Over the Forty ー夢を見れないお年頃ー

真田 真幸

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逃亡編 

菜々美のお説教と裏切り

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 昼休み、菜々美と一緒に会社からちょっと離れたイタリアンレストランでランチを取った。

7月の割りに今日は涼しい為、窓際のテラス席に座った。

菜々美のミルクティーブラウンの緩いウェーブヘアがふわふわと夏の風に揺れる。

右耳に光るピンクゴールドの小さなハートのピアスを弄りながらメニューを見ている菜々美を横目で見ながら、若い男性社員たちが通りすぎていく。

(うん…これが若い男子の正しい反応。)

女の私から見たって、菜々美は間違いなく可愛らしい。

一般的な男子なら嫌いになる方が難しいと思う。

(私が男でも間違いなく、菜々美を選ぶよなぁ…。)

やはり、上原一哉 カ レ の嗜好が理解できない。

「うーん、やっぱりいつものにしちゃおうかなぁ~。夏限定の冷製パスタは今日の気温には合わない気がする…。」

ちょっと眉間に皺を寄せながら、菜々美が呟く。

「他も美味しいけど、やっぱりここに来るとアレが食べたくなるよね~!」

菜々美も私もここの“海老の濃厚ビスク風パスタ”が大好きで、今日もそれを頼むことにした。




食後、注文していたアイスティーとデザートが揃ったタイミングで、私は菜々美に謝った。

「…不可抗力とはいえ、本当に何と言って良いやら…とにかく、合コンをぶち壊す羽目になってゴメン!」

「大丈夫です。理彩姉がキチンと上原さんに対応してくれていたのは、他のメンバーの子も分かってますし…。やっぱり上原さんは私たちには無理めな人だったなぁ…って話になってましたから。」

「無理め?」

「上原さん、あのルックスだし、性格も誠実だし、仕事も出来るから女の子には凄くモテるんです。」

「…だろうね。」

「でも…上原さん、あまり女性に興味がないらしいって話だったんです。大学時代から上原さんを知ってる同僚の人から聞いた話なんですが、モテる割りには、浮いた噂が全くなくて、逆に近寄りがたいというか…女の子を近寄らせないというか…。」

菜々美の言葉に、私のアイスティーをかき混ぜる手が止まる。

「…なんか合コンの時の印象と全く違うんだけど?どちらかと言えばガンガン攻めてくる肉食系じゃなかった?」

菜々美には絶対に話せないが、私をお持ち帰りした上でセフレ関係から恋愛関係を目指す!とまで言った男だ。

もっとアグレッシブに、恋愛を楽しんでいるのかと思っていた。

「それは理彩さんだったからですよ。上原さんも言ってたでしょ?一目惚れだって。」

「私は菜々美の方が良い女だと思うんだけどなぁ…。社内のお嫁さんにしたいNo.1!」

やっぱり、彼には菜々美が似合う!と言うと、菜々美は困った顔をした。

「理彩姉、その事なんですが…私のことは気にしないで、上原さんとちゃんとお付き合いしてください!」

菜々美の言葉に驚いていて、私は口に運んでいる最中だったカッサータを皿に落とした。

まさか…菜々美に彼と付き合えと言われるとは思っても見なかった。

「…無理。」

「理彩姉!」

「一時の同情的な感情に流されて付き合うのは、彼の為にならない。確かに私は外見年齢的には若いかも知れないけど、41歳って年は、もう女という生体として終わってる歳なんだよ。」 

「そんなこと…」

「そんなことあるんだよ、菜々美。恋愛限定なら…まぁ100歩譲って良かったとしても、その先の約束なんか出来ない。浮かされた熱のような気持ちが、もしも本物になった時、結婚とか出産とかハードル高すぎるんだよ。本人同士にとっても、親族にとってもね。」

少しアイスティーを含んで、私は話を続ける。

「私を本気で彼が好いてくれいるとしても、喜んで彼の手を取ることは、私には出来ないよ。
ましてや一回り以上年下だよ?
例え、交際を求めてきた相手が彼じゃなくても、相手の未来を考えれば、私はお断り!
 確かに…子供を作れない訳じゃないけど、40過ぎの私にとっても、産まれてくる子供にとっても凄くリスクが高いし、もしも五体満足で生まれて、そのリスクをクリアしたとしても、今から男として輝いていく彼を見ながら、どんどん老いて行くのはキツイと思う。今は、彼から向けられる好意が嬉しくて好ましいと思えても、人の気持ちに永遠はないから…。」

「そんなの分からないじゃないですか…そうならないかも知れないのに…。」

菜々美は膨れながら、ティラミスを口に含む。

「希望だけで、私を彼に押し付ける様なことはしたくないのよ。女の10歳以上年上は、男には重石おもし。その辺を理解して貰わないと…。」

深い溜め息と共に、菜々美は私をジーっと見つめた。

「…やっぱり理彩姉には敵わないなぁ…。そんなんじゃ上原さん、理彩姉をますます好きになっちゃうよ…。」

「こっぴどく振ってやるから、これ以上私を好きになんかならないよ!」

「理彩姉は分かってない。上原さんがなんで理彩姉を好きになったのか…。」

「きっと、若い女の子とは違う様に見えただけ。例えるなら…毛色の違う山猫だから?」

「も~~~う!!とにかく、私は降りますから!上原さんとちゃんと向き合って話して下さい!」

「菜々美!」

「理彩姉は暖かくてとても優しいけど、時にそれが残酷です。理彩姉が言ってる事は、世間一般的には正しいのかも知れないけど、もっと素直に人を好きになっても良いと思う。理彩姉は歳なんて関係なく素敵な女性だもん。上原さんはそれを分かってるから理彩姉を好きになったんだと思う。なのに向き合わないで逃げるなんてズルいです!それで棚ぼた的に失恋した上原さんが手に入ったとしても、私はちっとも嬉しくないです!」

「…」

「私に遠慮するぐらいなら、逆に羨ましいぐらいに幸せになって下さい!上原さん、理彩姉にちゃんと本気です!…理彩姉、4日間も上原さんからの連絡を無視してたでしょ?」

「は?何で菜々美がそんなこと知ってるの?」

菜々美は息を飲み込んでから、勢い良く頭を下げた。

「ゴメンなさい!理彩姉の所属先をバラしたの…私です!」

菜々美の思わぬ暴露と謝罪を聞いて、私は思わず声をあげた。

「はぁ~~~~~!?」

「ちゃんと最初は何度も拒否したんですよ?上原さん、最初は理彩さんに何かあったんじゃないか?って心配して、会社に来られて…。心配しないように出張に行ってることを伝えたんですけど、それでも不安そうで…。毎日頭を下げて頼んでくる、あんな必死な上原さん見たら…。」

まさか…私の連絡拒否が、彼にとっては私への心配になっていたと思っても見なかった。

普通は、自分に対する相手の拒否反応を先に思うハズだ。

が、今は菜々美の裏切りの方がショックだ。

「菜々美の裏切者~~~!」

「理彩姉の幸せの為なら、私は裏切者にもなります!だから、もう覚悟決めてください!」

こうして私は、菜々美という味方を失った…。


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