シスコン姉君、進軍す

蕾々虎々

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七難八苦の記念日

ご要望とあらば -ファナ-

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 リディーシアお嬢様も今日から高等部一年生となります。
 常日頃からキチンとした身嗜みだしなみを大事にされる方でしたが、今日はいつにも増して気合が入っているようです。先程から気になる部分を治してはまた気になる部分を見つける。それを繰り返していました。

 そこまで気合を入れていらっしゃる理由は明白でしたが、着付けをお手伝いする手は止めないままにえてハッキリとお尋ねしてみます。口にしてみれば少しは落ち着くでしょうし、話したくてウズウズしてらっしゃる顔ですから。

 「リディーシアお嬢様、今日は大変気合が入っていらっしゃいますね」

 私がそう言いますと、お嬢様が何とも分かりやすくソワソワし始めました。そして小声で、

 「これは内緒だからね」

 と。その前振りを固く承諾しました所、その口元が静かに私の右耳へと近づいて来ました。

 「だって……リーネリーシェお姉様と同じ学舎に通える、から……」

 やや赤らめた顔で、それでもハッキリと、そう囁きました。リディーシアお嬢様は、長姉ちょうしであるリーネリーシェ様のことが大好きで堪らないのです。
 そしてリディーシアお嬢様は気付いていませんが、リーネリーシェ様もお嬢様のことが大好きなのです。お屋敷で働く殆どの人はそれを知っていますが、その意思を尊重して口をつぐんでいます。
 口では冷たいことを言いつつ、ことあるごとに理由をつけてはリディーシア様の後を付け、その安全を、成長を見守っているのでした。

 なぜこんなことを知ってるかというと、リディーシア様付きの私としてはそのお姿をしょっちゅうお見かけしますので。というだけではありませんでした。
 リディーシアお嬢様を陰から見守りたい(リーネリーシェ様のそれは他の妹君にも平等に向けられていますが)という同じ願望を持つ私達は、そこそこの頻度で秘密の集会を開いているのでした。

 その内容は時々によりますが、写真の交換やお嬢様にまつわるエピソードの語り合いが主な活動内容となっています。
 基本常にお傍に付いて回る私の方が比重が多くなりますが、そこはそれ。むしろ頭が下がる思いです。
 貴族家の長女としての振る舞いに加えて、学園でも役職を持っているリーネリーシェ様が持て余せる時間など、皆無に等しい筈なのですから。それでも、その才覚で持て余せる時間を確保して、ことあるごとにリディーシアお嬢様の様子を見にくるのですから、流石としか言えません。

 思考が逸れてしまいましたが、要するに大好きなお姉さんに良いところを見せたいと。可愛過ぎですか。

 そんな愛らしいお嬢様の念入りなチェックにとことん付き合いまして一時間半。ようやくご満足頂けました。つい先日まで着ていた中等部の物に比べると、幾分か華美かびになった高等部の制服です。
 身支度が全て片付きましたので朝食の準備はもう出来てます、と告げようとしました所、リディーシアお嬢様が口を開かれました。

 「ファナ。お願いがあるんだけど……」
 「はい、なんなりと」
 「今日は大事な日だから……式に、一人で向かいたいの」

 突然のお願いに面を食らいました。今までこんなことを申されたことは一度もありませんでした。時間的な理由もさることながら、何より安全性の面で今までの外出はすべからく馬車による送迎とさせて頂いていたのです。

 「お嬢様」
 「分かってる。今までそうしてなかった意味も、ちゃんと。それでも、今日だけはお願い!」

 一息にそう言い切られた後、何かを確かめるようにその視線が左右にキョロキョロと揺れ動きました。それから、先程と同じように私の耳にその口元を近付けまして、

 「意味が無いことなのは分かってるけど……リリ姉様と同じ学舎に、自分の足で向かいたいの。中等部の頃はこんなこと考えもしなかったけど、誰の力も借りない自分の力で一歩一歩、しっかりと地に足着けて、リリ姉様に追い付きたいって。そういう、願掛がんかけ……」

 言えば言うほどその内容に合理性が無いことに気付いてしまい、自信が無くなってきてしまったのでしょう。段々尻すぼみになってしまった台詞ことば。現実味の無い、ふんわりとした精神論。そう表面上だけ捉えて未熟と呼ぶのは、暴論でしょう。

 それに価値が無いことを分かっていて、それが迷惑を掛けることを理解して、それでも自分の目指す理想の為に意味があると。尊敬する姉君と自らを比較しては足りない所ばかり見えてしまって自信を持つことが出来なかったリディーシア様が、目指す未来への階段を一歩、登ろうとしているのだと、そう感じました。
 それを、合理性だの理屈を付けて目をやって頭ごなしに否定してしまうというのは、大人のエゴに他ならないと、そう思います。
 ですが、現実的な問題がある以上それを無視する訳にもいかないのも事実。では、それをどうしましょうか。

 (主の要求にあらゆる手管を使って最善の結果で応える。それが侍女の、側付きとして見込んで頂いた旦那様と奥様、そしてお嬢様に対する最大の礼節)

 リスクを採ることは出来ません。でも、希望も損なわせません。その為には何が最適であるのか、脳をフル回転させて最大公約数の解を探し出します。

 (大っぴらに護衛を付けてしまってはリディーシアお嬢様の決意に水を差すことになってしまいます。かといって、私一人が控えた所で最低限のリスクを排除出来る程度ですね。その点で言えばキニャが最適ですけど、彼女はリーネリーシェ様の側付き。その彼女に主のお側を離れさせるのは好ましくありません。それに、あの性格では十中八九余計なことをして場をかき回してしまうのがオチでしょう。護衛を潜ませるという手段も考えられますが、やはり彼らの得手えてとする所とは外れてしまいますので、即応性の面で難が残ってしまいます。であればこの場合は……)

 考え得る最善のプランが思い浮かびました。その方策を取るに当たっては、当人の了承を得なくてはいけませんが。

 (どうしましょう……。お断りされる未来の想像が付きません……)

 何はともあれすぐ行動するに越した事はありませんでした。億が一断られた場合、副案を進行しなくてはいけませんので。

 「かしこまりました、少々失礼致します」

 お嬢様に一言お断りを入れまして、扉を開けてその前に控えていた同僚に手早く声を掛けました。突然のことにも快く頷いてくれたことに感謝しながら、彼女と共に再びお嬢様の前まで戻ります。

 「その希望を叶えられるよう最大限努力致します。それに当たりまして、申し訳御座いませんが本日の食堂への案内は彼女に変わらせて頂きます」

 右隣に並んだ同僚が丁寧に黙礼の形をとります。以前からリディーシアお嬢様と楽しく談笑している所を良く見かけますし、彼女なら何も問題は無いでしょう。

 「え、ええ。でも、ファナはどうするの?」
 「はい。必要な段取りを付ける為、幾つか許可を貰わなくてはならない箇所が御座いますのでその対応に」
 「そう。ゴメン……ううん、有難う。宜しくお願いします」
 「かしこまりました、誠心誠意努めます」

 そうしてきびすを返す、私。向かう先は既に決まっていました。
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