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本編
恋人の朝
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お互いの気持ちを初めて言葉にした。
やっとお互いの気持ちを確かめ合ったあと、初めて抱きしめられて幸太くんの温もりと鼓動を知った。
私よりも高めの体温。
私をスッポリ包み込む大きな身体。
そして、大好きな珈琲の香り…。
その温もりは優しくて…自分が臆病なばかりに幸太くんの本当の気持ちを知ろうともしなかったことを改めて後悔した。
幸太くんの腕に強く抱きしめられ、身体から緊張感が抜けていくのを感じ、初めて得た安心感に、もう私の涙は止まらなかった。
気が付けば幸太くんも泣いていて、暫く二人で抱き合って泣いた。
(やっと…“お試し”じゃない恋人になれるんだ…。)
そう思っていると、いきなり幸太くんの身体から力が抜けた。
「幸太…くん…?」
後ろにぐらりと倒れそうになった彼の身体を支えて、慌てて顔を覗き込むと青ざめていて、直ぐに具合が悪いことが分かった。
「…ゴメン…つぐみをやっと取り戻したと思って…興奮し過ぎた…。貧血…起こしたみたいだ…。」
「え!?」
彼を久しぶりに見たとき、少し痩せたとは思ったけど…まさか…。
「ご飯は?」
「…喉を通らなくて…食べてない。」
私が彼は聞くとバツ悪そうに答えた。
オカン系男子の幸太くんは、日頃から外食が多い私を心配して一緒に食事するときは煩いぐらいにアレコレ注意してきた。
(なのに…食べてないって…。)
色々考えが巡り、私のせいであることを理解したけど、謝って泣くのを我慢した。
とにかく今は、幸太くんに何が食べて貰わなきゃいけない。
「幸太くん、ベッドに横になろう?立てる?」
「うん…」
すぐ後ろのベッドに手をつき、這い上がるようにして立ったあと崩れるようにベッドに倒れ込んだ。
寒くないように毛布と掛け布団を幸太くんにかけた。
「何かお腹に優しいもの作るから、ちょっと待ってて?」
ベッドから離れてキッチンに向かおうとした私の手を、幸太くんはそっと握った。
「…幸太くん…?」
「つぐみも一緒に寝て?」
「えっ???」
幸太くんの言葉を理解するのに、数秒かかった。
その後、ピシッという音が聞こえそうな勢いで身体が固まり、言われた意味を頭の中で反芻するうち、顔がドンドン熱くなった。
そんな私の様子を見て、幸太くんが力なく笑う。
「大丈夫だよ。今の俺はつぐみ何かしたくても何も出来ないから。それにまだ食欲無いし、何よりも少しの間でいいから…つぐみの体温を感じたい。…ダメ?」
弱ってるせいもあると思うけど、甘えた雰囲気の幸太くんの表情は、それはそれは色気があって、その上、イケメンな顔に憂いの表情を浮かべて強請られたら嫌とは言えない。
私は皺になっては困るのでスーツのジャケットを脱いでハンガーにかけて、深呼吸を数回繰り返したあと幸太くんが横たわってるベッドの前に立った。
「…お、お邪魔…します…」
緊張して上擦ったような声でそう言うと、幸太くんはクスッと笑って、どうぞと言いながら掛け布団と毛布を持ち上げた。
幸太くんの隣にそろりと身体を横たえると、直ぐに腕の中へ引き寄せられた。
腕枕され、目の前にある幸太くんの胸板にしがみついて、上がっていく自分の心拍数を耳の奥で感じていた。
「つぐみの匂いがする…」
「えっ?」
「優しい花の香り」
「シャンプーの香りかも…香水とかつけてないし…」
「そうなんだ…」
「うん…」
「落ち着く…つぐみの匂い…」
そう呟いて幸太くんは、私の頭に柔らかく温かいものを押しあてた。
いとおしそうに髪を撫でられ、恥ずかしさにどうすれば良いのか分からなかったけど、嫌ではなかったので幸太くんのしたいようにさせた。
やがて規則的な寝息が聞こえ始め、そのリズムに誘われるように私にも睡魔が訪れた。
多忙な日々に酷使してきた身体の疲れもあり幸太くんの体温に包まれて、直ぐに眠りに落ちてしまった。
閉じた目蓋越しに光を感じて、私は目を覚ました。
天井や壁は見慣れているけど、自分の部屋ではない。
ボーッとしながら、ここが何処なのか考えていると後ろからニョキっと引き締まった腕が出てきて私を抱き直した。
「つぐみ…起きるの?」
起きたばかりの掠れた声が耳元で囁く。
(そうだ…私は幸太くんの部屋に泊まってしまったんだ…)
ナニをした訳でもないけど、初めて恋人の部屋に泊まった事実を実感すると同時に、私は両手で顔を覆い、どうしようもない恥ずかしさから足をジタバタさせた。
「つぐみ?」
挙動不審な私の行動を咎めるでもなく、不思議そうに彼は私の頭を撫でながら名前を呼ぶ。
少し落ち着いたので、忘れていた朝の挨拶を口にした。
「…おはよう」
「ん、おはよう。」
寝返りをうって幸太くんと顔を合わせる。
寝起きの乱れた髪の毛を掻き上げる幸太くんのちょっと髭の伸びたら顔を見れば、昨日よりも顔色は良くなってるみたいで安心した。
「具合は大丈夫?」
「うん。久しぶりによく眠れたし少し元気になったみたいだ。」
「良かった…ご飯は食べられそう?」
「うん…」
なんだか残念そうに眉を歪めて返事をする幸太くんに、私は不思議に思って首を傾けた。
「本当はもう少しつぐみとこうして居たいけど…お腹空いた。」
「なっ!」
「つぐみをこうやってギュッと抱きしめていたらとても幸せなのに、何でお腹までは満たされないんだろう?」
(…なんか幸太くんが甘ったるいバカみたいなことを言ってる!まだ寝ぼけてる!?)
「それは…ご飯食べなきゃ満たされないに決まってるよ。」
「うー…でも…つぐみを抱っこして、まだ寝ていたい。」
「でも、お腹空いたんでしょ?」
「う゛ーっ」
そう唸ったあとギュッと私を抱きしめて、頭に頬擦りを繰り返しながら、幸太くんは空腹をやり過ごそうとしているようだった。
恋人になった初めての朝…
しっかり者でオカン系男子の幸太くんが、初めて甘く甘く甘える姿を私は見ることになった。
やっとお互いの気持ちを確かめ合ったあと、初めて抱きしめられて幸太くんの温もりと鼓動を知った。
私よりも高めの体温。
私をスッポリ包み込む大きな身体。
そして、大好きな珈琲の香り…。
その温もりは優しくて…自分が臆病なばかりに幸太くんの本当の気持ちを知ろうともしなかったことを改めて後悔した。
幸太くんの腕に強く抱きしめられ、身体から緊張感が抜けていくのを感じ、初めて得た安心感に、もう私の涙は止まらなかった。
気が付けば幸太くんも泣いていて、暫く二人で抱き合って泣いた。
(やっと…“お試し”じゃない恋人になれるんだ…。)
そう思っていると、いきなり幸太くんの身体から力が抜けた。
「幸太…くん…?」
後ろにぐらりと倒れそうになった彼の身体を支えて、慌てて顔を覗き込むと青ざめていて、直ぐに具合が悪いことが分かった。
「…ゴメン…つぐみをやっと取り戻したと思って…興奮し過ぎた…。貧血…起こしたみたいだ…。」
「え!?」
彼を久しぶりに見たとき、少し痩せたとは思ったけど…まさか…。
「ご飯は?」
「…喉を通らなくて…食べてない。」
私が彼は聞くとバツ悪そうに答えた。
オカン系男子の幸太くんは、日頃から外食が多い私を心配して一緒に食事するときは煩いぐらいにアレコレ注意してきた。
(なのに…食べてないって…。)
色々考えが巡り、私のせいであることを理解したけど、謝って泣くのを我慢した。
とにかく今は、幸太くんに何が食べて貰わなきゃいけない。
「幸太くん、ベッドに横になろう?立てる?」
「うん…」
すぐ後ろのベッドに手をつき、這い上がるようにして立ったあと崩れるようにベッドに倒れ込んだ。
寒くないように毛布と掛け布団を幸太くんにかけた。
「何かお腹に優しいもの作るから、ちょっと待ってて?」
ベッドから離れてキッチンに向かおうとした私の手を、幸太くんはそっと握った。
「…幸太くん…?」
「つぐみも一緒に寝て?」
「えっ???」
幸太くんの言葉を理解するのに、数秒かかった。
その後、ピシッという音が聞こえそうな勢いで身体が固まり、言われた意味を頭の中で反芻するうち、顔がドンドン熱くなった。
そんな私の様子を見て、幸太くんが力なく笑う。
「大丈夫だよ。今の俺はつぐみ何かしたくても何も出来ないから。それにまだ食欲無いし、何よりも少しの間でいいから…つぐみの体温を感じたい。…ダメ?」
弱ってるせいもあると思うけど、甘えた雰囲気の幸太くんの表情は、それはそれは色気があって、その上、イケメンな顔に憂いの表情を浮かべて強請られたら嫌とは言えない。
私は皺になっては困るのでスーツのジャケットを脱いでハンガーにかけて、深呼吸を数回繰り返したあと幸太くんが横たわってるベッドの前に立った。
「…お、お邪魔…します…」
緊張して上擦ったような声でそう言うと、幸太くんはクスッと笑って、どうぞと言いながら掛け布団と毛布を持ち上げた。
幸太くんの隣にそろりと身体を横たえると、直ぐに腕の中へ引き寄せられた。
腕枕され、目の前にある幸太くんの胸板にしがみついて、上がっていく自分の心拍数を耳の奥で感じていた。
「つぐみの匂いがする…」
「えっ?」
「優しい花の香り」
「シャンプーの香りかも…香水とかつけてないし…」
「そうなんだ…」
「うん…」
「落ち着く…つぐみの匂い…」
そう呟いて幸太くんは、私の頭に柔らかく温かいものを押しあてた。
いとおしそうに髪を撫でられ、恥ずかしさにどうすれば良いのか分からなかったけど、嫌ではなかったので幸太くんのしたいようにさせた。
やがて規則的な寝息が聞こえ始め、そのリズムに誘われるように私にも睡魔が訪れた。
多忙な日々に酷使してきた身体の疲れもあり幸太くんの体温に包まれて、直ぐに眠りに落ちてしまった。
閉じた目蓋越しに光を感じて、私は目を覚ました。
天井や壁は見慣れているけど、自分の部屋ではない。
ボーッとしながら、ここが何処なのか考えていると後ろからニョキっと引き締まった腕が出てきて私を抱き直した。
「つぐみ…起きるの?」
起きたばかりの掠れた声が耳元で囁く。
(そうだ…私は幸太くんの部屋に泊まってしまったんだ…)
ナニをした訳でもないけど、初めて恋人の部屋に泊まった事実を実感すると同時に、私は両手で顔を覆い、どうしようもない恥ずかしさから足をジタバタさせた。
「つぐみ?」
挙動不審な私の行動を咎めるでもなく、不思議そうに彼は私の頭を撫でながら名前を呼ぶ。
少し落ち着いたので、忘れていた朝の挨拶を口にした。
「…おはよう」
「ん、おはよう。」
寝返りをうって幸太くんと顔を合わせる。
寝起きの乱れた髪の毛を掻き上げる幸太くんのちょっと髭の伸びたら顔を見れば、昨日よりも顔色は良くなってるみたいで安心した。
「具合は大丈夫?」
「うん。久しぶりによく眠れたし少し元気になったみたいだ。」
「良かった…ご飯は食べられそう?」
「うん…」
なんだか残念そうに眉を歪めて返事をする幸太くんに、私は不思議に思って首を傾けた。
「本当はもう少しつぐみとこうして居たいけど…お腹空いた。」
「なっ!」
「つぐみをこうやってギュッと抱きしめていたらとても幸せなのに、何でお腹までは満たされないんだろう?」
(…なんか幸太くんが甘ったるいバカみたいなことを言ってる!まだ寝ぼけてる!?)
「それは…ご飯食べなきゃ満たされないに決まってるよ。」
「うー…でも…つぐみを抱っこして、まだ寝ていたい。」
「でも、お腹空いたんでしょ?」
「う゛ーっ」
そう唸ったあとギュッと私を抱きしめて、頭に頬擦りを繰り返しながら、幸太くんは空腹をやり過ごそうとしているようだった。
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