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恋人編 初恋を追っていた頃
太一の懺悔
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自由にボールに触れられるのは、肩より上だけ。
そして、たった…3秒でそのボールを次に何処に委ねるか決めなければならない。
サッカー小僧だったという一哉が、足でボールを蹴ることが出来ないハンドボールの世界に入った時、相当に苦労したんだろうと想像しながら、私は試合を見つめていた。
ボールを掴み、シュートを決めるために高く舞い上がった一哉の姿は、とても綺麗だった。
私が写真家なら、その瞬間をカメラで切り取りその姿を永遠のものにしたかも知れない。
得点が入り、手荒い祝福を受けて痛がりながら笑う一哉はいつもより幼く見えて、本当にハンドボールが大好きで、仲間が大好きなんだという顔をしていた。
「楽しんで観ていますか?」
かけられた声に顔を上げると、そこには太一くんが立っていた。
「ええ!試合展開が早くて目が離せないって、この事かも!」
「特に、カズは目が離せないでしょ?」
少し距離をおいて座った太一くんは、悪戯っぽく笑った。
「スポーツに打ち込む一哉が、こんなに眩しく見えるなんて知らなかった。」
「え?普段からアイツはイイ男やってるんでしょ?」
「それは仕事の時だけかな。少し強引でそれでいて本当は臆病で私の前では…チョイ駄目男子。」
「アイツが!?」
「想像できないでしょ?長い付き合いの太一くんから見ても、別人にしか見えないかも。」
「もしかして、理彩さんにデレデレなんですか?」
「ふふふ…ご想像にお任せします。」
太一くんと一哉の話で盛り上がったあと、少しの沈黙が訪れた。
「理彩さん、少し俺の懺悔に付き合ってくれませんか?」
「懺悔…?」
「高校2年の時、俺は…カズから理彩さんの存在を消してしまおうと思ったことがあったんです。その事を今、貴女に謝りたい。許されようとは思ってません。ただ、カズの為に聞いてください。」
私が黙って頷くと、太一くんは“ありがとうございます。”と囁くようにお礼を言って話し始めた。
「高校2年の秋、カズが定期的に部活を休む理由が気になって、俺はカズを尾行しました。中学時代からの付き合いなのに、アイツが俺に隠し事をしていることが許せなくて…。オフィス街にいたアイツを見つけて問い詰めたら、もう7年も片想いをして、時々、貴女の…理彩さんの様子を見に来ているという。社会的地位を確立している大人の女性である貴女に、カズが真剣に恋しているって聞いた時は、バカだと思いました。叶わぬ恋に真剣になるなんて…って。」
太一くんは天井から降り注ぐライトの光を眩しそうに見つめていた。
「丁度、理彩さんが背の高い男性と打ち合わせをしながら会社から出て来て、カズはその姿をじーっと見つめていました。その時、通りすがりの他の社員が話している話をカズは聞いてしまったんです。『結城さんは社長のお気に入りで、近く隣にいる副社長とお見合いをする。将来は社長婦人になるかも知れない。』って。」
「えっ!?」
声を上げた私を太一くんは、私を見た。
「真偽はともかく、カズは酷くショックを受けていました。暫くその場から動けないほどに…。本来なら慰めるべき立場にいる俺は…カズは直ぐに貴女を忘れられるだろうと決めつけて、カズの気持ちも考えず、俺の幼馴染みの美乃と付き合わせたんです。美乃はカズに惚れていたし、誠実な性格のカズに任せるのが一番良いと思っていたんです…。」
太一くんは俯き、深く息を吐いて話を続けた。
「俺の両親は父親も母親も最低で…両方とも取っ替え引っ替え浮気を繰り返す、貞操観念が無い人間だったんです。そんな両親とカズを俺は同等に扱いました。直ぐに心変わりをするだろうと決めつけて…カズから貴女を想う気持ちを奪おうとしました。一途に理彩さんを想うことが出来る純粋なアイツが憎くて…羨ましかった…。そんな歪んだ俺なんかに、カズは完全には屈しなかった。俺と絶縁する際に宣言した通り、貴女と出逢い結ばれた。」
太一くんは私を見た。
「本当に良かったと思っています。俺の思い通りにならなくて良かったと…。カズと貴女は、歪んだ心から俺を解放してくれました。やっと、カズに謝ることが出来たことを感謝してます。これで…本当にカズから離れてやることが出来ます。」
“胸のつかえが取れましたから…。”
太一くんは安堵したという表情をして見せたが、その表情は何処か悲しげだった。
私には太一くんが望んでいることが、別にある様に見えた。
聞いていれば、矛盾する複雑な思いばかりが気になった。
太一くんはまだ…本当の気持ちを隠している…。
「…ねぇ…太一くん。間違ってたらゴメンなさいね?君は…ずっと美乃さんが好きだったんじゃない?」
太一くんはビクッと肩を揺らし、私から目を逸らし黙って俯いた。
「君が話してくれたことも私は本当だと思うの。でも、君の思いは矛盾だらけ。だから私はこう考えたの。君が一哉に美乃さんを任せようとした本当の理由、それは『一途なカズが美乃を好きになれば、きっとあんな親に育てられた俺よりも美乃を大切にしてくれる。幸せにしてくれる。』そんな考えがあったからなんじゃないかって。違う?」
太一くんは驚いた様に私を見た。
「…なんで…」
「さっきの太一くんを見て思ったのよ。…私なら、ただの幼馴染みに『俺の首を締めろ!』なんて怖くて言えないって。本当に他の人間の首を絞めようとした人間なら尚更。だから、それが出来るのは『例え、自分の命を失っても構わない!』って思う相手に限られると思うの。例えば、愛する人とか…ね。」
太一くんは目を瞠った。
私は喉の乾きを感じて、無糖の紅茶の入ったペットボトルの口を開けて、喉を潤した。
「一哉はね、いつも“ダメ元”で自分の希望を言うの。良い返事を貰えたらラッキー!断られても仕方ない!ってスタンスなの。でもね、太一くんも知っているだろうけど、本当に欲しいものに対しては簡単に諦めない。簡単に手を離さない。そして、どんなに自分が傷付いても、大切なものを守ろうとする人なの。太一くんはどう?簡単に諦めたフリをこれからもしていくの?自分が美乃さんを傷付けると決めつけて、これからも中途半端に遠ざけていくつもりなの?」
不意に上がった歓声に、コートを私は見つめる。
一哉がまた、シュートを決めたのだ。
本当に眩しくて見惚れる。
「私は…付き合う前、一哉を遠ざけるために沢山傷付けた。私と一哉は知っての通り、年齢の差が有りすぎるから、好きになっても一哉の赤ちゃんを無事に産んで上げられる可能性が低いし、それは一哉の為にならない!って思い込んで、自爆覚悟で沢山傷付けた。でも、一哉は離れるどころかそんな私を抱きしめてくれた。そんな一哉だから、今、私は側にいる。」
一哉が笑顔で手を振ってるので、私も手を振る。
隣に太一くんの姿を見つけるとムッとした表情をしたけど、目一杯笑顔で安心させた。
「初対面の君には、相当にお節介なことを私は言っていると思うの。でも…本当の意味で今までの過ちを悔い改めようとするなら、太一くんの気持ちを伝えて美乃さんの側にちゃんと居て上げて欲しい。そして…私は、出来れば一哉の友達に戻ることを諦めて欲しくない。」
「理彩さん…」
「色々あったから、直ぐには無理かも知れないけど…一哉も太一くんと離れることを本意には思ってないと思う。“ダメ元”で本当の気持ちをぶつけて、本当に駄目ならその時また考えれば良いと思わない?」
太一くんは暫く考え込んでいた。
答えは…彼にしか出せない。
私はそれ以上は言わず、フェンスの上に頬杖を付きながらコートを駆ける一哉の姿と試合を見続けた。
そして、たった…3秒でそのボールを次に何処に委ねるか決めなければならない。
サッカー小僧だったという一哉が、足でボールを蹴ることが出来ないハンドボールの世界に入った時、相当に苦労したんだろうと想像しながら、私は試合を見つめていた。
ボールを掴み、シュートを決めるために高く舞い上がった一哉の姿は、とても綺麗だった。
私が写真家なら、その瞬間をカメラで切り取りその姿を永遠のものにしたかも知れない。
得点が入り、手荒い祝福を受けて痛がりながら笑う一哉はいつもより幼く見えて、本当にハンドボールが大好きで、仲間が大好きなんだという顔をしていた。
「楽しんで観ていますか?」
かけられた声に顔を上げると、そこには太一くんが立っていた。
「ええ!試合展開が早くて目が離せないって、この事かも!」
「特に、カズは目が離せないでしょ?」
少し距離をおいて座った太一くんは、悪戯っぽく笑った。
「スポーツに打ち込む一哉が、こんなに眩しく見えるなんて知らなかった。」
「え?普段からアイツはイイ男やってるんでしょ?」
「それは仕事の時だけかな。少し強引でそれでいて本当は臆病で私の前では…チョイ駄目男子。」
「アイツが!?」
「想像できないでしょ?長い付き合いの太一くんから見ても、別人にしか見えないかも。」
「もしかして、理彩さんにデレデレなんですか?」
「ふふふ…ご想像にお任せします。」
太一くんと一哉の話で盛り上がったあと、少しの沈黙が訪れた。
「理彩さん、少し俺の懺悔に付き合ってくれませんか?」
「懺悔…?」
「高校2年の時、俺は…カズから理彩さんの存在を消してしまおうと思ったことがあったんです。その事を今、貴女に謝りたい。許されようとは思ってません。ただ、カズの為に聞いてください。」
私が黙って頷くと、太一くんは“ありがとうございます。”と囁くようにお礼を言って話し始めた。
「高校2年の秋、カズが定期的に部活を休む理由が気になって、俺はカズを尾行しました。中学時代からの付き合いなのに、アイツが俺に隠し事をしていることが許せなくて…。オフィス街にいたアイツを見つけて問い詰めたら、もう7年も片想いをして、時々、貴女の…理彩さんの様子を見に来ているという。社会的地位を確立している大人の女性である貴女に、カズが真剣に恋しているって聞いた時は、バカだと思いました。叶わぬ恋に真剣になるなんて…って。」
太一くんは天井から降り注ぐライトの光を眩しそうに見つめていた。
「丁度、理彩さんが背の高い男性と打ち合わせをしながら会社から出て来て、カズはその姿をじーっと見つめていました。その時、通りすがりの他の社員が話している話をカズは聞いてしまったんです。『結城さんは社長のお気に入りで、近く隣にいる副社長とお見合いをする。将来は社長婦人になるかも知れない。』って。」
「えっ!?」
声を上げた私を太一くんは、私を見た。
「真偽はともかく、カズは酷くショックを受けていました。暫くその場から動けないほどに…。本来なら慰めるべき立場にいる俺は…カズは直ぐに貴女を忘れられるだろうと決めつけて、カズの気持ちも考えず、俺の幼馴染みの美乃と付き合わせたんです。美乃はカズに惚れていたし、誠実な性格のカズに任せるのが一番良いと思っていたんです…。」
太一くんは俯き、深く息を吐いて話を続けた。
「俺の両親は父親も母親も最低で…両方とも取っ替え引っ替え浮気を繰り返す、貞操観念が無い人間だったんです。そんな両親とカズを俺は同等に扱いました。直ぐに心変わりをするだろうと決めつけて…カズから貴女を想う気持ちを奪おうとしました。一途に理彩さんを想うことが出来る純粋なアイツが憎くて…羨ましかった…。そんな歪んだ俺なんかに、カズは完全には屈しなかった。俺と絶縁する際に宣言した通り、貴女と出逢い結ばれた。」
太一くんは私を見た。
「本当に良かったと思っています。俺の思い通りにならなくて良かったと…。カズと貴女は、歪んだ心から俺を解放してくれました。やっと、カズに謝ることが出来たことを感謝してます。これで…本当にカズから離れてやることが出来ます。」
“胸のつかえが取れましたから…。”
太一くんは安堵したという表情をして見せたが、その表情は何処か悲しげだった。
私には太一くんが望んでいることが、別にある様に見えた。
聞いていれば、矛盾する複雑な思いばかりが気になった。
太一くんはまだ…本当の気持ちを隠している…。
「…ねぇ…太一くん。間違ってたらゴメンなさいね?君は…ずっと美乃さんが好きだったんじゃない?」
太一くんはビクッと肩を揺らし、私から目を逸らし黙って俯いた。
「君が話してくれたことも私は本当だと思うの。でも、君の思いは矛盾だらけ。だから私はこう考えたの。君が一哉に美乃さんを任せようとした本当の理由、それは『一途なカズが美乃を好きになれば、きっとあんな親に育てられた俺よりも美乃を大切にしてくれる。幸せにしてくれる。』そんな考えがあったからなんじゃないかって。違う?」
太一くんは驚いた様に私を見た。
「…なんで…」
「さっきの太一くんを見て思ったのよ。…私なら、ただの幼馴染みに『俺の首を締めろ!』なんて怖くて言えないって。本当に他の人間の首を絞めようとした人間なら尚更。だから、それが出来るのは『例え、自分の命を失っても構わない!』って思う相手に限られると思うの。例えば、愛する人とか…ね。」
太一くんは目を瞠った。
私は喉の乾きを感じて、無糖の紅茶の入ったペットボトルの口を開けて、喉を潤した。
「一哉はね、いつも“ダメ元”で自分の希望を言うの。良い返事を貰えたらラッキー!断られても仕方ない!ってスタンスなの。でもね、太一くんも知っているだろうけど、本当に欲しいものに対しては簡単に諦めない。簡単に手を離さない。そして、どんなに自分が傷付いても、大切なものを守ろうとする人なの。太一くんはどう?簡単に諦めたフリをこれからもしていくの?自分が美乃さんを傷付けると決めつけて、これからも中途半端に遠ざけていくつもりなの?」
不意に上がった歓声に、コートを私は見つめる。
一哉がまた、シュートを決めたのだ。
本当に眩しくて見惚れる。
「私は…付き合う前、一哉を遠ざけるために沢山傷付けた。私と一哉は知っての通り、年齢の差が有りすぎるから、好きになっても一哉の赤ちゃんを無事に産んで上げられる可能性が低いし、それは一哉の為にならない!って思い込んで、自爆覚悟で沢山傷付けた。でも、一哉は離れるどころかそんな私を抱きしめてくれた。そんな一哉だから、今、私は側にいる。」
一哉が笑顔で手を振ってるので、私も手を振る。
隣に太一くんの姿を見つけるとムッとした表情をしたけど、目一杯笑顔で安心させた。
「初対面の君には、相当にお節介なことを私は言っていると思うの。でも…本当の意味で今までの過ちを悔い改めようとするなら、太一くんの気持ちを伝えて美乃さんの側にちゃんと居て上げて欲しい。そして…私は、出来れば一哉の友達に戻ることを諦めて欲しくない。」
「理彩さん…」
「色々あったから、直ぐには無理かも知れないけど…一哉も太一くんと離れることを本意には思ってないと思う。“ダメ元”で本当の気持ちをぶつけて、本当に駄目ならその時また考えれば良いと思わない?」
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