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本編
クリスマスプレゼント
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幸太くんの体調も順調に回復して、正式な恋人となった私たちの生活は一変した。
…というか…幸太くんが変わった。
あの日の甘々に甘えた幸太くんの態度は、序章にしか過ぎなかったのだ。
空腹に負けてやっと私を解放した幸太くんの為に、お腹に優しいたまご雑炊を作って、キッチンから部屋に戻るとそわそわしながら幸太くんが待っていた。
私が隣に座ると嬉しそうに幸太くんは見つめてくる。
いつもと違う甘い雰囲気に少し戸惑いながら、テーブルに雑炊の入った土鍋を置いた。
土鍋の蓋を開けるとふんわりと湯気が立ち、ほんのり出汁の香りが広がる。
淡い溶き卵の黄色に小ネギの緑が映えて、見映えは我ながら上々の出来だと思う。
お茶碗に雑炊をよそう私の手に、甘く愛おしげな幸太くんの視線を感じる。
(…幸太くんって…こんな顔をする人だったっけ?)
思えば“お試し”だった時は、本気の恋愛だと勘違いしないようにするのに必死で、ちゃんと幸太くんを見ていなかった気がする。
甘さの増した様に感じているけど、実はこんな風に私をいつも見つめていてくれたのかも知れない。
そんなことに気が付いて、どうしようもなく頬に熱が帯びるのを感じながら、お茶碗を幸太くんの前にそっと置いた。
「幸太くんの口に合えば良いんだけど…」
「ん?つぐみが作る料理は美味しいよ?」
「でも、幸太くんの方が手際良いし…」
「それは場数の問題だよ。ちゃんといつも美味しいし、大丈夫だから!」
「うん…。あ、熱いから気を付けてね?」
いつもと逆だなぁ…と呟いて笑う幸太くんの横顔を見つめながら、私も雑炊を食べた。
食べ終わったあと、幸太くんから部屋の合鍵を渡された。
「仕事が忙しいなら、ここから仕事に行けばいいし、帰りが遅くなるならここにくればいい。つぐみが良いって言うまで、キス以外は何もしないから安心してここにおいで?」
「…本当にいいの?」
私の言葉に幸太くんは優しく笑う。
「良いから鍵を渡すんだよ。というか…これからは出来る限りつぐみと一緒に居たいんだ。本当は今まで週3なんて全然足りなくて、会えないのずっと我慢していたし…」
「そうなの?」
「うん。それに昨日つぐみの温もり知っちゃったし、一人で眠る方が難しいかも…」
その言葉に、私は恥ずかしくて俯く。
「だからって毎日は泊まれないよ…?」
「分かってる。でも、つぐみの家よりは駅に近いし便利に使っていいから、何時でも俺に甘えにおいで?」
年下の筈の幸太くんが大人びた顔で私を甘やかせると宣言し、その日から少しずつ半同棲に近い生活に変わっていった。
クリスマスの金曜日。
イブは私も幸太くんも忙しく二人でゆっくり過ごすことは叶わなかったものの、25日が仕事納めの私は幸太くんの部屋で料理を作っていた。
「初めて過ごすクリスマスだし、何処かに出掛けよう!」
幸太くんはそう言ったけど…
「お互いに忙しい時期だし、静かに二人でゆっくり過ごすクリスマスがいい。」
と、私は提案した。
1週間前に体調崩していた幸太くんと人混みの多いところに出掛けるのも気が引けたし、何よりも私が幸太くんを労ってあげたかったのだ。
昨晩から漬け込んでおいた骨付きの鶏もも肉をじっくりオーブンで焼きながら、先程焼き上げて冷ましておいたスポンジケーキに生クリームでデコレーションを施す。
出来上がったミネストローネをかけていたガスの火を止めて、サーモンマリネを薄く切りベビーリーフと一緒に並べてラップをかけて冷蔵庫にしまっていると、スマートフォンが鳴った。
“これから駅まで来られる?”
幸太くんからのSNSのメッセージを見て、私はオーブンを覗きこんだ。
焼き目は程よいし、アルミを被せて余熱調理しておけば問題ない。
普段は夜道は危ないからと、私を呼び出したりしない幸太くん。
何か急な用なのかも知れない。
(…また倒れた…とかじゃないよね?)
“今から行くね!”
私は少し不安になりながら、そう返事を打って送信したあと、エプロンを取ってコートを羽織り、駅へ向かった。
クリスマスイブが日本のクリスマス本番みたいなもので…だから昨日よりは幾分、街は落ち着いて見えた。
それでも今日が仕事納めで飲みに繰り出した人間も多いようで、それなりに賑やかな雰囲気を醸し出していた。
幸太くんの姿を探して閉店間際のカフェに顔を出すと、私が来たことに気が付いた熊くんがカウンターから困った顔をした。
私の目線を連れていく様に熊くんの目線が横に動いたので、そちらを見ると帰り支度を終えていつものコートを羽織った幸太くんに、若い女性が4人ほどで詰め寄っていた。
「松永先輩、嘘をつかないでください!」
「嘘はついてないよ。ちゃんと俺には彼女がいるし、今日は彼女と過ごすから君たちとは飲みに行けない。」
唖然としてその様子を玄関から見ていると、熊くんが状況を説明しに来てくれた。
どうやら、私にSNSであのメッセージを送ったあと、身支度を整えてカフェから出ようとしたところを彼女たちが襲撃してきたらしい。
彼女たちは幸太くんの大学の後輩らしく、今までは“お試し”の恋人だったこともあり、私の存在を伏せていたことから、幸太くんが彼女ナシのフリーだと思って行動に出たようだ。
(モテるのは知っていたつもりだけど、ここまで強引に来る女の子たちは初めて見た…。)
こういう場合どういう行動に出るべきか考えあぐねていると、幸太くんが私に気がついて彼女たちを振り切って歩いてきた。
「夜なのに一人で歩かせてゴメン!大丈夫だった?」
私の冷えた頬を、大きくて温かい幸太くんの手が包み込む。
「うん、大丈夫だよ。」
笑顔で答えると、幸太くんは私と額を合わせた。
幸太くんの醸し出す甘々な雰囲気に、さっきの勢いは何処へやら…。
呆気に取られている彼女たちを尻目に、幸太くんは私と手を繋ぎカフェを出て歩き出した。
「…彼女たち、いいの?」
「伝えるべきことは伝えた。これ以上話す必要なんてない。」
幸太くんは駅前のイルミネーションの前で立ち止まり、私の肩を両手で掴んで見つめた。
「藍原つぐみさん。」
「は、はい!」
いきなりフルネームで呼ばれて、無意識に姿勢が伸びる。
「好きです。大事にします。俺と付き合って下さい!!」
(…はい??)
もう付き合っているのに、何故告白されているのか理解できず、私は幸太くんを見上げた。
「…告白のやり直ししたかったんだ。カッコ悪い告白だったし…。それに…イルミネーションの力を借りれば、つぐみは絶対“うん!”って言ってくれるだろう?」
幸太くんは少し拗ねた様に口を尖らせた。
別れを告げたあの日、私が言った言葉…。
(もしかして、ちょっと根に持ってる?)
そう思いながら見つめていると、
「あの時、言えなかったけど、俺はつぐみにしか告白するつもりないよ。返事はもう分かってるけど…今、ちゃんと返事して欲しい。」
混雑する周りの様子が気になり見回していると、幸太くんの手が私の頬を撫でて催促する。
「…私も幸太くんが好きです。」
「うん…知ってる。」
そう言いながら、幸太くんは私の額にキスをした。
「メリークリスマス…つぐみ…」
「メリークリスマス…幸太くん…」
幸太くんは、私の左手を握って薬指を擦った。
違和感を覚えて左手を見ると、小さな雪の結晶の様に白く輝くリングがはめられていた。
「本物を贈れるようになるまで…俺、頑張るから…一緒に居ようね。」
「うん…私も…頑張るね!」
帰り道を二人寄り添い歩きながら、少ないながらも瞬く都会の星を見上げる。
来年はホワイトクリスマスがいいね…なんて囁き合いながら…。
Fin
…というか…幸太くんが変わった。
あの日の甘々に甘えた幸太くんの態度は、序章にしか過ぎなかったのだ。
空腹に負けてやっと私を解放した幸太くんの為に、お腹に優しいたまご雑炊を作って、キッチンから部屋に戻るとそわそわしながら幸太くんが待っていた。
私が隣に座ると嬉しそうに幸太くんは見つめてくる。
いつもと違う甘い雰囲気に少し戸惑いながら、テーブルに雑炊の入った土鍋を置いた。
土鍋の蓋を開けるとふんわりと湯気が立ち、ほんのり出汁の香りが広がる。
淡い溶き卵の黄色に小ネギの緑が映えて、見映えは我ながら上々の出来だと思う。
お茶碗に雑炊をよそう私の手に、甘く愛おしげな幸太くんの視線を感じる。
(…幸太くんって…こんな顔をする人だったっけ?)
思えば“お試し”だった時は、本気の恋愛だと勘違いしないようにするのに必死で、ちゃんと幸太くんを見ていなかった気がする。
甘さの増した様に感じているけど、実はこんな風に私をいつも見つめていてくれたのかも知れない。
そんなことに気が付いて、どうしようもなく頬に熱が帯びるのを感じながら、お茶碗を幸太くんの前にそっと置いた。
「幸太くんの口に合えば良いんだけど…」
「ん?つぐみが作る料理は美味しいよ?」
「でも、幸太くんの方が手際良いし…」
「それは場数の問題だよ。ちゃんといつも美味しいし、大丈夫だから!」
「うん…。あ、熱いから気を付けてね?」
いつもと逆だなぁ…と呟いて笑う幸太くんの横顔を見つめながら、私も雑炊を食べた。
食べ終わったあと、幸太くんから部屋の合鍵を渡された。
「仕事が忙しいなら、ここから仕事に行けばいいし、帰りが遅くなるならここにくればいい。つぐみが良いって言うまで、キス以外は何もしないから安心してここにおいで?」
「…本当にいいの?」
私の言葉に幸太くんは優しく笑う。
「良いから鍵を渡すんだよ。というか…これからは出来る限りつぐみと一緒に居たいんだ。本当は今まで週3なんて全然足りなくて、会えないのずっと我慢していたし…」
「そうなの?」
「うん。それに昨日つぐみの温もり知っちゃったし、一人で眠る方が難しいかも…」
その言葉に、私は恥ずかしくて俯く。
「だからって毎日は泊まれないよ…?」
「分かってる。でも、つぐみの家よりは駅に近いし便利に使っていいから、何時でも俺に甘えにおいで?」
年下の筈の幸太くんが大人びた顔で私を甘やかせると宣言し、その日から少しずつ半同棲に近い生活に変わっていった。
クリスマスの金曜日。
イブは私も幸太くんも忙しく二人でゆっくり過ごすことは叶わなかったものの、25日が仕事納めの私は幸太くんの部屋で料理を作っていた。
「初めて過ごすクリスマスだし、何処かに出掛けよう!」
幸太くんはそう言ったけど…
「お互いに忙しい時期だし、静かに二人でゆっくり過ごすクリスマスがいい。」
と、私は提案した。
1週間前に体調崩していた幸太くんと人混みの多いところに出掛けるのも気が引けたし、何よりも私が幸太くんを労ってあげたかったのだ。
昨晩から漬け込んでおいた骨付きの鶏もも肉をじっくりオーブンで焼きながら、先程焼き上げて冷ましておいたスポンジケーキに生クリームでデコレーションを施す。
出来上がったミネストローネをかけていたガスの火を止めて、サーモンマリネを薄く切りベビーリーフと一緒に並べてラップをかけて冷蔵庫にしまっていると、スマートフォンが鳴った。
“これから駅まで来られる?”
幸太くんからのSNSのメッセージを見て、私はオーブンを覗きこんだ。
焼き目は程よいし、アルミを被せて余熱調理しておけば問題ない。
普段は夜道は危ないからと、私を呼び出したりしない幸太くん。
何か急な用なのかも知れない。
(…また倒れた…とかじゃないよね?)
“今から行くね!”
私は少し不安になりながら、そう返事を打って送信したあと、エプロンを取ってコートを羽織り、駅へ向かった。
クリスマスイブが日本のクリスマス本番みたいなもので…だから昨日よりは幾分、街は落ち着いて見えた。
それでも今日が仕事納めで飲みに繰り出した人間も多いようで、それなりに賑やかな雰囲気を醸し出していた。
幸太くんの姿を探して閉店間際のカフェに顔を出すと、私が来たことに気が付いた熊くんがカウンターから困った顔をした。
私の目線を連れていく様に熊くんの目線が横に動いたので、そちらを見ると帰り支度を終えていつものコートを羽織った幸太くんに、若い女性が4人ほどで詰め寄っていた。
「松永先輩、嘘をつかないでください!」
「嘘はついてないよ。ちゃんと俺には彼女がいるし、今日は彼女と過ごすから君たちとは飲みに行けない。」
唖然としてその様子を玄関から見ていると、熊くんが状況を説明しに来てくれた。
どうやら、私にSNSであのメッセージを送ったあと、身支度を整えてカフェから出ようとしたところを彼女たちが襲撃してきたらしい。
彼女たちは幸太くんの大学の後輩らしく、今までは“お試し”の恋人だったこともあり、私の存在を伏せていたことから、幸太くんが彼女ナシのフリーだと思って行動に出たようだ。
(モテるのは知っていたつもりだけど、ここまで強引に来る女の子たちは初めて見た…。)
こういう場合どういう行動に出るべきか考えあぐねていると、幸太くんが私に気がついて彼女たちを振り切って歩いてきた。
「夜なのに一人で歩かせてゴメン!大丈夫だった?」
私の冷えた頬を、大きくて温かい幸太くんの手が包み込む。
「うん、大丈夫だよ。」
笑顔で答えると、幸太くんは私と額を合わせた。
幸太くんの醸し出す甘々な雰囲気に、さっきの勢いは何処へやら…。
呆気に取られている彼女たちを尻目に、幸太くんは私と手を繋ぎカフェを出て歩き出した。
「…彼女たち、いいの?」
「伝えるべきことは伝えた。これ以上話す必要なんてない。」
幸太くんは駅前のイルミネーションの前で立ち止まり、私の肩を両手で掴んで見つめた。
「藍原つぐみさん。」
「は、はい!」
いきなりフルネームで呼ばれて、無意識に姿勢が伸びる。
「好きです。大事にします。俺と付き合って下さい!!」
(…はい??)
もう付き合っているのに、何故告白されているのか理解できず、私は幸太くんを見上げた。
「…告白のやり直ししたかったんだ。カッコ悪い告白だったし…。それに…イルミネーションの力を借りれば、つぐみは絶対“うん!”って言ってくれるだろう?」
幸太くんは少し拗ねた様に口を尖らせた。
別れを告げたあの日、私が言った言葉…。
(もしかして、ちょっと根に持ってる?)
そう思いながら見つめていると、
「あの時、言えなかったけど、俺はつぐみにしか告白するつもりないよ。返事はもう分かってるけど…今、ちゃんと返事して欲しい。」
混雑する周りの様子が気になり見回していると、幸太くんの手が私の頬を撫でて催促する。
「…私も幸太くんが好きです。」
「うん…知ってる。」
そう言いながら、幸太くんは私の額にキスをした。
「メリークリスマス…つぐみ…」
「メリークリスマス…幸太くん…」
幸太くんは、私の左手を握って薬指を擦った。
違和感を覚えて左手を見ると、小さな雪の結晶の様に白く輝くリングがはめられていた。
「本物を贈れるようになるまで…俺、頑張るから…一緒に居ようね。」
「うん…私も…頑張るね!」
帰り道を二人寄り添い歩きながら、少ないながらも瞬く都会の星を見上げる。
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