うさメンに噛まれてあげる!

真田 真幸

文字の大きさ
10 / 18

恋人たちのハロウィン・ナイト ①

しおりを挟む
「ちょっと、キミヒコ!アンタの幼馴染はどうなってのよ!素はそこらのタレントよりもハイスペックな容姿のに、なんでこんなに地味でおブスなワケ!?」

キミちゃんと貴子と一緒に会場に着いたのは、昼の1時。

そこは普段は結婚式などが行われているペントハウスだった。

参加者は共通の友人だけ…という割りには、かなり大きな会場で、それだけで私は門の前で怖じ気づいて逃げようとしたぐらいだった。

まぁ…貴子に笑いながら止められたんだけど…。

(あの時、やっぱり逃げ出せば良かった…。)

ここに来たことを後悔しながら、私の周りを苛々している様子で歩き回っている“彼女”の様子を見守っていた。

オペラの夜の女王の様な出で立ちの“彼女”にビクビクと小さくなりながら、鏡越しにキミちゃんに目線でSOSを送る。

「あー…まぁ…コイツは極力は目立ちたくないらしくて…な。」

頭を掻きながら、キミちゃんがパクパクと口を動かして鏡越しに私に“ゴメン!”と謝る。

「…それで良くも女性誌の編集者なんてやってるものだわよ!アンタ、エステに行ったのは何ヵ月前?」

「えーっと…5ヶ月前です…。」

元カレと別れてウジウジしていた気持ちを吹っ切ろうと行ったエステが、まともに女磨きをした最後だ。

私が正直に答えると“彼女”の肩がワナワナと震え始めた。

「ムツミ!このコのメイクは後回し!エステ受けさせるわ!」

「オイ!貞臣さだおみ!」

「キミヒコ、アタシをその名前で呼ばないでって言ってるでしょ!!!私はヴィヴィアン!美の創造主ヴィヴィアン・小野田よ!!」

…存じております。

“彼女”の今宵の出で立ちに偽りナシ…。

スタイリスト業界に君臨する3本の指に入るスタイリストの一人が“彼女”なのだ。

ちなみに、キミちゃんとはカメラマンとして駆け出しの頃からの友人らしいが、“君嶋ゆこ”絡みの諸事情により私は今回が初対面。

 そして…“彼女”が今回のイベントの主催者…。

例え、遊びでも手を抜かない完璧主義者だと聞いていたけど、まさかコスプレの為にエステを受けさせられるとは思っても見なかった…。

私は“ムツミ”さんと呼ばれていたアシスタントの女性にアレよアレよという間に連れられて、エステ用に設けられた一室に入り、2人のエステティシャンから施術を受けた。






 フェイシャルエステは勿論、リンパマッサージや全身パックなど、ほぼフルコースのエステを受けてフラフラとメイクルームに戻ったのは2時間後。

既に着替え終えてメイクもバッチリの黒猫の妖精に扮した貴子は気の毒そうに私を見た。

「まぁ…普段から女磨きを怠った自分と、くじ運の悪さを呪うのね…柚子。」

後ろの壁に掛けられた衣装を見て、私は溜め息をついた。

くじ引きで引いた用紙に書いてあったのは、“オズの魔法使い・北の魔女”

昔読んだ絵本の清楚なドレスをイメージしていた私は、衣装を見て床に座り込んでしまった。

それは…ほぼミニスカウェディングドレスの様な仕様。

生地の表面にレースがあしらわれたドレスは前から見ればミニスカ、後姿はロングといった裾の長さが前後で違い、デコルテと背中が出る大胆な衣装だった。

おまけに、ウエストはコルセット必須…。

事前に何故知っているのか分からないが、貴子が私のスリーサイズを提出していて、招待状荷は“下着は肩ひもが無いもの”という注意書があったので覚悟はしていたけど…。

まさか、こんなセクシーな衣装を着るなんてことが、私の人生で起こるなんて思いもしなかった…。

そんな私の気持ちを余所に、金髪巻き髪のウィッグを被らされ左にふわふわとまとめられた髪には小花のヘアアクセサリーが散らされてた。

下地から丁寧にメイクも施され、デコルテや背中にはパールと細かいラメの入ったパウダーをはたかれた。

衣装に着替えて、白いニーソをガーターベルトで止め、スパンコールとビジュが輝くヒールを履いて、最後に二の腕までの長い百合柄の白いレースの手袋を履き、小降りのティアラを固定されて出来上がり。

鏡の前に立って、自分の見事な別人っぷりに声が出ないほど驚いた。

「柚子、アンタ似合いすぎ!」

メイク室の入り口に立っていた貴子がそう言った。

「貴子には負けるよ!可愛い過ぎるんだけど!」

黒いふわふわのミニドレスにレースで立体的に作られたネコ耳と長い尻尾。

いつもはセミロングの貴子の髪の毛は黒いショートウィッグの中に収められていた。

ネコの手グローブと黒いもふもふブーツが、可愛らしさを更に強調している。

 ここまで本格的に何もかも準備されて、本来なら参加費用が気になるところなのだが…。

なんでも今回の衣装はデザイナーの卵たちによるリメイク。

先程受けたエステもエステティシャンの卵が、メイクもメイクアップアーチストの卵たちが務めている。

ヴィヴィアン・小野田さんが母校の専門学校と企画した、半分は特別実習であるため、私たちの参加費用は諭吉様1人で済んでいる。

謂わば、美に携わる様々な業界の卵たちにとっては、ヴィヴィアン・小野田から直接指導を受けられる夢の授業でもあるのだ。

(あとで取材させてくれないかなぁ…)

そんな事を考えながらメイクルームを出て、廊下を歩いて会場へと向かっていると、頭にボルトが突き刺さった人造人間がダメージ加工を施した黒のライダースとYシャツを羽織り、窓際で煙草を吸っていた。

「…キミちゃん、ハマり過ぎでしょ!ソレ!」

身長が180㎝を越えていて、高校時代はラグビーをやっていたキミちゃんは筋肉質。

継ぎ接ぎの特殊メイクを施された顔は、格好いいけど、なかなかの迫力だ。

そんなキミちゃん…貴子の黒猫姿を目にした途端に固まった。

徐々に赤くなる継ぎ接ぎの顔を見て、隣の貴子の顔を覗いた。

…貴子もキミちゃんに見とれてる。

これはお邪魔かも…と私はそっとその場から離れた。

私の前では照れもあるのか、あまり恋人同士らしい雰囲気を出さない二人だけど、現在二人はお互いに惚れ直し中の様子だ。

そっと後ろを振り返れば、キミちゃんの背中越しに横抱きされている貴子の姿が見えた。

ハロウィンの非現実的な雰囲気は恋人たちにも刺激的効果があるんだなぁ…っと納得。

来年の今頃の特集記事の候補として、私は頭の中にメモを残した。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end**

橘若頭と怖がり姫

真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。 その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。 高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。

女の子がほとんど産まれない国に転生しました。

さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。 100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳 そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。 当面は2日に1話更新予定!

恋と首輪

山猫
恋愛
日本屈指の名門・城聖高校には、生徒たちが逆らえない“首輪制度”が存在する。 絶対的支配者・東雲財閥の御曹司、東雲 蓮の「選んだ者」は、卒業まで彼の命令に従わなければならない――。 地味で目立たぬ存在だった月宮みゆは、なぜかその“首輪”に選ばれてしまう。 冷酷非情と思っていた蓮の、誰にも見せない孤独と優しさに触れた時、みゆの心は静かに揺れはじめる。 「おめでとう、今日から君は俺の所有物だ。」 イケメン財閥御曹司 東雲 蓮 × 「私はあなたが嫌いです。」 訳あり平凡女子 月宮 みゆ 愛とか恋なんて馬鹿らしい。 愚かな感情だ。 訳ありのふたりが、偽りだらけの学園で紡ぐカーストラブ。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

一条さん結婚したんですか⁉︎

あさとよる
恋愛
みんなの憧れハイスペックエリートサラリーマン『一条 美郷(※超イケメン)』が、結婚してしまった⁉︎ 嫁ラブの旦那様と毒舌地味嫁(花ちゃん)....とっ!その他大勢でお送りしますっ♡ ((残念なイケメンの一途過ぎる溺愛♡))のはじまりはじまり〜 ⭐︎本編は完結しております⭐︎ ⭐︎番外編更新中⭐︎

処理中です...