35 / 37
第三章
08
しおりを挟む
「――もう、サラちゃんが目を覚さなかったらどうするの」
「お前が憑依なんかするからだろう」
「あなたが魔力が入ったブレスレットなんか渡すから……って、そもそもあのムーンストーンどこで手に入れたの? あなたには渡したことないはずよ」
「どこでだっていいだろう」
「……しずかにして……」
すぐ側で騒がれると頭に響く。
「サラちゃん?!」
「目が覚めたか」
重たいまぶたを開くと、女神とオリバーが私を覗き込んでいた。
「気分はどう?」
「……身体が重くて……気持ち悪い……」
「魔力酔いだな。魔力のない身体にモーネの力が流れ込んだから」
「ごめんねサラちゃん」
女神が私の手を握りしめた。
「どうしてもあの男に言ってやりたくて」
(……ああ、そうだ)
ぼんやりとした頭で思い出した。
舞踏会の最中、騒ぎが起きて……。
「……今は何時?」
「夕方だ」
「昨日の夜からずっと眠っていたのよ」
「昨日……」
そんなに?
そう言われれば、部屋の中が明るい。
窓へと視線を移すとその向こうは夕暮れ色に染まっていた。
「さっきまでお前の婚約者がずっと側についていたが、会議があるからと交代した」
「会議?」
「今回の件の確認と、関係者の処遇についてだな」
「……お父様は行かなくていいの?」
「私は政治とは関わらない。それにお前の方が大事だ」
くしゃりと頭を撫でられた。
「……ふふっ」
「何だ」
「子供の頃を思い出して……。よく熱を出すとこうやって二人で見守ってくれたから」
普段は研究第一な父親だけれど、私の具合が悪くなると研究を放置して。
いつの間にか現れた女神とあれこれ言い合いしながら、二人で熱が下がるまでずっと側にいてくれたのだ。
「半分人間のあなたの身体に魔力が馴染むまでは、身体が弱かったものね」
そう言って女神も私の頭を撫でた。
「何日も高熱が続いて……どの子もそうなってしまうのよね」
(……そうか、私だけじゃないのね)
過去存在した女神の娘たちも、そうやって強すぎる魔力と戦いながら成長し巫女となっていったのだろう。
「次に生まれる娘はそうはさせない」
オリバーが言った。
「……どういうこと?」
「サラに渡したそのブレスレットを上手く使えば、体内の魔力を調節することができるだろう」
私は手首を見た。
そこにはまだオリバーからもらった、私の魔力を込めたというブレスレットがはめられたままだ。
「まあ。あなたそんなこと考えていたの」
「娘に辛い思いをさせたくはないだろう」
「アダム……あなたって本当にいい父親ね」
女神はぎゅっとオリバーを抱きしめた。
「ねえ、別に五年も待たなくても子供はできるでしょう。サラちゃんだって早く妹が欲しいわよね」
「……まだ早い」
「どうして?」
「――身長がお前より高くなるまではダメだ」
耳を赤く染めながらオリバーは言った。
「もう……あなたって本当に」
女神はさらにオリバーを抱きしめた。
「そういう所が可愛いんだから」
「は? 可愛くなんかない」
「可愛いわよ、ねえサラちゃん」
「……ソウデスネ」
(本当に、両親の仲がいいのは良いことだけれど……)
体調が良くないときに目の前でイチャつかれても、それに付き合える気力はない。
ゆっくりと、私の意識はまた身体の奥底に沈んでいった。
*****
「あら、サラちゃん寝ちゃったの?」
女神は眠るサラの額にそっと手を触れた。
「まだ熱が高いのね」
ふわりとその手が光ると、銀色の光がサラを包み込んだ。
「――ねえアダム」
「何だ」
「どうしてサラちゃんの魂を転生させようとしたの?」
「私が転生する前に、上手くいくか試したかったからな」
「それだけ?」
女神はオリバーを見た。
「あなたが娘を実験台にするのかしら」
「……巫女は生まれた時から女神の言葉を伝えるだけの存在だ。サラも二百年以上そうやって生き続けてきた。少しくらい自由に生きさせたいと思うだろう」
「別世界に転生したのは?」
「あれはただの事故だ。……失敗したかもしれないと思ったときは本当に焦った」
「そう。次に生まれる巫女にもそうするの?」
「どうだろうな。『その時』に私が生きているかも分からないし」
「あら、あなたはまた転生するのでしょう」
「タイミングが合わなかったら難しいだろう。子供の身体は魔力が安定しない」
オリバーは自分の手を見つめた。
「今の身体では、サラをこの世界に戻すのがやっとだ」
「……サラちゃんは転生して人間になって、幸せなのかしら」
「自分が幸せだったかどうかなんて、死ぬ間際にならないと分からないな」
「そうなの?」
「人生この先、何があるか分からないだろう」
「――幸せになってねサラちゃん。たとえ巫女じゃなくても、ずっと見守っているから」
女神はそっとサラの額に口づけを落とした。
「お前が憑依なんかするからだろう」
「あなたが魔力が入ったブレスレットなんか渡すから……って、そもそもあのムーンストーンどこで手に入れたの? あなたには渡したことないはずよ」
「どこでだっていいだろう」
「……しずかにして……」
すぐ側で騒がれると頭に響く。
「サラちゃん?!」
「目が覚めたか」
重たいまぶたを開くと、女神とオリバーが私を覗き込んでいた。
「気分はどう?」
「……身体が重くて……気持ち悪い……」
「魔力酔いだな。魔力のない身体にモーネの力が流れ込んだから」
「ごめんねサラちゃん」
女神が私の手を握りしめた。
「どうしてもあの男に言ってやりたくて」
(……ああ、そうだ)
ぼんやりとした頭で思い出した。
舞踏会の最中、騒ぎが起きて……。
「……今は何時?」
「夕方だ」
「昨日の夜からずっと眠っていたのよ」
「昨日……」
そんなに?
そう言われれば、部屋の中が明るい。
窓へと視線を移すとその向こうは夕暮れ色に染まっていた。
「さっきまでお前の婚約者がずっと側についていたが、会議があるからと交代した」
「会議?」
「今回の件の確認と、関係者の処遇についてだな」
「……お父様は行かなくていいの?」
「私は政治とは関わらない。それにお前の方が大事だ」
くしゃりと頭を撫でられた。
「……ふふっ」
「何だ」
「子供の頃を思い出して……。よく熱を出すとこうやって二人で見守ってくれたから」
普段は研究第一な父親だけれど、私の具合が悪くなると研究を放置して。
いつの間にか現れた女神とあれこれ言い合いしながら、二人で熱が下がるまでずっと側にいてくれたのだ。
「半分人間のあなたの身体に魔力が馴染むまでは、身体が弱かったものね」
そう言って女神も私の頭を撫でた。
「何日も高熱が続いて……どの子もそうなってしまうのよね」
(……そうか、私だけじゃないのね)
過去存在した女神の娘たちも、そうやって強すぎる魔力と戦いながら成長し巫女となっていったのだろう。
「次に生まれる娘はそうはさせない」
オリバーが言った。
「……どういうこと?」
「サラに渡したそのブレスレットを上手く使えば、体内の魔力を調節することができるだろう」
私は手首を見た。
そこにはまだオリバーからもらった、私の魔力を込めたというブレスレットがはめられたままだ。
「まあ。あなたそんなこと考えていたの」
「娘に辛い思いをさせたくはないだろう」
「アダム……あなたって本当にいい父親ね」
女神はぎゅっとオリバーを抱きしめた。
「ねえ、別に五年も待たなくても子供はできるでしょう。サラちゃんだって早く妹が欲しいわよね」
「……まだ早い」
「どうして?」
「――身長がお前より高くなるまではダメだ」
耳を赤く染めながらオリバーは言った。
「もう……あなたって本当に」
女神はさらにオリバーを抱きしめた。
「そういう所が可愛いんだから」
「は? 可愛くなんかない」
「可愛いわよ、ねえサラちゃん」
「……ソウデスネ」
(本当に、両親の仲がいいのは良いことだけれど……)
体調が良くないときに目の前でイチャつかれても、それに付き合える気力はない。
ゆっくりと、私の意識はまた身体の奥底に沈んでいった。
*****
「あら、サラちゃん寝ちゃったの?」
女神は眠るサラの額にそっと手を触れた。
「まだ熱が高いのね」
ふわりとその手が光ると、銀色の光がサラを包み込んだ。
「――ねえアダム」
「何だ」
「どうしてサラちゃんの魂を転生させようとしたの?」
「私が転生する前に、上手くいくか試したかったからな」
「それだけ?」
女神はオリバーを見た。
「あなたが娘を実験台にするのかしら」
「……巫女は生まれた時から女神の言葉を伝えるだけの存在だ。サラも二百年以上そうやって生き続けてきた。少しくらい自由に生きさせたいと思うだろう」
「別世界に転生したのは?」
「あれはただの事故だ。……失敗したかもしれないと思ったときは本当に焦った」
「そう。次に生まれる巫女にもそうするの?」
「どうだろうな。『その時』に私が生きているかも分からないし」
「あら、あなたはまた転生するのでしょう」
「タイミングが合わなかったら難しいだろう。子供の身体は魔力が安定しない」
オリバーは自分の手を見つめた。
「今の身体では、サラをこの世界に戻すのがやっとだ」
「……サラちゃんは転生して人間になって、幸せなのかしら」
「自分が幸せだったかどうかなんて、死ぬ間際にならないと分からないな」
「そうなの?」
「人生この先、何があるか分からないだろう」
「――幸せになってねサラちゃん。たとえ巫女じゃなくても、ずっと見守っているから」
女神はそっとサラの額に口づけを落とした。
29
あなたにおすすめの小説
辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました
腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。
しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
編み物好き地味令嬢はお荷物として幼女化されましたが、えっ?これ魔法陣なんですか?
灯息めてら
恋愛
編み物しか芸がないと言われた地味令嬢ニニィアネは、家族から冷遇された挙句、幼女化されて魔族の公爵に売り飛ばされてしまう。
しかし、彼女の編み物が複雑な魔法陣だと発見した公爵によって、ニニィアネの生活は一変する。しかもなんだか……溺愛されてる!?
喪女なのに狼さんたちに溺愛されています
和泉
恋愛
もふもふの狼がイケメンなんて反則です!
聖女召喚の儀で異世界に呼ばれたのはOL・大学生・高校生の3人。
ズボンを履いていた大学生のヒナは男だと勘違いされ、説明もないまま城を追い出された。
森で怪我をした子供の狼と出会ったヒナは狼族の国へ。私は喪女なのに狼族の王太子、No.1ホストのような武官、真面目な文官が近づいてくるのはなぜ?
ヒナとつがいになりたい狼達の恋愛の行方は?聖女の力で国同士の争いは無くすことができるのか。
異世界転移聖女の侍女にされ殺された公爵令嬢ですが、時を逆行したのでお告げと称して聖女の功績を先取り実行してみた結果
富士とまと
恋愛
公爵令嬢が、異世界から召喚された聖女に婚約者である皇太子を横取りし婚約破棄される。
そのうえ、聖女の世話役として、侍女のように働かされることになる。理不尽な要求にも色々耐えていたのに、ある日「もう飽きたつまんない」と聖女が言いだし、冤罪をかけられ牢屋に入れられ毒殺される。
死んだと思ったら、時をさかのぼっていた。皇太子との関係を改めてやり直す中、聖女と過ごした日々に見聞きした知識を生かすことができることに気が付き……。殿下の呪いを解いたり、水害を防いだりとしながら過ごすあいだに、運命の時を迎え……え?ええ?
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い
腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。
お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。
当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。
彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる