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第2章 二回目の学園生活
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「マリアンヌ様!」
教室に入った途端声をかけられた。
視線を送ると、一人の女生徒が笑顔でこちらへやってきた。
「お元気そうで良かったですわ」
「……ありがとうございます……ええと……」
「バーバラ・アーチボルド嬢ですよ」
戸惑っていると後ろからカミーユが教えてくれた。
アーチボルド侯爵家といえばバシュラール家とは懇意の家で、そのご令嬢はマリアンヌの親しい友人の一人と聞いていた。
何度かお見舞いの手紙ももらっている。
「バーバラ様……お手紙を下さった方ですね。ありがとうございました」
お礼を言うと、バーバラ様は困ったような顔を見せた。
「マリアンヌ様……本当に忘れてしまったのですね」
「申し訳ございません……」
「それは仕方ありませんけれど……」
ちらとバーバラ様の視線が私の腰へと落ちる。
そこには未だに回されたままの殿下の手があった。
「……療養中、殿下との仲は改善されたようですね」
「え、ええと……」
「そうだな、アンは大切な婚約者だ」
ぐ、と殿下は手に力を込めた。
「記憶がなくとも困らないよう、こうして僕が側にいて守る」
「――それは頼もしいことでございますわ」
す、とバーバラ様の眼差しが冷ややかなものになる。
「マリアンヌは殿下のことでずっと悩んでいたようですから」
「悩んで……」
「それはもう解決した。問題ない」
「解決?」
殿下の言葉に思わずその顔を仰ぐと、殿下は私に満面の笑みを向けた。
「僕は『アン』を生涯愛し、守る。それで問題はないだろう」
私たちの会話に聞き耳を立てていた級友たちからきゃあ、という悲鳴のような歓声が聞こえた。
四十五年ぶりの授業はなかなか疲れるものだった。
殿下やカミーユから授業内容を教わっていたとはいえ、やはり実際に教室で受けるのは違う。
午前だけですっかり疲れてしまった。
「大丈夫ですか」
席でぼんやりしているとカミーユが声をかけてきた。
「……この歳になると授業について行くだけで大変だわ」
授業というのはこんなに進みが早いものだったろうか。
もう昔すぎて覚えていないけれど、ついていくのがやっとというのはおそらく……いやきっと、歳のせいだろう。
――脳も十六歳のマリアンヌのもののはずなのだけれど。
「そういうものですか?祖父は『まだあと十年は現役だ』と豪語していますが」
「あの人は特別よ。子供の頃から……」
「アン!」
ずしり、と肩に重みを感じた。
「授業はどうだった?分かる?」
背後から抱きつくように、私の首に腕を回すと殿下が顔を覗き込んできた。
「はい……何とか……」
「顔色が良くないけど。疲れた?」
翡翠色の瞳がじっと私を見つめる。
「いえ……」
「今日は午前中だけでいいと言われているんだろう。無理せず帰った方がいい」
「え、いえまだ大丈夫で……」
「そうですね。馬車の準備をさせましょう」
そう言い残すとカミーユが教室を出ていってしまった。
「そんなに心配しなくても……」
確かに疲れてはいるが、早退するほどではない。
今朝も朝起きた時から出かける直前まで、息子夫婦に体調は大丈夫なのか、不安はないかと何度も心配された。
階段から落ちた時の怪我や痛みはもうすっかり何ともない。
若い子たちに囲まれての学園生活には、確かに不安はあるけれど……マリアンヌのためにもいつまでも引きこもっている訳にもいかないのに。
カミーユもわざわざ遠回りして迎えに来てくれたし、まったく、みんな過保護過ぎる。
「それは心配するだろう」
ふと殿下は目を細めた。
「アンが大切だからな」
私を見つめる、その眼差しはとても優しくて、私を心から慕っていることを語っていて――そうして、私の中ではまだ一ヶ月前に別れたばかりの、夫アルノーを思い出させた。
教室に入った途端声をかけられた。
視線を送ると、一人の女生徒が笑顔でこちらへやってきた。
「お元気そうで良かったですわ」
「……ありがとうございます……ええと……」
「バーバラ・アーチボルド嬢ですよ」
戸惑っていると後ろからカミーユが教えてくれた。
アーチボルド侯爵家といえばバシュラール家とは懇意の家で、そのご令嬢はマリアンヌの親しい友人の一人と聞いていた。
何度かお見舞いの手紙ももらっている。
「バーバラ様……お手紙を下さった方ですね。ありがとうございました」
お礼を言うと、バーバラ様は困ったような顔を見せた。
「マリアンヌ様……本当に忘れてしまったのですね」
「申し訳ございません……」
「それは仕方ありませんけれど……」
ちらとバーバラ様の視線が私の腰へと落ちる。
そこには未だに回されたままの殿下の手があった。
「……療養中、殿下との仲は改善されたようですね」
「え、ええと……」
「そうだな、アンは大切な婚約者だ」
ぐ、と殿下は手に力を込めた。
「記憶がなくとも困らないよう、こうして僕が側にいて守る」
「――それは頼もしいことでございますわ」
す、とバーバラ様の眼差しが冷ややかなものになる。
「マリアンヌは殿下のことでずっと悩んでいたようですから」
「悩んで……」
「それはもう解決した。問題ない」
「解決?」
殿下の言葉に思わずその顔を仰ぐと、殿下は私に満面の笑みを向けた。
「僕は『アン』を生涯愛し、守る。それで問題はないだろう」
私たちの会話に聞き耳を立てていた級友たちからきゃあ、という悲鳴のような歓声が聞こえた。
四十五年ぶりの授業はなかなか疲れるものだった。
殿下やカミーユから授業内容を教わっていたとはいえ、やはり実際に教室で受けるのは違う。
午前だけですっかり疲れてしまった。
「大丈夫ですか」
席でぼんやりしているとカミーユが声をかけてきた。
「……この歳になると授業について行くだけで大変だわ」
授業というのはこんなに進みが早いものだったろうか。
もう昔すぎて覚えていないけれど、ついていくのがやっとというのはおそらく……いやきっと、歳のせいだろう。
――脳も十六歳のマリアンヌのもののはずなのだけれど。
「そういうものですか?祖父は『まだあと十年は現役だ』と豪語していますが」
「あの人は特別よ。子供の頃から……」
「アン!」
ずしり、と肩に重みを感じた。
「授業はどうだった?分かる?」
背後から抱きつくように、私の首に腕を回すと殿下が顔を覗き込んできた。
「はい……何とか……」
「顔色が良くないけど。疲れた?」
翡翠色の瞳がじっと私を見つめる。
「いえ……」
「今日は午前中だけでいいと言われているんだろう。無理せず帰った方がいい」
「え、いえまだ大丈夫で……」
「そうですね。馬車の準備をさせましょう」
そう言い残すとカミーユが教室を出ていってしまった。
「そんなに心配しなくても……」
確かに疲れてはいるが、早退するほどではない。
今朝も朝起きた時から出かける直前まで、息子夫婦に体調は大丈夫なのか、不安はないかと何度も心配された。
階段から落ちた時の怪我や痛みはもうすっかり何ともない。
若い子たちに囲まれての学園生活には、確かに不安はあるけれど……マリアンヌのためにもいつまでも引きこもっている訳にもいかないのに。
カミーユもわざわざ遠回りして迎えに来てくれたし、まったく、みんな過保護過ぎる。
「それは心配するだろう」
ふと殿下は目を細めた。
「アンが大切だからな」
私を見つめる、その眼差しはとても優しくて、私を心から慕っていることを語っていて――そうして、私の中ではまだ一ヶ月前に別れたばかりの、夫アルノーを思い出させた。
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