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ふいに外が静かになった。
耳を澄ましても何も聞こえない。
「どう……したのかしら」
「……私、見てきます」
ラナが立ち上がった。
「だめよ、危ないわ」
「ですがここにいても……お嬢様は出ないでください。必ず鍵をかけて下さいね」
馬車の椅子の下に隠してあった護身用のナイフを私に握らせ、自身も短剣を持つとラナは出て行った。
怖い。
胸の奥から冷たくて黒い影のようなものが湧き上がってくるのを感じる。
(早く……早く戻ってきて)
ラナの無事を祈りながら胸の前で組んだ手を強く握りしめた時、外から物音と女性の悲鳴が聞こえた。
「……そん……な」
まさか。
そんなこと……。
ガタン! と大きな音が響いて心臓が大きく跳ねた。
馬車の扉を開こうとしているのか、ガタガタと車体が揺れる。
(嫌……怖い)
誰か――
「お父様、お母様、お兄様――アレク様……」
ああ、もう会えないかもしれない。
大好きな人たちに――
再び剣がぶつかり合うような音が聞こえた。
しばらく音が響いて、やがてまた静かになる。
ガン! と馬車の扉に何かぶつかる音が響く。
見ると隙間から、銀色に光るものが差し込まれている。
(まさか、剣でこじ開けようとしているの?!)
護身用のナイフを握りしめる。
やがて、金具が壊されると扉がゆっくりと開かれた。
一人の男が入ってきた。
頭に巻いた布で半分以上覆っているためその顔は見えない。
「――へえ。これは大したお宝だ」
私を見て発したその声にドキリとする。
それは婚約者にとても良く似た声だった。
「あー、姫さんには信じてもらえないと思うが。馬車を襲ったのは俺たちじゃないからな」
声は同じだけれど、全く違う口調で男は言った。
「争う音が聞こえたからおこぼれでも貰えるかと覗いていたが、共倒れした後馬車から女が出てきたと思ったら、隠れていた男たちが襲いかかったんだ」
「……ラナ!」
(そうだ、ラナは?!)
慌てて馬車から飛び出そうとすると男が私を抱き止めた。
「だめだ、出るな」
「ラナが!」
「――もう出遅れた。外は姫さんが見ていい状況じゃない」
「手遅れ……」
そんな。
ラナは私が幼い時から私付きの、私にとって姉のような存在だった。
そのラナが……。
「いや……!」
「姫さん」
震え出した身体を抱きしめられた。
「お頭」
馬車の外から声が聞こえた。
「そろそろ行かないと」
「ああ」
しゅるりと音がする。
頭を上げようとすると視界が塞がれた。
「外は姫さんには見せられないからな。しばらく我慢してくれ」
男が頭に巻いていた布を私に被せたのだろう。
真っ暗な中で――男に抱き上げられる感覚。
「お頭、その女連れていくんですか」
「こんな所に置いていけないだろう」
外に出ると嫌な臭いが鼻につく。
――まさかこれは血の臭い……?
途端にグラリと激しい眩暈を覚えて。
私は意識を手放した。
耳を澄ましても何も聞こえない。
「どう……したのかしら」
「……私、見てきます」
ラナが立ち上がった。
「だめよ、危ないわ」
「ですがここにいても……お嬢様は出ないでください。必ず鍵をかけて下さいね」
馬車の椅子の下に隠してあった護身用のナイフを私に握らせ、自身も短剣を持つとラナは出て行った。
怖い。
胸の奥から冷たくて黒い影のようなものが湧き上がってくるのを感じる。
(早く……早く戻ってきて)
ラナの無事を祈りながら胸の前で組んだ手を強く握りしめた時、外から物音と女性の悲鳴が聞こえた。
「……そん……な」
まさか。
そんなこと……。
ガタン! と大きな音が響いて心臓が大きく跳ねた。
馬車の扉を開こうとしているのか、ガタガタと車体が揺れる。
(嫌……怖い)
誰か――
「お父様、お母様、お兄様――アレク様……」
ああ、もう会えないかもしれない。
大好きな人たちに――
再び剣がぶつかり合うような音が聞こえた。
しばらく音が響いて、やがてまた静かになる。
ガン! と馬車の扉に何かぶつかる音が響く。
見ると隙間から、銀色に光るものが差し込まれている。
(まさか、剣でこじ開けようとしているの?!)
護身用のナイフを握りしめる。
やがて、金具が壊されると扉がゆっくりと開かれた。
一人の男が入ってきた。
頭に巻いた布で半分以上覆っているためその顔は見えない。
「――へえ。これは大したお宝だ」
私を見て発したその声にドキリとする。
それは婚約者にとても良く似た声だった。
「あー、姫さんには信じてもらえないと思うが。馬車を襲ったのは俺たちじゃないからな」
声は同じだけれど、全く違う口調で男は言った。
「争う音が聞こえたからおこぼれでも貰えるかと覗いていたが、共倒れした後馬車から女が出てきたと思ったら、隠れていた男たちが襲いかかったんだ」
「……ラナ!」
(そうだ、ラナは?!)
慌てて馬車から飛び出そうとすると男が私を抱き止めた。
「だめだ、出るな」
「ラナが!」
「――もう出遅れた。外は姫さんが見ていい状況じゃない」
「手遅れ……」
そんな。
ラナは私が幼い時から私付きの、私にとって姉のような存在だった。
そのラナが……。
「いや……!」
「姫さん」
震え出した身体を抱きしめられた。
「お頭」
馬車の外から声が聞こえた。
「そろそろ行かないと」
「ああ」
しゅるりと音がする。
頭を上げようとすると視界が塞がれた。
「外は姫さんには見せられないからな。しばらく我慢してくれ」
男が頭に巻いていた布を私に被せたのだろう。
真っ暗な中で――男に抱き上げられる感覚。
「お頭、その女連れていくんですか」
「こんな所に置いていけないだろう」
外に出ると嫌な臭いが鼻につく。
――まさかこれは血の臭い……?
途端にグラリと激しい眩暈を覚えて。
私は意識を手放した。
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