愛執の匣

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6話

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 更にクリームを垂らし、指をもう一本増やして押し込んだ。昂大たかひろの喉から搾り出すような苦鳴が零れる。

「昂大、力を抜け」

 押さえつけた腕の中で、細い肢体が藻掻く。その戒めを振りほどく力も気力もないくせに、憐れな抵抗を試みている。
 可哀想に、と匡一きょういちは表情を歪めた。愉悦の色に。

「苦しいのか、昂大?」

 気遣うような声音で白々しく尋ねる。昂大はぽろぽろと涙を零しながら、そんな当たり前としか思えない馬鹿げた問いかけに頷いた。
 匡一は静かに、唐突に注挿を早めた。

「いっ、あ、うあ、うぅ……!」

 昂大は堪らずに悲鳴を上げた。力が入って締まろうとする肛門を、匡一は内部で指を開くことによって無理矢理押し拡げた。その乱暴な行為に、昂大は更に悲鳴を上げた。
 肛門を引き裂かれるのではないかという激痛に、昂大は掠れた悲鳴を洩らす。匡一はその様子に恍惚とした笑みを浮かべながら、乱暴な行為を止めようとはしない。

「どうして欲しい?」

 昂大から呻き声しか零れなくなった頃、その耳元で囁く。
 どうして欲しいかなどと、そんなものは決まっている。昂大はなんとか音を舌に載せ、か細く「抜いて」と懇願した。
 今は本当にそれしか考えられなくなっていた。ただただ、今自分の身体を苛んでいる苦痛の原因を取り除きたい一心で、そう懇願した。

 匡一は微かに吐息を洩らし、それからゆっくりと指を引き抜いた。
 肛門を押し拡げる不快感と痛みがなくなったことを実感した昂大は、ゆるゆると全身の緊張を解く。尻を突き上げるように立てられていた膝から力が抜け、ずるりとベッドの上に倒れた。

「…………は、あ……ぁ」

 ようやくまともな呼吸が出来たような気がする。
 どれくらいの時間が経ったのかわからない。酷く長い拷問のような時間だったが、実際はそんなに長い時間ではなかったのかも知れない。

 昂大にはなにがなんだかわからなかった。すべてが夢のような気さえする。
 兄の匡一を揶揄ったら、彼は珍しく怒ったのか、生意気な弟をベッドに押し倒した。そうして、セックスが気持ちいいかどうかは自分で体験すればいい、と告げ、こんな事態に陥った。

 やっぱり夢だったのだ、と天井を見上げて思う。匡一があんなことをする筈がないのだ。

 涙で滲む視界にぼんやりとしていると、ベッドが軋んだ。
 視線を動かすより早く、目の前に匡一の顔が現れる。なんだろう、と疑問を感じる前に、ふっと唇が触れてきた。
 酸素を求めて薄く開かれたままだった唇を更に割り開き、熱い舌先をぬるりと侵入させる。昂大は僅かに声を零したが、抵抗もなく、匡一を受け入れた。
 匡一は従順にキスに応える弟を見つめる。
 薄く瞼を閉じた幼さの残る顔は夢現なのか、今まで与えられていた苦痛の所為で抗う気力もないのか、黙って匡一の口づけを受け止めていた。

(夢の中の出来事になんか、させない……)

 今夜の出来事をなかったことになんかさせない。匡一はジーンズのファスナーを開き、ボクサーパンツをずらした。窮屈な布地の中からその姿を覗かせた匡一のペニスは既に硬く屹立していて、腹を打つほどに反り返っていた。


 昂大がふっと目を開ける。
 その視界に匡一の姿を収め、微睡もうとしていた意識が瞬時に覚醒する。ギョッとしたように双眸が大きく見開かれ、その顔色が一瞬にして色をなくした。
 まだ包皮も剥けていない幼い昂大のものとは違い、赤黒く隆起した大人のものが目の前にあったのだ。

 兄貴、と震える声が零れる。

「なにを……」

 青褪めた昂大は目の前の怒張を凝視し、言葉を失った。力の入らない身体に明らかな怯えが走る。
 逃げ腰になったところを匡一が素早く押さえつけた。抵抗する間もなく引き寄せられ、昂大の華奢な身体は匡一に組み敷かれる。

「兄貴……ねえ、兄貴……」

 数時間前までの生意気で強気な態度は何処へやら、昂大は今や完全に恐ろしさに震えている。縛られたままの腕は小刻みに揺れ、こんなことをしている兄を殴り飛ばすことすら出来ない。それくらいは出来る筈なのに、身体が強張っていうことを利かないのだ。

「昂大」

 匡一は愛しい弟の名前を呼んだ。その声音にはたっぷりと狂気と情欲が滲んでいて、昂大の肌を粟立たせた。

「い、いや……!」

 先程までの非ではない身の危険を感じる。
 昂大は首を振り、兄の腕から逃れようとした。けれど、匡一の力には敵わない。
 僅かに離れた距離を埋めるように更に引き寄せられ、細い膝を掴まれる。それが左右に大きく開かされると、その間に匡一の身体が入り込んだ。

「本当は、ゴムつけた方がいいんだろうけど……」

 先程までの乱暴な愛撫で拓いた昂大の蕾を見下ろしながら、小さく零す。衛生面のことや、滑りやすさなどを考慮したら、コンドームをつけていた方が都合がいい。そういうものが必要な行為をすることもある年頃の匡一は、男側の最低限のエチケットとして、きちんと備えはしてある。しかし、それを使用するつもりはなかった。

 匡一はそっと微笑み、怯えて震える最愛の弟へと手を伸ばした。
 涙に濡れた頬に優しく触れるが、決して危害を加えるようではないその行為にすら昂大は緊張し、ビクリと身を縮こめる。

「お前の初めてだから、直に感じたい……いいよな?」

 そう言って、嬉しそうに微笑む。
 昂大は激しく首を振った。その所為で頭がクラクラしたが、構わず身を捩る。

「兄貴、やだ……」

「力、抜いてろ」

「兄貴……っ!」

 昂大の悲痛な懇願が響く。いつもならそんな声を聞かせれば、匡一はなんだかんだと折れるものだった。仕方がないなあ、と苦笑して、昂大の我儘を聞く。ここ数年、一方的な劣等感から少々距離をとっていたにも拘らず、そういう我儘のときだけはしおらしく擦り寄る昂大のことでも、気にした風もなくいうことを聞いてやっていたのだ。
 そんな可愛い昂大の頼みだ。匡一にしたら取るに足りない些細な我儘なので、普段なら聞いてやるのが当たり前だ。普段なら。

 けれど、今夜はそんな気は毛頭なかった。




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