元お助けキャラ、死んだと思ったら何故か孫娘で悪役令嬢に憑依しました!?

冬野月子

文字の大きさ
15 / 66
第3章 ヒロイン

02

しおりを挟む
「まあ……すっかり変わってしまったのね」
学園の中庭を見渡して思わず声が漏れた。

丁寧に手入れされていて居心地が良く、天気がいい日はいつもアルノーと昼食を取っていたこの場所は、遠い記憶にある思い出の景色とすっかり変わってしまった。
建物は建て替えるのが大変だけれど、庭は手を加えやすいのというのもあるのだろう。


放課後、私は一人でここに来た。

殿下は今日は公務で休みだ。
カミーユも家の用事があると午前で帰ってしまった。
二人からは今日はすぐに帰るよう言われているけれど――せっかくの一人で行動できる機会を逃す手はない。

いつも学園内ではあの二人がべったりと張り付いているため自由行動ができない。
私はこの学園でマリアンヌが落ちた原因を探りたいのだが、危険だといってそれを許してくれないのだ。


「さて。どこへ行こうかしら」
マリアンヌが落ちた階段は……人気がなさすぎるから、流石に一人で行くのは控えておこう。
でも図書館には行ってみた方がいいだろうか……

「あの」
思案していると背後から声をかけられ振り向いた。
シャルロットが立っていた。



「マリアンヌ様。少しよろしいでしょうか」
「――ええ」
頷くとシャルロットは歩み寄り、近くにあるベンチを指した。
促されるまま腰を下ろすとその傍に立つ。
「あなたも座ればよろしいのに」
「……私は平民なので」

「あら、私は気にしないわ。それに立ったままの方が話しにくいもの」
そう言うとシャルロットは驚いたように目を見開いた。
少し迷いながらも遠慮するようにベンチの端に腰を下ろした。

「……本当にマリアンヌ様は記憶がないのですね」
「え?」
「前は『平民のくせに』って言われましたので」

あの子そんな事言ったの?!
身分で差別するような子に育てた覚えは――いや私が育てた訳ではないけれど。
ショックだわ……

でも……私は前世が平民だったから気にしないだけで、それが普通の貴族の反応なのかもしれない。
侯爵令嬢という貴族の中でも高い身分のマリアンヌには、平民と接する機会がないのだろう。



「それで……私に何かご用かしら」
「はい、聞きたいことがあるんです」
「何かしら。殿下のこと?」
「いえ、マリアンヌ様の、というか……」
言い淀んで、しばらく悩むような様子のシャルロットだったが、やがて決意したようにこちらへ向いた。

「変なことを聞いたら申し訳ないんですけれど」
「ええ」
「乙女ゲーム、ってご存知ですか」


「え――」
突然の言葉に思わず声が出た。

乙女ゲーム、ってあの乙女ゲーム?
この世界の――
って、あれ?

その言葉を知っているということは、もしかしてシャルロットも――


「その反応……やっぱり知っているんですね」
私を観察するようにじっと見つめていたシャルロットはそう言って、ふいに手で顔を覆った。

「じゃあやっぱり……ここはヒロインがざまぁされる世界なんだ!!」
「え?」
ざまぁ?

「せっかく好きだったゲームの世界に転生したのに! ざまぁされて破滅なんて嫌よ!」
「え、あの……シャルロットさん?」
突然泣き出されてオロオロしてしまう。
ヒロインが破滅ってどういう事? あと『ざまぁ』って何?



「――マリアンヌ様も……転生した日本人なんですよね」
覆っていた指の間から潤んだ瞳が私を見た。
「え……ええ」
頷くと、ふいにシャルロットは私の腕を掴んだ。
「だったら私をざまぁしないでください! 殿下には今後一切関わりませんから!」
「……さっきから『ざまぁ』って、何ですの?」

「何って、よくネット小説とか漫画であったじゃないですか」
「ネット小説……ごめんなさい、読んでないの」
「……ここが乙女ゲームの世界なのは知ってますよね」
「ええ」
「このゲームもやってました?」
「やっていたけれど……それと小説と何の関係があるのかしら? それになぜヒロインが破滅しますの?」
首を傾げた私にシャルロットが説明を始めた。

何でも、乙女ゲームの悪役令嬢を主人公にした小説や漫画が人気ジャンルとしてあったらしい。
そしてその小説ではヒロインは悪役で、時には婚約破棄した元婚約者とともに『ざまぁ』されるのだと。
『ざまぁ』というのは断罪のことで、追放されたり、酷いものだと国ごと破滅してしまうものもあるのだという。

私はゲームはいくつか遊んでいたけれど、ネット小説は読んだ事はなかったのでそういうものがあるとは知らなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない

魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。 そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。 ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。 イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。 ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。 いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。 離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。 「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」 予想外の溺愛が始まってしまう! (世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!

【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!

白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。 辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。 夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆  異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です) 《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆ 

本の虫令嬢ですが「君が番だ! 間違いない」と、竜騎士様が迫ってきます

氷雨そら
恋愛
 本の虫として社交界に出ることもなく、婚約者もいないミリア。 「君が番だ! 間違いない」 (番とは……!)  今日も読書にいそしむミリアの前に現れたのは、王都にたった一人の竜騎士様。  本好き令嬢が、強引な竜騎士様に振り回される竜人の番ラブコメ。 小説家になろう様にも投稿しています。

悪役令嬢に転生したと気付いたら、咄嗟に婚約者の記憶を失くしたフリをしてしまった。

ねーさん
恋愛
 あ、私、悪役令嬢だ。  クリスティナは婚約者であるアレクシス王子に近付くフローラを階段から落とそうとして、誤って自分が落ちてしまう。  気を失ったクリスティナの頭に前世で読んだ小説のストーリーが甦る。自分がその小説の悪役令嬢に転生したと気付いたクリスティナは、目が覚めた時「貴方は誰?」と咄嗟に記憶を失くしたフリをしてしまって──…

【完結】引きこもりが異世界でお飾りの妻になったら「愛する事はない」と言った夫が溺愛してきて鬱陶しい。

千紫万紅
恋愛
男爵令嬢アイリスは15歳の若さで冷徹公爵と噂される男のお飾りの妻になり公爵家の領地に軟禁同然の生活を強いられる事になった。 だがその3年後、冷徹公爵ラファエルに突然王都に呼び出されたアイリスは「女性として愛するつもりは無いと」言っていた冷徹公爵に、「君とはこれから愛し合う夫婦になりたいと」宣言されて。 いやでも、貴方……美人な平民の恋人いませんでしたっけ……? と、お飾りの妻生活を謳歌していた 引きこもり はとても嫌そうな顔をした。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

処理中です...