婚約者の心変わり? 〜愛する人ができて幸せになれると思っていました〜

冬野月子

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ああ、どうして――こんなことになったのだろう。

外から聞こえる、剣がぶつかりあう音と怒号。
断末魔と思えるような声に最悪の事態を想像してしまう。
「大丈夫……きっと大丈夫です」
小さな明かりが灯る薄暗い馬車の中、震える体を侍女のラナが抱きしめてくれる。
そのぬくもりだけが今は頼みだった。


どれほどの時間が経ったのだろう。
実際は十分にも満たないほどの出来事なのかもしれないけれど、ひどく長く感じた。

(本当に、どうして――最悪なことばかりだ)
どうして……こんな目に。
どうして……ああ、私は。

幸せになれない運命なのだろうか。




私はルイーズ・グレゴワール。
ジュノー大公国の、侯爵家の娘として生まれた。
大公家に次ぐ地位のある家で、三歳年上の公太子アレクサンド殿下の婚約者である。

私たちが婚約したのは八年前、私が十歳の時だ。
殿下は銀色のような淡い金髪に、切れ長の緑色の瞳を持つ美丈夫であり優秀で、民からの人気も高い。
私が婚約者となったのは家柄や年齢的に私が殿下と一番釣り合いが取れているという、政略的なものだろうけれど。
それでも殿下は私を大切にしてくれたし、私も婚約者として過ごすうちに殿下のことを好きになって……結婚したら仲の良い夫婦になれると、そう思っていた。
けれど……どうやら、そう思っていたのは私だけだったようだ。

半年ほど前からだったろうか。
一人の貴族令嬢がいつも殿下の側にいるようになった。
彼女は近年貴族となったシャンピオン子爵の娘で、可愛らしい見た目の女性だ。

殿下と彼女は人目もはばからず――まるで見せつけるように親密な様子で。
逆に私が殿下と過ごす時間はあっという間に減っていった。
お妃教育で登城しても、殿下と顔を合わせることはない。
けれど……殿下と彼女が庭園で肩を寄せ合っていただの、街へ出かけていっただのという聞きたくもない噂ばかりが耳に入る。

私は何か殿下を不快にさせることをしてしまったのだろうか。
そう思ったが、父や兄は『お前は何も悪くない』『きっと時間が解決してくれる』と言うばかりで。

あれだけ二人の仲を見せつけられておいて、今更元に戻るというのだろうか。
私がこれほど苦しくて辛い思いをしているのに。

そして五日前、私は見てしまった。
城の中庭で二人が……口づけを交わしているのを。

それはあまりにも衝撃的で。
私は家に帰ると泣き崩れた。
一晩泣き続けて、最後は意識を失うように眠りに落ち――目覚めた私に父が言ったのだ、『しばらく領地で休養するといい』と。

それは、もうお妃教育も受けなくていいと――私はいらないということなのだろうか。
私は……私ではダメだったのだろうか。



反対する気力もなく、私は馬車に乗せられ領地へと向かっていた。
そうして王都を離れ、山道へ入りしばらく進んだところで馬車が襲われたのだ。

盗賊? そういえば最近、王都周辺で貴族ばかりを狙う義賊が出ると聞いたことがある。
金品を盗られるだけならまだしも……命を奪われたりこの身が売られることもあるかもしれない。
そうなったら私はもう――

本当に、どうしてこんな目に遭ってしまうのだろう。
私は何か……悪いことをしてしまっていたのだろうか。
我儘は言ってこなかったつもりだ。
未来の大公妃として、この国のために身を捧げようと頑張っていたのに。

私の人生は……一体何だったのだろう。
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