Over the Forty ー夢を見れないお年頃ー

真田 真幸

文字の大きさ
5 / 34
逃亡編 

攻撃は最大の防御?

しおりを挟む
 彼からメールが来たのは、終業時間の3分後。

そのメールを確認したのは5時のチャイムが鳴った10分後。

残業でもしてくれれば…と淡い期待をしたが、届いたメールを見て、私の願いは届かなかったとこうべを垂れた。

そこには店の名前と地図が貼り付けられており…

“理彩さんが来るまで、ずっと待ってます!”

と、一言だけ書いてあった。

肺が空っぽになるほどの深い溜め息を吐いて、私は机に突っ伏した。

彼に会いに行きたくない。

でも、行かなければ絶対に彼は終業時間に毎日のように待っていることになることは目に見えてる。

それは職場に迷惑がかかるので、絶対に避けたい。

その辺の私の考えも見透かして、彼は行動している気がする。

菜々美まで味方につけてるし…。

「…行くしかないか。」


マナー違反にならない程度に化粧直しをして、私は待ち合わせ場所に向かった。





 場所は駅から程よく離れた住宅街に佇む2階建てのダイナバーで、立て看板を見ると、どうやら楽器の生演奏が聴けるらしい。

「本日は“クラッシックday”かぁ…」

立て看板のその文字に、少し顔が緩む。

私は音楽は何でも聴くけど、クラッシックも大好き!

今から会う相手はともかく、先程までのドナドナ気分が少し上向いた。

ドアを開けて中に入ると、丁度バイオリン奏者の演奏が終わったところだった。

店員さんに待ち合わせであることを伝えてると、木の板張りの床を小気味良く蹴り、駆け寄ってくる足音が聞こえた。

「理彩さん、来てくれたんですね!」

その声が聞こえる方向に目を向けると、4日前に知り合った時のビシッとした雰囲気はなく、ネクタイを少し緩めるついでに、顔の表情筋まで甘く極限まで緩めた笑顔の彼が私の目の前に立っていた。

(…無防備に色気を振り撒いとる、コイツ。)

私はそんな彼の色気にあてられない様に、顔を引き締めた。

「…お疲れ様です。」

「堅い挨拶は抜きにしましょう!席、こっちです。」

つっけんどんな私の挨拶を他所に、彼は私の手を引いて席に向かった。

グランドピアノが鎮座する1階フロアを望む、吹き抜けの2階のソファー席まで彼にエスコートされて私は座った。

私たち以外はその2階席には誰もいない。

まるで貸し切られた様な空間を、ちょっと緊張しながら眺めた。

店員さんが持ってきたメニューリストを受け取り、見ていると向かいの席から送られる、ウザいぐらいの熱視線に気付く。

「…ジロジロ見んな。」

「俺が理彩さんに会えたの4日ぶりなんです。せめて視覚的に理彩さんを補充させて下さい。」

「…補充なしで生きてくれ。今まで大丈夫だったんだから。」

「理彩さんの存在を知っちゃったから無理です。」

甘く蕩けたような彼の声が、不本意ながら私の背骨をくすぐる。

丁度、注文を取りに来た店員さんが、一瞬後退りするぐらい彼はフェロモン垂れ流しである。

「白のスパークリングワインとスズキのアクアパッツァをお願いします。」

「かしこまりました。」

そんな彼に比べて冷静な私の態度に、少し首をかしげながら店員さんは階段を降りて行った。

「理彩さん」

彼が私の名前を呼ぶが、私は1階のグランドピアノを見下ろして視線を合わせないで返事をした。

「…何?」

「俺のこと、嫌いですか?」

真面目な彼らしいストレートな聞き方だ。

私も取り繕わず、真っ直ぐ彼の方を見て、素直に答える。

「嫌えるぐらい君を私は知らないし、かといって好きになるほどの君を私は知らない。ただ…。」

「ただ…?」
 
「仕事の邪魔になるウザさは感じてる。」

一瞬、私の“ウザさ”という言葉がトスンッ!と彼に突き刺さったようで、笑顔で固まった。

「まぁ…でも心配させたことは謝る。君がそういう思考になることは想定外だった…ごめんなさい。」

「理彩さん…」

彼から逃げられなかったことは、本当に不本意だし気に食わない。

でも、心配してくれた彼の気持ちに罪はない。

そう思って発した言葉だったが、彼が瞳を揺らすほど喜ぶとは思っても見なかった。

これから彼を振るつもりなのに…。

「しかし、あの合コンのメンバーで、君に片想いしていた菜々美を味方につけたのは許せん!」

私の抗議の言葉に、苦笑しながら彼は話す。

「それは理彩さんが俺の連絡から逃げるからでしょ?逃げなければ、もう職場に電話したりしません。」

「今度、職場に電話してきたら居留守を使うまでだけどね。」

「なら、やっぱり俺、毎日のように理彩さんの会社の前でストー…」

不穏なワードを口にした彼の声を私は慌てて遮った。

「君は自分のキャリアや社会的地位をかけてまで、何するつもりだ!」

「そんなの決まってます!理彩さんを捕まえたい!これからの人生、俺だけの女性 ひとになって欲しい!」

…頭が痛い…痛すぎる。

エリート街道を爆進している奴の言葉とは、全然全く思えない。

女にうつつを抜かすな!と迄は言わないけど、なんで現を抜かす相手が私なのだ?

自分の人生かけるほどの価値を、私の何処に見出だしたんだコイツは…。

しかも…まるでプロポーズじゃないか…。

私は額を片手で押さえながら、深く息を吐いた。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく… なお、スピンオフもございます。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

再婚相手の連れ子は、僕が恋したレンタル彼女。――完璧な義妹は、深夜の自室で「練習」を強いてくる

まさき
恋愛
「初めまして、お兄さん。これからよろしくお願いしますね」 父の再婚によって現れた義理の妹・水瀬 凛(みなせ りん)。 清楚なワンピースを纏い、非の打ち所がない笑顔で挨拶をする彼女を見て、僕は息が止まるかと思った。 なぜなら彼女は、僕が貯金を叩いて一度だけレンタルし、その圧倒的なプロ意識と可憐さに――本気で恋をしてしまった人気No.1レンタル彼女だったから。 学校では誰もが憧れる高嶺の花。 家では親も感心するほど「理想の妹」を演じる彼女。 しかし、二人きりになった深夜のキッチンで、彼女は冷たい瞳で僕を射抜く。 「……私の仕事のこと、親に言ったらタダじゃおかないから」 秘密を共有したことで始まった、一つ屋根の下の奇妙な生活。 彼女は「さらなるスキルアップ」を名目に、僕の部屋を訪れるようになる。 「ねえ、もっと本気で抱きしめて。……そんなんじゃ、次のデートの練習にならないでしょ?」 これは、仕事(レンタル)か、演技(家族)か、それとも――。 完璧すぎる義妹に翻弄され、理性が溶けていく10日間の物語。 『著者より』 もしこの話が合えば、マイページに他の作品も置いてあります。 https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/658724858

離婚すると夫に告げる

tartan321
恋愛
タイトル通りです

お父さんのお嫁さんに私はなる

色部耀
恋愛
お父さんのお嫁さんになるという約束……。私は今夜それを叶える――。

処理中です...