侯爵様と家庭教師

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番外編7 まだ見ぬ小さな幸せ

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 マシューから真鍮製の鍵を手渡された。
 古いものだが、少し洒落た装飾がついていて、観賞用としてもよさそうなものだ。

「何処の鍵だと思う?」

 手にした鍵をしげしげと眺めている妻の頬に口づけながら、マシューは尋ねる。見当もつかないリュネットは
「さあ」と首を傾げるだけだ。
 おいで、と手を引かれたので、あとをついて行く。連れて来られたのは支度部屋だった。

「ここの扉の鍵だよ。開けてごらん」

 部屋の奥にドアがあったことを不思議に思いつつ、鍵穴に差し込んでみる。マシューが言うようにここの鍵だったらしく、ぴったりと嵌まり、なんの引っかかりもなくするりと回った。
 ドアを開けてみると、そこはこの何日かを過ごした自分の寝室だった。

「ここのドアだったのですね」

 ドアがある場所は部屋の隅で戸棚の陰になっている。特に用がないので近づいたことはなかったし、出入りに必要なわけでもないのであまり気にも留めていなかった。

「この鍵はね、屋敷の中に一本しかない。ハワードもモンゴメリさんも持っていないんだ」

 屋敷にある全部屋の鍵を所持している家令と家政婦の名を出され、へえ、とリュネットは鍵を目の高さに翳してみる。

「そして、この鍵は、代々の侯爵夫人レディ・カートランドが持つものなんだよ」

 鍵を持ったリュネットの手首に手を添わせ、マシューは微笑んだ。

「何故ですか?」

 率直な疑問だった。マシューはちょっと困ったように笑ったが、リュネットの額に口づける。

「夫を締め出す為――じゃないかな」

 よく見て、と扉を示される。

「ほら、内鍵はこちら側だろう? つまり、支度部屋の方からは、鍵を使わないと開けられないんだ」

 言われてみればそのようだ。なるほど、とリュネットは頷いた。
 なんとも素晴らしい夫婦喧嘩対策だ。腹を立てているのに同じベッドで眠るなんて冗談ではないし、ひとりでゆっくりと寝たい夜もある。表の鍵をかけてここの鍵もかけてしまえば、リュネットはマシューに邪魔されることもなく、ひとりでゆっくりと眠れるのだ。

「別に黙っていてもよかったんだけど、やっぱりきみは僕の奥さんだし、変な秘密は作らないでいる方がいいでしょう?」

 出入りするなら表からも可能なわけで、この扉を使う必要はない。ここを使って行き来するのは、夫婦の心の距離の問題だとマシューは思っている。

「でも僕の母は、この鍵を父に預けたままにしていたみたいだよ」

 鍵が納められた小箱は、当主の部屋から見つかった。つまり、先代夫婦の存命中は、お互いの部屋の行き来は自由だったのだ。
 ふうん、とリュネットは頷きながら、腰に回っているマシューの腕を解いた。

「折角なのでお預かりしておきます」

 マシューは妻の言葉に僅かに嫌そうな顔をした。そんな夫に、リュネットはにっこりと微笑みかける。

「大丈夫ですよ。がない限り、ここの鍵は開けたままにしておきますから」

 そう言って頬にキスをしてくれたのを信じたのが間違いだった。
 深夜、マシューは回らないドアノブを前に、大きく溜め息をついた。

(こんなことだろうと思ったよ)

 支度部屋から寝室に戻り、表のドアから廊下に出る。そのまま隣の部屋に行ってドアを開けると、こちらは鍵がかかっていなかった。
 枕元の可愛らしいフェアリーランプが優しく照らすベッドの中で、愛しい妻はすやすやと寝息を立てている。その寝顔が可愛いのでまた溜め息が零れた。
 リュネットは一度眠るとある程度の時間が経たないとなかなか起きない。それをいいことに、マシューはぐっすりと眠る妻を連れ出すことにした。
 寝室を分けるとこういうときに面倒だ。以前のようにマシューの部屋で眠ってくれればいいのに。

 部屋続きのドアの鍵を開け、そのドアを開けたままにして自分の寝室に向かう。こうしておけば、明日の朝メイド達が女主人を起こしに来ても、姿が見えないことに驚くことはないだろう。
 起きる気配のないリュネットをベッドに寝かせ、ガウンを脱いだマシューもその隣に滑り込む。首の下に腕を差し入れて抱き寄せると、僅かに吐息を漏らし、マシューの胸へと無意識に頬を擦り寄せた。
 離れて暮らしている間、カトレアがしっかりと食事の管理をしてくれていたのか、リュネットは以前より少しふっくらとしたようだ。元々が痩せ過ぎだったので、今くらいで丁度いいとも思える。骨っぽさの消えた背中を撫でながら、マシューは思わず微笑んだ。

 柔らかい金髪を掻き分け、額に口づけを落とす。そのまま目尻に口づけ、頬にも同じように触れた。リュネットは微かに眉を寄せて吐息を漏らしたが、まだ目を覚ます様子はない。
 意地悪のように唇を塞ぐと、少し嫌そうに首を振る。そのあとを追って更に深く口づけ、僅かに開いた唇の隙間に舌を差し入れた。
 さすがにここまでするとリュネットも目を覚ます。
 しかし、寝起きの為に、自分の身になにが起こっているのか判断がつきかねるらしく、茫洋とした瞳であたりを見回し、夢の中なのか現実の出来事なのか悩んでいるようだった。
 少しすると間近にあったマシューの瞳とようやく焦点が結ばれたらしく、リュネットは眉間に皺を寄せ、覆い被さっている夫の二の腕に拳を叩きつけた。

「――…なに、なさっているのですか」

 苦しかったのだろう。涙目になって軽く咳込みながら、マシューを睨みつけた。

「夫婦は一緒に寝るものだと思うんだけどな、レディ・カートランド?」

 そう言われ、リュネットは部屋の中に視線を走らせる。そこが自分の寝室ではなく、見慣れたマシューの寝室だと気づき、思わず溜め息が零れて脱力した。
 怒るのもそれなりに労力と体力が必要になる。リュネットはそれらを無駄に用いることが馬鹿らしく思えてきて、怒る気力も萎えた。

 夫婦になって一年半が経ち、リュネットはとうとう夫への反抗を諦めたのだった。

 妻の様子からなにかを感じ取ったらしいマシューは、その細い首筋へと唇を寄せる。

「私は眠りたいのですよ、マシュー……」

 耳朶のあたりに口づける夫へ、欠伸交じりに零す。けれど拒絶はしなかった。

「ねえ、リュヌ。僕達は二ヶ月以上も会わなかったんだよ?」

 拒絶はしないながらも素っ気ない態度の妻に、マシューは少し不満げな声を漏らした。これに対してもリュネットは「そうですね」と頷くばかりで素っ気ない。マシューは大きく溜め息を零し、瞼を閉じてしまった妻に口づけた。

「僕はきみを抱きたい」

 改まって言うことでもないだろう、と夫の体勢を見ながらリュネットは眉を寄せた。このまま抱くつもりだったくせに。

「寝込みを襲うのはどうかと思います」

「眠ったままだったらなにもしなかったよ。抱き締めて、大人しく寝るつもりだった。でも、きみは目を覚ましたし」

「口を塞がれれば、苦しくて起きるものでしょう」

 文句を言っている間に、マシューの手は胸許のリボンを解いている。はあ、と溜め息が零れた。

「きみはいつもいい匂いがする」

 寛げた喉許に唇を寄せながらマシューは囁いた。
 当たり前だ。今日は風呂に入ったし、そうするといつも髪に香油を塗り込まれる。リュネットも嫌いな匂いではないので任せているが、なんだかとても贅沢をさせられているような気がして落ち着かない。

「――…いたっ」

 リュネットが思わず小さな声を漏らすと、マシューはすぐに手を止めて謝ってくる。

「ごめん。爪が当たった?」

「そうじゃなくて……最近、ちょっと胸が痛むの。あまり強く触らないでください」

 乳房の上に置かれたマシューの手を掴み、そっと退かす。自分で触る分には構わないのだが、コルセットを締めるときでも痛むときがあって困っているのだ。

「痛むって、張るような感じ?」

「そう、かも」

「……ちょっとごめん」

 一応の断りを入れ、マシューはリュネットを起こしてから寝間着を引き下ろし、乳房を露出させた。恥ずかしかったがもう何度も見られていることだし、悲鳴を上げたりせず、リュネットは黙ったまま夫のすることを見守った。

「こう触ると痛む?」

 下から掬い上げるように触れられ、素直に頷く。どのように触られても多少の痛みを感じるのだ。

「触った限りだとしこりはなさそうだし……なんだろう?」

 元々胸が大きいので肩は凝りやすいし、腋のあたりの筋肉も痛むときがあるが、それとはまたちょっと違う感じなのだ。その所為でリュネットも少し戸惑っている。
 なにかの病気だろうか、と考え込んでいたマシューだったが、特に思い当たることがなかったらしく、肩を竦めてリュネットを抱き寄せた。

「痛くしないように、優しくするよ」

 耳許で囁かれ、リュネットは頬を淡く染める。
 あえかな吐息を漏らすと優しく耳朶に口づけられ、身体の線を辿るようにマシューの手が滑り降りる。リュネットはふるりと身を震わせ、目を閉じた。
 布地越しではなく直接触ると、痩せ過ぎだった妻の肢体が随分とふっくらしたのがよくわかる。骨張っていた以前の身体よりもずっといい。
 その柔らかさを確かめるように滑らかな肌に歯を立て、身体のあちこちに小さな刻印を刻みつけていくと、仰け反ったリュネットの唇が吐息交じりに甘い声を吐き出す。その声もまた耳に心地いい。

「――…あっ、はぁ……っ」

 マシューを身体の内に受け入れると、リュネットは喘いで息を詰める。まだ慣れないようなその様子にマシューは愛しさが込み上げてきて、震える妻の身体を抱き締めた。
 リュネットが落ち着くのを待ちながら、肩や首筋に甘く歯を立てる。優しく腹の上を撫でると、震えているのが掌に伝わってくる。その様子がなんだかとても可愛らしく思えた。

「メグの出産に立ち会ったんだっけ」

 落ち着くのを待つ間、いつものようになんでもない話題を口にする。リュネットは呼吸を整えながら背中越しに夫を振り返り、ええ、と微笑んだ。

「ヘンリーさん似の女の子。可愛かった」

「そう」

 マシューは年が明けてから出産祝いを兼ねて会いに行く予定だ。ローズマリーという名前をつけた話は聞いていたが、その可愛らしい姪にはまだ会っていない。
 楽しみだ、と囁きながら、リュネットへ口づけた。

「ねえ、レディ・カートランド」

 呼吸がようやく落ち着いたリュネットをベッドに横たえながら、マシューは微笑みを向ける。

「僕もそろそろ自分の子供を腕に抱きたいのだけれど」

 マシューには甥姪ばかり五人もいるが、自分の子供は一人もいない。
 特別に子供好きというわけではないが、リュネットとの間に生まれる子供ならきっと可愛いだろうし、なにより、リュネットと自分を繋ぐ存在というものが可視化されるのは嬉しい。そんな存在を早くこの腕に抱きたかった。
 気遣うようにゆったりとしたマシューの動きに合わせて唇を噛み締めながら、リュネットはこんなときに見せたこともないような和らいだ笑みを浮かべ、そっと夫の方へ手を伸ばした。

「初夏の頃には叶うと思いますよ?」

 伸ばされた手を取って口づけていると、そんなことを囁かれる。マシューは訝しんだ目を妻へと落とした。

「四ヶ月目に入ったところだそうです」

 そう言ってリュネットは自分の腹の上にそっと手を乗せた。
 マシューも元は医学の道を志した人間だ。妻の発した言葉の意味が理解出来ないほどには疎くない。
 しかしそれでも、予想のしていなかった突然の告白は思考を停止させ、マシューをおおいに戸惑わせた。

「……え? は? ……えぇ?」

 今までに発したこともないような間抜けな声を零し、混乱の表情でリュネットを見下ろした。

「……本当の話?」

 ようやくまともな文章になって舌の上を転がったのは、そんな質問だった。
 以前にも懐妊の兆候が見られて医者に連れて行ったことがあるが、そのときは間違いだった。それ故に妻の告白に思わず疑いの気持ちが浮かんでしまう。
 初めて見るようなそんな夫の様子がおかしくて、リュネットはクスクスと笑いながら「はい」と頷いた。

「少し前からなんとなく違和感があって……こちらに戻る前に、ちゃんとお医者様に診て頂きました」

「きみ一人で行ったのか?」

「いいえ。タウンハウスに寄ったので、ポリーに付き添ってもらいました」

 初めは内科に行こうと思っていたのだが、ポリーの薦めで産婦人科に行ってみたのだ。そうしたら、この胎の中に新しい命が宿っているということだった。
 マシューは思わず眉を寄せる。そんな報告はひとつも受けていない。
 そこでハッとして、マシューは慌ててリュネットから身体を離した。

「こんなことをしている場合じゃないじゃないか! どうして言わないんだ」

 いきなり夫が離れたことで上げかけた悲鳴を堪えたリュネットは、彼が何故怒り始めたのか見当がつかず、涙目で小首を傾げた。

「まだお腹も大きくなってないし、いいかな、と思って……」

「そういう問題じゃないよ、リュヌ」

 マシューはベッドから飛び降りると本棚へ向かい、並んだ背表紙をざっと目で追いながら何冊か抜き出しては中身を確かめ、それを床に放り出し始めた。

「えぇーと、これでもなくて……これも違う。違う」

 リュネットは起き上がり、ぶつくさと零しながら本棚の中身を引っ繰り返している夫の後ろ姿を不安そうに眺めた。

「ああ、もう! 十年も前のことなんて覚えていないよ。だいたい僕が専攻していたのは外科だぞ!?」

「マシュー……なにをしたいのかわからないけれど、服を着てからにして。風邪をひくわ」

 いくら暖炉の火が入っているとはいえ、季節は十二月で、外は雪も積もっている。裸でふらふらしていたら風邪をひく。
 リュネットの指摘は尤もだ。マシューはベッドの方へ戻って来ると、脱ぎ捨てたガウンを拾い上げた。それを羽織りながら、寝間着を着直しているリュネットの様子をじっと見つめる。
 どうりでふっくらした筈だ。妊娠したのなら肉づきがよくなってもおかしくはない。
 ふと、掌を見つめる。

(もしかして、さっき腹が震えていたのは……)

 マシューを受け入れる為に懸命になっているリュネットが震えているのかと思っていたが、そうではなかったのかも知れない。
 十三週目くらいではまだ胎動は感じられないかも知れないが、リュネットは元々とても痩せていた。肉づきが薄かったのだから、普通は感じられない子宮の感触もわかりやすい場合もあるのだろうか。
 そのことに思い至ったマシューはベッドに上がり、リュネットを抱き寄せた。

「マシュー?」

 急にそんなことをされたリュネットは怪訝そうにするが、彼の手がお腹の上にそっと触れてきたので、なんとなくその意図を察した。
 愛撫しているときには気づかなかったが、肉がついたにしては変な太り方をしている。懐妊して腹が大きくなってきているのだとすぐにわかった。
 どうしてさっきは気づかなかったのか、とマシューは自分の観察力のなさが情けなくなってくる。妊娠中の妻を無理矢理抱こうとしていたことがモンゴメリやハワードに知られたら、またなにを言われるかわかったものじゃない。

「擽ったい」

 肩に額を乗せ、そのまま大きく溜め息を零した夫に、リュネットは笑った。その明るい声がマシューはなんだか嬉しくなる。
 リュネットがマシューに対して楽しげな様子を見せたところは、実はあまりない。マシューの行動がそうさせているのはわかっているが、彼女はいつもちょっと怒ったような態度ばかりしているし、笑ったところもあまり見たことがないのだ。
 そんな彼女が笑っている。しかもお腹の中には自分との子供を抱えて――それがマシューにはとても幸せなことだった。

「本当に、ここに子供がいるんだね」

 触れていると、掌の下で僅かに震えるような感触がある。
 それがリュネット自身が震えている所為なのか、胎の子の微弱な胎動なのかはよくわからない。けれどとても温かな気持ちになれる。
 リュネットはこくりと頷き、マシューの手にそっと自分の手を重ねた。

「なんだか不思議な感じだけど」

「僕もだ」

 子供が欲しいとは以前から度々口にしていたが、いざその存在がこの手の中に現れてみると、なんだか変な感じだった。しかもそれはまだ姿の見えないものなので、余計にそう感じる。

「喧嘩ばかりしているけど、親になってもいいって、神様はそう思ってくれたのね」

 そう言ってリュネットは微笑んだ。
 医学生だったマシューは妊娠の仕組みについて知っているので、もっと現実的な考えが浮かんでそんな考えは起こらなかったが、妻が幸せそうなので同意しておく。

 そんな折、控えめなノックの音が響いた。

「旦那様、なにかございましたか?」

 どうやら先程マシューが本棚を引っ繰り返したりしている物音を不審に感じたバーネットが、わざわざ様子を見に来てくれたようだ。深夜だというのに申し訳ない。

「丁度よかった、バーネット」

 マシューはリュネットを毛布で包んで頬に口づけると、ドアを開ける為に歩いて行った。

「僕の学生時代の医学書や参考書はまだ取ってあるかな?」

「大学時代のものですか? 図書室の奥に保管されていると思いますが……」

 上機嫌な様子で顔を出した主人に面食らいながらも、バーネットは質問に答えた。記憶に間違いがなければ、図書室の一番隅の方の、あまり読まない本が固めてあるあたりにしまった筈だ。寄宿学校時代の教科書類は、学年が変わる毎に下の世代に渡していたので取っていないと思う。
 そうだった、とマシューは微笑み、思い出したように頷いた。

「リュヌ、僕はちょっと調べものに行って来るから、きみは先に寝ていて」

「はい」

「お前ももう休め、バーネット。騒がせて悪かったな」

「はあ……」

 なにがなんだかわからない、という表情で頷きつつ、バーネットは部屋を出て行く主人の背中を見送った。

 ドアが閉まって部屋の中にひとりきりになったあと、リュネットは布団を直し、もぞもぞと中へ潜り込む。
 本当は、子供のことをいつ伝えようか、ずっと考えていたのだ。自分の口から伝えたくて、ポリーやサンダースには口止めしておいたのだけれど、そちらから伝えてもらった方が楽だったかも知れない。でも、自分の口で伝えてよかった、と今では思う。
 マシューは嬉しそうだった。どんな顔をするかと思って少し不安だったが、嫌がっている雰囲気はなかったので、それだけでも一安心だ。

 マシューの匂いの残る枕に頭を乗せながら、リュネットはうっとりと目を閉じる。
 半年ほど経つと自分は母親になる。それはとても不思議な感じで、まだ想像はほとんど出来なかったが、嫌なことではないと思えた。

(男の子かしら? 女の子かしら?)

 まだ肉づきの薄い腹に触れながら、いつかこの腕に抱くことになる我が子に思いを馳せる。
 自分に似るだろうか、マシューに似るだろうか。マシュー似の女の子だったら、メグにも似るかも知れない。それもまた面白い。
 それとも、祖母と自分のように、亡き両親のどちらかに似ることもあるだろうか。それはそれで素敵なことだと思う。


 いつの間にか眠りに落ちていたリュネットは、明け方頃に戻って来たマシューの腕の中で目覚め、その寝顔を見つめて安心すると、幸せな未来を夢見ながらもう一度目を閉じた。





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