愛い』って言われて嬉しかったんでしょ?」

 この人はどうしても僕を燃え上がらせたいらしい。冷たい目で和光さんを見るものの、彼女は依然と面白がっている表情で僕を見る。

「『可愛い』って言われて嬉しくならない人はいないと思いますよ。ね、日和?」

 ここで答えるのを憚れば、日和の炎はさらに激しさを増すだろう。得策なのは、堂々としながら『誰が相手でも同じこと』を告げることだ。

 堂々とすることで発言が嘘ではないことを示し、『誰が相手でも同じ』と発言することでその人物に情があっての反応ではないことを示す。

 さらに、同調を求めることで冷静になって考える機会を与える。冷静さを欠いた相手には効果抜群の方法だ。

「えっと……そうかも……」

 僕の意図したとおり、日和は考える素振りを見せてから僕の意見に賛成した。彼女から発される怒りオーラは完全に消えている。

 我ながらナイス判断だ。得意げに和光さんを見ると、彼女はつまらなさそうに澄まし顔をしていた。

「そういえば、夕凪さんのお姉さんは?」

「今日は友達と遊ぶから来ないそうです」

 友達と遊ぶから来ない。それは、裏を返せば『もし何も予定がなければ来る』ということだ。

 夕凪さんとの練習に付いてくるのは昨日きりだと思ったが、これからも来る可能性があるみたいだ。日和と彼女を二人きりにさせるのは憚られるので、今日予定が入ってくれていて助かった。

「そっか。実は今日は僕も練習には参加できない」

「えっ! そうなんですか!?」

 いきなりの発言に夕凪さんはおろか日和も驚いていた。

「夕凪さんのお姉さんが言っていた『1000メートル走に出場する女子のタイム』を早めに知っておきたいからね。知るための細工に部活が関係しているから、今日は部活に行ってそのことをみんなに共有しておこうと思って」

 僕に質問された人が他の部員に質問のことを話して、「そんなのないよ」と言われたら混乱を招きかねない。部員数が少ないので、そんなことは起こらないと思うが、万が一のために口裏を合わせておくのは必要だ。

 週に1回は顔を出さなければいけない。であれば、必要なことがある今のタイミングで参加しておくのが効率的だろう。

「今日行う練習メニューは作っておいたから、それを参考にして」

 僕はスマホを取り出すと、メモ帳から今日の練習メニューをコピーする。チャットに切り替え、夕凪さんと日和と僕のグループにコピーした内容を貼って送信した。

 目の前にいる二人のスマホが鳴る。二人もまたスマホを取り出し、画面を見る。

「分かりました。師匠、ありがとうございます」

「気にしないで。じゃあ、日和。今日の練習はよろしくね」

「了解。それじゃあ、雅ちゃん。私たちは行こうか」

 挨拶を交わし、僕らは交わるようにして互いの行くべき道に進んでいった。
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