パンから始まる救国記〜餌付けしたのは魔狼ではなく聖獣でした〜

冬野月子

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第二章

01

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「はい、確かに。それでは滞在中はこのカードを肌身離さずお持ちください」
「ありがとう」
差し出された四枚のカードを受け取り、ヨハン・バルテルは連れを振り返った。
「それでは行きましょうか」
「あの、その前に依頼を確認してもいいですか」

「依頼?」
「はい」
カタリーナは壁に貼られた依頼をざっと眺めた。
「——薬草採取の依頼がずいぶんと多いですね」
「病人が増えているせいか?」
隣のハインツが尋ねた。
「それにしても……多いように思います」
アルムスター領ではギルドに来る依頼の半分以上は魔獣に関するもので、薬草関係はカタリーナ一人でも対応できる程度だった。
だがこのフリューア領のギルドに貼られている依頼では、逆に半分近くが薬草関係だ。

(魔獣が少ない土地とはいえ、これは……?)
「最近野草が生えにくくなっているんです」
カタリーナ達の会話を聞いていたギルドの受付が言った。
「安全な場所で採れるものはだいぶ数が少なくなってきていまして。最近は魔獣が出るような危険な場所でないと質の良いものは残っていないんです」
「そうなんですか……」
「ええと、皆さんはアルムスターのギルドに登録しているんですね」
先程ヨハンが渡した書類を見ながら受付の男は言った。
「あそこは自然が豊かだから薬草も豊富でしょう」
「ええ」
「そろそろアルムスターや他の領地から取り寄せないとならないと話しているんですよ」
困ったように眉を下げて男はそう言った。


カタリーナたちが聖鳥プティノが棲む山があるフリューア領に到着したのは昨日の事だ。
昨夜は領主のフリューア伯爵家に泊まり、今日は伯爵の紹介状と神殿からの任命書を持ってギルドにやってきたのだ。
これから向かうのは冒険者たちが活動する地域。
他の冒険者と問題が起きないよう、カタリーナたちもギルドで身分を保証してもらうために登録カードを作りに来たのだ。

一行は四名。
カタリーナにハインツとリーコス。
そして神殿から派遣されたヨハン・バルテル。
ヨハンは神官戦士として護衛や、時には隠密任務にもあたることもあるという。
彼が聖鳥プティノの山を調査するために神殿から派遣された担当者、そしてカタリーナたちは彼を護衛する冒険者という設定だ。
カタリーナはいつもギルドで活動するときの姿で、ハインツも同様に魔法で姿を変えている。
これならば第二王子とその婚約者とは思われないだろう。

ハインツとリーコスも、今回アルムスター領で仮の身分を作り冒険者としてギルドに登録してきた。
冒険者という肩書きがあれば、他国や他の領地でも活動しやすいのだ。

「では行きましょう」
ヨハンに促され、一行はギルドの外へと出た。


「薬草が採れにくくなっているなど、昨日そんな話はなかったな」
呟くようにハインツが言った。
「ええ。……どうもあの領主はやる気がないようですね」
昨夜のことを思い出してヨハンは答えた。
悪人ではないのだが、いまいち領地や領民のために働こうという気概は感じられない。
それが昨夜、領主一家に感じた印象だった。

こちらの真の目的は明かさず、今回の調査は聖獣の歴史や遺跡についての調査と伝えて会話の流れで最近領地に変化がないか聞いたのだが。
ギルドや王都の調査では確かに異変は起きているはずなのに、彼らは『特に問題はない』と言い切ったのだ。
——それは何かを隠しているというより、本当に問題がないと思っているようだった。

「薬草が採れないのは、聖鳥と関係があるのかしら」
カタリーナはリーコスを見上げた。
「あるだろうな。あれが吐く火は植物や動物などあらゆる命に力を与える。あれの力が弱まるかなくなれば命も弱くなるだろう」
「……人間も?」
「ああ」

「——煙もまた細くなったような気がするな」
ハインツは頭を上げると視線を前方にあるプティノの山へと向けた。
確かに、先日カタリーナが遠乗りの時に見たよりもその立ち上る煙は細いように見える。

「早く探さないとなりませんね」
ヨハンは一同を見渡した。
「では予定通り、まずは山へ……」
「……あのっ!」
甲高い声が聞こえてきて四人は振り返った。

息を切らしながら一人の少年が走ってきた。
少年は四人の前で立ち止まり、息を整えるとリーコスを見上げた。
「あ、あの……リーコスさんですよね?」

「誰だ」
ハインツとヨハンは警戒するような眼差しを向けた。
リーコスは偽名を使っている。
その名を知る者――しかも人間の姿が分かる者など、いないはずだ。

「フリューアの血の者だな」
リーコスはルドルフを見つめて言った。
「はい……ルドルフ・フリューアです」
少年はぺこりと頭を下げた。

「領主の?」
「息子か」
「はい……次男です」
「昨日は見なかったが」
「僕は参加させてもらえなかったので……」
ルドルフは俯くと唇を噛み締めた。

「私に何の用だ」
「はい。頼まれたんです、リーコスさんを連れてきてほしいって」
リーコスを見上げてルドルフは答えた。
「誰に」
「プティノです」
ルドルフの言葉に四人は顔を見合わせた。

「お前はプティノを知っているのか」
「僕の『家族』です」
ルドルフはリーコスをまっすぐに見つめた。
「お願いです! プティノを助けて下さい!」
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