死神と呼ばれた公爵は転生した元巫女を溺愛する

冬野月子

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エピローグ

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「もう帰ってしまうなんて、寂しいわ」
「一ヶ月半も留めさせられたんだ、もうではないだろう」
嘆くエレンをフィンが睨みつけた。
「社交シーズンはまだ続いているのよ、それが終わるまでいるのが普通じゃない」
兄に向かってエレンは睨み返した。

フィンは建国祭が終わった後、すぐに帰ろうとしていたが、女王暗殺計画の後処理を手伝って欲しいとエレンたちに頼まれ今日まで滞在が伸びた。
アーベライン侯爵家はハンゲイト公爵に次ぐ立場であり、その派閥に属する者たちも多い。
政治にも影響が大きく、色々と対応が大変なのだ。

サザーランド王国の前王派による女王暗殺計画は、この国の反女王派と組んで引き起こされたものだ。
反女王派のほとんどは暗殺計画までは知らされていなかったが、アーベライン侯爵だけは全て知っていたのだという。
女が王になることに反対していたとはいえ、暗殺しようとするほどエレンを憎んでいたのか疑問だが……フィンがハンゲイト公爵となり、筆頭貴族の座を奪われたことへの焦りもあったのだという。
そのフィンと娘を婚姻をさせようともしたが上手くいかず、サザーランド前王派の計画に乗ってしまったらしい。

その侯爵は家に戻ってから三日後に息を引き取った。
アーベライン家は伯爵に格下げとなり、遠縁が継いで名前は残るのだと言う。
他の反女王派たちも一通り処分が終わり、この件は幕引きとなった。


フィンが政治的な仕事をしている間、私はお茶会に招待されたりして他の貴族の夫人や令嬢たちと交流し、夜はフィンと共にパーティに出たりした。
舞踏会での出来事は広く知れ渡っていて、行く先々で人々に囲まれてしまった。
好意を持って受け入れてもらえているのは良かったけれど、中にはまるで女神を見るように私を崇める人もいて……少し疲れてしまった。
王都も賑やかでいいけれど、のんびりした公爵領の空気が既に恋しい。
(ハンナにも会いたいし)
歳を取ったハンナには王都までの旅は厳しいからと領地で留守番をしている。
手紙のやりとりはしているけれど、やっぱり顔が見たい。


「サラ。またすぐ会いに来てね」
エレンが手を握りしめた。
「ええ」
「しばらくは無理だな」
手を握り返していると、フィンが口を挟んだ。
「結婚式の準備で忙しい」
「結婚式ならこっちで挙げればいいでしょう。大司祭が執り行なうって言っていたじゃない」
「ここでやると大掛かりになるだろう。そんな大げさなものでなくていい」
「ダメよ、結婚式は大事なのよ」
ピッとエレンは指を立てた。
「サラだって立派な結婚式を挙げたいでしょう?」
「……私は小さな規模のものでいいかな」
「ええ、どうして?」
「親しい人たちだけで挙げる挙式も素敵だと思うわ」
私の知っている向こうの世界での結婚式と、この世界の結婚式がどれくらい違うのかは分からないけれど。元王太子で公爵の結婚式ともなれば相当大規模になるのは想像がつく。
大勢に祝ってもらえるのも良いのだろうけれど、親しい人たちだけのシンプルな結婚式がいいなと思う。

「ええ……サラの花嫁姿をたくさんの人に見せたいのに」
エレンは頬を膨らませた。
「ですが、剣技大会には来られますよね」
ブルーノが言った。
「――それがあったか」
フィンはため息をついた。

「次の剣技大会は来年の建国祭後……一年後ね」
エレンが呟くように言った。
「じゃあその時に結婚式を挙げましょう」
「その前に領地で挙げるから不要だ」
「二回やればいいんじゃないですかね」
ブレイクが言った。

「結婚式を二回?」
「ああ、私がいたせか……国ではそういうのあったわ。出身地が遠いからそれぞれの地元で挙げたりとかするの。お披露目会だけを二回するという場合もあるわ」
「じゃあそれで。いいわねお兄様、いえ公爵。これは王命よ」
真顔でエレンにそう言われ、フィンは仕方ないというふうにため息をついた。


「では行こうか、サラ」
「ええ」
私は最後にオリバーに向いた。
「色々とありがとう」
思えば、私が転生したのもここにこうしているのも、全てオリバーのおかげだ。

「ああ。近いうちに訪ねるかもしれない。辺境の辺りは興味深いものが多いからな」
「是非」
オリバーは、しばらくの間は王宮魔術師として働くという。
舞踏会でのオリバーの活躍ぶりを見たエレンやほかの魔術師から指導を請われているのだ。

「ルナ」
馬車の元へ行くと、その側にいたルナの首を撫でた。
「帰りましょう」
身体を擦り寄せてきたルナを抱きしめると、私たちは馬車に乗り込んだ。



「兄弟っていいわね」
馬車が走り出し、手を振り続けるエレンたちが見えなくなると私は言った。
「……そうか?」
今世も前世も兄弟がいないから、フィンとエレンのような――親子とはまた違う関係は羨ましい。

「では最低でも二人は必要だな」
フィンの言葉が一瞬理解できなくて――それが私たちの子供のことだと気づいた。
「……ええ、そうね。でも子供ができないかも知れないわ」
こればかりは、おそらく女神にも分からないだろう。
「それでも構わない。私にはサラさえいればいいからな」
私を見ると、フィンは小さく笑みを浮かべた。

「サラが戻ってくるまで、ハンゲイト公爵は一代限りでその後はエレンの血筋に継がせるか、ラルフに譲ろうかと思っていた。だが、私の子に継がせるという未来もできた」
「――ええ」
「どうなるかは分からないが。どんな未来になっても、君は私のそばにいてくれるのだろう?」

「ええ」
差し出された手を握りしめた。
「私はずっと、あなたと一緒にいるわ」
それがどんな未来でも。
私はフィンと一緒に、再びこの世界で生きていきたい。
それが今の私の望みだから。


おわり


最後までお読みいただきありがとうございました。
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