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逃亡編
攻撃は最大の防御?
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彼からメールが来たのは、終業時間の3分後。
そのメールを確認したのは5時のチャイムが鳴った10分後。
残業でもしてくれれば…と淡い期待をしたが、届いたメールを見て、私の願いは届かなかったと頭を垂れた。
そこには店の名前と地図が貼り付けられており…
“理彩さんが来るまで、ずっと待ってます!”
と、一言だけ書いてあった。
肺が空っぽになるほどの深い溜め息を吐いて、私は机に突っ伏した。
彼に会いに行きたくない。
でも、行かなければ絶対に彼は終業時間に毎日のように待っていることになることは目に見えてる。
それは職場に迷惑がかかるので、絶対に避けたい。
その辺の私の考えも見透かして、彼は行動している気がする。
菜々美まで味方につけてるし…。
「…行くしかないか。」
マナー違反にならない程度に化粧直しをして、私は待ち合わせ場所に向かった。
場所は駅から程よく離れた住宅街に佇む2階建てのダイナバーで、立て看板を見ると、どうやら楽器の生演奏が聴けるらしい。
「本日は“クラッシックday”かぁ…」
立て看板のその文字に、少し顔が緩む。
私は音楽は何でも聴くけど、クラッシックも大好き!
今から会う相手はともかく、先程までのドナドナ気分が少し上向いた。
ドアを開けて中に入ると、丁度バイオリン奏者の演奏が終わったところだった。
店員さんに待ち合わせであることを伝えてると、木の板張りの床を小気味良く蹴り、駆け寄ってくる足音が聞こえた。
「理彩さん、来てくれたんですね!」
その声が聞こえる方向に目を向けると、4日前に知り合った時のビシッとした雰囲気はなく、ネクタイを少し緩めるついでに、顔の表情筋まで甘く極限まで緩めた笑顔の彼が私の目の前に立っていた。
(…無防備に色気を振り撒いとる、コイツ。)
私はそんな彼の色気にあてられない様に、顔を引き締めた。
「…お疲れ様です。」
「堅い挨拶は抜きにしましょう!席、こっちです。」
つっけんどんな私の挨拶を他所に、彼は私の手を引いて席に向かった。
グランドピアノが鎮座する1階フロアを望む、吹き抜けの2階のソファー席まで彼にエスコートされて私は座った。
私たち以外はその2階席には誰もいない。
まるで貸し切られた様な空間を、ちょっと緊張しながら眺めた。
店員さんが持ってきたメニューリストを受け取り、見ていると向かいの席から送られる、ウザいぐらいの熱視線に気付く。
「…ジロジロ見んな。」
「俺が理彩さんに会えたの4日ぶりなんです。せめて視覚的に理彩さんを補充させて下さい。」
「…補充なしで生きてくれ。今まで大丈夫だったんだから。」
「理彩さんの存在を知っちゃったから無理です。」
甘く蕩けたような彼の声が、不本意ながら私の背骨をくすぐる。
丁度、注文を取りに来た店員さんが、一瞬後退りするぐらい彼はフェロモン垂れ流しである。
「白のスパークリングワインとスズキのアクアパッツァをお願いします。」
「かしこまりました。」
そんな彼に比べて冷静な私の態度に、少し首をかしげながら店員さんは階段を降りて行った。
「理彩さん」
彼が私の名前を呼ぶが、私は1階のグランドピアノを見下ろして視線を合わせないで返事をした。
「…何?」
「俺のこと、嫌いですか?」
真面目な彼らしいストレートな聞き方だ。
私も取り繕わず、真っ直ぐ彼の方を見て、素直に答える。
「嫌えるぐらい君を私は知らないし、かといって好きになるほどの君を私は知らない。ただ…。」
「ただ…?」
「仕事の邪魔になるウザさは感じてる。」
一瞬、私の“ウザさ”という言葉がトスンッ!と彼に突き刺さったようで、笑顔で固まった。
「まぁ…でも心配させたことは謝る。君がそういう思考になることは想定外だった…ごめんなさい。」
「理彩さん…」
彼から逃げられなかったことは、本当に不本意だし気に食わない。
でも、心配してくれた彼の気持ちに罪はない。
そう思って発した言葉だったが、彼が瞳を揺らすほど喜ぶとは思っても見なかった。
これから彼を振るつもりなのに…。
「しかし、あの合コンのメンバーで、君に片想いしていた菜々美を味方につけたのは許せん!」
私の抗議の言葉に、苦笑しながら彼は話す。
「それは理彩さんが俺の連絡から逃げるからでしょ?逃げなければ、もう職場に電話したりしません。」
「今度、職場に電話してきたら居留守を使うまでだけどね。」
「なら、やっぱり俺、毎日のように理彩さんの会社の前でストー…」
不穏なワードを口にした彼の声を私は慌てて遮った。
「君は自分のキャリアや社会的地位をかけてまで、何するつもりだ!」
「そんなの決まってます!理彩さんを捕まえたい!これからの人生、俺だけの女性になって欲しい!」
…頭が痛い…痛すぎる。
エリート街道を爆進している奴の言葉とは、全然全く思えない。
女に現を抜かすな!と迄は言わないけど、なんで現を抜かす相手が私なのだ?
自分の人生かけるほどの価値を、私の何処に見出だしたんだコイツは…。
しかも…まるでプロポーズじゃないか…。
私は額を片手で押さえながら、深く息を吐いた。
そのメールを確認したのは5時のチャイムが鳴った10分後。
残業でもしてくれれば…と淡い期待をしたが、届いたメールを見て、私の願いは届かなかったと頭を垂れた。
そこには店の名前と地図が貼り付けられており…
“理彩さんが来るまで、ずっと待ってます!”
と、一言だけ書いてあった。
肺が空っぽになるほどの深い溜め息を吐いて、私は机に突っ伏した。
彼に会いに行きたくない。
でも、行かなければ絶対に彼は終業時間に毎日のように待っていることになることは目に見えてる。
それは職場に迷惑がかかるので、絶対に避けたい。
その辺の私の考えも見透かして、彼は行動している気がする。
菜々美まで味方につけてるし…。
「…行くしかないか。」
マナー違反にならない程度に化粧直しをして、私は待ち合わせ場所に向かった。
場所は駅から程よく離れた住宅街に佇む2階建てのダイナバーで、立て看板を見ると、どうやら楽器の生演奏が聴けるらしい。
「本日は“クラッシックday”かぁ…」
立て看板のその文字に、少し顔が緩む。
私は音楽は何でも聴くけど、クラッシックも大好き!
今から会う相手はともかく、先程までのドナドナ気分が少し上向いた。
ドアを開けて中に入ると、丁度バイオリン奏者の演奏が終わったところだった。
店員さんに待ち合わせであることを伝えてると、木の板張りの床を小気味良く蹴り、駆け寄ってくる足音が聞こえた。
「理彩さん、来てくれたんですね!」
その声が聞こえる方向に目を向けると、4日前に知り合った時のビシッとした雰囲気はなく、ネクタイを少し緩めるついでに、顔の表情筋まで甘く極限まで緩めた笑顔の彼が私の目の前に立っていた。
(…無防備に色気を振り撒いとる、コイツ。)
私はそんな彼の色気にあてられない様に、顔を引き締めた。
「…お疲れ様です。」
「堅い挨拶は抜きにしましょう!席、こっちです。」
つっけんどんな私の挨拶を他所に、彼は私の手を引いて席に向かった。
グランドピアノが鎮座する1階フロアを望む、吹き抜けの2階のソファー席まで彼にエスコートされて私は座った。
私たち以外はその2階席には誰もいない。
まるで貸し切られた様な空間を、ちょっと緊張しながら眺めた。
店員さんが持ってきたメニューリストを受け取り、見ていると向かいの席から送られる、ウザいぐらいの熱視線に気付く。
「…ジロジロ見んな。」
「俺が理彩さんに会えたの4日ぶりなんです。せめて視覚的に理彩さんを補充させて下さい。」
「…補充なしで生きてくれ。今まで大丈夫だったんだから。」
「理彩さんの存在を知っちゃったから無理です。」
甘く蕩けたような彼の声が、不本意ながら私の背骨をくすぐる。
丁度、注文を取りに来た店員さんが、一瞬後退りするぐらい彼はフェロモン垂れ流しである。
「白のスパークリングワインとスズキのアクアパッツァをお願いします。」
「かしこまりました。」
そんな彼に比べて冷静な私の態度に、少し首をかしげながら店員さんは階段を降りて行った。
「理彩さん」
彼が私の名前を呼ぶが、私は1階のグランドピアノを見下ろして視線を合わせないで返事をした。
「…何?」
「俺のこと、嫌いですか?」
真面目な彼らしいストレートな聞き方だ。
私も取り繕わず、真っ直ぐ彼の方を見て、素直に答える。
「嫌えるぐらい君を私は知らないし、かといって好きになるほどの君を私は知らない。ただ…。」
「ただ…?」
「仕事の邪魔になるウザさは感じてる。」
一瞬、私の“ウザさ”という言葉がトスンッ!と彼に突き刺さったようで、笑顔で固まった。
「まぁ…でも心配させたことは謝る。君がそういう思考になることは想定外だった…ごめんなさい。」
「理彩さん…」
彼から逃げられなかったことは、本当に不本意だし気に食わない。
でも、心配してくれた彼の気持ちに罪はない。
そう思って発した言葉だったが、彼が瞳を揺らすほど喜ぶとは思っても見なかった。
これから彼を振るつもりなのに…。
「しかし、あの合コンのメンバーで、君に片想いしていた菜々美を味方につけたのは許せん!」
私の抗議の言葉に、苦笑しながら彼は話す。
「それは理彩さんが俺の連絡から逃げるからでしょ?逃げなければ、もう職場に電話したりしません。」
「今度、職場に電話してきたら居留守を使うまでだけどね。」
「なら、やっぱり俺、毎日のように理彩さんの会社の前でストー…」
不穏なワードを口にした彼の声を私は慌てて遮った。
「君は自分のキャリアや社会的地位をかけてまで、何するつもりだ!」
「そんなの決まってます!理彩さんを捕まえたい!これからの人生、俺だけの女性になって欲しい!」
…頭が痛い…痛すぎる。
エリート街道を爆進している奴の言葉とは、全然全く思えない。
女に現を抜かすな!と迄は言わないけど、なんで現を抜かす相手が私なのだ?
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私は額を片手で押さえながら、深く息を吐いた。
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