どすこいと鶏ガラ

るーま

文字の大きさ
6 / 13
本編:体型正反対夫婦あるある

6 鶏ガラを小洒落させたい

しおりを挟む
 私たち夫婦は昭和生まれの田舎育ちだ。紳士用下着といえばブリーフかトランクスの二者択一で育った。
 男児のおパンツ事情は詳しくないものの、小学生はブリーフが主流で、中学生になる頃がトランクスへの過渡期であったように記憶している。多分に、サイズ展開と各家庭の買い物奉行のチョイスという、主に供給側の都合と選択によるものであったはずだ。
 世の中にボクサーなる新型パンツが登場したのは、私たちが過渡期に差し掛かった頃であった。
 見た目の格好良さはもちろん、ブリーフの伸縮性を持つトランクス型パンツというハイブリット仕様に、世の男性陣は大変ざわついた。世界的に有名なファッションブランドが売り出した高級パンツに、女性陣も大変ざわつかされた。なにせ三枚一組千円とはいかない。おパンツ一枚に数千円である。
 割とおしゃれさんのどすこい父が欲しがり、どすこい母が渋々、いや、泣く泣く握り締めた数千円と引き換えにした記憶は鮮明だ。
 ともあれ、新型ハイブリットパンツの登場は鮮烈であったが、その高級性から、毛の生えそろっていない坊主どもが足を通せるような一品ではなかったことは確かだ。
 それが10年も経たぬうちに、ブリーフとトランクスに並ぶ定番型になろうとは思いもよらなかった。

 学生時代運動部に所属していた鶏ガラ君は、平常時はトランクス派だが、運動時だけブリーフを穿くようにしていたらしい。飛んだり跳ねたり走り回った際の「短パンの裾からコンニチハ」防止策だ。時にスパッツのようなアンダーウェアを着用することもあったようで、ブリーフの方が収まりがよいという利点もあったようだ。
 結婚する頃には運動をする機会は皆無となっていた。彼が新居に持ち込んだのはトランクスだけだった。新スタンダードのイケメンハイブリッドが一枚もない。それから数年経っても彼のおパンツ事情は変わらず、相変わらずトランクス愛を貫いていた。

 下着は消耗品である。長く使用すれば布もゴムも劣化する。鶏ガラ君のおパンツを新調する時を迎え、ここぞとばかりに提案してみた。
「ボクサー買おうか」
 前話の通り、ぴったりサイズの服を探し求めることを放棄しただけに、せめて下着ぐらいしゃれてみてもよかろうと思った次第である。
 ついでに言えば、鶏ガラ君は出張が多い。一人の時もあれば同僚と一緒の時もある。いついかなるときも見られて恥ずかしくないおパンツを持たせてやろうというのが嫁のまごころだ。
「うちのは前から水平対向だけど、、、いいの?」
 いい歳したおじさんの上目遣いは頂けない。それにときめくのは二次元のみである。そして、微妙に会話をズラしてくるのもいつものことだ。
「エンジンじゃなくてパンツの話な」
 残念ながら、私は洗濯物を畳みながら自動車の買い替えを提案できる豪気さを持ち合わせていない。
「ちぇっ。適当に買っておいて」
 彼は彼で、新しい玩具(くるま)が手に入らないと分かって一気に会話への興味を失くした。貴様のパンツだぞコノヤローと思わずにはいられない。
「ボクサーでもサイズ感一緒かなぁ」
「ウエストサイズありきでしょ」
 おパンツにこだわりはないが苦しいのは嫌だという本人の希望を元に見繕うことにした。
「けどさー」
「何か?」
「あなたが思っているようなことにはならないと思うよー、俺は」
 どうせ広告に踊らされているのでしょと、冷めた目線が私を蔑んでいる。夫のおパンツ一枚を入手するのに踊らされるもなにもない。
「ボクサーパンツの広告が格好いいのは、モデルさんのカラダがいいからだよ」
「まぁそうでしょうね」
 それを言ってしまえば、下着に限らずだ。どんな服も小物も同じである。平均的体型とは一味違った個性のある私たちは、手痛い失敗を数多く経験してきた。いまさら失敗の一つや二つ恐れるに足らずだ。

 店頭で実物を手にとった私は確信した。
 この伸縮性、イケる!
 馴染み深いトランクスと比べて、生地にごわつきがなく、ウェスト部のゴムは洗濯を繰り返しても伸びにくそうだ。幅広のゴムがイケメンづらをして見える。「奥さん。トランクスなんて止めて俺にしとけって。どんな男にもピッタリフィットしてカッチョよく見せっから」と馴れ馴れしく語り掛けてきていた。
 イケメンに囁かれては分が悪い。「あら、そぉ? そう言うのならねぇ」と、頬に手を当て少し困ったフリをしながらも、買い物かごに何枚かぶち込んだ。

 イケメンハイブリッドを手に意気揚々と引上げ、パンパカパーンと鶏ガラ君に広げて見せた。
「何枚か買い替えておいたから」
「ありがと」
 どういたしましてと答える私は相当なドヤ顔をしていたに違いない。ぴったりサイズの既製品だなんて、鶏ガラ君人生初の可能性がある。よしよしと一人満足し、そのまま時は過ぎた。
「そういえば、ボクサーパンツの履き心地はどう?」
「悪くない」
 言い方にむっとしたのが分かったのだろう、付け加えるように「普通」と言い直した。トランクス派といえどもブリーフ経験者であるので、フィット感に慣れがあるのだろうか。期待した感動と感想が得られず、充足感に欠ける。
「ボクサーいいだろ? 今後こっちにするだろ?」
 でかしたという褒めの一言欲しさに、なぁそうだろう? と鬱陶しいまでに同意を求めた。
「どっちでもいい」
 少々剣呑な雰囲気で目を細めた鶏ガラ君はそっと立ち上がり、おもむろに着用したボクサーパンツを見せた。
「な?」
「ぐぅ」
 ある種の敗北感とでも言うべきか、鶏ガラ君の言った通りの結果にがっかりして思わず嘆息が漏れた。
 イケメンハイブリットの誘惑にまんまと踊らされてしまったのである。
 ウェスト部分のサイズに間違いはなかったが、太腿付近にフィット感はなく余裕があるぐらいだ。はっきり言って、トランクス着用時と見た目に大差が無い。ウェストサイズばかりを気にして裾幅のチェックを怠った私の完全敗北だ。
「次こそ……ワンサイズ小さいと苦しいかな」
「どっちでも安い方でいいって」
 失敗直後に掘り下げれば、互いの傷が深まるばかりだ。すまんと呟いて終止符を打ち、それ以降おパンツ談義はご法度となっている。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

6人分の一汁三菜作ってましたが、義両親との関係が破綻したので終了しました

山河 枝
エッセイ・ノンフィクション
★同居解消までの過程だけを知りたい方は、◎の話をお読みください。 日常的に、義両親&筆者夫婦&子2人の夕飯(一汁三菜)を用意してました。 ・惣菜はOK。 ・汁物はほぼ必須。 ・でも味噌汁は駄目。 ・二日連続で同じようなおかずを出してはならない。 ・時期によっては、大量に同じ野菜を消費し続けなくてはならない。 ……という何となく生まれたルールに従っていましたが、心身の調子を崩し、2024年末に同居を終了しました。 ほぼ自分用献立メモと、あとは愚痴です。 筆者のしょうもない悩みを鼻で笑っていただければ幸いです。 ※途中から諸事情により上記の条件を一部無視しています。 (旧題:「6人分の一汁三菜作ってます」)

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

処理中です...